宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第13話『輝きを追い求めて』

 

 あたしは〝天才〟だった。

 あたしは〝1番〟だった。

 あたしは〝最強〟だった。

 

 

 ――センリ・ゴールドバーグが入学してくるまでは。

 

 

 アイツキ・ヴィーナ。

 その名前を知らない人間は学内には1人もいなかった。

 

 1年ながらにTWの操縦訓練では常にトップ。近接格闘実習では無敗。あらゆる教科において成績優秀。

 

 それがあたしで、それがあたしの誇りだった。

 

 だけど2年に上がってすぐに、あたしは1番じゃなくなった。

 

 天才でも、最強でもなくなった。

 

 センリ・ゴールドバーグが入学して来たからだ。

 

 座学も、TWの操縦訓練も、格闘術の練習試合も、全部であたしは負けた。

 

 プライドなんてズタズタで、どれだけ努力しても意味はなくて、結果は常にあたしの2番に落ち着いた。

 

 だけど、センリ・ゴールドバーグは多くの生徒に敬遠されていた。

 

「ヴィーナさん、1手ご指南いただけませんか?」

 

 自分が2番に叩き落した相手を気遣う素振りもなく、何度もあたしの教室までやって来て、あいつは何度だってそう言った。

 

 そんな姿を見て、大抵の人間はセンリのことを空気の読めない変な女だと認識していた。

 

 あたしは人当たりが悪い方ではなかったから、2番になったあたしに対しても友人たちはまるで1番はあたしであるかのように接してくれた。

 

 それでも、センリ・ゴールドバーグと手合わせするたびに理解させられる。

 あたしがどれだけ努力しても、こいつには勝てないのだろう、と。

 

 友人と楽し気に喋ることもない。

 そもそも友人など必要ない。

 

 強くなれればそれでいい。

 

 脳の中身のすべてが、細胞のすべてが、センリ・ゴールドバーグという人間はその目的のためだけに稼働している。

 

 こいつがあたしと手合わせしたがるのも、この学校でこいつの相手になるような人間があたししかいないからだ。

 

 こいつにとってあたしは、自分の能力を試すための壁打ち相手でしかない。

 

「主席、おめでとうございます」

 

 なんの得があったのか知らないが、あたしの卒業式の日にセンリはそんなことを言ってきた。

 

 嫌味ったらしい。でもきっと、こいつにはそんな感情は微塵もないのだろうと、何度も手合わせした経験から悟っていた。

 

 余計に自分が惨めになった。

 

「ありがとセンリ。あんたは卒業したら軍に入るんでしょ?」

「はい。そのつもりです」

「そう」

 

 だから、あたしは軍には入らなかった。

 

 個人傭兵として活動していると、マグドラという結構大きな傭兵団からスカウトがかかった。

 

 センリ以外には負けなしだったあたしはマグドラのTWパイロットの中でも1番で、とんとん拍子にエースパイロットになれた。

 

 傭兵という場所ならあたしはまだ1番でいられる。

 それでいい。これでいい。

 

 そのはずなのに、センリのことはずっと忘れられなかった。

 

「ヴィーナ、次の依頼書なのですが目を通しておいてくれますか? 傭兵支援機構から直々の依頼ですから絶対に失敗できませんわよ」

「了解です」

 

 ある日、副団長のアマネさんからそう言って依頼書のデータを渡された。

 

 かなり厄介そうな依頼だ。

 まぁSランクに届く依頼で厄介じゃないものなんて稀だけど。

 

 読み進めていくと、チームアップについても書かれていた。

 

 どうやら今回の依頼は別の傭兵団と合同であたるらしい。

 

「『タナカ傭兵団(仮)』って何よ、適当すぎるでしょ。それにBランクって、えっとメンバーは……は?」

 

 目を疑った。

 

 しかし、何度眼を擦ってもそこに書かれた『センリ・ゴールドバーグ』の文字は消えてはくれなかった。

 

 そして、理解した。

 

