宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第21話『ご飯と遊び』

 

「2人共……大変だ、食材がない」

 

 スペースコロニー『アクルシア』からの帰り道。

 

 唐突に、ミロクがそんなことを言い出した。

 

「え?」

「食材……ですか?」

「あぁ、ロリロリックの依頼から帰って半日もせずにアクルシアに出発しただろう? だから消耗品を補給する時間が取れなかったんだよ」

「え、じゃあ僕ら餓えて死ぬってこと!?」

 

 22歳。こんなところで人生を終えることになるなんて……

 

「いや、それは心配しなくていい。この船には家庭菜園用のスペースがあるし、そもそもビクトリアに帰るまで今日を含めて3日、水はあるから死ぬことはない」

「なんだ、じゃあ平気だね」

「だが……マズいんだ……」

「え? なにがマズいのさ?」

「だから不味いんだよ。今日と明日の3食はサラダだけだからね」

 

 そ、そんな……!

 

「私は特に問題は……」

「無理だ。僕には堪えられない……」

「テンメイは野菜全般が嫌いなんだよ」

「……なるほど、それは困りましたね」

 

 お肉、お魚、糖分。

 僕はそれがないと生きていけない。

 

「ミロク、なんとかならないの!?」

「まぁ、食材がない以上、私の調理の腕でもどうしようもない。だが……」

「だが?」

「ないなら〝現地調達〟すれば問題ない」

 

 現地調達……?

 

 

 ◆

 

 

 ここは惑星『ハイプリン』。

 

 アクルシアとビクトリアの中間地点にあるこの星は、テラフォーミング中に装置が故障したことを切っ掛けに植物が想定外の成長を遂げたことで、人が住めなくなった。

 

 陸地の9割以上を密林が占め、通常より強靭な肉体と攻撃的な個性を持つ原生生物が多く生息する。

 

 とりわけ〝植物〟の進化がかなり過剰なことになっていて、鋼鉄並みの硬度を持つ葉を牙のように使い襲いかかって来る肉食植物が頂点捕食者として君臨しているらしい。

 

「僕虫とか無理系男子なんだけど」

「宇宙服を着ているのでアリジゴクやヒルのような生物に殺傷される心配はないかと」

 

 宇宙服すげぇー。

 多分この星呼吸できるけど、虫が嫌だからヘルメットも付けとこ。

 

「センリちゃんは女の子なのに虫とか平気なの?」

「……昔は苦手だったような気がします」

 

 昔か……

 

 センリちゃんは海賊に故郷を奪われた孤児だ。

 

 それに、名前が先で苗字が後に付くのは基本的に帝国人の命名方法だ。

 

「センリちゃんって、どうやってビクティリア連邦の軍人になったの?」

「故郷の星が海賊に襲われた時、宇宙船を飛ばす余裕はなかったんです。でも、カプセルロケットを打ち上げることはできて、1人乗りだったそれには避難所で1番幼かった私が詰め込まれました」

 

 センリちゃんは、肉食植物をビームサーベルで断ち斬りながら淡々とした口調で語る。

 

「その後は宇宙空間を彷徨って、備え付けの水も食料もなくなって3日が過ぎたあたりで巡回中だったビクティリア連邦の軍艦に拾われたんです」

 

 水なしで生きられる限界日数は3日くらいだって、映画か何かで見たような気がする。

 

「そうなんだ」

 

 共感する権利も、同情する権利も僕にはない気がして、それしか言葉は出なかった。

 

 ずっと考えている。

 団長という在り方とは何か。

 僕には何ができるのか。

 

 カムイは団長として団員を応援すると言っていた。

 

 だけど、センリちゃんは僕なんていなくても1人でなんでも乗り越えていく人間だ。

 

「うん、決めた」

「なにをですか?」

「僕は、この傭兵団を楽しい場所にしようと思う」

 

 宇宙には沢山の危険がある。

 

 海賊、怪獣、アーティファクト、いろんな生態系の星、未知の物理法則、見たこともない科学技術、他にもきっと沢山ある。

 

「この先、いろんな場所に行くことになって、いろんな大変な想いをすると思うんだ」

「そうですね」

「でも僕は、少なくとも船の中くらいは、楽しい場所にしたい」

 

 僕もセンリちゃんも、過去は変えられない。

 

 だったら、これからを大切にすることこそが僕にできることだと思った。

 

「なるほど、ではお肉を確保しないといけませんね」

 

 センリちゃんは少しだけ口角を上げながらそう言った。

 

「そうだね、頑張ろー」

「一先ずこの辺りの危険な植物は一掃しておきます。【四角英雄しそくん】」

 

 携帯端末のストラップとして下げられたぬいぐるみの1つが、ぐにゃりと握り潰される。

 

 ほんとにそのキャラ好きなんだよね?

