「センリちゃん、傷は大丈夫?」
「はい、完全に治療されています。こんなことまでできるのですね。カムイさんとヴィーナさんも状態異常は回復させたと、てんこう? さんが」
「わかった」
僕は1度、召喚した式神すべてを送還する。
「
そして、六合を卵を囲うように召喚し直した。
「センリちゃん、TWを呼べる? 少し狭いかもだけど、ヴィーナちゃんとカムイを……」
「それには及ばねぇよ。ヴィーナは俺が連れて行く」
「カムイ、目が覚めたんだね」
「あぁ、いつまでも寝てらんねぇだろ」
「あたしも起きたわ。状況はまったくわからないけど」
あの孵化は六合の結界でも止めきれない。
10分もしないうちに孵り、アヌスの命令が効いていようがいなかろうが、コロニーを破壊するだろう。
そのあとは
「説明してる暇はない、脱出するよ」
「アーティファクトはどうするのよ?」
「アーティファクトを持ってたヤツには逃げられた。代わりにあったのはあの宇宙怪獣の卵だけだよ」
「宇宙怪獣の卵……?」
「そう、だから急いでみんな」
僕の焦りが伝わったのか、センリちゃんとカムイがデバイスを操作してTWを呼んでくれた。
すぐにやってきたTWに僕らは乗り込む、そのまま砲撃でコロニーの地面を貫き、僕らは最短ルートで船に戻る。
「タナカさん、私たちは
「なんでそんなことを聞くの?」
「軍人とは、なった時点で死を覚悟するものです。ですが、コロニーを包囲する彼らは命令に従っているだけで罪はありません」
「……そうだね。大丈夫だよ、あれは僕が倒すから」
それでこそセンリちゃんだと思う。
そして、団員がそれを望むなら、それを叶えるが
「宇宙怪獣を単独で倒せるのですか?」
「もう何体も倒してる」
僕は前に座っているから、TWを操縦するセンリちゃんの顔は見えない。
「申し訳ありません……お願いします……」
だけど、その声はすごく辛そうだった。
「まかせて」
だから僕は安心させるようにセンリちゃんにそう言ったけれど、センリちゃんからの返事はなかった。
コックピットでの会話はそれで終わり、僕らはミロクの待つ船まで戻って来た。
「ただいまミロク」
「ただいま戻りました」
「おかえりテンメイ、センリ・ゴールドバーグ」
「ミロク、状況は把握してるよね?」
「あぁ」
式神同士は送還された場所で情報を共有できる。
「それじゃあミロク、僕はもう1回行くから」
「待つんだテンメイ」
宇宙怪獣の討伐に向かおうとする僕をミロクが止める。
「なにミロク、六合の結界はもう破られてるから時間はあんまりないよ?」
「そうじゃない。ここには3大国の軍隊がいる。それらすべてに君の力を見せつけるつもりかい?」
そりゃ本意じゃない。
ここでの記録がどんな風に周りに伝わるかわかったものじゃない。
今まで以上に、僕は人と関われなくなるかもしれない。
けど、僕は団長として、あれを放置できない。
「……そうするしかないじゃん」
「申し訳ありません、タナカさん……」
「センリちゃんのせいじゃないよ……あの王様に宇宙怪獣を使役させたくないって、それだけだよ。だから気にしないで」
「……」
我ながら苦しい言い訳だ。
あの宇宙怪獣がアヌスの命令に従うという確証があるわけじゃないし、もしそうなるとしても僕がこれだけ多くの人間に自分の力をバラす理由には足りない。
それをわかっていても、センリちゃんはこの場にいる他の軍人を殺したくないのだろう。
「申し訳ありません」
だから、彼女は何度も謝罪する。
「つまり、テンメイはできることなら他の誰かに宇宙怪獣を討伐して欲しいということだね?」
「そりゃできるならできるならそうだけど……軍艦が何隻あったって、あのシールドを貫通できる1発を撃てなきゃ意味ないでしょ?」
アヌスの話では、コロニーを覆っているシールドは宇宙怪獣の卵が造り出している防衛機能だ。
けど、あれは六合の結界に近い性能で、一定以下のエネルギーを完全に無効化する。
なら軍艦が何隻集まっても無意味ってことだ。
きっと僕の式神にしかあれは殺せない。
「それがあるんだよ。あのシールドを破る方法がね」
「え?」
「話は通しているから、そろそろ通信が来るはずだよ」
ミロクがそう言った瞬間、リビングにホログラム映像が投影された。
『タナカさん! あの怪獣、俺たちが貰ってもいいか!?』
そこに映っていたのはカムイ、ヴィーナちゃん、アマネちゃんの3人だった。
「できるの?」
『あぁ、俺と俺の仲間の力があれば、できる』
はぁ……と、溜息が漏れた。
今日という日は、傭兵を始めて1番疲れた日かもしれない。