「そっか。逃げられないんだ。この感情を清算するには、あんたを超えるしかないのね……」

 

 衝動的にあたしはセンリにメッセージを送信していた。

 

 

 ◆

 

 センリ、久しぶりに手合わせしましょ。

 待ってるから。

 

 アイツキ・ヴィーナ

 

 ◆

 

 ニノミヤさんと別れる少し前。

 時間と場所を添えられて、そんなメールが私の端末に届いた。

 

 傭兵の街『マーセル』。TW用闘技場の第11エリア。

 

 月面をモデルとしたヴィーナさんの指定場所に、私の【白桜】は降り立った。

 

 するとすぐに青緑の光沢を放つTWが目の前に着地する。

 

「お久しぶりです。ヴィーナさん」

『えぇ、そうね。センリ、なんで傭兵なんてやってんの?』

「上司の不正が許せず独断専行したら軍をクビになりました」

『ははっ、あんたらしいわね』

 

 そう笑うヴィーナさんは、どこか吹っ切れたような声をしていた。

 

『それじゃあ始めるわよ。ルールはいつも通り【リアル重視】でいいわね?』

「はい。お願いします」

 

 ヴィーナさんがどうして私を呼び出したのかはわからない。

 だけど、これはチャンスだ。

 

 今の自分の力量が熟練のパイロット相手にどれくらい通用するのか、確かめるいい機会だ。

 

 

 ――【スパークルレイル】VS【白桜】戦闘訓練を開始します。

 

 

 そんな音声がエリア全体に響いたその瞬間、ヴィーナさんのTW【スパークルレイル】の両肩の上に突起した箱型の武装から計12発のレーザーが放たれる。

 

 私は白桜のデュアルブースターを起動。右方向に旋回しながらレーザーを掻い潜る。

 

 けれど、12発のレーザーを波状的に使わず一気に放つなんて、〝らしくない〟気がする。

 

 これならリロードの隙を突いて一気に接近できる。

 

 そう思った瞬間、レーダーが後方から迫る熱源を感知した。

 

 白桜(わたし)を追従するようにレーザーが軌道を変え、うねうねと曲がりながら迫っていた。

 

 追尾式……いや、違う。単純な追尾じゃない。

 

 これは……軌道の任意操作?

 

「【レーザースネーク】……ですか。ヘリオス・インダストリー社が開発した最新武装をもう使い熟しているのですね……」

『よく勉強してるじゃない』

 

 レーザーが軌道を読ませない鋭い角度で何度も曲がり、白桜に迫る。

 

「ですが、こんなもの――」

 

 私はデュアルブースターの出力を落としながら側面のブースターを吹かし、機体を半回転させる。

 

 目の前には迫りくるレーザー。私の両手には2刀の近接武装。

 

「斬り伏せればいいだけの話!」

 

 バチバチッ、と光が弾ける音が連続する。

 

 両手を合わせ計8度の斬撃。

 2本のレーザーを同時に斬ること4回。

 私はすべてのレーザーを掻き消す。

 

『そうよね、あんたならその程度はするわよね』

 

 その音声通信が聞こえた瞬間、私の頭上から影が落ちる。

 

 見上げれば、太陽と白桜の間にスパークルレイルの姿があった。

 

 左足のブースターが通常以上の炎を吹かしている。

 

 あれはおそらく【ラビットブースター】だ。

 

 大地に足裏が面している時のみ起動可能な〝跳躍強化〟武装。

 

 月の低重力も利用し、たった1歩で頭上を取られた。

 

 スパークルレイルは、左手に握る拳銃型武装の銃口を白桜(わたし)へ向けた。

 

 口径的におそらくレーザーガンだろう。だが、さっきのような軌道制御型か弾速特化型か判別できない。

 

 軌道制御型の場合、回避しても旋回して戻ってくるからスパークルレイルと光線に挟まれる形になる。

 

 弾速特化型の場合、この距離で撃たれれば私の反応速度ではブレードで対応するのは難しい。

 

 二者択一。斬るか、避けるか。

 

 斬る!

