宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第17話『団長』

 

 物心ついた時には俺はもう〝奴隷〟だった。

 

 万隻級宇宙海賊【星壊しアーレイゼ】。

 

 それはいくつもの星を文字通りに〝破壊〟してきた宇宙屈指の海賊だった。

 

 アーレイゼの海賊団がそれほどの力を得たのは、たった1つの『アーティファクト』に起因する。

 

 アーティファクト【アブソリュート・クロック】。

 

 その性能は第1種永久機関とも呼べるもので、エネルギーの生成に時間以外を必要としなかったのだ。

 

 そのエネルギーを増幅し、一条のビームとして放つ惑星式遠距離狙撃砲『マグナス』。

 それこそがアーレイゼの奥の手だった。

 

 だが、マグナスは惑星の生産力の90%近い生産力を要求する超規模兵器で、アーレイゼは常に多大な労働力を求めていた。

 

 だからアーレイゼはマグナスの整備をさせるために様々な星から奴隷を集めた。

 

 俺もアマネも、マグドラに所属する多くの仲間はこの星で整備士として働かされていた元奴隷だ。

 

 俺たちは労働力であると同時に海賊の玩具で、あいつらの気分によってあらゆる尊厳を汚されるのが当たり前だった。

 

 そんな生活に耐えられるわけがなかった。

 

 俺はずっと反旗の機会を伺っていた。

 

 だがアーレイゼの管理は完璧で、何の力もない奴隷1人でどうにかするなんてのは、土台無理な話だった。

 

 そして……4年前、俺が21の時だ。

 

 幼馴染だったアマネが〝宮殿〟に連れて行かれた。

 

 宮殿とはアーレイゼとその仲間の海賊が住まう場所。

 

 奴らの汚れと快楽の詰まった巨城だ。

 

 俺はなりふり構わず宮殿に単身で乗り込んでいた。

 

 ザマァなかったよ。

 

 アマネを返せって怒鳴り込んだ俺は半殺しにされて、海賊たちは俺に言った。

 

「そんなにこいつが大切か? だったらそこでこいつのすべてが消えるのを見ていろ」

 

 激昂しようが、抵抗しようが、意味はなかった。

 

 俺は1人、相手は数万人、しかも全員武器を持ってる。

 

 冷静になって考えれば勝ち目がないことなんて、最初からわかってたんだよ。

 

 目の前で、気絶したアマネがひん剥かれるところを俺は見せつけられて……その間、俺は叫び続けることしかできなかった。

 

「ふざけんな! ぶっ殺してやる! 全員ぜってぇぶっ殺す! 殺してやる、必ず殺してやる! 絶対に、ブッ、ブチ殺してやる!」

 

 泣いて、叫んで、喚いて、殴られて、蹴られて、骨を折られて……

 

 俺は絶望したんだ。

 

 

「はぁ、どうせなら彼も気絶させてくれたらよかったのに」

 

 

 誰もいなかったはずのその空間に、そいつは突然現れた。

 

 ガキだ。俺よりずっと年下に見えるガキ1人。

 

 それが、海賊たちを前にまったく臆した様子もなく立っていた。

 

「なんだテメェ、どっから……」

 

 そう言って近づいた男が、突然倒れた。

 そのあともバタバタと近くにいた海賊たちが倒れていく。

 

 まるで、その子供がその現象を引き起こしているかのように。

 

「ありがとう【騰蛇】」

 

 意味のわからない礼を吐いて、そいつは俺を見た。

 

「彼女を連れて逃げてくれるかい? その代わり、僕がこの宮殿を地獄に変えてあげる」

 

 声が出なかった。体はボロボロで喉が千切れるほど叫んだせいだ。

 

 俺がコクコクと頷くと、そいつは満足そうに頷いて、宮殿の奥へ歩いて行った。

 

 俺はすぐにアマネを連れて宮殿の外に出た。

 

 けど、心配だったんだ。小学生くらいにしか見えないガキが1人で海賊のアジトに乗り込むなんて。

 

 それにアマネや俺を助けてくれたのがあいつだとしたら、それを見殺しにすることなんてできなかった。

 

 だから俺はアマネを隠してもう1度宮殿に入ったんだ。

 

