宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第15話『コロニー』

 

 僕らは、目的地である古代スペースコロニー『アクルシア』までワープ1回分の距離までやって来ていた。

 

『それでどうするよタナカさん。3大国の軍隊がコロニーを囲んでる。これを掻い潜って中へ行くには、忍び込むか、全部潰して進むか、どっちかだぜ?』

 

 現在、僕らの船の周囲にはマグドラの艦隊が控えている。

 

 マグドラは、今回の依頼に当たって約1000隻の軍艦を出して来た。

 彼らは複数の星を所有する大傭兵団らしいが、さすがに1日でこれだけの数を出動させられることには驚いた。

 

 だが、それでもたった1000隻。

 

 相手は三つ巴の状態とはいえ1万隻もいるんだから、正面から突っ込んだって勝ち目がないことくらい僕でもわかる。

 

「というか、なんで僕に聞いてくるの?」

 

 宇宙船のホログラムディスプレイに映ったカムイの顔に向かってそう言うと、カムイは当然とばかりに返してくる。

 

『そりゃあんたの方が先輩だからな。それに順位もあんたの方が上だっただろ?』

 

 カムイが向けて来る謎の信頼はなんなんだろうね。

 

 コロニーへの侵入は僕1人ならなんとでもなる。

 

 けれどそれは、当然のことながら『霊能力』を使った場合だ。

 

 ていうかなんで僕が知能労働しなきゃいけないんだよ。

 

「ミロク?」

 

 面倒な考え事はミロクに投げるに限る。

 

「ふむ。ではこうしよう。ワープと同時に私が敵の全戦艦をハッキングしてメインシステムを一時停止させる。復旧には3分ほどかかるはずだから、その間に少数精鋭で包囲網を突破する。作戦名は【3分ハッキング】だ」

 

 まんまだし、パクりじゃん。

 

『あの数の軍艦をすべてハッキングすると? 本気で言っていますか?』

 

 通信に割り込んで来たアマネちゃんが怪しむようにそう返すが、ミロクは楽しそうに話している。

 

「なんなら君たちの船で今証明してあげようか?」

『……いえ、わかりました。しかし』

「あぁ、ワープ位置はコロニーから50キロメートルほどの距離だ。それ以上接近すると3分経過後に射撃の物量で壊滅させられる」

 

 基本的に敵の艦隊は、近付く者を優先的に攻撃するはずだ。

 

 だからそこが、ワープで飛び込んでも一斉射撃されない限界距離ってことなんだろう。

 

「そこからはスピード勝負になるから、各自TWで乗り込んでもらう。とはいえ、相手のTWは私でもハッキングできないため、そちらはパイロットの腕でどうかしてくれ。改めて言うが、艦隊を止められるのはジャスト〝3分〟だ。できるね、センリ・ゴールドバーグ?」

「了解しました」

『ヴィーナ、行けるか?』

『あたしは余裕。けど並みのパイロットじゃ無理よ』

『オオケイだ。タナカさん、こっちはその策でいいぜ』

「では、ワープ開始は10分後としよう。アマネ・フェルティ、タイマーを共有する」

『かしこまりましたわ』

 

 通信が終了し、ホログラムディスプレイには『9:59』から減っていくカウントが映し出される。

 

「あのさ、僕はどうするの?」

「「え?」」

 

 いや、なんで2人共キョトンとしてんの?

 

 霊能力使えなくてTWも乗れないんだよ僕。

 

 どうすんのさ……?

 

「白桜のコックピットに同乗でもすればいいんじゃないか?」

 

 は?

 

 

 ◆

 

 

「あ、あの……お邪魔します……」

「狭いですがどうぞ」

 

 TWのコックピットというのは、当たり前だが2人以上で乗ることを想定して設計されていない。

 

 部屋というより箱に近いその部屋の中へ、僕はセンリちゃんから招かれる形で入っていく。

 

 コックピット内部はバイクの座席のような構造になっていて、左右には複雑そうな機器が並んでいた。

 

 僕は招かれるままセンリちゃんの前に跨ると、コックピットのディスプレイにワープまでのタイマーが表示された。まだ5分くらい残ってる。

 

 僕の後ろに腰を下ろしたセンリちゃんは、耳元で呟くように言った。

 

「昨日1日話していないだけなのに、すごく久しぶりにあなたと話しているような感覚になります」

「そうだね。僕も似たような気分だよ」

 

 一昨日、センリちゃんに護って欲しいと頼んでから今日のマグドラとの通信まで、僕は自分の部屋から出ていなかった。

 

「先日のことですが……」

「その話はしないでくれると嬉しいんだけど」

「いえ、します。させてください」

「そう。……何?」

「私は間違っていました」

「なにが?」

「あなたは団長で、私はその部下です。その関係は他のなにより優先されるもので、私はあなたの剣として、盾として、あなたの傍に仕えることで、私は私の居場所を造ろうとしました」

