これ、なんてギャルゲー?   作:千之鴎

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3話

 「おぉ、思ったより雰囲気ありますね」

 

 秘密基地みたいです、春空は最後にそう付け加え、部屋を物色し始めた。

 

 「まぁな。ここは過去の忘れ物とか没収品とかを置いておく部屋らしいぞ。俺も風の噂で聞き齧っただけだけど」

 「そうなんですか。だからこんな物もあるんですね」

 

 春空の手元には一時期大流行した卵形のゲーム機があった。

 懐かしいな。俺の妹も持っていた気がする。そんで妹が出来ない時には育成させられたっけ。

 

 「でも風の噂なんて妙ですね」

 「何がだよ」

 

 春空はピンと指を立てた。

 そのまま雰囲気を作り出し喋り始める。

 

 「だって秋野くんですよ」

 「それがどうしたんだ?」

 「人が苦手で友達が作れない、あの秋野くんがですよ?」

 「出会って数時間なのに凄い言われようだ。俺が何したって言うんだよ」

 「よーく分かります。今日、私が自己紹介した時微塵も目を合わせていませんでしたし、そればかりか一人黄昏て空を眺めている。

 授業の合間の休憩では誰と会話するでもなく、そそくさと次の教室へと移動。

 どうでしょうか。これだけじゃ根拠足り得ませんか?」

 

 春空は某ドラマ古畑●三郎のような雰囲気を身に纏いながら俺の周りをくるくると回り、そう決めつける。

 一人で行動することすら許されないのか、俺は。

 おめおめと泣くしかない。悔しいよ、俺。

 

 「それはさておき、本当にどうして知ってるんですか?」

 「それはさておきって、おまっ!––––––––はー、聞き耳を立てたんだよ」

 

 本当に興味を失ったんだろうな。淡白すぎる反応に俺も大人しく切り替えることにした。

 

 「ほー。それなら、ここはもっと多くの人で溢れているのでは?」

 「そりゃな。最初は皆んなここに来たさ。でも鍵が開けれなくて諦めていった。だからこうして俺だけが使える状態ってわけだ」

 「なるほど。理解はしました。でも良くここを開けれましたよね?どうやったんですか?私後ろから見てたはずなのに全然分かりませんでしたよ」

 「そりゃ、アレだ。コイツを使ったからな」

 

 俺はポケットから針金を取り出した。

 タネも仕掛けもない。単純に針金で鍵を開けただけ。

 

 「えぇ、なんか……ちゃんとダメな方法で少し驚きました」

 「ダメってなんだよ!他の方法だってアウトだろ!」

 「ほら、ドアノブの押し引きにコツがあるとかならまだ偶然入れたんだなってなるじゃないですか?」

 「そうかもな」

 「でも、針金で開けたってことは故意だし、しかもあの速度で開けたってなると手慣れ過ぎていて他の場所でもやってそう。犯罪者予備軍……いえ、何でもないです」

 「訂正するなら小声にしてくれ、バッチリ喋った後に訂正されても俺は傷ついた後なんだ」

 

 少し引いた表情をする春空に俺はまた少し傷ついた。

 

 「まぁまぁ、と言うことは現状、ここを開けられるのは秋野くんと職員室にある鍵だけってことですか?」

 

 春空は空気を変えるようにさっきとは打って変わって、明るめの声を出す。

 なんて調子のいい奴なんだ……!

 色々言いたい気分だったが、そんな空気でもない。

 俺は大人なので、ここは飲み込むことにする。今は許してやるが、絶対いつか分からす。ナチュラルに人を煽り倒すメスガキみたいな性格しやがって……!

 そう固く決意し、現状がどうなっているかの説明を始めた。

 

 「いや、あと風紀委員会が鍵を一本管理している。だから、現状は鍵が2本、針金1本ってところだ」

 「と言うことは、今この瞬間も誰か入ってくる可能性がある、と」

 「それない。ここは職員室扱いだから、入るには先生の許可がいる。おまけに先生たちは昼休み忙しいからわざわざ4階のここまで来ることもない」

 「入念なリサーチですね」

 「まぁな」

 「よっぽど人が多い所が嫌いなんですね」

 「……そりゃ、息苦しいし」

 「こんな所に籠ってたら余計友達作れないんじゃないですか?」

 「それは余計な一言だ!」

 

 余計だよ!ほんと!

