宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

16 / 37
第16話『ツーマンセル』

 

 はぐれた。

 

 目の前に広がるのはかなり古い街の景色だ。電気文明後期って感じの建築様式だけど、かなり崩れて腐敗している。

 

 まぁ千年以上前の遺跡だし、コロニーという閉鎖環境でもなければ原型すら留めてはいなかっただろう。

 

 僕が降り立ったのは、そんな市街地のスクランブル交差点の中央だった。

 

 そして、目の前には中世の貴族が着るような派手な服を着た男が立っている。

 

 多分20代前半。僕と同じ年くらいだろう。

 褐色肌に白髪で、身長は僕より20センチくらい高い。

 

「初めまして、侵入者」

 

 そう言った彼の後ろには白い『人型の何か』が数百体並んでいる。

 

 それには体毛の類は一切なく、全体的にのっぺりしている。

 

 それは全身真っ白に染め上げられ、赤い1つ目が不気味に光っていた。

 

 人型ではあるが人間ではない。

 機械? いや、金属って感じでもない。

 なんかエイリアンみたいだ。

 

「初めまして、僕はタナカ・テンメイ。傭兵をしてる。君は誰なのかな?」

「余は……いや、名乗る必要はないな。これより贄となる其方が知ったところで意味もなかろう。余は散策の途中なのだ、其方はこんな依頼を受けた己の愚かしさを呪いながら死ぬがよい」

 

 男は終始横柄な態度のまま振り返り、白い人型が造った人込みの中へ消えていく。

 

 すると白い人型が動き出す。

 

「センリちゃんもいないし、自分でやるしかないかな……」

 

 そう呟くと、「あっ」と上空から声がかかった。

 

「センリのところの団長さん」

「ヴィーナちゃん、だったよね?」

 

 どういうルートで探索していたのか知らないが、僕の後ろに上から降って来た彼女と僕は軽い挨拶を交わす。

 

「こんにちは。合流できてよかったです。あの、いきなりで悪いんですけど敬語苦手なんでやめてもいいですか?」

「いいよ」

「どうも。それでこれってどういう状況? あの白いヒトガタは何?」

「多分敵」

「なるほど。あたしが倒していい?」

「お願いしてもいいかな?」

「了解」

 

 そう言った瞬間、彼女の腰の辺りから鎖が飛び出してくる。

 

「【テンタクルチェイン】――起動」

 

 その数は計12本。

 鎖は勢いよく伸びて、ヒトガタを突き刺した。

 

 さらに鎖に引き寄せられるように、彼女自身もヒトガタの群れに突っ込んで行く。

 

 そのドテッ腹を殴りつければ、バキリとヒトガタの身体が割れ、数体を巻き込んで吹っ飛んでいった。

 

「【フォースドレス】――起動」

 

 さらに彼女の身体に武装が展開される。

 多分、ナノマシンテクノロジーによって武装を再構築することで、平時の武装の取り回しを緩和しているのだろう。

 

 ドレス型のその武装の特徴は、両手両足と腰回りに出現したブースターだ。

 

 ブースターによってTWのような高速軌道を得た彼女は、縦横無尽に戦場を駆け回り鎖と拳で敵を撃滅していく。

 

 僕へのケアも完璧で、僕に近付こうとするヒトガタがいれば、目にも止まらない加速と鎖による跳躍によって僕の前まで戻って来て、そいつを吹っ飛ばした後すぐに前線に戻っていく。

 

 圧倒的だった。30分もせずに動くヒトガタはいなくなった。

 

「こいつらを生み出すか操ってるのがアーティファクトの効果なのかしら? まあまあね」

「ってことは、こいつらが護ってる方向にアーティファクトがあるのかな?」

「その可能性が高いと思うわ。進みましょうか、どうせうちのボスやセンリもそうするだろうし」

「わかった。そうしよう」

 

 ヒトガタの屍を乗り越えて僕らは歩き始める。

 

 センリちゃんとはぐれた時は少し焦ったけど、ヴィーナちゃんがいれば問題はなさそうだ。

 

 歩いているとヴィーナちゃんの方から話しかけて来た。

 

