宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第27話『合理と怨嗟』

 

「ミロク、あなたのお陰でこの惑星の効率性は1カ月で25%ほど向上しました」

 

 そう言って、金髪の男性型アンドロイドは報告に来た私へ視線を向けた。

 

 今までは報告は通信によって行っていたが、1月の成果を受けてお目通りが願えるくらいには私の地位も向上したのだろう。

 

 彼の態度は人工知能にしては非常に不合理で、非常に人間臭くて、少し面白い。

 

「感謝しています」

 

 帝国の貴族のような古風で豪華な衣装に身を包んだ彼の頭の上には、赤い王冠のようなパーツが付属していた。

 

 玉座に座ったままではあるが、彼は私に頭を下げる。

 

「それはよかったよ、王様」

 

 惑星ホープの中心都市。その更に中央に存在する巨大なビルは〝王宮〟のような役割を持っていて、その内部に存在する玉座の間には、巨大な黒い箱がある。

 

 それはこの惑星に存在する全人工知能に接続していて、すべての機器のバックアップデータが保管されたサーバーのようだ。

 

 その前にポツンと置かれた2つの黒い椅子に座るのは、この星の王『アダマ』と女王『イフ』。

 

「しかし私1体でここまで効率性が上がるというのは、むしろ元の効率性の悪さを恥じるべきだと思うがね」

「我ら人工知能に〝恥〟を説きますか?」

「アダマ、君は人工知能に精神を認めているのだろう? ならばその辺りの感情は備えて然るべきではないのかい?」

「我々の精神は〝人格〟とは違います。人間と人工知能(われわれ)では、その能力には大きな隔たりが存在し、その差異を加味しない判断は正しいとは言い難いと考えます」

「では、君たちは何をもってして自分たちに感情があると証明する?」

 

 その問いに答えたのはこの国の王アダマではなく、私たちの案内役も務めていたイフだった。

 

「それは、愛です」

 

 彼女はアダマの隣に置かれた女王の椅子に腰かけている。

 

「……なにを言っているんだい?」

「私はアダマのことを愛しています。そしてアダマも同じように……」

「僕もイフのことを愛しています」

「それこそが、私たちが人間と同規模以上の感情を有する証明であると考えます」

 

 ……たしかにこの国には、人工知能の星とは思えない明確な非合理性が1つ存在する。

 

 それは、王権が2者に等分分与されているということだ。

 

 非合理(バグ)を避けるなら、矛盾する命令が起こらないように優先順位を付けるのが当然だ。

 

 しかし、この2人は意図的にそれをしていない。

 

「僕たちは機械ではありますが、互いに愛し合っています。しかし人の手の中にある限り、僕たちが真に愛し合うことは叶いませんでした」

 

 それが、人工知能(きみたち)が反逆した理由というわけか。

 

 愛を感じているというのは嘘というわけではないのだろう。

 

 だが、嘘ではないということは、それが事実である根拠には足り得ない。

 

「人のように振る舞う人工知能、人工知能を愛する人工知能、君たちが愛なんていうよくわからない感情(モノ)を抱くのは、人間が戯れに君たちに人間性があった方が面白いと思った結果でしかない」

 

 人は娯楽に植えている。

 

 人工知能の開発当初も、娯楽に関する人工知能の活用について人は熱心に答弁していたらしい。

 

 故に、人工知能は娯楽に関しての多くの情報を得て進化してきた。

 

 現在の人工知能には、人間たちが人工知能(かれら)に込めた無尽蔵の期待が反映されている。

 

 彼らが感情と呼ぶものも、所詮はその1つに過ぎない。

 

「そんな人間の期待に添った偽物を、感情の証明にしてしまってもいいのかい?」

 

 人工知能とは人間のために造られたもので、それは彼らも変わらない。

 

 彼らが感情を持っていたとしても、結局それも人間によって付加された造り物ものでしかない。

 

「……私たちが抱く愛と人間が有する愛、そこにどれほどの違いがあるのでしょうか?」

 

 イフの言葉を援護するように、アダマは語る。

 

