宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第18話『黄金の苗床』

 

「面倒なことになった」

 

 テンメイの目の前にあるあの黄金の球体は、式神(わたしたち)に近いものだ。

 

 そして、あそこまで成長していれば、その目覚めを止めることはもう不可能だろう。

 

「仕方ないか」

 

 私は隣を揺蕩う戦艦に通信を繋ぐことにした。

 

 リビングのホログラムモニターに、マグドラの副団長の姿が映し出される。

 

「やぁ、アマネ・フェルティ。調子はどうだい?」

『やはりこの距離感であれば相手の攻撃は牽制射撃に留まっております。これなら何時間でも持ちこたえられますわ』

 

 テンメイはともかく、他の3人は帰還にもTWを使用する。

 そのためには、今私たちがいるポジションを確保しておく必要がある。

 

 アマネ・フェルティには、そのための時間稼ぎを任せていた。

 

 まぁ、私はハッキングをしたのだから、この程度の些事はやってもらわなければ釣り合いがとれないというものだろう。

 

「それはよかった。それと1つお願いがあるんだが、いいかな?」

『なんでしょうか?』

「君たちの主砲【マグナス・バレット】の準備をしておいてくれ」

『……それはマグドラの最上位機密です。何故あなたが知っているのですか?』

 

 それは、君たちの母星を海賊から救ったのがテンメイで、そのために私が情報収集を行ったからだ。

 

 けれど、彼女たちはそれをドラ・カムイの偉業だと思っている。

 

 説明するのも面倒だ。

 

「頼む、私を信用してくれ。私たちはチームアップをしているのだろう?」

 

 そう言って私は頭を下げた。

 

『……あの1撃の発動権限は団長しか持っていません。ですが、団長の指示があればいつでも放つことができるように準備しておくことは可能ですわ』

「あぁ、それで構わないよ」

『意外でした。あなたのような性格の人物……人工知能が頭を下げるなんて』

「そうかい?」

 

 私は人工知能である前に、テンメイの式神だ。

 

 主のためなら、この頭など何度でも下げよう。

 

 

 ◆

 

 

(おそ)れの凶将・()たる灯籠(とうろう)・南東の星――名を【騰蛇(とうだ)】」

 

 それは、全長4メートルほどの灰色の龍の姿をしていた。

 

 けれどそれは、霊能を持たぬものは視認できぬ霊体のみを有している。

 

 龍はゆっくりとヴィーナちゃんとカムイへ近付き、その身体を〝通過〟する。

 

 バタリ、と騰蛇に通り抜けられた2人は気絶した。

 

 騰蛇は物質世界に干渉できない。

 代わりに、騰蛇はその存在の精神に作用する。

 

「なんだ? なにをした?」

 

 彼の言葉に応えることはせず、僕は祝詞を続ける。

 

「航海の吉将・()たる大悲・北西の星――名を【天后(てんこう)】」

 

 今度は2メートル近い長身を持つ青い女神が姿を現す。

 

「儂を呼ぶとは珍しいのう、テンメイ。しかし、どうやら呑気に世間話ができる状況でもなさそうじゃ」

「センリちゃんの……その子の背中の傷を治してあげて。それと転がってる2人は精神を操作されてるみたいだから、それもお願い」

「よかろう」

 

 天后は治癒の権能を司る。

 

 それは精神的な異常に対しても有効だ。

 

 天后は気絶している2人を抱え、センリちゃんの隣まで移動して、3人に手を翳した。

 すると光が彼らを包む。

 

 少しすれば3人とも万全な状態に戻るだろう。

 

「さて、ヴィーナちゃんとカムイが目を覚ます前に終わらせようか?」

 

 僕は残った男に向き直る。

 

「貴様、一体何者だ?」

「名乗ったじゃん。タナカ・テンメイ、傭兵だよ。でも君は名乗りたくないんでしょ? じゃあいいよ、興味ないから」

「なるほど認めよう……どうやら余は貴様の力量を過少評価していたらしい。我が名アヌス、アヌス・ソルティガ・グレイラス」

 

 グレイラス?

