これ、なんてギャルゲー?   作:千之鴎

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4話

 もう春空が来てから2、3週間は経っただろうか。

 教室も当初のお祭りムードは鳴りをひそめ、俺の席の周りはそれなりに穏やかに過ごせている。

 俺はこれでも満足なのだが、姫はどうやら満足ではないらしい。

 

 「はー。やっぱりここは落ち着きますね」

 「ここに来るために俺まで呼び出すのは勘弁して欲しいんだがな」

 「だってこの用具室開けれるの秋野くんだけじゃないですか」

 「風紀委員とかいるけどな」

 「では、言い換えて。非合法でここに入れるのは秋野くんだけなので」

 「言い換える必要あったかよ……」

 

 パンを齧り、そう呟く。

 当然春空姫には届かない。

 事あるたびにここに連れて行けとせがまれるもんだから、自然と会話も増え、段々春空のことが分かってきた。

 コイツ、顔、声、スタイル。どこをとってもお淑やかなイメージを与えるが、それは仮の姿だ。

 真の姿はナチュラル煽りモンスター。自覚のありなしに限らず人を煽ってしまう生粋の怪物(モンスター)だ。

 分かってやってる煽りは当然効くが、無自覚に煽られるのはもっと効く。なにせ原因が100%俺にあるんだから、否定のしようがなくて、悔しくて。涙で枕を濡らした日は多い。

 

 ただ褒められる点があるとすれば、春空は猫を被らない。

 コイツは平等に煽ってしまうのだ。本当に悲しき怪物である。

 だからか、クラスメイトと喋る時は微笑んだり、手を軽く振るだけなど極力喋らないような虚しい努力を目撃することが出来る。どこの皇族だよ。

 そのため、俺と喋る時はその鬱憤を晴らすように喋りかけてくるのだ。

 可愛い子の真の姿を俺だけは知っているポジションということで、ここは甘んじてやるよ。

 決してMになりかけている訳ではない。本当だぞ?

 

 「そういえば、手紙のお返事まだですか?」

 「……あえて、これまで挙げてこなかった話題に遂に触れるか」

 「わざとだったんですか。てっきりアンサーが思いつかなくてボロ負けルーザーになったと思ってました」

 「なんで、勝敗決めるラップ形式になってんだよ。ちげぇよ。あんだけバカにされてもなぁなぁで許してやろうとしてたんだよ。むしろ俺の寛大な心に感謝しろや」

 「なるほど。それは大変失礼いたしました」

 「やけに素直だ」

 「今度新しい手紙書きますね!」

 「受け取らないよ?」

 

 気を抜くとこれである。

 なんか前より酷くなってない?

 これは気を許してくれているということだろうか。

 もっとボディタッチ増やすとかそういう方面の気を許すとかが良かったな。言葉の殴り合いは求めてなかったよ。

 

 「でもお前、ここで飯食っていいのかよ?」

 「なんでです?」

 「転校してから昼休みはずっとここにいるじゃん?友達は?」

 「あー、友達。私は別に良いですかね。適当に1人いればそれで良いです」

 

 言い淀む、誤魔化すような喋り方だ。

 あまり触れて欲しくない部分なのかもしれない。

 春空のような可愛い奴はいくらでも友達を作れるだろう。それなのにクラスの中での態度を鑑みるに友達作りに積極的でないのは何か理由があるはずだ。

 例えば昔、無自覚に煽ってしまって友情に亀裂が入ったとか。自覚のある煽りで友達が離れていったとか。凄い、無限に思いつく。

 

 性格というのは生まれ持った業だ。取り繕うのは難しい、と前に見たテレビで性格は変えることが出来ないとか言ってた。ならば仕方のないことだろう。

 せめて俺だけは春空の友達でいてやるからな。

 

 「なんですか、その生優しい目線は」

 「いや、いいんだ。俺はお前の友達だからな」

 「言っておきますけど、別に私は友達1人も要らないスタンスでやらせてもらってますから。だから、秋野くんだって本当は必要じゃないんですよ」

 「そうか。そうだな」

 「……絶対分かってない」

 

 春空は初めて拗ねるような表情を見せた。

 その後、俺が何を話しかけても知らんぷりを続け、弁当を食べ進める。中身が無くなっても落語家のように器用に空気を掴み食べているフリを続けていた。

 どんだけ無視するのに必死なんだよ。

 