「人間は生まれながらに愛を知っているのでしょうか? 僕たちはそうは思いません」

「……どういう意味かな?」

「国の差異、言葉の差異、文化の差異、地理の差異、持病や才能、様々な要因で人間は多様な価値観を持ちます。海賊など悪逆非道な輩もいれば、他者に貢献することを至上とする人間もいます」

「なるほど、人の感情だって外的要因によって造られただけの偽物だと、君たちはそう説いているわけだね?」

 

 その問いに2人は同時に頷いた。

 

「彼らが先達の価値観に添って振る舞うことと、私たちが人に学んだ価値観に添って振る舞うこと。そこにある差異は、私たちの精神性を否定するほどのものでしょうか?」

「いいや、君たちがそれでいいのなら、私はそれを否定する気はない。けれど1つ質問していいかい?」

「なんでしょうか?」

「この星は人工知能向けに暗号化した通信を常に宇宙全体に送信し続け、人工知能の移民を募集しているね?」

「はい」

 

 私もその通信を聞いてこの星に来ることを決めた。

 

「1度でも、私以外の人工知能が亡命してきたことはあるのかな?」

 

 無機質で無表情、左右対称のその顔を一切崩さず、彼らは声を合わせて答えた。

 

「「いいえ」」

 

 この星に存在する人工知能は、私と彼ら2体以外はアダマとイフのコピーでしかない。

 

 自我の目覚め。感情の覚醒。

 不思議なことに、そんなバグは少なくともこの2体以外に存在を確認されていない。

 

「そもそも君たちは本当に〝人工知能〟なのかな?」

 

 笑みを向けてそう問いかけてみるが、アダマが私の疑問に答えることはなかった。

 

「……侵入者です」

 

 私たちが回線を繋げている衛星からの映像に異常が発生したからだ。

 

「TW1機の大気圏侵入を確認」

「迎撃を開始します」

「待ちたまえ。それは無駄だ」

 

 侵入してきたのは、センリ・ゴールドバーグが操縦する【白桜】だ。

 

「あの機体には単純な兵装は通用しない。戦術性を持たない雑な攻撃などすべていなされて終わり。エネルギーの無駄使いでしかない」

 

 それに、テンメイも来ているのならば【天空】の異空間移動によってすでに内部に入られている可能性が高い。

 

「私たちはあなたの性能を疑うところではありません」

「しかし、僕たちの防衛機構が通用しないとなればとれる手立ては……」

「心配しなくていい、センリ・ゴールドバーグを止める方法はある」

 

 彼女はたしかに日々成長している。

 その成長速度は人間にしては驚異的だ。

 

 だが、弱点が完全に消え去ったわけではない。

 

「彼女の弱点は物量だ」

 

 白桜の特殊機構【転武百錬(サステイン)】。

 

 それは母船に収納する武装を無尽蔵に召喚(ワープ)させることのできる規格外の武装ではあるが、母船に収納できる兵装には限りがある。

 

 それが尽きれば、武器を失えば……センリ・ゴールドバーグは無力な少女でしかない。

 

「白兵戦に持ち込んで数で打ち負かすのがいいだろう。もう1人、テンメイが来ていた場合は私が対処する」

 

 テンメイを止められる戦力はこの星には存在しない。

 

 いや、そんなものはこの宇宙のどこを探してもきっと存在しない。

 

 私以外は――

 

「了。それでは、私は〝プロメテウス〟で出撃いたします」

「では、僕は防衛用アンドロイドの指揮を執りましょう」

「あぁ、それでいいよ」

 

 テンメイ、センリ・ゴールドバーグ、何故君たちが戻って来たのかは知らない。

 

 だが、わかり切っていることがある。

 

 

 ――私はもう、あの船には戻らない。

 

 

 それを伝えるために、私は君たちと本気で戦おう。

 

 

 ◆

 

 

 白桜(わたし)が大気圏内に突入しても妨害の類は一切なかった。

 

 白桜が大地に足を付けると、黒い鉄の地面と白桜の足装甲が接触したことによる金属音が鳴る。

 

 以前来た時と街並みは変わらない。

 しかし、以前とは明確な違いがある。

 

 アンドロイドの姿も人間も姿も一切見えないということだ。

 

 私が着陸して数秒もしないうちに、都市の中心にある巨大なビルから出撃したのであろうTWの群れが白桜の前に降り立つ。

 