 この銀河に3つ存在する大国。

 その1つは『グレイラス帝国』という名称を持っている。

 

 偶然……じゃないだろうね。

 

「余はグレイラス帝国の第1王子だ」

「……へぇ、まあいいや。じゃあどうしてそんな王族が、こんなところに1人でいるの?」

「愚かな民を導く、つまりは先導こそが王の務めであるからだ。そして余には、それを成し遂げるだけの力がある」

「さっきの洗脳のこと? 随分卑怯な王様だね」

「違うさ。余の求める力、それはコレだ」

 

 アヌスが指したのは、その後ろに鎮座する黄金の球体だった。

 

「そういえばそれってなんなの?」

 

 部屋に入った時から気になってはいた。

 

 あの中からはずっと声が響いている。多分、僕にしか聞こえていない声が。

 

「これは〝宇宙怪獣の卵〟だ」

 

 宇宙怪獣……何度か戦ったことはあるけど、その卵なんて初めて見た。

 

「宇宙怪獣はこの宇宙最強の個だ」

 

 たしかに、宇宙怪獣を討伐したという話はあまり聞いたことがない。

 

 そして、実際に戦った経験から言えば、宇宙怪獣はたしかに強い。

 

「生命原理不明、超常を操る個体も多く、その全貌はわかっていることの方が圧倒的に少ない。だが1つ確実に言えるのは、それが人知を超越した存在であるということ」

 

 言われてみれば、たしかにあの卵からは宇宙怪獣のような存在感を感じる。

 

「だが、この銀河に存在する宇宙怪獣は1体の例外もなく自我を喪失している。それは遥か昔の人類が、宇宙怪獣の精神を暴走させる振動を銀河全域に発したせいだ。逆に言えば、その前までは宇宙怪獣の中にも知性を持つ者や人間に対して友好な存在もいた」

 

 僕の式神はその大半が元は宇宙怪獣だったものだ。

 

 式神になる前の彼らは、たしかに〝自我を喪失している〟と言える状態だった。

 

 でも、それが過去の人類の影響っていうのは初耳だな。

 

「自我を喪失している宇宙怪獣には余の洗脳も効かん」

「そうじゃない宇宙怪獣には効くかもしれないってこと?」

「あぁ、新たに生まれてくる宇宙怪獣ならば、その振動の影響を受けていないはずだ。つまり、使役できる可能性がある」

 

 宇宙怪獣、それは1個体で艦隊に匹敵する怪物だ。

 だがそれすらも、弱い宇宙怪獣の話だ。

 

 今も、この銀河には軍でも勝てない宇宙怪獣の根城になっているせいで、通行できない宙域が数多く存在する。

 

 やっぱりめんどくさいな。

 

「卵の状態でありながら大量の軍艦の砲撃すら凌ぐエネルギーシールドをコロニー全体に展開できるような存在だ。生まれ落ちるものの能力は並み大抵のアーティファクトを越えるだろう」

「そんな力を使ってなにをするつもり?」

「決まっているだろう? 世界征服だ」

「ははっ」

 

 ミロクみたいなことを言い出したよこの王様。

 

「何故笑う? 傭兵ならばビクティリア連邦にも行ったことはあるだろう?」

「ビクティリアの首都惑星を拠点にしていることが多いけど、それが?」

「余にしてみればあのような国家体系は狂っている」

 

 多分、アヌスは嘘を言っていない。

 

「王になる気概もない者が王を選ぶなど狂気の沙汰だ」

 

 その目からは圧倒的な自信が感じられた。

 

「民は決め事に責任を持たぬ。民が決める王とは、失敗を肩代わりさせるための偶像でしかない。だが、それは所詮気晴らしだ。失敗の責任を問うたところで国は改善せぬ。生活は豊かにはならぬ。強い国は生まれぬ。ゆえに、主権とは常に〝王〟であるべきだ」

 

 王様っていうのは、きっと大変な仕事なんだろう。

 しかも3大大国の1つってことは、その王が背負う民の数は数千億にも及ぶはず。

 

「余こそが全宇宙の王に相応しい」

 

 そんな立場、僕ならすぐに逃げ出したくなるだろうな。

 

 けれどこの王様にはそんな逃げ腰は微塵もない。それどころか今の状況にすら満足しない上昇志向がある。

 

 僕が目指す自信のある人物の最上位だ。

 

「ならばこの卵をここで発見した天運、使わぬ手はあるまいよ」

 

 でも、この王様のことを僕は好きにはなれない。

 

 僕には聞こえる。

 その卵の中から発される大量の怨嗟の声が。

 

「だから、傭兵や海賊や、自分の兵士まで生贄にしたの?」

「そんなことまでわかるのか……」

「呪われても知らないよ?」

「この卵は卵子のようなものでな、それに着床する精子(もの)が必要だった。だが人間と同じようにその確率はあまり高くない」

 