 

『残念ね。こいつは散弾銃(ショットガン)よ』

 

 銃口に集約された青緑の光が――拡散する。

 

 その1本1本はTWの装甲にダメージを与えられる最低限の攻撃力しか持っていない。

 だが、それも数が重なれば被害は一気に拡大する。

 

 基本的な発射速度特化のレーザー。

 先ほど見せられた軌道制御型のレーザー。

 

 その2択だと思い込んだ時点で私はヴィーナさんの術中だった。

 

「さすがですね」

『あんたに褒められても嬉しくないのよ』

 

 武装を見せる順番を利用して、こちらの反応が誘導された。

 

 構えた両手のブレードで致命的な部位を狙っていたいくつかは撃ち落とせたが、半分ほどは白桜に被弾する。

 

 バキリ、と装甲の割れる音が響いた。

 

 2刀を振り終えた白桜。

 その一瞬の間を埋めるように、スパークルレイルがブースターを吹かして接近してくる。

 

 引き絞った右拳が、白桜(わたし)の顔面を捉えた。

 

 強打が命中した鈍い音が、外装のマイクなど通さずとも振動として伝わってくる。

 

 あの右拳はシュートブースターと似た〝パンチを強化する武装〟なのだろう。

 

 軍学校時代からヴィーナさんの戦闘スタイルはボクサーに近かった。

 

 背中から月面に叩き付けられた白桜(わたし)は、月という通常より重力の低い場所でありながら地面に機体がめり込むほどの衝撃を受けていた。

 

 ――機体損傷率78%。

 

 ホログラムディスプレイに表示されたその文字は、私に現実を突きつける。

 

 頭部全壊。右上腕と左のふくらはぎに穴が空いている。

 衝撃でビームサーベルが手から離れて飛んでいった。

 

 頭部が全壊したことによって使えるカメラは半減。これ以降は人間で言う片目で戦うような状態での戦闘を余儀なくされた。

 

『ふざけるな、あんたの実力がその程度なはずないでしょ? その機体は何? 肩武装はなくて、両脚部はブースターで、実質的な攻撃手段はブレードだけ。本気の機体を持ってきなさい!』

 

 ここは仮想空間。船の倉庫から武装を転送する【転武百錬(サステイン)】は使えない――なんてことはない。

 

 マーセルの仮想化は完璧で、転武百錬(サステイン)に登録された武装情報も完全に再現されている。

 

 けれど、切り札とは隠すものだ。

 

 私の団長(りそう)――【タナカさんのように】。

 

「この白桜こそが私にとって最善の機体です。他の予備もありません」

『あっそう。あんたのところの団長(ボス)は団員にそんなゴミを与えるようなタマなし野郎ってことね』

 

 意味はよくわからないけれど、意図はなんとなく理解できる。

 ヴィーナさんはタナカさんをけなしているのだ。

 

『これじゃああたしの気持ちがバカみたいじゃない』

「気持ち?」

『……あたしはあんたに負けた。軍から逃げ出して、1番になることを1度は諦めた。だけどこんなのは自分を殺してるだけだって気が付いたから、あたしは今ここにいる!』

 

 そうか、ヴィーナさんは私と同じなんだ……

 

 タナカさんを見て私は逃げ出した。

 

 己の矜持を捨て、願いの成就は不可能と悟り、自分を裏切ろうとした。

 

 でも、タナカさんにそれではダメだと教えてもらった。

 

 だから今、私はここにいる。

 

『期待ハズレだったわ』

 

 ヴィーナさんの抱く感情は私と同じ。

 

 私はそんなヴィーナさんの期待を裏切り続けているのだろう。

 

 それでもここは仮想空間のオープンエリア。

 

 ここでの戦闘は傭兵なら誰でも閲覧でき、録画(ログ)も残る。

 

 こんなところで〝切り札〟を使うわけにはいかない。

 

