宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第11話『地獄の道』

 

「すーすー」

 

 お酒を飲んで、私の隣で寝息を立て始めたタナカさん。

 

 子供みたいに柔らかそうな頬をなんとなく突いてみると、タナカさんはムズ痒そうに寝返りをうって向こうを向いた。

 

 体格は小さく筋肉も最低限。

 こうしているとただの弱々しい少年にしか見えないのに、私はこの方に2度も命を救われた。

 

「あなたはいったい何者なんですか?」

 

 聞かないと誓った言葉。それでも気にせずにはいられない。

 あなたと出会ってからあなたをずっと見ているのに、あなたの底はまるでわからない。

 

 タナカさんと出会ってから、私は優秀ではなくなった。

 

 軍学校主席。それにTWの操縦技術には自信があった。

 けれどこの人が生きるステージでは、私の能力など大したものではないのだろう。

 

「私のプライドをどれだけ圧し折れば気が済むんですか?」

 

 なんだか笑えてくる。この人は私の強さになど最初から関心がないのだろう。

 

「きっと、あなたの期待は私の強さに対するものではないのでしょう。ここまで悔しさを憶えたことはありませんよ、本当に……」

 

 それでも諦めるわけにはいかない。

 

 私の存在理由は理不尽な暴力から善良な人を護ることだと、ずっと昔にそう定めた。

 

 この人に護られてばかりではいられない。

 

「イチャついているところ悪いんだが少しいいかな?」

「きゅ! ち、違いますこれは……」

 

 ミロクさん……酔っぱらったニノミヤさまを部屋まで運んでいったんじゃ……

 見られた!?

 

「まぁ別に私は構わないんだけれど、テンメイを起こさなければならなくなりそうだ」

「え?」

 

 ミロクさんが視線を投げると、リビングに設置されたメインモニターに映像が映し出される。

 

『物資と女をすべて置いていけ。そうしたら他のヤツらは見逃してやる。5分やるからさっさと決めろよ』

 

 屈強な偉丈夫が淡々とそう言って映像は終わる。

 

「というわけだ。ワープは残っているが、この距離だとワープ先を探知されてしまうから逃げるのは無理だろうね」

 

 宇宙海賊……

 言われてみればリビングの窓の奥に、星の光とは違う赤い光がいくつか見える。

 

「敵船の数は?」

「観測しているのは30隻程度だ」

「私が出ます」

「まさか1人で?」

「ミロクさん、タナカさんが私と同じことを言ったとして単独であることを心配しますか?」

「……まぁ、しないね」

 

 それが今の私とタナカさんの間にある『差』だ。

 

「私はあの方に並びたいんです。それにミロクさんは【白桜】の武装についてもご存じでしょう?」

「たしかに君の機体なら理論上は勝利できるかもしれない。けど、それはあくまで机上での話だ」

「では、今から私がそれを実現しましょう。それくらいできなければタナカさんに並ぶことなど夢のまた夢なのですから」

 

 私は私に誓う。

 

 甘えるな。祈るな。縋るな。

 

 私が私であるために、戦え――

 

「わかった。戦後の飲み物にオーダーはあるかい?」

「では紅茶を」

「了解した。いってらっしゃい、センリ・ゴールドバーグ」

「はい。いってきます」

 

 

 ◆

 

 

 無窮の暗闇の中、白い機体は後方に桜色の粒子を撒きながら加速する。

 

 それを受け、敵戦艦から何機ものTWが姿を現した。

 10……20……全部で34機か……

 

 十隻級の宇宙海賊が、TWは量産品だとしても、よくこれだけパイロットを集められたものだ。

 もしかすると多少は名の知れた海賊なのだろうか?

 

 だが、これが全兵力ではないとしても50機程度がマックスだろう。

 

 その程度なら問題は何もない。

 

『お前バカか?』

『たった1機で勝てるとでも思ってるのか?』

『それとも命乞いにでも来たのかァ?』

 

 そんな通信が私の機体へ届く。

 半笑いの下卑た声。聞いているだけで不快感が込み上げてくる。

 

 けれどそんなことは今はどうでもいい。

 

 理不尽を振りまく海賊に対する怒りよりも、私は今、自分の不出来に(いか)っている。

 

「先に謝っておきます。これからするのはただの八つ当たりです」

『女?』

『嘗められたモンだぜ』

 

 ブースター出力最大。

 両手に装備したビームサーベルと大鉄刀を構え、TWの群れへ突撃する。

 

『死ねや!』

 

 放たれた追尾式ミサイルを斬り裂き、ブースターを制御してロケット弾を掻い潜る。

 

『なにやってる!? さっさと撃ち落とせ!』

『当たらねぇ……』

『あいつの脚部武装、デュアルブースターか?』

 

 デュアルブースターは、本来の倍のブースターを脚部に取り付ける機構だ。

 

 操作難易度は格段に上がるが、切り返せる回数は大幅に増加し、より微細な軌道で飛べる。

 