 

 潰されたぬいぐるみが形状を一新し、『長斧』に姿を変える。

 

 刃の部分はビームサーベルと同じように、輝きを発すエネルギーで形造られていた。

 

 斧が振り回され、草木が薙ぎ倒されていく。

 

 さらにセンリちゃんはぬいぐるみを何度も潰し、状況に応じて新たな武装を呼び出し、敵を切り刻み、撃ち抜き、叩き潰す。

 

 コロニーでも見たけど、やっぱりTWに乗ってなくてもめちゃくちゃ強い。

 

 ていうか僕やることなくない?

 

「タナカさん、鹿っぽい動物がいたので確保しておきました」

「あ、どうもです。荷物持ちは僕にまかせてください、はい」

 

 引きずられて来た鹿っぽい何かの死体を受け取り、

 

「【天空】」

 

 と呟くと同時に出現した黒い穴へ放り込む。

 

「……あの、今何をしたのですか?」

「【天空】は異空間とこの世界を繋ぐ穴のような式神なんだ。この中に物を補完しておけば荷物があっても手が空くからラクチンなんだよね」

「……」

 

 あれ、なんかドン引きしてる顔してる。

 

「……あ、でも血抜きがまだでした」

「大丈夫だよ。【天空】の中のものは時間が止まってるんだ」

 

 ミロクは〝状態の保管〟とか言ってたけど、詳しい原理は知らない。

 

 ていうか、霊能力に原理なんてものがあるのかも謎だ。

 

「ぴっ、時間……そうですか……」

 

 そんな話をしていると、近くの草むらがガサガサと揺れた。

 

「また肉食植物?」

「いえ、気配が違います。出てきてください。こちらは傭兵です」

 

 気配……漫画とかでしか聞いたことない単語だ……

 

「まさか俺たち以外に人がいるなんて……」

「ビックリです……」

 

 センリちゃんの言葉に従って出て来たのは茶髪の男と、ピンク色のウェーブに頭頂部は地毛であろう茶色の髪がの女の子だ。

 

 どっちもあんまり歳は遠くなさそう。

 

 そして両方とも宇宙服がかなりボロボロだ。

 

「せ……先住民……! 聞いたことあるよ、未開の惑星には宇宙船事故とかで出られなくなった人たちの子孫が繁栄していて、部族的なものを築いていることもあるって……」

「違うぞ」

「違います」

「宇宙服を着ている時点でそれはないかと」

「じょ、冗談だよ~」

 

 なんか汗掻いてきたな……

 

「だけど半分は正解だ」

「半分?」

「俺たち2人は傭兵で、この星に環境調査の依頼を受けてやってきたんだ。だが着陸に使った子機があの植物どもに壊されて帰れなくなった」

「ここでの自給自足を始めてもう1カ月も経ちます」

 

 そう言って2人は困り顔を見せる。

 

 なるほど、こんな惑星に惑星間通信装置なんてあるわけもないし、助けも呼べずに困っていたわけか。

 

「頼む。もしあんたたちに帰る手段があるなら俺たちも連れて行ってくれ」

 

 そう言って彼が頭を下げるのを見て、もう1人の女の子も頭を下げた。

 

 僕は伺うようにセンリちゃんに視線を送るが、当然とばかりに彼女は頷く。

 

 まぁ、そうだよね。

 

「勿論、タダとは言わない。俺たちの貯金1000万くらはあるはずだ。それでどうだろう?」

「え、お兄ちゃん、それじゃあ帰ってからどうやって生活するの? きっと乗って来た宇宙船だって墜落してるんだよ?」

 

 兄弟なんだ。

 

「というかお金なんて要らないよ」

「だが……」

「じゃあさ、今夜ちょっと付き合ってよ?」

 

 僕がそう言うと、センリちゃんを含めて3人の時が止まったように表情が固まった。

 

 なんでだろう……?

 

「……わかりました。それで助けていただけるのなら」

「ちょっと待ってくれ、それだけは勘弁してくれ。俺だったらなんでもするから!」

「え、じゃあ君も付き合ってよ」

「お、俺も!?」

「次いでにセンリちゃんも」

「わ、私もですか!?」

「パーティーだよパーティー」

「「「パーティー!?」」」

 

 え、みんななんでそんなにテンション高いの?

 あ、そっか。

 

「ふっふっふ、やっぱりみんなやりたかったんだね。『ウィッチナイト・ペンタクティクス』……先月発売したばかりの大人気ゲームの続編だからね、気持ちはわかるよ」

 

 5人までパーティーを組めるVRRPGなんだけど、1人じゃ難易度が高すぎてクリアできないかったんだよな。

 

この2人と僕とセンリちゃん、ミロクも合わせれば丁度5人だ。

 

「VR……?」

「RPG……?」

「ゲーム……ですか?」

「え、そうだよ。なんだと思ってたの?」

 

 ん?

 

「……ぅ、わぁい。それやりたかったんですぅ」

 

 と言った妹ちゃんは、顔がすっごく真っ赤だった。

 

「お、俺もやるよ。ゲーム結構好きだし」

「是非、はい、ごめんなさい。やりたいです」

 

 後の2人もなんでか顔が真っ赤だ。宇宙服の体温管理機能がバグってるのかな?