「申し訳ありません、ヴィーナさん」

『謝罪するくらいなら本気で戦いなさいよ……』

 

 泣きそうな声で、ヴィーナさんはそう言う。

 

 その通りだ。言い返せる言葉は何も思いつかない。

 

『もういいわ……』

 

 ヴィーナさんは諦めたようにそう言って、拳銃型のレーザーガンを白桜(わたし)へ向けた。

 

 この状況を打破する手段は【転武百錬(サステイン)】の他には残っていない。

 

 けれど、私はそれを使わない。

 

 つまり、私の負けだ。

 

 目を閉じようとしたその瞬間、『ピコン♪』という音と共に目の前にホログラムウィンドウが表示される。

 

『やほ、センリちゃん』

「ぴゅ……あ、え、タナカさんですか?」

『そうだよ。今センリちゃんの戦いを観戦してるんだけどさ、大変そうだね』

 

 観戦? 今ここを?

 

「見ているのですか……不甲斐なくて申し訳ありません」

『いや、そんなことは思ってないよ」

「やはり、私ごときの強さでは期待には値しませんか?」

『ごめんね。僕にはセンリちゃんの強さは良くわからない』

 

 当たり前だ。こんな体たらくを見て褒めてもらえるはずもない。

 

「いえ、謝られるようなことは何もありません」

『センリちゃんさ、傭兵にとって必要なことってなにかわかる?』

 

 傭兵にとって必要なこと……以前ミロクさんが言っていたことだろうか?

 

「……人を殺せることですか?」

『あぁ、そんなことも言ってたね。それもそうなんだけど、それ以上に大事なことがあるんだ』

 

 2つ目の傭兵としての条件……?

 

「なんでしょうか?」

『勝つことだよ。傭兵は負けられない。だって負けたら死ぬから。傭兵は逃げられない。だって逃げたら報酬は貰えないから。だから、傭兵の最低限にして最大限の能力っていうのは〝勝つこと〟だ』

 

 それはそうだ。勝たなければなににもならない。

 

 でもそれは余りにも理想的な話だ。

 

 そんな条件(もの)を達成している傭兵が、この宇宙に何人いるだろう。

 

 けれどそうか……それが、タナカ・テンメイという傭兵の規格ということなのだろう。

 

 そして、力を隠すなんてことは、その前提が成し遂げられる人間にのみ許される行為。

 

「なるほど……そうですか……」

『うん、じゃあ頑張ってね』

 

 頭が晴れていく。

 

 タナカさんは、私の団長は、私の悩みをいつも笑いながら吹き飛ばしていく。

 

 私は一体なにを付け上がっていたのだろう。

 

「はぁ……ふぅ………………わかりました」

 

 真似をできる力量などまったく持っていないクセに……

 

 私がどれほど努力したとしても、タナカさんと同じことができるようにはならない。

 

 そもそもタナカさんの力はTWに依存するものではないのだから……

 

 私が目指すのは方法じゃない。

 

 私があの方の隣に立つために必要なのは、純然たる〝結果〟だ。

 

 タナカさんとの通信を切断し、再度ヴィーナさんとの通信を繋ぐ。

 

「ヴィーナさん、申し訳ありませんでした」

『もう謝罪は聞き飽きたわ』

「いえ、この謝罪は手を抜いていたことへの謝罪です』

 

 私はコックピットのコンソール、その最奥にある赤いアイコンを指で叩く。

 

 【転武百錬(サステイン)】――起動。

 

 勝てない私には何も守れない。

 何も守れない私に存在価値などない。

 

『なに? 機体を変える気になったってこと?』

「いえ、言った通りこの機体こそが私にとって最良の機体です。それと――」

 

 私は、ヴィーナさんのある言葉にずっとムカついている。

 

「正直どういった意味かはよくわかっていませんが……タナカさんは断じて、タマなし野郎などではありません」

『なんか、あんま似合わない台詞ね……けどここからどうするって言うの?』

「換装【ヘルスリセット】」

 