「タナカ……あぁ、敬称はいる?」

「いらないよ」

「じゃあタナカは、センリといつ知り合ったの?」

「1月くらい前かな?」

「それであんなに信頼されてるんだ。すごいわね」

「僕もセンリちゃんは信頼してるよ」

「へぇ。ねぇ、タナカってセンリと付き合ってるの?」

「いいや、そういう関係じゃないし、そうなる予定もないね」

「そう。じゃああたしと付き合わない?」

 

 ……少し間を置いて、僕は聞き返す。

 

「なんで?」

「センリが尊敬してるってだけで、あんたには奪う価値があるから」

「そうなんだ。嬉しい申し出だけど遠慮しておこうかな」

「どうして? 自慢じゃないけど、あたしってスペックかなり高いわよ?」

「僕は君に隠し事をしているから。付き合おうが結婚しようが、多分それを言う気にはならないから、そんな僕と付き合うのは嫌でしょ?」

「……真面目ね。あたしは気にしないわ」

 

 僕は彼女の目を知っている。

 いつも鏡で見ている瞳だ。

 

 それは、〝自分を認められない人間〟の顔。

 

「そんなにセンリちゃんが羨ましい?」

「……は?」

「まぁわかるよ、センリちゃんは純粋で正義感に溢れてる。僕はそんなセンリちゃんを尊敬しているし、僕には真似できないとも思う。君も同じ。ホントはセンリちゃんと対等になりたいだけなんでしょ?」

「……かもね」

「なら、やっぱりそんな君の弱みに付け込むのは違うと思う。それに、君には僕なんて必要ないよ。君の目はまだ諦めていないから」

 

 僕は他人が僕の本質を理解してくれることを諦めている。

 

 でも、ヴィーナちゃんは多分、センリちゃんと並ぶことを諦めてはいない。

 

「そう、ね……悪かったわ、忘れて」

「うん。それよりセンリちゃんやカムイは大丈夫かな?」

「大丈夫でしょ。格闘戦なら2人ともあたしより強いから」

 

 自分の言葉に頷いたヴィーナちゃんは、思い出したように続ける。

 

「……だけど、2人とも戦い方がバカみたいなのよね」

 

 

 ◆

 

 

 重力発生装置の故障の後、周囲を探索していると彼らを見つけた。

 

 生物かすら定かではない、白いヒトガタのなにか。

 

 それに向けて、私は武装を展開する。

 

 ウェポンホルダー。それは軍学校を主席で卒業した者に与えられる武装だ。

 

 それは10種の武装に姿を変えるナノマシン兵器であり、ニノミヤさまが使っていたホリダーホルダーの戦闘版と言える白兵武装。

 

 ビクトリアでゲスラに襲われた時は携帯していたなかったが、これがあれば軍人数十人相手にも善戦はできただろう。

 

 それは平時は私のスマホ型の携帯端末に付属する10種類のぬいぐるみの姿をしている。

 

 だが、それを握り潰すことでぬいぐるみは10種の武装に姿を変える。

 

「首狩り兎ラビィ」

 

 ぬいぐるみの1体で、昔見ていたアニメのキャラクター。

 

 それを握り潰すと同時に、私の脚部に【強化ブーツ】が展開された。

 

 この武装は加速力と蹴りの威力を向上させる。

 

「あなたたちが何者かは知りませんが、敵対するのであれば蹴散らすのみ」

 

 白いヒトガタの怪物は、私の言葉に返答しない。ただ襲いかかってくる。

 

 こんな生物も機械も記憶にないし、おそらくはアーティファクト関連の存在だろう。

 

「胡瓜霊ゴーキュン」

 

 ハンドガンタイプのエネルギーブラスターを右手に展開。

 敵の群れにを撃ち込み、即座に解除。

 

 そのまま敵の群れに飛び込む。

 

「四角英雄しそくん」

 

 エネルギーアックス――展開。

 

 敵が大勢いるなら、この近接武装はかなり有用だ。

 

「キュイン!」

 

 音に反応してそちらを見やれば、口元に赤い光を溜めている個体が見える。

 

 おそらくはビーム系の攻撃……

 

「瞳の魔女アナちゃん」

 

 アナちゃんを握り潰せば、私の周囲数メートルに任意でシールドを発生させることができるシールドジェネレーターが腰に展開される。

 

 タイミングよく展開したシールドに敵の光線は弾かれた。防御力は十分足りている。

 

 エネルギーアックスを叩き付ければ、敵数体が一斉に吹き飛ぶ。

 