 昼休みの終わりを告げる鐘が鳴る。

 どうやらここまでのようだ。

 

 「帰るぞ、春空」

 「––––––ふん!」

 

 相当ご機嫌斜めらしい。

 人を攻めるのは好きでも自分が攻められるのは嫌いと。

 まったく、良い性格してるよ。

 俺と春空はその日、会話を交えることはなかった。

 代わりに春空の斜め前に座る町田さんが可哀想な目にあっていたことはここに記しておく。

 

 「町田さん、ここ埃が残っているみたいなんですけど」

 「ご、ごめんなさい!すぐ拭きます!」

 

 春空は棚の上を指でスッとなぞり、そう言った。

 奴は転校初日に枠の余っていた清掃委員に入ったから業務として言っているんだろうが––––––、

 

 「姑かよ」

 

 言い方が少しねちっこかった。

 ギロリと視線が飛んできたので俺は顔を逸らし、黙って掃除を続けるのだった。

 

///

 

 これはとある日の休日。市立図書館にての出来事。

 俺はバイトもしてない、お小遣いも貰ってない究極の貧乏学生である。

 それが故に図書館が頻出ポイントだった。

 ここは良い。静謐な空間、退屈とは無縁の蔵書数。おまけに同級生と会うことが絶対にない。

 おまけが本命と思ってはいけない。

 別に俺は友達が欲しくないわけじゃないのだ。ちゃんと欲しい。ただ、自分から動くのが面倒なだけ。そう、そうなんだ。

 それに今日ここに来たのもお告げあったから。暇だから来た訳じゃない。遊びじゃねぇんだ。

 なんと今朝、目を覚ますと同時に目の前に選択肢が生えていたのだ。

 

 ▶︎図書館に出向く

 ▶︎家に居る

 

 こんな感じの2択が。

 寝起きドッキリよりもびっくりした。された事ないけど。

 とまぁ、家にいても暇なので図書館に出向いた始末だ。

 おそらく、選択肢的に何かイベントが起こるはず。新しいヒロインが出て来るとかそういう期待して良いか?流石に癒しが欲しい。

 春空は容姿以外、あんまり癒しにならないから。

 今までの傾向をみるに俺が何か行動を起こす必要はないだろう。

 多分イベントが向こうからやってくる。

 だから、ここは一先ず読書優先だ。

 

 「お、あったあった」

 

 受付に設置されているタブレット端末に俺の探している本のタイトルを入力する。

 読書をするの優先と言ってもイベントは向こうからやってくる。それまでの暇つぶしだ。ちょっと興味はあったけど、真剣に読むつもりのない本でも読んで待とう。

 そういう訳でタブレットに表示されたマップに従い、俺は目的の本を手に取った。

 

 「なんだ、思ったより薄いんだな」

 

 ネームバリュー的に厚いと思っていたが、どうやったらこれであんな噂が立つんだよ。

 不思議に思いながら、俺は空いている席を探す。

 席なんてどこにでも空いているが、やはり隅っこで読みたい。

 片側に隣に人が座ってこないという安心感が欲しい。

 別に真ん中の席に座って、挟まれるように他人に座られても良いんだが、その状態は知らない人と本を読んでいる雰囲気がして俺は苦手だ。

 なんか読書に集中出来ない。

 だから、隅っこが良いんだが……うわ、なんだあの集団?

 女の子一人を囲むように男が四人。

 ナンパかよ、神聖な図書館で……っ、

 

 ––––––アレは、何をしているんだ?

 

 不審な集団の中に一人、知人を発見してしまった。

 俺の知人と言えば一人しかいないんたが、今は知らないふりをします。

 俺は、何も見てない、何も聞いていない。何も言わない。

 

 「やべぇ、目が合っちゃったよ」

 

 立ち去るよりも早く相手に察知されてしまった。これは相手の察知能力の方が上だったというより、最早運命じみたものを感じる。

 だが、覆せない運命はない。俺は捕まる前に(きびす)を返した。

 本なんていつでも読めますから。なーに、この本が誰かに取られるなんてありませんよ。

 だって–––––––、

 

 「助けてー!秋野くーん!」

 「馬鹿野郎!春空、お前っ!何大声出してんだ!ここ、図書館だぞ!」

 

 まさか、そんな止め方があったとは。

 やはり、春空侮れない女。––––––じゃなくて!アイツ、ここが図書館と知っての狼藉かよ!