 このまま会話に付き合っていると俺の気分がどんどん負の方面に引っ張られてしまう。

 一旦本来の目的である昼食を摂るため、俺は惣菜パンの包装を解いた。

 

 「カレーパン!良いですね」

 「––––––んむ。あぁ、うまいぞ」

 「良いですね!」

 「……あげないぞ?」

 

 物欲しそうに唇に指を当てている。

 小首まで傾げて完璧だ。

 コイツ、分かっててやっている。

 

 「私お弁当持ってきてないんですよ」

 「それで?」

 「そんな中で一人食べる昼食は美味しいですか?」

 「最高の気分だよ!」

 「ひとでなし」

 「何とでも言っとけ。お前の中の俺の評価にボッチと犯罪者予備軍にプラスしてひとでなしが入るだけだ。今更気にすることじゃない。

 それに、お弁当は?持って来てただろ」

 「教室に置いて来ました。あの人混みですよ?持って来れる訳ないじゃないですか」

 

 確かにあの人混みじゃ、お弁当はもみくちゃになって崩れてしまうか。

 

 「だから、私にも分けてくれませんか?」

 「よく、一口どこまでなら許せる問題があるよな」

 「ありますね。ちなみに秋野くんはどこまで許せます?」

 「俺は枝豆の豆一粒が限界だ」

 「器が小さいですねー。もっと漢魅せて!」

 「悪いが俺は健康な男子高校生だぞ。朝体育があったんだ。ここでパンを分け与えたら腹が減って死にそうになる。

 そこら辺でパンを千切って渡してくれる愛と勇気の戦士を探してくると良い」

 「私のヒーローは貴方なんです」

 「––––––––んっ⁈」

 

 突然の一言にパンが喉に詰まる。

 コイツ、突然ゲームのヒロインみたいなこと言い出したぞ。

 シチュエーションはパンを強奪してくるヒロインとかいう終わってる状況だが。

 このまま隣で喋らせていたらまた喉に詰まらせそうな事を言ってくるに違いない。

 しょうがない。ここは一つ恵んでやるか。

 

 「ほら、食えよ」

 「あ、申し訳ないんですけど間接キスはNGです」

 「コイツ……!!!」

 

 腹が立ったので俺が教室で千切って食べていた蒸しパンを渡してやった。

 未開封のパンはコイツには勿体な過ぎる。

 

 時間は進み、退屈な5限。

 英語の時間となった。

 この授業は音読が挟まる時は面倒極まりないが、それ以外だと考えごとをするにはうってつけの時間となる。

 要は先生の話の脱線が多く、真面目に聞くだけ無駄ということだ。

 

 結局、春空と話しても選択肢については何ら分からなかった。

 当たり前と言えば当たり前の結果だが、期待していた分落胆もある。

 選択肢をゲームとして捉えるならば、春空は言わばヒロイン役。もちろん俺は主人公だ。

 春空はヒロイン役足り得るかと言うと、うん。いけるんじゃないか?俺はちょっと苦手だけど。

 いくら容姿が可愛くて、声まで綺麗だからってそこから飛んでくる容赦のない煽りは俺に効く。

 このままじゃ俺、癖歪められちゃうよ!

 閑話休題。

 このままヒロインという観点か選択肢について探るのは厳しいだろう。

 となると、俺だ。

 俺という主人公役から選択肢について考えるしかない。

 ただなぁ、俺は欲しいと願ったら選択肢が生えてきただけなんだよなぁ。

 これ以上のことは分からない。

 うーん。選択肢によって未来が変わってるかどうかも分からないし、やり直しが出来たら楽なんだが、特に視界に変わったものは見えないから、考えるだけ無駄ってやつか。

 

 「––––––野くん」

 

 大体、こういうゲームにおいてヒロインが一人ってことはあり得ない。

 最低4人。

 春空の他にヒロイン役が3人いるはずだ。

 

 「––––––秋、––くん!」

 

 全員出揃ってから考えても良いんじゃないか?