 

 居場所を造る。

 真後ろに座るセンリちゃんの顔は見えないし、センリちゃんの声はいつも平坦だから感情がわかりにくい。

 

 でも、居場所が欲しいと願うその心は、もしかしたら僕と同じなのかもしれない。

 

「ですが、私があなたと一緒に傭兵をしたいと思ったのは、その心を尊敬しているということ以上に、あなたと一緒にいる時間が楽しいと思ったからです」

「僕も同じだよ。気を遣わせてごめん、君から言わせてごめんね、気にかけてくれてありがとう」

「いえ……二十歳になったらタナカさんと一緒にお酒を飲んでみたいのですが、いいですか?」

「もちろんだよ」

 

 何度も人から嫌われたことがある。

 その痛みにはもう慣れたと思っていた。

 

 でも、センリちゃんは僕が今まで出会ったどんな人よりも仲良くなれた人で、センリちゃんがいなくなるのがこの上なく怖かった。

 

 自分の臆病さが嫌になる。

 

「僕も、これからはセンリちゃんにちゃんと言いたいことを言うようにするね」

「もちろんです。なんでも言ってください」

「それじゃあ1ついい?」

「なんでしょうか?」

「僕、友達ってできたことなくて、どんな関係なのか正直よくわからないんだ」

「それは……私もです。私も友人と言えそうなのはヴィーナさんくらいですが、ヴィーナさんは誰とでも仲がいいだけなので」

 

 意外だ。

 

 センリちゃんくらい美人で、メイド喫茶で働けるくらいのコミュニケーション能力があるなら、友達なんて無数にいるのかと思ってた。

 

「でもさ、友達って多分〝対等〟っていうのが重要なんだと思うんだ」

「なるほど」

「今回僕はセンリちゃんにお願いをしたから、その分なにかを返さなくちゃいけないんだと思うんだよ。僕に何かして欲しいことはない?」

「して欲しいこと……ですか? しかし私はこれまで何度もタナカさんにお世話になっていますから」

「それを言ったらロリロリックでの依頼を見つけたのはセンリちゃんだし、秘密を詮索しないでくれている恩もあるし、その分は全部返してもらってるよ」

 

 退屈だった。つまらなかった。

 

 最近は、あまりそう思わなくなった。

 

 僕の人生を変えてくれたのは、間違いなくセンリちゃんだ。

 

 だから、恩を返したいのは僕の方だ。

 

「では、1つお願いがあります」

「なに? なんでも言って」

「その……ほっぺたを……」

「え?」

「えっと、ムギュっと……してもいいですか?」

 

 たどたどしい口ぶりで、センリちゃんはそう言って僕の頬に手を添えた。

 

「マジで?」

「嫌ですか?」

「いや、そんなことないけど。本当にそれがしたいことなの?」

「実は、出会った時から遠慮なくムギュっとしたいと思っていたんです」

「なるほど……じゃあワープまであと2分あるし、その間好きにしていいよ」

「では……」

 

 そのあとのセンリちゃん手つきには手心は一切なかった。

 

 引っ張ったり、つねったり、揉んだり、こねたり、時たま「ふふ」と笑ながら、センリちゃんは2分間手を止めることはなかった。

 

 

 ――00:03

 

 ――00:02

 

 ――00:01

 

 

『TW【スパークルレイル】』

『TW【レッドコネクタ】』

「TW【白桜】」

 

 通信が2つ、そして後ろからセンリちゃんの声がした。

 

 それは重なる。

 

『『「出撃」』』

 

 コックピット内に強力なGが発生する。

 センリちゃんは、いつもこんな圧を受けながら戦っていたんだね。

 

「大丈夫ですか? タナカさん」

 

 センリちゃんの両腕の力が、僕の体を抱き締めるように強くなる。

 

「大丈夫。というか、センリちゃんの方こそ大丈夫なの?」

 

 投影された複数のホログラムディスプレイには、周囲の宇宙空間が映し出される。

 

 ミロクの作戦通り戦艦からの砲撃はない。

 代わりに、群れた虫のように大量のTWが前を塞ぐ。

 

「心配ですか?」

「そりゃ心配くらいするよ」

「少しムカつきました」

「え、ごめん」

「いえ、これは自分にです。隕石から見れば恐竜と蟻に違いはないでしょう。私の力量は所詮その程度ということです。なので、少しでもあなたに理解していただけるように」

 

 コックピット内のGが一気に大きくなる。

 

 映し出された外の映像がとんでもない速度で動いている。

 

 センリちゃんのTW――白桜がどんな体制をしているのか、僕には予想すらできないけれど、多分ヤバい動きしてるんだろうな……

 

「やばい、酔う……」

「3分だけ我慢してください」

「我慢したらどうなるの?」

「背中はさすってさし上げます」

 

 それって結局ゲロ吐くってことじゃん!