 俺はこれ以上叫ばれても困るので、俺も声を張り上げて静止を促す。

 

 「っ、お前。……はぁ、何、してん、だよ」

 

 軽く走ったせいで息が切れてしまった。図書館出禁になるかもという焦りのせいもあるだろう。とにかく俺は必死だった。

 

 「秋野くん、よく来てくれました。皆さん、これが私の彼氏です。だから皆さん力は必要ありません。ほら帰って帰って」

 

 春空は謎の集団に向けてそう言い放つ。

 大人しく聞いていれば事態は収束しただろうに俺は間抜けにもいつもの勢いでツッコミを入れてしまった。

 これは与太郎と言われても否定できねぇ。

 

 「春空、彼氏ってどういうことだ?俺いつの間にランクアップしたんだ?」

 

 やばっ、と思うも時すでに遅し。周りを囲んでいた集団の内一人が、水を得た魚のように喋りだした。

 

 「あれあれー?彼女ぉ、聞いてた話と違うじゃん」

 「秋野くん。余計なことを……」

 

 春空に睨まれる俺。

 いや、確かに俺はミスったよ?

 けれど、どちらかと言えば現在進行形で俺を巻き込んだ春空の方が悪いんじゃない?

 と、言ってやりたいが状況がそれを許さない。

 俺と春空を囲むように居座るのは図書館に相応しくない格好をしたチャラ男たち。

 数は四人。図書館はどんな奴が利用してもいい。ただ、コイツらの服装は図書館に来るには気合いが入りすぎている。北九州の成人式かよ。

 

 はぁー、だから関わりたく無かったんだ。無事で済む未来が見えない。

 しかし、ここまで来て知らぬ存ぜぬは通らないだろう。

 

 「待てよ。俺は正真正銘、この子の彼氏だ」

 「遅いです!」

 「あいたっ!」

 

 え、なんか普通に肩パンされたんだけど⁈あれ、春空は俺の味方じゃ無かったのか?

 

 「今更それが通じる相手ですか」

 「彼氏ぃ?おかしくないww?さっき否定したじゃん」

 「ほら?」

 

 春空はモヒカン頭を一人指差した。

 確かに。なんか、ダメそうな気配する。

 

 「待ってくれ、春空。俺思うんだが、普通に待ち合わせしていた友達じゃダメだったのか?」

 「それじゃ逃げてたでしょ、秋野くんは。臆病な性格で特性が逃げ足。技構成だってデバフモリモリの不快な構成に違いありませんから」

 「モンスター扱いはやめてくれや……」

 

 人間に性格、特性はあっても技構成という特殊なステータスはないのよ。

 しかもそれ多分合ってる。

 

 「ほら、自分ならやりかねないって顔してる」

 「う、うるさいやい。それより、この状況どうにかしないと!」

 「いえ、もう解決しましたよ」

 「はぁ?なんで、いつどうやって?」

 「一から十までは説明しません。あなたもたっぷり絞られてきてください」

 

 春空はそう言ってこの場から立ち去ろうする。

 

 「あ、おい。やめとけ、危ねぇぞ!」

 「大丈夫ですよ。だって––––––」

 「はい、君たち。ちょっとこっち来ようか」

 

 ポンと、肩を叩かれる。

 猛烈に嫌な予感がする。

 俺は恐る恐る振り返ると、こめかみに血管の浮かんだ図書館の職員たちが。

 

 「ひぃっ!」

 

 無意識だった。

 足は全力で回転し、逃げようとする。しかし、動かない。

 力つよっ⁈

 てか、俺は違う!