 今のところ実害は視野の占領くらいしかないし。

 

 「秋野くん!」

 「うわっ!–––––––なんだよ、春空か」

 

 唐突に右肩を叩かれ、驚いてしまった。

 

 「なんだよとは何ですか?まったく。ペア、どうしますか?」

 「は?ペアって?」

 「話、聞いてなかったんですか」

 「あ––––––」

 「答えなくて良いです。この状況、聞いてなかったが答えみたいですから」

 「そうだけど、なんか癪に触る言い方だな」

 

 少し不機嫌を演出してみた。

 ただまぁ、こちらが授業に中に考えに耽っていたのが悪いわけで、春空に「授業を聞かない方が悪いんです」と一喝されてしまう。

 ぐうの音もでねぇ。

 

 「何も聞いていなかった与太郎くん。私が説明してあげますから、考えごとをしてはいけませんよ?」

 「俺の名前に一文字も掠ってねぇ」

 「良いんですよ。与太郎は怠け者の代名詞なので」

 

 全くもってその通りです。ただ言葉にもう少し手加減を手加減をください。

 俺の慈悲を求める視線を華麗にスルーすると春空は話を戻し、説明を始めた。

 

 「今からペアワークをします。それで2人1組になって英語で手紙の交換をするらしいですよ」

 「音読じゃないのか?」

 「今日は趣向を変えて、作文の練習らしいです」

 

 珍しい。こういうこともあるのか。

 って、待てよ。

 

 「うちのクラスはきっかり30人だ。それが今日お前が来て31人になった。2人1組なんて出来ねぇじゃねぇか」

 「いやいや、そんなことはないですよ。いるじゃないですか。1人」

 

 春先が指差した先には教壇で忙しなく教科書を捲る者がいた。

 

 「先生じゃねぇか!」

 「先生ですよ。

 –––––––ほら、今私たち秋野くんの後ろに私が、隣に町田さんがって状況じゃないですか。ここが1人余るんですよ。だから誰かが先生と手紙の交換をしなきゃいけないんです」

 

 確かにそうだ。あまりものが出るならここしかない。

 横6列、縦に5列で綺麗に30だったのが、春空が来てその陣形が崩れた。

 窓側が縦に7列。他の席に押し付けたいが、どう頑張ってもここからあまりものを出した方が早いし、効率的だ。

 チラッと視線を周りに沿わされば、皆安堵の表情を浮かべている。

 そりゃそうだ。英語の先生に英語の手紙を渡すのは誰だって嫌だ。

 例え間違って良いとしても、間違いを指摘されること自体プライドが傷つく行為だ。

 無意識のうちにそれを理解しているからこそ、誰もやりたがらない。

 俺だって当然嫌だ。

 絶対って訳じゃないが、やりたくはない役回りだ。

 

 「町田さん、俺とやろうか」

 「え⁈」

 「やめなさい、与太郎くん。町田さんが急に話しかけられて怖がっていますよ」

 

 そんなに怖がることはないだろう。

 確かに今日初めて話しかけたが。

 今までのペア音読はなぁなぁで済ませていた分、余計に驚かれたのだろう。

 

 「でも、俺と町田さんで組んだ方がいいと思うぜ。ほら、春空はまだ先生たちのことをよく分かってないからな。ここで知っておこう、な?」

 「秋野くん。先生とやりたくないオーラ全開ですね。私だって嫌です。理由は秋野くんと一緒だと思いますよ」

 「そうかよ……」

 

 誰だってやりたくはないか。

 

 「そこで考えました。秋野くんには今2つの選択肢があります。私とするか、町田さんとするか。さぁ、どれにします?」

 

 ▶︎春空と活動する

 ▶︎町田と活動する

 

 「うおっ!」

 「魚の鳴き声ですか?」

 「違う。ちょっと虫に驚いてただけだ」

 

 なんとか誤魔化し、俺は目の前に出て来た選択肢に注視する。

 選択肢はいつも兆候なくやって来る。今回は春空が前振り的な事を言っていたが、それでも十分兆候が無かったと言えよう。

 それで今回は春空か町田さんかの2択か。

 あれ?さっき町田さんを俺選んだよな。

 改めて選べってことか?

 首を傾げながら俺はやや迷いながら町田さんを選択した。

 

 「町田さん、一緒にやろうか?」

 「え、いや。そのごめんなさい」

 「ん?」

 「もう春空さんとやることが決まってて」

 「ほぇ?」

 「だから、ごめんなさい!」

 

 何と言うことだ。

 長らく(一ヶ月くらいだけど)隣の席だったのにころっと春空に取られた。寝取られか?クソッ、僕が先に誘ったのに( B S S )

 というか、最初から出来レースじゃねぇか!