 だが、そこには俺がさっきまでいた華やかな宮殿の様子は微塵も残っていなかった。

 

 どこから湧き出しのかもわからない黒い骸骨が海賊共を殺していた。

 

 嬲り、いたぶり、楽しむかのように命乞いをさせて、海賊を殺していた。

 

 意味がわからなかった。怖かった。だけど俺は前に進んだんだ。

 

 黒い骸骨は俺を襲いはしなかった。

 

 海賊の頭領アーレイゼがいる玉座の間まで行けば、そこにはその子供がいた。

 

 アーレイゼの側近は全員黒焦げになって死んでいて、子供の隣にはイカズチを纏った巨大な虎がいた。

 

「お前一体何者なんだ……? どうやってこんなこと……」

「僕さ、【霊能力者】みたいなんだよね。それにしても皮肉だよね、もう殺すと決めた相手にだけは僕は一切の嘘を吐かずに済むんだから」

「……た、頼む、許してくれ。お願いだ、私だけでいい。財産も奴隷もこの星も全部やる。だから頼む。なぁ、お願いだよ、なんでもするから……」

「君にして欲しいことはないかな」

「そうだ、お前に私を抱かせてや――」

 

 60を越える女海賊アーレイゼがそこまで言ったところで、アーレイゼもまた黒焦げの死体に姿を変えた。

 

「僕は霊も機械もそういう対象として見られない性格だけれど、海賊はそれ以下だ」

 

 どこから取り出したのかわからない黄金の剣によって、死体の首を切断し、子供が首を掴み上げると、首はどこかへ消え去った。

 

「さて」

 

 そう言って、そいつはアーレイゼが座っていた玉座に腰を下ろし、呟いた。

 

「宮殿は結界で囲んでるから海賊が逃げることもない。あと1時間もすれば宮殿内の海賊も全員死ぬでしょ。少しここで待とうかな。宝物庫は……めんどくさいからいいや。首だけでもそれなりのお金になるだろうし」

 

 そこまで言ってから、虎が「グルゥ」と鳴いて俺を見た。

 

 そしてその子供も物陰に隠れていた俺を見つけた。

 

「あれ、逃げてなかったんだ。もしかして全部見てた?」

 

 恐怖を抱きながら、こくりと俺は頷く。

 

「そっか。じゃあ1つお願いがあるんだ」

「……?」

「僕のこと、特に僕の力のこと、誰にも話さないで欲しい。約束してくれる?」

 

 俺はブンブンと何度も頷いた。

 するとその子供は小さく笑って言った。

 

「ありがとう」

 

 

 

 そいつが去った後に残ったのは全滅した海賊と、単身で乗り込んだ俺だ。

 

 みんな俺がやったって勘違いして、すげぇ持ち上げられて、気が付いたら星の長にされてた。

 

 誤解を解こうにも本人が言うなっつうんだから説明のしようがねぇ。恩人の頼みを無碍にするわけにもいかなかったしな。

 

 タナカさんが傭兵だってことを知ったのは、そのすぐあとだ。

 

 だから俺も傭兵になることにした。

 

 俺が仲間に吐いてる嘘を実現できるくらいまで、そしてあの人に礼ができるくらい、俺は強くならなくちゃいけねぇんだ。

 

 

 ◆

 

 

「つーわけで、俺にとってタナカさんは恩人で、目標になった人間ってことだ」

「なるほど」

「今まで話せるヤツなんていなかったからちょっと気分が晴れたぜ。タナカさんが信頼してるお前だからこそ、こんな話ができる」

 

 霊能力……

 

 科学が制するこの時代に、そんなオカルト……信じられるはずがない。

 

 タナカさんを知る前まで私なら、確実にそう断じていただろう。

 

 けれど、私はタナカさんの超常をいくつも見て来た。

 

 隕石を壊す火の鳥。ミサイルすら弾く透明な壁。雷を纏う虎。

 

 それはたしかに『霊能力』なんて言われても、納得できるほどのものだった。

 

「カムイさん、お願いがあります」

「なんだ?」

「その話を私にしてくれたこと、タナカさんには言わないで欲しいんです」

「ん? あぁ、まぁ構わねぇけど」

「ありがとうございます」

 