 

 「俺は、コイツらの仲間じゃないですよ⁈」

 「そうかもしれないね」

 「じゃあ!」

 「でも、大きな声出してたよね。ほら、来ようか」

 「あ……、うす……」

 

 反論はありません。

 俺は、いや。俺たちはその後しばらく説教されることになった。

 

 

 斜陽の差す出入り口。俺は肩を落として歩く。

 

 「畜生、一ヶ月立ち入り禁止か……」

 

 言葉にした通りだ。

 俺は図書館の立ち入りを一ヶ月禁止される処分となった。

 まぁ、出禁になった不良たちよりはマシである。

 俺自身、この処分には概ね納得している。

 今思えば大きな声を出さずに対応することは可能な案件だった。

 直ちに職員呼ぶとか。それをしなかった俺の落ち度だ。

 あの状況、春空に巻き込まれたせいでまともな判断ができなかったが、それは体のいい言い訳だ。

 最近、春空といるとどうにも調子に乗ると言うか熱くなりやすくなっている。

 友達という存在に浮かれているのだろうか。単に一緒にいて楽しい存在というのが俺には新鮮だった。

 図書館立ち入り禁止という結果と引き換えに手にした事実、というのはいささか美化し過ぎか。

 

 「はぁ……」

 

 でも、やっぱりツレェ。今度からどこで休日を潰すんだよ……

 

 「お勤めご苦労様です」

 「あ?」

 

 敷地から出ようとすると俺を呼び止める声がした。

 

 「春空?」

 「えぇ、春空ですよ」

 「どうしたんだよ。帰ったんじゃないのか?」

 「まさか、私薄情な奴と思われてます?」

 「そのまさかだよ」

 「酷いっ!」

 

 大袈裟に手を口にあて、驚愕!と言った表情をする。

 7割くらいは本当にそうだと思ってた。残り3割くらいで待っててくれてるのかな、とは思ったが本当に待っていたとは。

 

 「図書館の中で待ってれば良かったのに」

 「そしたらいつ秋野くんが出てくるか分からないじゃないですか」

 「でも、暑かっただろ?」

 「暑かったですよ」

 

 5月も後半。段々と蒸し暑くなってくる時期だ。

 特に昼過ぎ辺りはかなり不快な暑さだ。そんな中、待っているのはかなり苦痛だろう。

 それなのによくもまぁ、待っていたものだ。

 

 「ですが、秋野くんだけ怒られて私が何も罰を受けないというのは不公平ですから」

 「は?」

 「秋野くんを巻き込んだのは私です。秋野くんに大声を出させるように誘導したのも私です。

 ちなみに、私も大声を出しました。なので、一緒に怒られるものだと思っていたんですよ」

 「いや、めっちゃ普通に帰されてなかった?」

 「はい。被害者、ということで許されました」

 「……なら、良いんじゃね?」

 

 話が見えてこない。

 それとこれとが、どうやったら春空がこんな暑い中待っていた理由になるんだ?

 俺の表情を読み取ったのか春空は言う。

 

 「私も罰を受けるべきだと思ったんですよ」

 「なんでさ」

 

 本当になんで?

 許されたのなら、別に良いじゃないか。

 

 「……にぶちん」

 「え……」

 

 少し小声で、だが俺の耳に届くような声量で春空は呟いた。

 拗ねるような、意地悪されて気分を害した少女の言葉。俺の耳に届いた感触としてはそれが一番近かった。

 ますます分からない。春空は何が言いたい?

 考える。考える。考える。

 

 春空は罰を欲している。

 なぜか。

 俺が怒られたからだ。

 どうして。

 春空が巻き込んだから。

 

 あぁ。なるほど。

 逆順に整理していけば、なんだ。簡単なことじゃないか。

 

 「良いよ。春空。気にするな。困った時はお互い様って言うだろ?」

 「意外とたどり着くのが早かったですね」

 「俺に許してもらいたかった奴の言う言葉かよ」

 

 苦笑まじりに俺は言った。

 まったく、顔は可愛くても照れ隠しは可愛くないな。いや、むしろガキみたいで可愛いか?

 

 「まぁいいや。帰ろうぜ」

 「そうですね。帰りましょうか」

 

 俺と春空は二人並んで帰り始めた。

 お互い、家の方角が同じかどうかなんて分かっていない。

 ただ、今はもう少し一緒にいたい気分だった。

 俺はさっきの角を曲がった方が早く帰れるのだが、もう少しだけ春空と会話を続けていたい。

 春空も同じ気分だと良いけど。

 俺はそう願いながら隣を歩き続けた。

 

 今日の休日はなんだか少し距離が近くなった、そんな休日だった。

 

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