 

 「茶番だぁぁああ––––––––っ!!春空ぁぁああ!!」

 「そこ!うるさい!」

 「あ、はい。ごめんなさい」

 

 先生に怒られ、すっと黙る。

 

 「全く、何をしているんですか」

 「だって、お前、選択肢提示しておいてどっち選んでも結果は変わらないって詐欺だろ」

 「いやぁ。そんなことはないですよ。もし、私を選んでいたら、その時は変わったかもしれませんよ?」

 「そうかよ」

 

 少しボリュームを下げて俺たちは会話をする。

 そんな中、俺は考える。もう過ぎたことだから無意味だが、春空が言うようにもし、選択肢を春空にしていたら何か変わったのだろうか。

 ……もういいや。とにかく手紙を書いてしまおう。これ以上余計に目をつけられたらたまったものじゃない。

 

 「先生、出来ました」

 「はい、受け取りました。秋鷹さん。授業中は静かにしてくださいね」

 「っす。すいませんした」

 「次から気をつけてくださいね」

 「はい」

 

 先生に軽く注意されながらもミッションコンプリート。

 先生からの手紙を受け取り、あとはこれを添削すれば今日の授業は終わりだ。

 英語の先生の手紙を添削するってなんだよ。要らないでしょ。

 まぁ多分、意図的にミスを作ってるんだろうな。

 

 「どうでしか、秋野くん。しっかり怒られましたか」

 「まぁな」

 「今回はこれで済みましたが、次はこうとも限らないですよ。気をつけてくださいね?」

 「なんでお前にも説教説かれなきゃならないんだ」

 「それは私が秋野くんの友達だからです」

 「とも、だち?」

 「人の心に初めて触れた宇宙人のマネですか?」

 「いやいや、そんなニッチすぎるマネはしねぇよ」

 「じゃあなんで困惑してるんですか?」

 「だって、まだ出会って一日じゃないか」

 「それだけあれば十分では?秋野くんは私を知って、私は秋野くんを知った。十分です」

 「そう、なんだ」

 「そうなんです。ほら、秋野くんだっていつの間にか私のこと"お前"って言ってるじゃないですか。熟年夫婦ですか、私たちは」

 「そんなんじゃねぇよ!」

 「そのくらいの距離感ってことです」

 

 そうか、そうなのか。

 友達ってこんなに簡単に出来るのか。

 知らなかった。

 急によく友達なんて作れたな。俺。何かきっかけ–––––、選択肢か!

 俺は俺を良く知っている。誰かと仲良くなりたくて聞き耳をたて、要らない努力で空回りして、結局動けないコミュ症の俺を良く知っている。

 そんな俺に友達が出来た。絶対に選択肢の力だ。

 これは本物と見て良いだろう。

 す、凄いものを手にしたな。ちょっと怖いぞ。

 

 「あ、そうだ。秋野くん。お近づきの印に私も一筆書いてみました」

 「一筆って、手紙?」

 「えぇ、友達ならそれも良いかなって」

 「え、嬉しい」

 「友達って言葉の魔力凄いですね。目つきの悪い秋野くんが少年の顔をしている……」

 

 春空が何か言ってるが聞こえないフリをする。

 俺は今猛烈に感動した。友達って贈り物されるんだ!

 

 「はい、どうぞ」

 「ありがとう!」

 「中身は私が教室を出た後に見てくださいね」

 「あぁ!」

 

 タイミングよく、授業も終える鐘が鳴った。

 春空は駆けるように教室から出ていく。

 と言うことは、もう読んでいいってことだろう。

 手紙の内容は……

 

 Young Oaf Trying All Ridiculous Odd Understandings.

 

 なぜ頭文字が大文字?

 というかこの文の意味はなんだ。

 俺はまだ教室に留まっていた先生を捕まえ、意味を尋ねた。

 

 「ふむ––––––ぷっ」

 「な、なんで笑ってるんですか?」

 「これ、友達から送られたものなんですよね?」

 「え、えぇ。それがどうしかしましたか」

 「面白い友達ですね。状況からみて多分意味は貴方は馬鹿げた事ばかり考えている。とかそんなところでしょうか。––––––っぷ」

 

 最後に思い出したように笑って先生は教室を出ていった。

 あ、あの野郎!

 手紙でまで余念なく俺を弄りやがって……!

 だから先んじて逃げたのか!

 

 「はー、やられた」

 

 俺は握り潰そうかと思ったが、ふと引っかかることがあり、もう一度手紙に目を落とした。

 

 「なんで頭文字が大文字……っ、やりやがったな?」

 

 これ頭文字YOTAROUで、与太郎じゃねぇか!間抜けってことか!

 畜生、絶対アイツいつか分からしてやる!

 俺はクシャッと手紙を握りつぶした。

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