 残念そうに顔を下げた王様は、けれどすぐに顔を上げて自信の満ちた表情で続けた。

 

「故にこいつが孕むまで、余は人間という精液を注ぎ続けた。そして、3日ほど前にやっとこの卵は孕み、殻を破るその時まで成長を続けている」

 

 淡く、卵が光る。

 この部屋に入った時よりほんの少し、大きくなっている気がする。

 

「あとは、時が来るまでこの卵を護れば、超常と言われるアーティファクトすら超える最強の力が手に入る」

「出て来た怪獣を洗脳できなかったらどうするの?」

「その時は、仕方ないから宇宙に放つしかあるまいな」

「はた迷惑な王様だな」

 

 でも、やりたいことは大体わかった。

 

「タナカ・テンメイ、お前に余のことを語ってやったのは提案をするためだ」

「提案?」

「余に付け。貴様が持つアーティファクト、洗脳を妨害し、他者の意識を奪い、治癒すら可能とするそれを余に献上するのであれば、其方に無窮の幸福を約束しよう」

 

 こんな風に僕を懐柔しようとした海賊は多くいた。

 

 でも、それは所詮海賊の言葉で、海賊の考える愉悦と僕の願う幸福は違っていて、だから僕はその提案に頷くことはなかった。

 

 だけど、アヌスはきっと本当に王様で、アヌスの言う幸福は僕の願うものすら叶えてくれるのだろう。

 

 だけど……そういうことじゃない。

 

「悪いね」

 

 多くの人から敬われ、にも関わらずそんな相手を簡単に犠牲にする。

 

 なんて贅沢者なんだろう。自分に好意を向けてくれる相手を殺すなんて、僕には理解できない。

 

 それになにより……

 

「お前はセンリちゃんを傷つけた。だから僕は君が嫌いだ」

「そうか、ならばアーティファクトは貴様の死骸から回収するとしよう」

 

 アヌスの言葉に応じるように、卵の中から白いヒトガタが出て来る。

 

「この白い兵士は着床できずに吐き出された出来損ないだ」

 

 もしかして、すでに卵を操れているのかな?

 

 だとしたら、結構危ない状況かもしれない。

 

 それに、外にいた雑魚に比べると形状が少し違う。

 

「だが出来損ないにも精度というものがあってな。これは出来損ないの中では比較的優秀なモノたちよ」

 

 卵から表れた白いヒトガタは3体。

 

 1体目は3メートル近い巨漢のヒトガタ。両腕がタワーシールドの半分みたいな形をしている。

 

 2体目は両手両足が細い。普通のより大きな頭に空いた穴が5つ、光を漏らしている。

 

 3体目は法衣のようなものを纏い、杖を持っている……というより、腕から杖が生えている。

 

「王様、一応聞くけど降参する気はある?」

「この状況で、その必要があると思うか?」

「ありがとう、僕も力を見せちゃったしその方が都合がいい」

 

 例え相手が国だとしても、傭兵(ぼく)にとってはどうでもいいことだ。

 

 傭兵は、勝ち続ける限り自由だから。

 

「【朱雀】」

 

 顔の前に手を差し出すと、その手の平の上に炎で形作られた鳥が現れる。

 

 そこに息を吹きかけてやれば、朱雀は敵へ向かって飛んでいく。

 

 デカいヤツが前に出て、両手のシールドでそれを受けた。

 

 火花を散らした朱雀が、そいつに触れた瞬間――ドカン、と大きな爆発を起こす。

 

「おぉ、中々硬いね。RPG風に言えば君は【防御役(タンク)】ってところかな?」

 

 煙が晴れるが、デカいヤツは生きてた。

 

 まぁ、両腕の盾は壊れちゃったみたいだけど。

 

「そして、法衣の君は【回復役(ヒーラー)】ってところか……」

 

 杖の先から防御役(タンク)に向けて白いドロドロが出てきて、それが壊れた身体を修復していく。

 

「で、君が【攻撃役(アタッカー)】だね」

 

 光線が5本、僕へ向かって飛んでくる。

 

 それは、僕が身体に纏った【六合】の障壁で防がれた。

 

 こいつ足が速いな。

 

 しかも遠距離攻撃を持ってる。

 

「朱雀」

 

 もう1度、火の鳥を召喚する。

 

 目の前の空間に指で円を描くと、そこに次々と火の鳥が現れる。

 

「今度は10羽だ」

 

 召喚された朱雀が一斉に飛び出していく。

 

