これ、なんてギャルゲー?   作:千之鴎

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2話

 朝あんなに興奮したのが嘘のように俺は冷静だった。

 色々理由はあるが、一番は不安だった。

 アレって幻覚じゃね?という。

 だとしたら俺は相当追い込まれていることになる。

 何にって言われても俺自身よく分からないが。

 なんか現実に不満を抱えているのだろう。

 そこで今一度情報をまとめることにした。

 

 まず俺には選択肢が見える。

 ギャルゲーのように運命を左右する、そういう選択肢が。

 なぜ、こんな力が芽生えたのか。それははっきりとしないが、解明するつもりは今のところない。

 断定的ではあるが、この力は本物だ。

 選ぶことによって恐らく、因果を歪めることが出来る、多分。

 そして、それによりイベントが発生する、はずだ。

 

 はい、分かっていることは選択肢が突然出てくるという一点のみで、それ以外は何も分かっていません。

 因果なんか歪んでないし、イベントなんて起きない。全然あり得る話だ。

 なんならまだ、幻覚の方が信じられる。

 本当に一体どうしてこんな力が……。

 

 「これから一年間、よろしくね?」

 「ん?」

 

 窓からぼーっと、空を見つめていると突然後ろからそう声をかけられた。

 俺は窓側の最後方の席なのだが、今日何故か後ろに席が追加されていた。

 単純に誰かのイタズラだと思っていたが、後方から声をかけられたということは誰かが座ったらしい。

 俺が気を抜いている間の出来事だったから思いがけず振り返って見れば–––––––、

 

 「だ、だれ?」

 「春空夏美(はるそらなつみ)、さっき自己紹介したばかりだよ」

 

 見知らぬ女子生徒が居た。

 さっき自己紹介をした、と言うが生憎俺は話を聞いていなかった。

 はて、いつ自己紹介をしたんだ?

 困惑する俺をよそにニコニコとこちらを見つめてくる。会話を切り上げて前を向こうとしたいが、そう言う空気でもない。

 何を求めているんだ、彼女は⁈というかボーっとしている間に何が起こったというのだ!

 説明してくれ!

 

 ……。

 

 前の席、隣の席の、周りを見渡すが皆んな先生の話そっちのけで思い思いに小声で雑談している。

 一方、俺に説明してくれる友人はいない。自分で考えるしかないのである。

 

 「あ、えっと……」

 

 シンキングタイムを作るため、間抜けな声を出して一旦こちらの会話のターンを貰う。

 さて、推理だ。

 まず俺はクラス全員の名前を覚えている訳じゃない。顔もうっすら覚えている程度だ。だから名前と顔が完全に一致するクラスメイトなんて居ないし、辛うじて担任くらいは分かる。そんなレベルだ。

 まだ、一ヶ月しか経ってないのだ。このくらい普通だろう。

 しかし、そんなぼんやりした記憶の中にも目の前に映る少女の名前に聞き覚えがない。

 というか、なにより。

 こんなに可愛い美少女を忘れるはずがない!

 

 体質なのか色素が薄い甘栗色の髪。よく見るまでもなく、その髪はサラサラで日々のケアを怠っていないことが手に取るように分かる。

 目鼻立ちも非常に整っており、目はパッチリと、鼻は小さく、口も、なんか可愛い。全てのパーツが奇跡の配分で揃っている。

 同じ制服なはずなのに、彼女の着るものとクラスの女子が着ているもの。ブランド物の服かそこへんのスーパーの服か、くらいの違いがある。

 可愛くて、オシャレで、圧倒的存在感。

 忘れたくたって忘れられるものか。

 

 そんな人間を俺は目の前にして知らない、という結論に至っている。

 つまり、だ。

 

 「転校生?」

 

 あり得ないだろう、と思いながらも俺は口にする。

 だって、先月入学式だぞ。それがいきなり転校生って–––––––

 

 「そうだよ。やっぱり聞いてなかったんだ」

 

 うわー、マジかー。

 今朝来たときなんか後ろに机があるなと思えば、そうでした。

 そう、一人納得していると、謎の天啓を得た。

 

 これって選択肢と関係あるのでは?

 

 確かに。それ、あり得る。

 おかしな時期の転校生。

 しかもとんでもない美少女ときた。

 それが俺の席に近い位置に座る。

 単純にここが一番席を追加しやすい位置というのもあるが、ここまでの一連の情報の羅列に何かしらの因果を感じなくもない。

 俺に表示される選択肢が本当にギャルゲー由来のものなら、彼女は差し詰めメインヒロインといったところか。

 確証に至るものがない。

 ここから更に何か雑談でもして探してみるか?

 

 「あーっと、そうだ。転校って、家庭の事情?」

 「そうだけど。さっきも言った気が……それも聞いてなかったんだね」

 「一から十まで聞いてなかった」

 「うわーお。大胆な告白」

 

 適当に会話を繋がるが、困る。

 こういう時、どういう話題で会話を繋げば良いんだ?

