人生者の迷い犬 【第一章 連載中】 作:朝夏 更新待ってクレメンス(´・ェ・`)
湿気ている静かな部屋に、ただ一人で俺は住んでいた。明かりもついていない暗い部屋には、カーテンからさしこむ、夜の光と、震える携帯のブルーライトしか明かりはなく、そんな真っ黒な世界は、鉄とアルコールの臭いで汚れていて、なんとも気分が悪いものだった。
外からは、車の音一つ聞こえぬ静寂さで、また、この部屋も一ミリたりとも音は存在しなかった。
まるで時が止まったように。
午前0時、今日俺の時が止まった。
空き缶だらけの臭いこの部屋で。
それは
自殺だった。
人生者の迷い犬
*
第一話 末路
おそろしいのはね、この世の中の、どこかに神がいる、という事なんです。いるんでしょうね?
太宰治
末路
あれから、どれだけたったのだろう。死体は見つかっただろうか、…いや、俺は友達も家族もいない孤独な奴だ。そんなすぐ見つかるはずなどない。
ここはどこだろうか。真っ暗で何も見えやしない。立っているのかも、座っているのかもわからない。
感覚がない。
ふと、瞬間、光が見えた気がした。
光は大きくなっていって、二つだという事がわかってくる。
気づけばそれは目の前に……
光の正体は、ただの車。
車が迫ってくる。
俺に来る。
このままではひかれてしまう。
そうだというのに、俺の足は動かない。
ひかれる。
その瞬間、俺は声にならない悲鳴を叫んだ。
そして、暗転。
*
「はぁァッッ…はぁッッ…はぁッ……はぁっ…はぁ…」
荒ぐ息。
俺はすぐさま呼吸を整える。
自分の体を見ると、汗でびちょびちょだった。
夏というのに、なぜか分厚い布団のせいか、それとも、夢のせいか………
夏?
夏といったか?
俺が自殺したのは、冬だ。
時間がたったのか?
そもそも、なぜ俺は生きている?
自殺が失敗したか?それとも、自殺したことも夢だったのか?
でも、ここは、病院には見えない、普通の部屋。
しかし、知らない、記憶にない部屋だ。
じゃあここはどこなんだ?
俺はどうなったんだ?
たくさんの疑問が俺を埋め尽くす。
ふと、目にとまった、カレンダーは、マーカーで黒に塗り潰され、日にちを見ることはかなわなかった。
俺はどうしちまったんだ?
とりあえず、この部屋を出ないと何も変わらないな…
そうやって、部屋の扉に手をかける。
ちゃんとドアノブを触った感触もある……夢ではないのか…?
そうやって、扉を開ける。
「あ、起きたであるか」
目の前にいたのは、前髪が鼻につくまで長い、不思議な雰囲気な男。
もちろん、この男のことも知らない。
「誰」
そう俺が呟いた言葉に、その男が、一瞬フレーズし、動き出したかと思ったら、慌てて、俺をリビングの椅子に無理矢理座らせたことは、記憶に新しい。
そうやって、俺の一日目は始まった。
*
「えぇっえっ…と、………たちのわるい冗談ではないのであるね……?今なら笑って許すであるが………?」
慌てながらもなんとか言葉を繋ぐ男。
たちのわるい冗談なんかじゃない。
逆にこの状態が、たちのわるい冗談(ドッキリとか)じゃないだろうな、と内心疑ってるんだが。
「違う」
俺はきっぱり言う。
「そう………であるか………どういうことである……?記憶がない…?記憶喪失っていうことであるか…?うぅーん……」
小言が凄いな。
「そうであるっ…名前は、自分の名前はわかるであるか?」
名前……?
そういえば、名前はなんだっけか。
えー、と。
「ーーーーーー」
?
声が出ない…記憶はあるのに…
「……?どうしたであるか?」
声が……どうしてだ……?
「あぁー…ぁー…」
普通の声は出る…
名前だけが言えない…?ということか…?
そんなバカな。
今、ここは、俺にとって現実だ。そんな、ファンタジーのようなことがあるわけがない。
じゃあ………?
「わからない。」
「わからない…?大丈夫であるか…?」
心配するように、俺の顔をのぞきこむ男。
俺だけがわからないのか…?
ついていけないのか…?
「あ、そうである。まずは、ご飯でも食べて落ち着くである。ちょうど作ってあるから待っててである。」
そういって、席を立って男はキッチンへとむかった。
俺は、あの男と仲がよかったのだろうか。
ずいぶん、親しげだった。
俺だけ、記憶がないのか?
俺はいったい。
なんなんだ……?
第一話 末路
終