僕以外の仲間。能力を隠すという選択。センリちゃんに力を明かす決断。
アーティファクトとか、帝国の王様とか、宇宙怪獣とか、その程度の脅威は今まで何度も対処してきた。
でも、味方という存在にどう接することが正解なのか、僕にはわからなかった。
それを考えることは始めてのことで……本当に、疲れた。
「カムイ」
『なんだ?』
「お願いしてもいいかな?」
僕がそう言うと、カムイはリーゼントをドリルに変形させながらサムズアップする。
『まかせてくれ、タナカさん』
◆
Sランク傭兵団【マグドラ】が拠点とする惑星【マグナス】。
俺の故郷は元々、〝万隻級宇宙海賊アーレイゼ〟が統治していた海賊と奴隷の星だった。
「団長、マグナス・バレットの用意できております」
「あたし見るの初めてだから楽しみだわ」
俺は旗艦の団長室で執務椅子に座り、後ろに控えたアマネとヴィーナの声に背中を押されるように、机の上に置かれた黒電話の受話器を取る。
それはマグドラ団長だけが使える特別な通信回線。
それを手に取ることで、マグドラの全団員の端末のインストールされた俺の通信を聞くことだけができるアプリケーションが自動的に起動する。
「俺は1人じゃ何にもできねぇ」
この声は、150万人のマグドラ全団員だけではなく、マグナスに住むすべての人間3000万人に届いている。
「俺はお前らがいねぇと何にもできねぇ」
マグナスに住む人間の8割は元奴隷だ。
アーレイゼによって色々な星から拉致されてきた者たち。
そして、その奴隷の仕事はマグナスという〝超兵器〟の管理だった。
幼少より奴隷として働かされてきた俺たちの技術力は、たとえ世界1の企業に勤めるヤツらにも劣らない。
俺はそう、心の底から信じてる。
「だから頼む、俺に力を貸してくれ」
永久機関【アブソリュート・クロック】のエネルギーを増幅、チャージして放たれる最強の1撃。
それを放つには、俺の意志と、マグドラの所属傭兵とそれを支えるマグナスに住む人口の半分以上の承諾が必要だ。
「敵は宇宙怪獣。あれを倒せなきゃ多くの人間が犠牲になる」
俺の目の前に表示されたホログラムディスプレイには、黒い粘液のようなものが中から蠢き出て来ているスペースコロニー【アクルシア】の姿が映っていた。
「それに俺はコロニーの調査依頼でチームアップしてるタナカさんとセンリって傭兵に命を救われた。だからこの1発で恩返しをしてやりてぇ」
それ以外にも、タナカさんにはマグナスのすべての民が救われた。
それはあの人と約束があるから言うわけにはいかねぇが、その大恩を返すためにも、あの宇宙怪獣は俺たちが仕留めるべきだ。
「俺は知ってる。お前らは、俺の最高の仲間たちは、この宇宙最強だってことを。なぁ、宇宙怪獣ごときブッ潰してやろうぜ?」
この1撃は元々奴隷による『怨嗟』の1撃だった。
だが、アーレイゼが倒されてからは、この1撃は俺たちの〝誇り〟になった。
「承認率98%――【マグナス・バレット】発射できます」
98%……そうか……
「……俺はまだまだだな。賛成してくれなかったヤツら、ワリィな。だが約束するぜ、俺は必ずお前らが安心してまかせられる団長になるから」
この1撃を放つ度に、俺は自戒を得ることができる。
俺はまだまだだ。
だからこそ、それを胸刻むためにも、俺はその1撃を放つ。
俺は受話器を置いた。
「ワームホール展開」
目の前に展開されたホログラムディスプレイに映るのは、この船の目の前に展開された巨大なワームホール。
それに、黒い粘液のようなものが中から溢れ出てきているコロニーの姿だった。
「ワームホールの展開、完了いたしました」
永久機関としての性質を持つアーティファクト【アブソリュート・クロック】。
そこから抽出したエネルギーを使うマグドラ最終兵器【マグナス・バレット】。
「照準」
それは端的に言ってしまえば、惑星マグナスのエネルギーを極大の砲台に乗せて放つ宇宙最高威力の〝レーザー光線〟だ。
「照準、完了いたしました」
だが、その光線自体には【アブソリュート・クロック】が1月で生産する電力の20%ほどしか使用されない。
残りはマグドラの戦艦を起点とした、『連続するワームホール』を形成することに使用される。
「充填率100%」
ワームホールを9つ中継することで、惑星の砲撃は、遥か彼方の宇宙怪獣すら穿つ。
「いくぜテメェら、対惑星超距離狙撃砲【マグナス・バレット】――
それは元々、奴隷たちによる怨嗟の1撃だった。
だが今や、そこには劣等感も疎外感も絶望も理不尽も、呪いなんて籠っていない。
その
俺たちの創り出した一条は、スペースコロニーごと宇宙怪獣を木端微塵に消し飛ばした。