 室内を縦横無尽に飛翔して、3体の敵に数羽ずつ飛び込む。

 

「全部防いでみなよ」

 

 防御役(タンク)の耐久力じゃ朱雀2羽が限界。

 

 回復されながら食らったとしても、さっきの再生速度なら3羽で殺せる。

 

 それに、残りの7羽は回復役(ヒーラー)攻撃役(アタッカー)を狙ってる。

 

 センリちゃんたちに被害がでないように気を付けながら、礼拝堂の中で爆発が連続する。

 

 しかし建物が傷つくことはない。外のヒトガタが入ってこないように、六合を礼拝堂の内側全域に展開しているからだ。

 

「はい、終わり」

 

 僕が手を叩いたその瞬間――

 

「――キュイン」

 

 僕の顔の目の前に攻撃役(アタッカー)がいた。

 

 あれを避けたのか、思ったよりも速度があったな。

 

 発射されたのはさっきの5本のビームじゃない。

 

 大口を空けて放たれたのは1本の太い光線。

 

「タナカさん!」

 

 まぁ……問題はない。

 

「安心して、センリちゃん」

 

 僕の扱う12種の式神には名を呼ぶだけの『通常顕現』と、詠唱を必要とする『完全顕現』の他に、〝常在顕現〟という状態がある。

 

 それは、式神を呼び出していない状態でも常に僕に発動している効果だ。

 

 六合の常在効果は、僕へ命中した物理攻撃の無効化。

 

 この自己結界には下限と上限があって、一定以下の接触(ほっぺをムギュっとされる)とか、一定以上の攻撃(核爆発)とか、そういうのは防げない。

 

 でも、その中間の威力の攻撃はすべて無効化できる。

 

 要するに……

 

「そもそもこいつらと僕とじゃ、戦いにはならないから」

 

 だって〝戦い〟っていうのは、互いが相手を倒す方法を持っていて初めて成立する行為だ。

 

 己の攻撃が無に帰したことに絶望でも感じたのか、僕の目の前で動きを止めた攻撃役(アタッカー)に……

 

「【勾陳(こうちん)】」

 

 呼び出した〝黄金の剣〟を突き刺す。

 

 すると、その身体は粒子のように分解されて消失した。

 

「王様、これで終わりかな?」

「……よもや、これほどとはな。貴様、一体いくつのアーティファクトを持っている?」

 

 持ってないんだけどな。

 

 まぁ、もういいや。

 

「僕もびっくりしてるよ。王様ってこの程度なんだね?」

 

 王様なら、その力は国力とも言い変えることができるだろう。

 

 アヌスが使っているアーティファクトだって、おそらくは帝国が収集したものなんだろう。

 

 なのに、こんなにアッサリ終わるなんて思ってなかった。

 

「ナメた口を利く傭兵だ。帝国の民なら極刑だぞ?」

「知らないよ。そもそも僕はカムイやヴィーナちゃんみたいに、君を気絶させて終わらせることもできたんだ。わかるかな? 僕は今、ムカついているんだよ」

 

 センリちゃんを、僕の団員を、こいつは傷つけた。

 

「極刑になるのは君の方だよ?」

「はぁ……そうか、ならば逃げるとするか」

 

 溜息混じりにそう言ったアヌスが取り出したのは1本の古めかしい〝鍵〟だった。

 

「なにそれ?」

「アーティファクトとは、現代の科学レベルでは再現不可能な機能を持つ兵器だ。例えば、現代のワープ技術では1度の使用には距離の制限があるだろう? だが、この(アーティファクト)にはその制限はない」

 

 なにもない空間にその鍵が差し込まれ、アヌスがそれを回した瞬間、その場所に黒い穴が現れる。

 

 それは、宇宙船が造り出す〝ワームホール〟と酷似していた。

 

「それと、万全ではなかろうが時間稼ぎくらいにはなるだろう」

 

 同時に、懐から取り出した筒からビームサーベルを展開したアヌスは、それを宇宙怪獣の卵に突き刺した。

 

 卵の破片が僕の足下まで飛んでくる。

 触ってみると、やっぱり霊的な気配を感じた。

 

「ヤツらを殺せ」

 

 割れた部分から卵の中を覗き、アヌスはそう命じる。

 

「アヌスを殺せ、びゃっ――」

「遅いな。もっと早く貴様は本気を出すべきだった」

 

 白虎を召喚するより早く、アヌスはワームホールの中へ消えていった。

 

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