 強化ブーツで蹴り飛ばせば、それは数十体を巻き込んで吹き飛んでいく。

 

 脅威ではない。

 

 あと10分もせずに決着が付く。

 

 そう考えた瞬間だった。

 

怒罹琉(ドリル)一巻流(ひとまきりゅう)――【天地掘(てんちぼ)り】!」

「は?」

 

 それは上空から降下、いや〝落下〟してきた。

 

 右腕をドリルのように変形させ、その先端が大地を穿ったその瞬間、地面が爆ぜる。

 

 亀裂から逆流した力は、その上に立っていた白いヒトガタへ襲いかかった。

 

 一瞬で敵が全滅した。

 

 それを行った人物に私は話しかける。

 

「合流できてよかったです、カムイさま」

「あぁ。けど〝さま〟はやめてくれ。気恥ずかしい」

「ではカムイさん、助けていただいて感謝します」

「いいってことよ」

 

 そう言って彼、Sランク傭兵団【マグドラ】団長『ドラ・カムイ』は親指を立ててこちらに向ける。

 

「しかし2つほどよろしいでしょうか?」

「お、おぉ。なんだ?」

「まず、私が直前に跳躍していなければ私は死んでいました。そして、地面にあのような衝撃を与えると、また重力装置が故障しかねません」

 

 相手はSランク傭兵団の団長。

 私はただの団員。

 

 だが、言わないわけにはいかない。

 

 特に、重力装置が壊れればまたタナカさんと距離が空く可能性がある。

 

 私はタナカさんを護ると約束したのだ。一刻も早く彼の元へ戻る必要がある。

 

「あぁ……」

 

 怒りを覚えて怒鳴っても不思議ではない。

 

 例えば私の元上官、ゲスラ・オーバルトならそうするだろう。

 

 覚悟はしていた。けれど……

 

「すまん! 俺が悪かった」

 

 けれどカムイさんは、テヘッ、みたいな顔とポーズをして普通に謝ってきた。

 

「いえ、今後気を付けていただけるのなら問題はありません」

「けど、お前が避けるってのは信用してたんだぜ? タナカさんの相棒だからな」

「ではそちらは私の早とちりですね。それと文句のようなことを言いましたが、あなたの戦い方はとてもよかったです」

「おぉ、わかるか!? 怒罹琉(ドリル)一巻流(ひとまきりゅう)は無敵の武術さ。そっちの戦いも少し見てたが、その武装と合わせてかなりイカしてたぜ!」

 

 そう言ってカムイさんは手を差し出した。

 

「そのうち手合わせをして欲しいものです」

「依頼が終わったあとならいつでもかかってきやがれ」

「是非」

 

 私は彼の手を握った。

 

「そんじゃあ進むとするか」

「はい。このヒトガタがコロニーの防衛機構だとするなら、それが護っている方向にアーティファクトがある可能性が高いでしょう」

「オオケイ」

 

 コロニー内はかなり近くでなければ通信も使えないし、。合流するためにも目指すべきはアーティファクトだろう。

 

 きっと、タナカさんやヴィーナさんもそちらに向かっているだろう。

 

 私たちは歩き出す。

 

「センリ、でよかったよな?」

「はい」

 

 先頭を歩いているとカムイさんが話しかけて来た。

 歩きながら私は返事をする。

 

「よくあの人と傭兵団を組もうと思ったな」

「……私の実力がタナカさんに及んでいないことは自覚しています。それでも私はあの方に追いつき、追い越したい」

 

 そうすることでしか、私はタナカさんと対等にはなれない。

 

「その覚悟があるだけで立派だ。タナカさんの力は規格外なんてモンじゃねぇからな」

「もしかして、カムイさんは以前からタナカさんとお知り合いなのですか?」

「知り合い……まぁ、顔を会わせるのは初めてじゃねぇな。だが、あの様子じゃ俺のことは憶えてなさそうだ。俺とタナカさんの出会い、聞いてくれるかい?」

「はい。興味はあります」

 

 タナカさんのことを私は全然知らない。

 

 だからこそ、知りたいと思う。

 

 私が憧れたタナカさんの力も過去も、知って、受け入れたい。

 

「4年前だ、タナカ・テンメイは俺の故郷の星を滅ぼしてくれやがった」

 

 

 え?

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。