 そんな話をしながら隠密気味に移動していると、おそらくは目的地であろう場所が見えて来た。

 

「どうやらあそこが最終地点みてぇだな」

 

 市街地の中央。

 そこにあったのは巨大な『礼拝堂』だ。

 

 だが、周囲の道路をあの『白いヒトガタ』が徘徊している。コンクリートの黒を埋め尽くすほど、大量に……

 

「どうする?」

「さすがにあの数を相手にするのは面倒が過ぎます」

「そうか? 1匹1匹はただの雑魚だ。あの程度の数なら正面突破できるぜ」

「かもしれませんが、礼拝堂の内部になにがいるのか不明すぎます」

 

 アーティファクトが『道具』であるなら、その『使用者』がいるはずだ。

 

 それに、アーティファクトの能力があの白い生物を生み出すだけとは限らない。

 

「なるほどね。4年前から傭兵を始めた新米の見立てと、軍の学校で何年も教育され学年主席の座にまで付いたエリートの見識だ。どっちが正しいかなんて比べるまでもねぇ。お前の指示に従うよ」

「あなたは、きっとヴィーナさんや他のお仲間の方たちにも同じような意識で接しているのですね」

「俺ができることや知ってることより、俺の仲間たちができることや知ってることの方が多い。俺の仕事は誰に頼むか選ぶだけさ」

「……なるほど、あなたがSランク傭兵団の団長である理由が少しわかった気がします」

「なんだ? マグドラに入りたくなったか?」

「いえ、ですがあなたは信用に値する」

「そりゃどうも」

「上階の窓から忍び込みましょう。私たちの身体能力であれば可能です」

「了解だ」

 

 

 ◆

 

 

 ヤバい。疲れた。

 もう多分5キロ以上歩いてるよ。

 

 何回か白いヒトガタに襲われて、ヴィーナちゃんが戦う間の休憩時間があったけど、それでももう足がパンパンだよ。

 

「タナカ~? だらしないわよ~? 男でしょ~? 頑張れ~!」

「僕は君と違って肉体強化手術なんて受けてないんだよ」

「こんくらい普通に体力トレーニングしてたら歩けるわよ!」

 

 自慢じゃないけどトイレとリビングに24時間いる日だってザラだよ。

 

 あぁ、いつもなら白虎におぶってもらうのに……

 

 霊能力がなきゃ僕ってなんにもできないんだな……

 

「はぁ、へぇ、ほぉ、ふぅ……」

「ったく、それでどうやって傭兵なんてやってんのよ……」

 

 そう言って、ヴィーナちゃんは僕の前に手を出して制した。

 

「どうしたの?」

「着いた。目的地はあの礼拝堂みたいね」

 

 建物に身を隠しながら曲がり角の向こうを見れば、一際大きな面積を有する建物を囲むように大量の白いヒトガタがうろついている。

 

「どうするの?」

 

 中へ入れさえすれば礼拝堂を六合の結界で囲める。

 

 けど、霊能力を使用を控えた状態で中まで入る手段を僕は持っていない。

 

「ねぇタナカ……」

「なに?」

「あんたって本当に団長なの? センリが可哀想になって来た」

「……」

「TWを呼ぶ。自動操縦の戦闘能力なんて雑魚だし、ほとんどの兵装は威力が高すぎて使えない。でも、TWを壊すつもり突っ込ませればあいつらの気を引くくらいはできるでしょ。その間に中に入るわ」

「いいの?」

「依頼の達成が最優先よ。帰りはボスに乗っけてもらうわ」

 

 ヴィーナちゃんは懐から取り出した端末を操作し始める。

 

 数分でヴィーナちゃんのTWが空からやってきた。

 

 着陸したTWは備えた兵装を一切使うことなく、拳と蹴りで戦い始める。

 地面にダメージを与え過ぎないように、極めて手加減して。

 

 ヴィーナちゃんの狙い通り、白いヒトガタはTWに群がっていく。

 

 礼拝堂の門の前が空いた。

 

「行くわよ」

「うん」

「悪いけど、ちょっと我慢してね」

「え?」

 

 僕の身体が地面から離れる。ヴィーナちゃんの右手が僕の首根っこを掴んでいた。

 