 こんなことならもう少し友達作り真剣にすればよかった……。

 それに、選択肢に関係するような話なんて思いつかないし。今朝の選択肢が影響したかどうかなんて知りようがないからな。神のみぞ知るってやつか。

 いっそのこと選択肢の一つでも出てくれば––––––、

 

 ▶︎自己紹介をする

 ▶︎これ以上話すのはやめておく

 

 「うおっ」

 「どうしたの?」

 「い、いや。ちょっと虫が目の前を通ったから驚いただけ」

 「そう?」

 

 き、急に来たな。驚かせやがって。

 咄嗟に誤魔化せたから良いが、心臓に悪いな。

 絶妙に透過度も悪いし、視界の中心を陣取るのもタチが悪い。

 もしかしたら、俺が選択肢を無視できないようにこうしているのかもしれないな。

 また一つ、選択肢についての考察が生まれたが、あまり悠長にはしてられない。これは現実だ。ポーズ機能なんてないので、普通に時間は経過している。

 どちらか選ばなければ。

 

 一般的に考えて、自己紹介せずに会話を終えるのも変か。

 俺は悟られないように視線を下の方に向け、そのまま軽く選択肢に触れた。

 

 「俺は秋野冬貴。これからよろしく」

 「よろしく、秋野くん」

 「あぁ、よろしく春空」

 

 簡単に握手を交え、俺と春空は挨拶を交わすのであった。

 これで、良いのか?

 選択肢を選んだからといって、俺の体は制御権を失う訳じゃない。なので、しっかりと自分で自己紹介を行う必要があった。

 自主的に自己紹介などしたことがなかったので不安だったが、特に問題なく進行しているのをみて大丈夫と思って良さそうだ。

 ……もし、選択肢と別の行動を取ったらどうなるのか気になるところだが、今は怖いから辞めておこう。

 さて、これで何が起こるのやら。

 結局、朝の選択肢がどういう働きをしたのかも分からないし。

 

 時間は過ぎて、お昼休み。

 あれ以降、特に春空と会話することはなかった。

 授業の時間ということもあり、会話をする機会が無かったということもある。

 だが一番の問題は彼女の周りに人が集まるという点にある。

 話題性のある転校生、おまけに可愛いときた。

 積極的に話しに来ない方が不自然なくらいだ。

 俺も虎視眈々と狙っていたが、人だかりに飛び込む勇気なくズルズルと、という感じだ。

 今は長時間の休憩ということもあり、何か話すなら絶好の機会である。

 だから、この機に人が集まる前に話をしようと思い振り返れば、これである。

 

 「ねぇねぇ春空さん!どうしてこの時期に転校してきたの?」

 「俺、ここら辺の地理詳しいよ!良かったら案内するぜ」

 「春空さんって兄弟とかいる?」

 「どこ住み?教えてよ!」

 「–––––どけ、僕が先に質問するんだ!」

 「うるせー!俺が先だ!」

 「オッス!オレ悟空!」

 

 おかしい、チャイムが鳴ってまだ10秒も経っていない。

 なんだこの人の数。

 俺が呆気に取られているこの瞬間も人がこちらにどんどん集まってきている。

 もう、今日はいいや。

 俺は前を向いて、鞄から今日の昼食である惣菜パンを取り出し机に並べる。

 全く、コイツらだって昼食を食べる必要があるだろうに。その時間を削ってまで話したいかよ。

 

 袋を開ける、パン千切る。口運ぶ。

 

 「––––––むぐっ!」

 

 また、同じようにパンを千切って––––––、

 

 「いてっ––––––」

 

 誰かの肘が俺の後頭部に刺さる。

 と思えば、今度は椅子を揺らされた。

 机も一人でに踊り始めて。

 

 「最悪だ……」

 

 お願いだから、俺の領土まで犯すのは勘弁してくれ。そろそろ、おしくらまんじゅう状態で苦しい。

 おまけに、これじゃ飯が食えない。

 畜生、コイツら訳わかんない質問ばかりしやがって。

 あと、最後の奴だけなんか色々違うだろ!

 はぁ……。

 話が出来ないのはまだしも飯が食えないのは問題だ。

 今はとにかくここから逃げたい。そろそろ息も苦しくなってきた。

 

 俺は離脱を図るため、そそくさと自身の昼食である惣菜パンをまとめて席を立った。

 通り過ぎる瞬間、俺でさえキツいのに嵐の中心である春空はどんな顔をしているだろうと人混みの隙間から覗けば、困った表情でこちらを見つめていた。机には蓋を開けただけの弁当、その手にはまだケースから出されていない箸を持っている。彼女もまた飯が食えない状況にあった。

 うーん、これは……無視だな。うん、無視。俺には救えぬ者じゃ。

 見なかったことにして俺は歩みを早めた。

 

 「待って、秋野くん!」

 「んぁ?」

 

 教室の扉に手をかけた途端、俺を呼び止める声がした。

 誰だ?このクラスでまともに俺と話す奴なんて居ないはずだが?