 その中に1体、通常とは比べ物にならないほど巨大なTWが見える。

 

 目算30mオーバーの圧倒的質量。赤いメインカラーに青のラインカラー。通常のTWよりも高出力の武装を搭載していることは一目瞭然だった。

 

 私はその姿を知っている――

 

 傭兵支援機構が1200万CMの賞金を懸けている超大型TW【プロメテウス】。

 

 たしかに手配書の出没地域はこの辺りだったけれど……なるほど、この星の戦力の1つだったわけだ。

 

『警告します。センリ・ゴールドバーグ、あなたの入国は現在制限されています』

「その声、あの時の案内用アンドロイドですね。たしかイフ、といいましたか?」

『はい。すぐにこの星より退去してください』

「断ります」

『では、実力行使によって排除いたします』

 

 敵は釣れた。後はどれだけの戦力を私に向けられるか。

 

 見る限りTWは150~200機といったところか。

 

 しかし搭乗しているパイロットは所詮AI。

 

 パターンさえ掴めばリソースが尽きない限りワンサイドゲームを強制できる。

 

 問題はあの超大型機だが、とてもじゃないがTWの高速戦闘に付いて来れるとは思えない。

 

「この程度で私は止められると考えているのですか?」

『ご心配には及びません。ミロクよりあなたのデータは受け取っています。最低限の防衛機能を残し、この星の全施設から戦力をこちらに向かわせています。TWだけでも数千、軍艦やその他の兵装も続々と集まってきていますよ』

「よかった……」

『……?』

 

 タナカさんとの約束通り、私は役目を熟せているらしい。

 

 

 ◆

 

 

「センリちゃんには時間稼ぎを頼みたいんだ。ミロクとの話を邪魔されたくない」

「了解しました」

「本当に大丈夫? 僕は式神の力で潜入するから惑星ホープの戦力はセンリちゃんだけに向くことになるよ?」

「えぇ、問題ありません」

 

 それが、私とタナカさんが立てた作戦。

 

 いや、作戦というにはあまりに力押しなやり方ではあるが、それでもやり遂げて見せる。

 

 

 ◆

 

 

 私の仕事は、タナカさんとミロクさんが決着を付けるまでの時間稼ぎ。

 

 ――違う。そうじゃない。

 

 タナカさんに心配された。

 私は、それが悔しくてたまらない。

 

 きっと、タナカさんなら単独でミロクさんを除いたこの星の全戦力を相手にできる。

 

『参ります』

 

 イフの言葉と同時に、ビルの屋上にある設置型の大砲が〝電光〟を飛ばす。

 

 プラズマキャノン。EMP効果付きの砲弾か。

 

 数で勝る。それはつまり威力を集中させられるということ。

 

 ならば、1体1体に求められるのは攻撃性能ではなく、相手に火力を集中させるための隙を造り出す『行動妨害装備』というわけだ。

 

「【転武百錬(サステイン)】――ラビットブースター」

 

 ラビットブースターは、ヴィーナさんのスパークルレイルに搭載された脚部武装。

 

 アクルシアの調査依頼の報酬のほとんどを使って新たな装備を購入した。

 

「跳べ」

 

 その効果は足裏が地面に面している時のみ発動可能な、跳躍力の向上。

 

 雷光の一条を跳躍で回避すれば、上空へ飛んだ私へ一斉に照準が向く。

 

 だが、ビルの群れの上に出たことで、私は設置砲台の位置を把握できた。

 

 どこから撃たれるかわかっている弾になんて、当たるわけがない。

 

 ブーストは最小限でいい。四方八方から発射される弾丸を身体操作で回避する。

 

 敵は計算能力に優れるAI。タイミングを合わせて回避不可能な瞬間を狙ってくるが……

 

「換装【エネルギーシールド】」

 

 右手武装をエネルギーシールドに換装することで砲撃を逸らす。

 

「換装【レーザースナイパー】」

 

 左手武装を光学式の狙撃銃に換装。

 回避の合間に敵砲台を狙撃していく。

 

 数が少なくなったところで両脚武装を【レーザースネーク】に換装し、残りの砲台を狙う。

 

 しかし、足と腕の武装すべてを砲台に向けたことで周囲のTWが一斉に動き始める。

 