 

 なんて叫んでいる余裕すら僕にはなく、上下左右前後ランダムに発生する超重力に耐えながら、僕はアクルシアまで運ばれた。

 

 

 ◆

 

 

 直径8km。長さ32km。アクルシアは2本の筒状の空間を持つスペースコロニーだ。

 

 このような形式のスペースコロニーは『オニール・シリンダー』と呼ばれ、その居住可能面積は2のシリンダーを合わせて1300平方kmほどあるらしい。

 

 大多数は森林や田畑で構成され、外壁が回転し続けることで重力を一定に保ち、水の循環率も高い。

 

 通常の惑星が円の外側に物を建てるのに対し、シリンダー型のコロニーは円の内壁に木々や建造物が建てられている。

 

 上や横からも木々やビルが生えている光景は、正直見ているだけで酔いが回る。

 

「オロロロロロロロロロロ~~~」

「大丈夫ですか?」

「全然無理……オエェェ……」

 

 TWから降りた僕は茂みに駆け込み盛大に吐いた。

 

 センリちゃんにカッコ悪いところはあんまり見せたくはないけれど、降りるまで我慢したんだから僕にしては頑張った方だろう。

 

 胃の中が空になる頃、他の2機も僕らを追って着陸してくる。

 

「センリ、相変わらず速いわね」

「私のはデュアルブースターですので。地面がある場所での競争なら負けていました」

「ちぇ、俺が最下位かよ。一応マグドラで2番目の操縦技術なんだがな」

「ボスは今度訓練追加ね」

「げっ」

 

 カムイは知ってるけど、ヴィーナちゃんって子は初めて見る。

 

 センリちゃんの軍学校時代の先輩で、マグドラのパイロットの中では1番操縦が上手いらしい。

 

 僕とは違って3人ともフル装備って感じの見た目で、ところどころに金属の入ったアーマーを装着している。

 

「来るのってこれで全部?」

「……おいおい勘弁してくれよ。あれだけのTWに護られたこの要塞に、3機も到達できたんだから御の字だろうよ」

「そういうものなんだ。僕あんまり詳しくないんだよね」

「それより現状を確認しましょう」

 

 センリちゃんが端末からマップを出しながら説明してくれる。

 

 僕らが今いるのはシリンジ型コロニーの内側、その端っこだ。

 

 アーティファクトがあると推測される地点はコロニーの中央部にある市街地。

 市街地は2本ある巨大シリンダーの片方にしかないため、僕らはこっち側に着陸した。

 

 TWは使わない。

 

 TWは武装性能が高すぎて、仮にビームライフルが外壁を貫通した場合、重力発生用の回転盤が崩壊する可能性があるからだ。

 

 もしも穴が宇宙空間まで到達したら、こんなコロニーは一瞬で自壊するだろう。

 

 それに市街地の屋内や地下も探索する必要があるため、TWでの探索は不向きだとか。

 

「TWは森林に隠しておきましょう」

「そうね」

「あぁ、そうだな」

「タナカさんは少し待っていてください」

「うん」

 

 3人は近くの森にTWを寝かせる形で隠すようだ。

 

 TW飛び去って行くのを確認し、僕は〝虚空〟へ視線を向ける。

 

「やぁ、君は誰?」

『グレイラス帝国軍第8艦隊所属、ボルア・コーギ一等兵であります』

「あのさ、ここにアーティファクトってある?」

 

 僕がそう聞くと、(ソレ)は首を横に振って『わかりません』と言った。

 

「そっか。ありがと」

『ですが』

 

 黒い軍服を着た若い男の姿をしたそれは、無機質な表情で続ける。

 

『怪物がおります。お気を付けて』

「……なるほどね」

 

 きっと他の人にとっては誰もいないのであろうその空間へ、僕がそう呟いたその瞬間――

 

 ガシャン、と外壁全体から音がした。

 

 同時に、僕の足裏が大地より離れた。

 

「お?」

 

 浮遊感に身を任せる以外の選択肢はなく、僕の身体はどんどん上昇していく。

 

 僕だけじゃない。

 地面に縫い留められていないものはすべからず、上昇していた。

 

 重力発生装置の故障……?

 

 あの3人の誰かが適当にライフルをぶっ放したわけでもないだろうし……なんで?

 

 いや、カムイならちょっとやりそうな気がしてきた。

 

 一応僕ら全員宇宙服は着てるから、穴が開いているとしても即死はないだろう。

 

 センリちゃんと合流して護ってもらいたいところだけど、そのために霊能力を使えば本末転倒だ。

 

 さて、どうしたものか……

 

 そんなことを考えながら、僕の身体は元居た地点からどんどん離れていった。

 

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