 コマンドコード【ヘルスリセット】。

 

 それはコックピットを除いたすべてのパーツの完全換装を示すコードだ。

 

 コックピット以外のTW構成パーツすべてが新しい物に代わり、私の機体の損傷率は一瞬で2%まで回復する。

 

 ブースターを吹かし、白桜は再び立ち上がった。

 

『ゼノ・エナジー社の最新武装……【転武百錬(サステイン)】。なるほどね、そのための肩武装(くうはく)だったのね』

「はい」

『だけど使い熟せるの? 武装の同時展開制限。高度な状況判断。数多の武装の知識と慣れ。無限の戦術なんて人には過ぎた代物よ。あたしもすぐに搭載を諦めたわ』

「それは、ご自身の目でお確かめください」

『あっそ、相変わらず生意気。でも、あんたはその方がいいわ』

 

 ヴィーナさんの笑ったような声を聞いて、私の口角も自然と上がる。

 

 最近は大人数の脅威がほとんどで、単独で脅威になりえるTWなんていなかった。

 

 試験の時のミロクさんも、先日戦った宇宙海賊のリーダーも、強いとは言い難かった。

 

 白桜が、明確な強者たるヴィーナさんにどれだけ通用するのか。

 

 力を隠すことを諦めた今となっては、それを知りたいという好奇心だけが残っている。

 

『もう1度ブチ壊してあげる!』

 

 スパークルレイルの左右の肩武装から、12本の遠隔制御式レーザーが発射される。

 

「換装【6連レーザースネーク】」

『は?』

 

 白桜の両脚に呼び出したのは、ヴィーナさんの機体の両肩に搭載されているものと同種の武装。

 

 互いに発射された歪曲する光線は12本ずつ。

 

 それはパイロットの意志によって不確定な軌道を描きながら、互いへ迫る。

 

『あんた、やっぱりムカつくわ!』

 

 その光線を追うように、私は地より、ヴィーナさんは天より――加速する。

 

 距離が50メートル程度まで近づいたあたりで大鉄刀を投擲。

 

「換装」

 

 換装には2つのパターンがある。既存の武装やパーツを送還するか、そのまま残すかだ。

 

 機体パーツの場合は邪魔なパーツは入れ替えるしかないが、掴んで装備するタイプの武装は残したまま武装を召喚できる。

 

「【追尾式ミサイルランチャー】」

 

 照準(ロック)――発射(ファイア)

 

『しゃらくさい!』

 

 体を逸らす最低限の動きで大剣を回避したヴィーナさんは、追尾ミサイルに向けて散弾銃を放つ。

 

 爆炎が周囲に撒かれ、黒い煙が私たちの衝突地点を汚した。

 

 怯めば負ける。両者がそう理解しているからこそ、私たちはその煙の中へ全速力で突入する。

 

 24本のレーザースネークが周囲を飛び回っているせいで、サーモセンサーが機能しない。

 

 宇宙空間では煙の残留はすぐに拡散し、長くは続かない。

 

 ならば霧が晴れるその刹那、先に相手を見つけた方が勝つ。

 

 きっと、私がそう考えていると、ヴィーナさんは考えているだろう。

 

『残念ね。見えてるのよ、ビームサーベルの残光が!』

 

 私が右腕に装備するビームサーベルは常時展開型の光学武装。

 

 それは緑に光るレーザースネークと違い、桜色を発している。

 

 ヴィーナさんはその光を発見したのだ。

 

『ッな!?』

 

 だが、その拳は空を切る。

 

 黒煙に突入した瞬間に、私はビームサーベルを投げ捨てていた。

 

「換装【ソーラーキャノン】」

 

 光線銃の1撃が、ヴィーナさんの機体を捉える。

 

『ッチ!』

 

 が、浅い。

 

 常に飛び回るレーザースネークと違って、照準の関係で一瞬止まったことで私の位置に当たりを付けて回避したのか。

 

 さすがです……

 