 俺はそのつい最近聞いた気がする声に首を傾げながら振り向いた。

 

 「これから校内案内をしてくれる約束でしたよね?」

 「げ、春空か」

 「でしたよね?」

 「えぇ……」

 

 妙に圧をかけながら問いかけてくる。

 そんな話、知らないが。

 そう言い返そうと思って軽く相手を見つめ返せば、瞳の数が多い。

 春空以外の集団もこちらを見ている。

 非常に空気が重い。

 大体察するに「何でアイツが?」「普段影が薄いくせにでしゃばるなよ」とかそんなところだろう。

 ハイハイ、分かってる。

 

 「悪いが、そこの集団の誰かにしてもらうといい。多分親切だぞ」

 

 空気の読める男とはこういうことだ。

 じゃあ悪いが今度こそ離脱させてもらう。

 扉を開けて、廊下に一歩踏み出す–––––––

 

 「秋野くんと私は……は、肌を触れ合わせた仲じゃないですか!」

 「ブフゥゥゥッ–––––––⁈」

 

 な、何を言い出すんだ!コイツは!

 勢いよく振り返ればそこには頬を赤らめた春空が。

 恥ずかしがるくらいなら、言うなよ!

 は?どうするんだよ、てか、肌?いつの、話、し–––––––

 おい、握手じゃねぇか!

 

 「それは握手だろ!何誤解を呼ぶ言い方したんだよ!」

 「でも確かに重ねましたよ、肌を!」

 「そうだけど、そうだけど!」

 

 マズイ。クラスの反応が段々怪しくなってきた。

 

 「握手?」

 「でもあの慌てよう、なんか変じゃない?」

 「火のないところに煙は立たないって言うし……」

 

 馬鹿野郎!思春期特有の変な勘繰りはやめろ!

 火のないところに煙はって、お前らが勝手に山火事にしたんだろ!

 俺の隠居先のログハウスを燃やさないでくれ!

 弁解するか?この状況でどうやって?今、コイツらが納得するストーリーなんてそう簡単に思いつかないぞ。

 というか冷静に考えて何か起こせる時間なんてなかっただろ!

 クソっ、面白い方にばかり解釈しやがって。

 あー、もう、面倒だ。

 俺はズカズカ集団に近づくとそのまま集団の輪の中から春空の手を引いて引き抜いた。

 これがお望みなんだろ。お姫様!

 誰にも何も言わせないように俺は目を細め、周囲を威嚇しながら教室の外に出て扉を閉める。

 これで追ってくる奴はいないだろう。

 

 「たくっ、これで良いか?」

 「ありがとう秋野くん」

 

 さっきまでの恥ずかしかって様は演技かよ。

 今はニコニコ笑顔だ。

 

 「じゃあ、校内案内お願いしてもいいかな?」

 「は?」

 

 ここで別れるものだと思っていたから思わず声が出てしまった。

 

 「ダメですか?」

 

 おそらく本人は無自覚だが、あざとく小首を傾げる。

 こちらとしても話はしたかったのでダメなんてことはないが、もう案内は先生からあらかた受けていそうな気がする。

 

 「まぁ、主要な施設の案内は受けましたよ」

 「じゃあいいのでは?」

 「いえいえ、私が知りたいのは静かな場所です」

 「静かな?」

 「そう、静かな。今から昼食にするつもりだったんですよね?」

 「そうだけど、どうして分かったんだ?」

 「手に持ってるじゃないですか」

 

 春空はそう言って俺の惣菜パンを指さす。

 俺が昼食を取ると分かった理由は一先ず納得しよう。ただ、なぜ静かな場所だと?普通学食とかを想像するようなもんだと思うが?

 確かに、このあと俺はちょっとした小技で普段は鍵のかかっている用具室で昼食を摂るつもりではあったんだが。

 

 「どうして静かな場所で飯を食うと思ったんだ?」

 「いやー、そんなの決まってますよ」

 

 一拍あけて春空は堂々と言った。言いやがった。

 

 「秋野くんって友達いなさそうだし、人の多いところは苦手そうだから」

 「–––––––」

 

 絶句したね。初対面でこの火力出すかよ……

 こんなん、反則だろ……

 

 「当たってますよね?」

 「そんな推理が当たって喜ぶ小学生みたいな反応しないでくれ……」

 

 無邪気さが悪意のない証拠みたいに扱われるが、こればかしは違うだろ。

 世間様に教えてあげたい。誰か教えてあげて、こういう反例もあるよって。

 俺はちょっと無理そうだ。しばらく地面と睨めっこしてるから。

 

 「まぁまぁ、落ち込まないで」

 「誰のせいだと」

 「ほら、その代わり私と一緒に行動できますから」

 「まるでご褒美みたいな言い草だな」

 「こんなに可愛い子と歩けるならご褒美でしょ?」

 

 凄い自信だ。間違ってないので否定のしようがないが、自分で言えるとは……

 

 「可愛いのに謙遜しても勿体ないですから、こういう言葉は使える時に使っておかないと」

 「まぁ、確かに」

 

 一理あるか?俺自身イケメンという自覚がないのでちょっと分からないが。

 彼女がそう言うならそうなのだろう。

 

 「それじゃあ行きましょうか」

 「それは俺のセリフなんだがな」

 「細かいことは気にしない気にしない」

 

 気楽な彼女を連れ、俺は目的地へと向かうのであった。

 にしても思ったより、強かな性格だな春空。

 

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