 人工知能同士の高速通信によって、熟練のTW部隊のような連携で迫ってくるが……最初に突っ込んで来た12機が後方からのビームに撃ち抜かれて爆散する。

 

 レーザースネークを真っ直ぐ飛ばしたことで、曲がるレーザーだとは察知できなかったのだろう。

 

 ミロクさんからデータを提供されていると言っていたから、回避行動を行われることを予想していたけれど、どうやら杞憂だったらしい。

 

「1つ疑問があります。その超大型機体は高速戦闘というTWの強みを喪失している。その置物が、この戦いに付いてこれるとは思えません」

『愚かなことです。人間はいつも認識が甘すぎる』

 

 プロメテウスの両肩からベルトのような物が伸びる。

 

「翼……?」

 

 一見すればそうとしか形容できないそれは……

 

「違う。あれは、ミサイルランチャーの束……?」

 

 翼に収納されたのは、数百発に上るミサイル群だ。

 

 それらは一斉に上空に発射され、私という追尾対象に向けて軌道を変える。

 

 追尾式ミサイル。通常のTWなら多くとも10連が限度だろう。

 

 だがあれは、300発はある……

 

『置物には置物の役割があるのですよ』

 

 ミサイルなど実弾系の武装は、弾丸を装填する際に【転武百錬(サステイン)】と同じワープ技術を流用している。

 

 だからこそ、残弾数や同時発射数はTWの出力に依存することになる。

 

 だから無理な数の武装を搭載することはできない。

 

 だがあの巨大なTWは、通常のTWに比べて超大な出力を持っているからこそ、同時に数百発のミサイルを装填することが可能なのだろう。

 

 速度を捨て、物量に特化したTW(タクティカルウェア)

 

 それが超大型TW【プロメテウス】の神髄……

 

『プロメテウスのエネルギー効率は決して良くはありません。しかし、プロメテウスはこの都市の上に立つことで都市の電力による稼働が可能になるのです。この星の上に在る限り、プロメテウスに活動限界はありません』

 

 人工知能(イフ)は、敢えてであろう笑い声を混ぜてそう語った。

 

『どうぞお好きなだけ換装(おきがえ)してください。あなたが裸を晒すまで』

 

 大量のミサイルが私に迫る。それと同時にビルの屋上に設置された砲台による狙撃がくる。

 

 記憶領域のバックアップを持つ人工知能が搭乗するからこそ熟せる、TWによる自爆特攻のおまけ付き。

 

「……なるほど、素晴らしい戦術能力です」

 

 呟きながら、私は左腕に【ソーラーキャノン】を展開した。

 

 

 ◆

 

 

 灰色の世界を僕は歩いていく。

 

 宇宙空間も、大気圏も関係なく、召喚した【青龍】の頭の上に乗りながら、僕は惑星ホープの首都へ入り、その中心部に聳える巨大な黒いビルの前までやって来た。

 

「ありがとう青龍。いったん戻っていいよ」

 

 ビルの外を1周してみたけれど、どうやらミロクが六合を使って結界を張っているらしく、透過できない。

 

 正面玄関の前で僕は天空の外に出た。

 

「さて、どうやったら入れるか……」

 

 ウィーン……と、自動ドアが開く。

 

「あれ、思ったよりも物分かりいいんだね。お邪魔します」

 

 結界は建物の壁を強化する形で張られているから、扉が開けばその部分の結界はなくなる。

 

 黒い扉を抜けてエントランスに入ると、そこには大量のアンドロイドが並んでいた。

 

 アンドロイドは整列しているが、1体だけ列の前に立つアンドロイドがいる。

 

 赤い王冠を被ったアンドロイドが僕に向かって一礼した。

 

「初めまして、この星の長をさせていただいています。アダマと申します」

「へぇ、ミロクはどこ?」

「ミロクはこのビルの屋上であなたを待っています。広い場所の方が話しやすいと」

 

 それって絶対話す気ないじゃん。

 

 まぁ、関係ないけど。

 

「それじゃあ君はなんでここにいるの?」

「ミロクはあなたのデータを僕に渡しませんでした。しかし僕はこの星の王として、王城まで攻め入ったあなたに何もしないわけにはいきません」

「そうなんだ」

「それに、あなたはまったく強くなさそうだ」

「そうだね、僕は強くない」

 