 まぁ、バレたところでどうということもない。

 

 最前列の1機目が、私の武装の間合いに入る。

 

「まずは1機」

 

 大鉄刀――文字通り鋼鉄で造られた巨大な刀を上段から叩き付ければ、相手は物理的な盾を構えてそれを防いだ。

 

 だが、盾を上げたことで懐ががら空き。それに、その状態では頭部のカメラを自分の盾でほぼ塞いでいる。

 

 近距離で構えられたアサルトライフルを蹴りで弾き、

 

「なっ!?」

 

 一瞬の油断の間にビームサーベルで胸を切り裂く。そこにはTWの明確な弱点、パイロットルームがある。

 

 機能を停止した敵機を盾にしながら近くにいた別の機体へ加速。ビームライフルが発射されるが、盾にした機体で(はば)みながら距離を縮める。

 

 ブースターを連続点火。盾にした機体を蹴り飛ばし、影を使いながら動きを読ませない細かい動きで後ろに回り込む。

 

 そのままビームサーベルで頭部を貫いた。

 

 さらに大鉄刀をバットのようにスイングし、破壊した機体を別の機体へ向けて吹き飛ばす。

 

 周囲のTWが私に何度もミサイルを放つが、自動追尾ミサイルの軌道なんて簡単に予測できる。当たる気がしない。

 

 そのまま私は前へ進む。

 

 

 追い付きたい――違う、追い越したいんだ!

 

 

 命を救われた。その恩は、私が彼を助けられるようになることでしか返せない。

 

 

「私はもう負けたくない!」

 

 

 何度だって剣を振るう。

 

 1度は諦めた私の理想を、タナカさんは実力で体現した。

 私の理想が実現可能なものであることを、彼は示してくれた。

 

 もう、迷いはない。

 

 今の自分がまったく足りていないことなんてわかってる。それでも追い付かなければいけない。

 

「私の喪失した自信を取り戻すために、私はお前たちを殺す」

 

 ――人を殺せること。傭兵に求められる最低限の能力を、私はお前たちで獲得する。

 

 ビームサーベルでコックピットを突き刺し、肉を裂き、血液を蒸発させる。特に感覚はない。

 

 人を貫く感覚よりも、TWの金属の抵抗の方がよっぽど強い。

 

 しかし宇宙空間に舞う赤い液体は、私の手が人を殺めたことを自覚させる。

 

 思ったよりも、罪悪感はなかった。

 

『今だ! あいつごとやっちまえ!』

 

 私の武器が抜かれるよりも早く、他の機体が遠距離武装を一斉に放った。

 

 ミサイル、ロケット、ビーム、プラズマキャノン……武器を引き抜いていてはこの弾幕すべてを回避するのは無理だろう。

 

 私はビームサーベルを捨て、真上に飛ぶ。

 

 全方位から発射された攻撃どうしがぶつかり、私の足下で爆発を起こす。だが、白桜(わたし)は無傷だ。

 

『武器を捨てたなァ!』

『テメェの脚部は攻撃能力のないデュアルブースター、軽量目的かしらねぇが肩武装はねぇ』

『こっちはまだ20機以上残ってる』

『その鉄刀1本で何ができる?』

 

 TWは基本的に6つの武装を持っている。

 

 両手、両肩、両足。その組み合わせによる多彩な戦術もTWの強みの1つだろう。

 

 たしかに彼らの言う通り、私の肩には武装が乗っていない。

 

 だがそれは、白桜に搭載された〝ある機構〟を発動させるための制約のようなものだ。

 

 TW【白桜(はくおう)】――それは私の理想を体現した機体。

 

 何者にも負けないという誓いを証明するための機体。

 

 故に私は、操縦桿の最奥にある赤いホログラムパネルを叩く。

 

「特殊機構【転武百錬(サステイン)】――起動」

 

 呟くと同時に、空いた右腕に『単発式レーザースナイパー』が握られる。

 

 照準(ロック)――

 

『は?』

 

 発射(ファイア)――

 

 間抜けな音声通信と共に、敵TWが青いレーザーに貫かれ内部から爆発する。

 

 私が遠距離武装を持っていないと思って油断したのだろう。

 単発式だから威力も申し分ない。その分リロードの長さは厄介だが……

 

 私はすぐにレーザースナイパーを投げ捨て、

 

「換装【プラズマキャノン】」

 

 さらなる武装を展開する。

 

『なんだ……なにが起こって……』

 

 【転武百錬(サステイン)】は、簡易的な〝ワープ〟を使った換装システムだ。

 

 肩の枠を使っているため肩武装は装着できないという弱点はあるが、武器や弾薬は船の倉庫にあるすべてを使える。

 

『ふざけんな、あいつは肩の武装を縛って戦ってんだぞ!』

『そうだ、俺たちの方が有利なはずなんだ!』

 

 たしかに、同時に使える武装の数という意味では私の機体は最弱だろう。

 

 だが、この程度の操縦技術しか持たない相手であればそれは弱点とはなり得ない。

 