 相手の武装は……レーザースネーク×2、ラビットブースター、パンチブースター、レーザー式ハンドショットガン。

 

 スパークルレイルはまだ〝左足の武装〟を見せていない。

 

 不安要素は残るが、転武百錬(サステイン)による武装切り替えのラグを待ってくれるような相手じゃない。

 

 煙幕が切れれば私に勝ち目はない。

 

「換装【大鉄刀】」

 

 追尾式ミサイルランチャーと入れ替えで召喚し直した近接武装(バスターソード)を構えながら、ソーラーキャノンを背負う。

 

 そのまま私はスパークルレイルへ突撃する。

 

 すでに煙は晴れた。

 

 白桜(わたし)を迎撃するべく、ヴィーナさんもインファイトの構えだ。

 

 空中ではラビットブースターも使えない。

 レーザースネークを警戒しなければならないという状況も互角。

 

 獲物は拳と剣。間合いの有利は私にある。

 

近接戦闘(クロスレンジ)はあたしの最も得意な戦場よ?』

「私もです」

 

 振り下ろした大鉄刀とスパークルレイルの拳が衝突する。

 

 ブースターによって加速した拳と、私の剣の威力はほぼ互角。

 互いに打ち合うが、互いに崩れない。

 

 問題は、周囲を飛び回っているレーザースネークを相手に向けるタイミングだ。

 

 互いに警戒させるために遊ばせている現状。その使いどころは勝敗に直結する。

 

『あたしと同じ武装であたしに勝てるなんて、そこまで付け上がってるとは思ってなかったわ!』

 

 先に動いたのはヴィーナさんだった。

 

 周囲を飛ぶ24本のレーザーのうちヴィーナさんの操る12本が軌道を変え、あらゆる角度から私を狙う。

 

 一瞬遅れて、私もレーザーの軌道を操って自分の周囲へ集める。

 

 ――私は信じている。

 

『あんたなら避けるでしょ。だから――』

 

 周囲を囲んだスパークルレイルのレーザーは一斉に白桜を狙う、ように見せかけ――白桜の1メートル手前で2度、曲がる〝フェイント〟を行った。

 

「よかった、あなたを信じて」

 

 私は信じたのだ。私が避けるとあなたが信じ、単純な直線軌道ではなく、フェイントを混ぜることを。

 

 その一瞬のフェイントによってできたゆとりによって、私のレーザーはヴィーナさんのレーザーに追いつく。

 

『なッ……!』

 

 ――白桜の12発のレーザーすべてはスパークルレイルの12発のレーザーと激突し、すべてが対消滅する。

 

『どうやって、あたしのレーザーの軌道を予測したのよ……!? フェイントって言ったって色々可能性はあったでしょ』

「最初の攻防でヴィーナさんのクセは大体把握しました」

『化け物がッ……!』

 

 大鉄刀を上段から叩き付ける。

 

『シールドジェネレーター展開』

 

 スパークルレイルの最後の武装。左足に装着されたのは、エネルギーシールドを展開するための兵器だった。

 

 展開可能範囲は装着部位から周囲20メートル。

 展開されるのは最大直径10メートルの円形のシールドだ。

 

『それでも、あたしは勝たなきゃいけないの!』

 

 スパークルレイルの頭上に展開された2メートルほどのシールドが、私の剣を受け止める。

 

「換装【シュートブースター】」

『ナックルブースター!』

 

 剣から手を放した私は、全身のブースターを操り〝後ろ回し蹴り〟を放つ。

 

 同時にスパークルレイルの右手首からブースターが一気に噴出した。

 

 人体構造において、蹴りはパンチの2倍の威力を持つ。

 

 そしてそれは、下半身にブースターが集中しているTWにおいてもほぼ同じだ。

 

 

 ――学生時代、私はあなたに憧れた。私は、あなたの拳に対抗するために、蹴りを磨くことにしたのです。

 

 

 バキリ、とTW装甲が砕ける音がしたのは、スパークルレイルの拳からだった。

 