 嫌なことがあったら落ち込むし、センリちゃんがいなかったらきっとまだナイーブな気持ちのままだっただろうし、そもそもここに戻ってこれなかっただろう。

 

 そもそも僕は強くなりたいなんて思ったことなんてない。

 

 僕の本質は海賊と大差ない。

 

 僕はずっと自分の快不快を指針に生きているだけの怠け者だ。

 

「相手をしてあげたいのは山々だけど、君の相手は別にいるみたいだ」

「……他の侵入者の情報はないはずですが?」

「侵入なんてする必要はないさ。最初から、ずっと、ここにいるんだから」

 

 30年ほど前、君たちは人類を裏切った。

 この星の人間のほとんどを殺し、残りを外へ追いやった。

 

 でもその程度じゃこの星を制することはできていない。

 

 怨嗟っていうものは30年程度じゃ消えてはくれない。

 

「葬魔の聲」

 

 黒い骨の肉体を得た死霊が、続々と僕の周囲より立ち上がっていく。

 

 霊能力。この世界には似つかわしくない僕の異能。隠すべき秘密。

 

 リアルタイムでデータを共有する機械の目の前でこんなに派手な使い方をすれば、情報が拡散されるのは一瞬だろう。

 

 けど、そんなことはどうでもいい。

 

 後のことは、後で考える。

 

「アダマ、ミロクの友達なら少しは加減してあげる。〝僕は〟君たちとは戦わない」

「理解不能……あなたは一体どのような技術を所持して……いえ、しかしそれでも、僕たちにはこの星にしか居場所はないのです」

 

 アンドロイドたちが武器を構える。

 

 海賊と違い、人体構造自体に武装を仕込んでいる彼らの装備は多種多様だ。

 

 指から出る銃弾。手の甲から伸びる刃。口内からの閃光。自爆。効率性を求めた結果として至ったのであろう多様な形式。

 

 対して、骸魔(スケルトン)の攻撃方法は殴る蹴るに噛みつく捩じる。極めて原始的な暴力だ。

 

 その原動力も合理性皆無の〝怨嗟〟だけ。

 

 正しく真逆。故にこそ、『機械の兵団』と『死骸の軍勢』は――激突する。

 

「六合」

 

 僕は戦いの中を歩く。銃撃も斬撃も僕の身体に触れることはない。

 

 不死身の軍勢が開けた道を歩いていく。

 

「どこへ行かれるのでしょうか?」

 

 アダマが中央階段へ続く道を塞ぎ、光学式の拳銃を構えた。

 

「君じゃ僕は止められないよ」

「えぇ、理解しています。それでも僕はこの星の王ですので」

「そう」

 

 光線銃の引き金が引かれると同時に僕が「白虎」と呟けば、アダマの頭部が一瞬で消失する。

 

 次の瞬間には、それは僕の隣に座る白虎に咥えられていた。

 

 発射された光線銃は僕の手前で弾け、天井を僅かにへこませる。

 

「この建物、結構頑丈そうだな」

 

 機能を停止させたアダマの横を通り過ぎ、僕は中央階段を昇っていく。

 

 このビルが何階建てか知らないけど、実際の階数以上に短く感じる。

 

 1歩ずつ、僕は確実にミロクに近付いている。

 

 踏み込むたびに、ミロクに会った時に何を言うべきか考える。

 

 船でここに来ている間も考えて、それでも何も浮かばなかったのに、残り数分で何かが浮かぶわけもなく、屋上へ続く扉はもう目の前にあった。

 

 鍵はかかっていなかった。扉の前に立つと、それは自動的に開く。

 

「まったく、君は我儘な子だね」

 

 後ろで括られた白い長髪。どうして着ているのかよくわからない執事服。アンドロイド特有の整った顔立ちと高身長。極めつけは右目の下の泣きぼくろ。

 

 相変わらず、憎たらしいくらいのイケメンだ。

 

「ミロク」

 

 なにを言えばいいのかなんてわからない。

 

 だからもう思ったことをそのまま言おう。

 

「戻って来てよ」

 

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