 プラズマキャノンを敵機にばら撒いていく。

 

 この武器の特性は着弾と同時に雷撃を拡散させること。球体状に広がったプラズマは刹那的にではあるがTWの操作入力を遅延(マヒ)させる。

 

 数多の武装が輝きを放つたび、敵の機体が1つずつ爆ぜていく。

 

 追加のTWが戦艦から出撃してくるが、やることは何も変わらない。

 

 使った武装はリロードすることなく放り投げ、新たな武装を召喚し敵を落とす。

 

 ロケットランチャーの爆炎に紛れ大鉄刀で叩き潰し――

 

 ミサイルランチャーが追うTWをビームサーベルで挟み――

 

 プラズマキャノンで誘導したTWをアサルトライフルでハチの巣に――

 

 敵の行動を予測しながらビームライフルとレーザースナイパーの発射速度を使って移動先(みらい)を撃ち抜く。

 

 そして、対象は最後の1機にまで数を減らした。

 

「換装【エネルギーシールド】」

 

 左腕に盾武装を構え、残った1機へ突撃する。

 

 最後のTWは他より動きが多少マシだ。何度か攻撃を避けられている。

 

『クソが、どいつもこいつも使えねぇんだよ!! ドリルブロウ!』

 

 私の構えたエネルギーシールドが、敵機の右腕に搭載されたドリル型の兵装と打ち合う。

 

 なんらかの武術をトレースしているであろう敵の動きは、今まで撃破したTWの動きとは一線を画していた。

 

 だが、衝撃が来た次の瞬間には、私はすでにその盾から手を放している。

 

 模倣では意味はない。その瞬間にその動作を行う理由を見出してこその――武術。

 

『なに!?』

 

 ドリルが盾を宇宙の彼方へ弾き飛ばすが、私はその回転拳(ドリル)を完全に回避。

 懐へ潜り込んだ形になった。

 

「換装【シュートブースター】」

 

 それはデュアルブースターと同じように脚部のブースターの数を増やす武装だ。

 

 だが、デュアルブースターがTW全体の機動力を向上させる機構であるのに対し、シュートブースターは〝足の運動強化〟に特化する。

 

 つまりこれは……

 

『この俺が格闘術で負けるってのか……!?』

 

 シュートブースターは、蹴撃用の装備(アイテム)である。

 

 バキッッッ!

 

 という音と共に、私の回し蹴りが最後の1機の腰をへし折った。

 

『ッチ、負けか……だがよぉ、距離や質量を制限しているとはいえワープなんて機能を組み込んだ上にこんなに連続発動して、バッテリーは持つのかよ? 戦艦の砲撃で死んじまえ、クソ女』

「ご心配なく。換装【予備バッテリー】」

 

 転武百錬(サステイン)によって呼び出せるのは武装だけではない。

 その他のパーツも同じように換装できる。

 

 マポリオンと戦った時、私はバッテリー切れで敗北した。

 

 

 ――同じ敗北は2度はない。

 

 白桜は機能を停止させられない限り、いつまででも戦える。

 

 私はタナカさんに救ってもらう天国にいるよりも、それが地獄の道だとしてもあの人を助けられる人間になりたい。

 

 それが私の存在証明。

 

「では、さようなら」

『クソが……こんなことならもっとまじめに訓練しときゃよかったぜ』

 

 腹部にあるジェネレーターが破壊されたのだろう。最後の機体は爆散した。

 

 それを確認した艦隊がワープ動作に入りながら後退している。

 

「逃がさない」

 

 TWはワープを除いた宇宙戦闘における〝最速〟の存在。

 

 すべては無理かもしれないが、ワープで逃げられる前にできる限り破壊してやる!

 

 

 ◆

 

 

「お疲れ、センリ・ゴールドバーグ」

「いえ、10隻ほど逃してしまいました」

「それでも十分な戦果だよ。相手について少し調べていたんだが、どうやら相手は『我威流怒(わいるど)スピード』という宇宙海賊だったようだね、賞金額は500万。ただ部下にも賞金がかかっているみたいだから全部合わせれば1000万くらいはいくかもね」

 

 ミロクさんは紅茶の入ったマグカップを差し出しながら、そう説明してくれた。

 

「しかし首は持ち帰れていないので……」

「あんなものを持って帰ってるのはテンメイくらいだよ。普通は宇宙船のブラックボックスなんかを持ち帰るんだ。残骸を漁ればいくつか持ち帰れるんじゃないかな」

「なるほど」

「そっちは私がやっておくから、君はまぁ……テンメイと添い寝でもしていてくれていいよ」

「っ、しませんよ!」

「あはは」

 

 ミロクさんは笑いながらリビングから出ていった。

 タナカさんは、私が出撃する前と変わらずソファで寝ている。

 

「多少はあなたに近付けたでしょうか?」

 

 タナカさんのほっぺたを突っついてみると、彼は赤子のように私の手を握り、少し笑った。

 

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