 そのまま、ヴィーナちゃんはフォースドレスのブーストを吹かして加速する。

 

 地面スレスレを飛行しながら、礼拝堂の扉を蹴り開け、薄暗いその内部へ突入した。

 

「げふ」

 

 ヴィーナちゃんが止まり、首根っこを放された僕は地面に転がる。

 

 礼拝堂は暗かったが、光源は2つあって視界には困らなかった。

 

 1つはステンドグラスから差し込む朝日。

 

 そしてもう1つは、講壇を圧し潰す量に置かれている『黄金の球体』だ。

 何かはわからないけど、淡く光っている。

 

 そんな場所で、センリちゃんとカムイは〝互いに武器を打ち合って〟いた。

 

怒罹琉(ドリル)一巻流……【拳掘(けんくつ)】……」

「人参怪獣キャロン(ビームサーベル)ッ!」

 

 無感情なカムイの声と、焦ったようなセンリちゃんの声。

 

「ほう、ここまで4人も来れたのか。やはり出来損ないではこの程度が限界か……」

 

 もう1人、礼拝堂の1番奥。ステンドグラスを背負いながら微笑む男がいる。

 それは、無重力で飛ばされて最初に見た豪華な服の男だ。

 

「あんた一体何者よ……? っていうかボスもセンリも何やってんのよ!?」

「ヴィーナさん、タナカさん……ダメです、あの男を見てはッ!」

「もう遅いわ。(かしず)け、愚民」

 

 男がそう言った瞬間、ヴィーナちゃんの鎖の武装が展開する。

 

 けれど、その鎖の先端は、何故か僕へ向いていた。

 

「【テンタクルチェイン】……起動……」

「え?」

「タナカさん!」

 

 センリちゃんが僕向かって飛び込んで来る。

 手を広げ、僕を抱えて転がる。

 

「センリちゃん?」

「タナカさん、大丈夫ですか? 操られていませんか?」

 

 操る……?

 

「うん、僕は平気」

「それはよかった。では少し隠れていてください。あなたは私が護ります」

 

 そう言ってセンリちゃんは立ち上がる。

 

 その背中には、血で描かれた真っ赤な一文字が刻まれていた。

 

「怪我してるよ、センリちゃん」

「はい。ですが問題はありません」

「あの2人はどうしたの?」

「おそらくは洗脳の類でしょう」

「洗脳……センリちゃんは大丈夫なの?」

「私はおそらく、この枝のお陰で助かっているようです」

 

 そう言って彼女がポシェットから出したのは、ロリロリックでユグドラから貰った枝だった。

 淡く光を放っている。

 

「タナカさんのお話では、この枝は準アーティファクトなのでしょう。これで防げるなら、おそらくあの洗脳もアーティファクトの効果である可能性が高い。しかしそれなら問題ありません。あの男からそれを奪えば終わりです」

「カムイとヴィーナちゃんと戦いながらそんなことできるの?」

「……やります。約束しましたから」

 

 センリちゃんは僕を護るように前に立って、無数の鎖とドリルの猛攻を凌いでいる。

 

 でも、多分ヴィーナちゃんもカムイも相当な手練れなのだろう。

 手数の差か間合いの差か、僕にはよくわからないけれど、センリちゃんが押されているのはわかる。

 

 

 ――僕は一体、何をやっているんだ?

 

 

 わかり切っている。僕は、ここに来てからずっと、なにもしていない。

 

『あんたって本当に団長なの? センリが可哀想になって来た』

 

 さっき、ヴィーナちゃんに言われた言葉がフラッシュバックした。

 

怒罹琉(ドリル)一巻流……【蹴掘(しゅうくつ)】……」

「【フォースドレス】……起動……」

「首長妖怪ウォーマー(レーザーランス)、四角英雄しそくん(エネルギーアックス)!」

 

 腰にぶら下げた携帯端末に付いたぬいぐるみを掴むと、ぬいぐるみの形状が武装に変化する。

 

 センリちゃんは、カムイのドリルに変形した爪先での蹴りを槍で受け止め、ヴィーナちゃんの強化された拳を斧で阻む。

 

 TWに乗らなくてもセンリちゃんってこんなに強かったんだ。

 