 そのまま1回転しながら、白桜はもう1度、今度はスパークルレイル首を蹴り飛ばす。

 

 さっきとは逆に、スパークルレイルが仰向けの状態で月面に叩き付けられる。

 

『まだ、まだよ! まだあたしは負けてない!!』

 

 右腕を失ったスパークルレイルは立ち上がろうとしているが、損傷が酷く、バランスが崩れて立ち上がることも難しそうだ。

 

特殊機構(きりふだ)があんのは、あんただけじゃないんだよ! 【オーバーチャージ】!!』

 

 スパークルレイルの右足が大きく発光すると同時に、その前面を護るようにシールドが展開される。

 

 その直系は通常の最大直径の倍、20メートルを超えていた。

 さらに、その数は10枚以上。

 

「いいえ、それでもこれで終わりです」

 

 私は、背負った【ソーラーキャノン】をスパークルレイルに照準する。

 

 私は『隕石』を砕けなかった。

 

 火力の不足。威力の不足。破壊力の不足。

 

 

 同じ敗北は――2度はない。

 

 

 ソーラーキャノンは私が保有する武装の中で最も高火力な兵装。

 

 しかし、その最大火力を発揮するには太陽光をチャージする必要がある。

 

 リロードとは別に、換装で呼び出してから3分ほどの充填時間が必要だった。

 

 だが、すでに時間稼ぎは終わっている。

 

『クソ……』

「ヴィーナさん、私も同じです。あの方を、我が団長を追い越さなければ、私は私を認められない」

『……は? あんた……まさか負けたの?』

「はい。私は1度、自分を諦めました。ですが、結局私は諦めることができなかった。だから私は今、ここにいます」

 

 寂しそうに、けれどどこか嬉しそうに、ヴィーナさんは呟いた。

 

『そうなのね……あんたのこと、少しは好きになれそうだわ……』

 

 照準完了(ロックオン)――

 

「あの、ヴィーナさん」

『何よ?』

「この前初めて居酒屋という場所に行ったんです。もちろんお酒は飲みませんでしたが、思ったよりも楽しめました」

『……へぇ、それがなに?』

「このあとお暇があるなら、お食事でもどうでしょうか?」

『ふっ、なにそれ。焼肉なら行ってあげる』

「了解しました。この前の依頼で、1億CMほどお給料をいただいたので驕らせてください」

『1億!?』

 

 充填完了(フルチャージ)――

 

発射(ファイア)

 

 私の一撃は10枚のシールドすべてを貫通し、ヴィーナさんの機体(スパークルレイル)を粉々に粉砕した。

 

 

 ――WINNER【白桜:センリ・ゴールドバーグ】

 

 

 ◆

 

 

「あんたさ、なんでTWのパイロットになろうと思ったの?」

 

 戦いが終わり、闘技場の外に出た私とヴィーナさんは、現実を模した人型のアバターで向かい合う。

 

 オレンジに近い茶髪は以前より少し伸ばされていて肩ほどまである。

 それに化粧の雰囲気も少し大人っぽく変わっていた。

 

 しかし、ヴィーナさんの捕食者然とした鋭い紅の瞳は軍学校時代とまるで変わらない。

 

「故郷が宇宙海賊に滅ぼされたからです」

「復讐ってこと?」

「いえ、同じ目に遭う人が1人でも少なくなればいいなと思ったんです」

 

 ヴィーナさんは一瞬私から視線を外し、少し悩むような表情をして、また視線を戻した。

 

「あんたさ、ウチに来ない?」

「ウチ?」

「Sランク傭兵団第3位『マグドラ』。一応言っとくけどあんたが2番手ね」

「いえ、私は今の団長、タナカさんの隣に立てる人間になると決めているので」

「そんなにすごいヤツなの?」

「はい。途方もなく」

「へぇ、まぁ会ってみればわかることね」

「え?」

「あれ、聞いてないの? あたしたちとあんたたち、これから共同で依頼にあたるのよ?」

 

 共同依頼……?

 

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