 

「あと僕らは食料調達でこの星に寄ったから、この星の美味しい食材とか教えて欲しいな。人数が増えた分、もうちょっと獲っていかないと」

「あ、あぁ、それなら少しはわかるぞ」

「すみません、私たちの分まで……」

「全然気にしなくていいよ。ていうか、自己紹介もまだだったね。僕はタナカ・テンメイ、2人共よろしくね」

「センリ・ゴールドバーグと申します」

「俺はマツカ・ウル、よろしくな」

「私はマツカ・ルカです。よろしくお願いします」

 

 

 ◆

 

 

 この星で自給自足していた彼らの協力で、食材調達は僕の霊能力がなくとも順調に進んだ。

 

 船に戻るとすぐにゲーム大会が始まった。

 

「タナカさん、CCチェインだ!」

「あ、スキル間違えた!」

「タナカさん、後ろから狙われています。避けてください」

「え、嘘、ぎゃー!」

「タナカさん大丈夫ですよ~私が回復しますからね~」

「ありがとう……」

「テンメイは回復アイテムいっぱい買っておいた方がいいんじゃないかい?」

「そうする……」

 

 なんか知らないけど、僕が1番下手だった。

 

 ストーリーの1章が終わったところでみんなで夕食を摂った。

 

 ミロクがゲームとマルチタスクで調理してくれていた、鹿っぽい動物のお肉はすごく美味しかった。

 

「いつも思いますが、ミロクさんの料理は本当に美味しいです」

「環境的に草食動物の運動量が激しくなっているから肉の締まりがいいのだろうね。高級食材になってもいいくらいの素材だ」

「でも、私たちが自給自足してた時とは全然違いますぅ」

「あぁ、やっぱり料理人の腕次第なんだろうな。人工知能すげぇ……」

 

 これで夜通しゲーム攻略できる、なんてことを考えていると、僕だけに聞こえるくらいの小声でセンリちゃんが話しかけてくる。

 

「霊能力がバレるかもしれないのに他人を船に乗せてしまってよかったのですか? 私に気を遣ってはいませんか?」

「そんなことないよ。僕が1人だったとしても彼らは助けたと思う。だけどそのためには霊能力を使うしかなかっただろうね」

 

 あの肉食植物を僕が倒すには霊能力を使うしかない。

 

 それに、僕はそもそも隠し事が上手くない。

 

「センリちゃんのお陰なんだよ。センリちゃんがいてくれたから、僕はこうしてみんなと楽しく談笑できるんだ。センリちゃんこそ、無理してゲームに付き合ってくれてるわけじゃない?」

 

 楽しい冒険。

 それが僕の目指す傭兵団の形だ。

 

 でも僕1人じゃなくて、みんなで楽しまないと僕も楽しめない。

 

「いえ、楽しいです。ゲームをするのは初めてですが思ったよりずっと面白いです」

 

 初めてでアレなの……これが才能か……

 

 やっぱりVRだと実際の反射神経や運動神経がモロに出るんだろうな。

 

「俺も楽しいぞ。今も上位職何にするか考えてたところだし」

「私も、このゆるい空気のお陰でここ1カ月の不安がなくなっていく感じがします」

 

 最近……というかセンリちゃんと出会ってから、初めてのことが沢山起こる。

 

 こんなに大人数で一緒にゲームをするのも初めてだし……

 

 何よりも、僕の力を知っていても傍にいてくれる人がいる。

 

 それだけで、僕は幸せだ。

 

 

「それじゃあみんなで続きをやろっか」

 

 

 それから僕らはみんなで冒険をした。

 

 ダンジョンを攻略して、悪魔や天使と邂逅して、村人に頼まれたおつかいとかもして、最終的に世界を救った。

 

 ビクティリアに着く頃には、僕らはかなり仲良くなっていた。

 

「タナカさん、本当にありがとな!」

「皆さんがいなければきっと私たちは死んでいました。本当にありがとうございます」

「気にしなくていいよ。僕も君たちと一緒に冒険できて楽しかった。また今度、別のゲームもしようね」

「まぁ、ボスはほとんどセンリさんが1人でやっちまったけどな」

「そうだね。センリ・ゴールドバーグが喋ってる途中のボスを切り刻んだ時は、私も笑いを堪えるのに必死だったよ」

「……すみません。皆さんを護らないとと思ってしまって」

「いえいえ、すごかったですよ。プロゲーマーとかになれるんじゃないですか?」

 

 少し名残惜しかったけれど、そんな会話をして、ウルとルカと連絡先も交換して、彼らは船から降りていった。

 

「そんじゃあまたな」

「お世話になりました」

「うん、またね」

「ご武運を」

「じゃあね」

 

 宇宙で助けた人の背を見送ることは、今まで何度かあった。

 

 けれど、ここまで気さくな関係のまま見送れたのは初めてのような気がする。

 

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