「【テンタクルチェイン】……」

「瞳の魔女アナちゃん(シールドジェネレーター)!」

 

 12本の鎖を、同時展開したシールドで防ぐ。

 

 でも、衝撃を完全に殺せているわけじゃない。

 

 背中の傷口から血飛沫が溢れる。

 

「まさか、防御系のアーティファクトを持つ者が2人もいるとは驚いた。しかし、どうやらこの状況をどうにかできるものではないらしいな」

 

 余裕な表情で、貴族服の男はそんなことを言っている。

 

 

 護って欲しい。僕はセンリちゃんにそう言った。

 

 でも知らなかった。

 

 護ってもらっているだけの状況が、こんなに苦しいなんて。

 

「タナカさんは何もしなくて大丈夫です。この依頼は私の我儘で共同依頼にしていただいたものですから。それに私はあなたの団員として、あなたに背中を任せてもらえる人間にならなければなりません。だから、大丈夫。私はこの試練を乗り越えます。大丈夫……」

 

 大丈夫。僕を安心させるような声色で、センリちゃんは何度もその言葉を使う。

 

 その言葉に途方もない優しさと気遣いが込められていることは、僕にもわかる。

 

 僕は怖い。自分の力がバレるのが。

 

 その結果、センリちゃんが僕から離れていくのが、また独りぼっちになるのが、どうしようもなく怖い。

 

「私も対等な関係でいたいです。だから、見守っていてください」

 

 対等……?

 

 この状況の一体どこが対等なんだ?

 

「ッチ、ックショウ!!!!!!!」

 

 ドリルが地面に大きく撃ち込まれる。

 

「フ、ザケンじゃ……ねぇぞ!」

 

 カムイの身体は震えているが、しかし洗脳に抗っているようだ。

 

「なんだと……!? 意志の力だけでアーティファクトによる洗脳を解いた!?」

「センリ! 今だ、俺を殺せ!」

「……ダメです。あなたはマグドラの団長です、こんなところで死んでいいわけがない」

「だからだろうが! 俺はマグドラの団長として、仲間を救う義務がある! 俺を殺してヴィーナを助けてくれ、頼むセンリ……」

「ですが……」

 

 団長としての義務……

 

「そうだねカムイ、その通りだ」

 

 僕はセンリちゃんの前に出る。

 

 洗脳を抑え込むカムイと、戦況の停滞を見て伺うように待つヴィーナちゃん。

 

 覚悟は決まった。

 

「タナカさん?」

「下がっていいよセンリちゃん。ごめんね、傷付けちゃって」

「ダメです……私は約束を……」

「センリちゃん、下がってって僕は言ったんだよ?」

 

 傭兵の最低限の仕事は〝勝つこと〟だ。

 

 でも、僕は〝団長〟だ。

 

 団長の仕事はカムイの言った通り、〝仲間を救う〟ことだ。

 

 自分をどれだけ犠牲にしても関係ない。

 

 センリちゃんに嫌われるとか、誰に怖がられるとか、そういうのは団長としての最低限を達成した後の話だ。

 

「私は結局、あなたの足枷にしかなれないのですね……」

「違うよセンリちゃん、僕だって君と対等になりたいんだ」

「釣り合っていないのは私の方です」

「そんなこと……いや、それじゃあこれから頑張って僕と対等になってよ。僕も頑張るから」

 

 僕は霊能力がなければなにもできない。

 

 でも、センリちゃんは自分の努力でなんだってできる。

 

 釣り合っていないのは僕の方だ。

 

「はい……」

 

 眉間に皺を寄せ、今にも泣き出しそうな表情をしながら、わなわなと震えた拳を血が滲むほどに握りしめて……

 

「タナカさん、ここはお願いします」

 

 センリちゃんはそう言って、僕の後ろに下がってくれた。

 

 僕はカムイの前に立つ。

 

「心配しなくていいよカムイ。僕が全員助けてあげる」

「悪ぃな、タナカさん……」

 

 そう言うと同時にカムイの目からハイライトが消え、僕に向かってドリルを構えた。

 

(おそ)れの凶将・()たる灯籠(とうろう)・南東の星――名を【騰蛇(とうだ)】」

 

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