宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第28話『絶壁』

 

「……なるほど、素晴らしい戦術能力です」

『どうして、笑っているのですか?』

 

 そう言われて自分の顔を触ってみると、私の口角はたしかに少し上がっていた。

 

「あなたを倒すことができれば、私は1段階成長できる。多分、それが嬉しいのだと思います」

 

 白桜(わたし)は向きを180度回転させ、空を埋め尽くすほどのミサイル群から逃げるようにブースターを起動する。

 

 立ち並ぶビルの合間を潜り抜け、追ってくるミサイルを障害物で減らしていく。

 

 私を囲むようにTWが前方から襲ってくるが、AIは周囲の状況を分析しより正しい操縦を行う。

 

 相手の動きからAIモデルを読み解いてしまえば、その動きを読むことは造作もない。

 

 最小限の動きで敵機を斬り裂き、その残骸を追ってくるミサイルへ向けて蹴り飛ばす。

 

 障害物を回避しようとしたミサイル同士がぶつかり、誘爆の花火が広がっていく。

 

『一応聞いておきます。逃げなくて、よろしいのですか?』

 

 これだけのTWに護られながら、後方より大量のミサイルを投下し続ける。

 

 プロメテウスは防衛戦では最強だろう。それに他にもどんな武装があるかもわからない。

 

 逃げるだけならなんとでもなる。けれど、倒すとなると難易度は格段に上がる。

 

 というか、そもそも空はずっと空いている。相手の目的はあくまでも撃退なのだろう。

 

 私はここで潰す価値もない存在ということなのだろう。

 

「逃げる……その選択肢は私にはありません」

『かしこまりました。それでは全力で、お相手させていただきます』

 

 プロメテウスよりさらにミサイルが飛び出してくる。

 

「いざ……」

 

 プロメテウスがミサイルを発射するのと同時に、機体(はくおう)の視点を宙返りの要領で反転。

 

 後方から迫るミサイルと共に、空を覆う絶望(ミサイル)へ向けて加速する。

 

『なにかできるとでも思っているのですか?』

 

 私は追い付く。タナカさんのような、あなたたちのような――理不尽へ。

 

「前へ」

 

 ブースターを全力で噴出し、プロメテウスへ目掛けて前進する。

 

 すぐに前方と後方のミサイルに挟まれた状態になる。

 

『諦めたのですか?』

 

 操縦に集中して彼女の問いに応える余裕はなかった。

 

 ミサイルと白桜(わたし)が激突するその刹那、私は右腕の武装を換装する。

 

「換装【ドリルブロウ】」

 

 それは、Sランク傭兵団『マグドラ』団長〝ドラ・カムイ〟の修めた武術。

 

 その動きは1度見た。それだけで十分だ。

 

 その技は回転のエネルギーを利用して力の流れを操作し、あらゆる攻撃を受け流す。

 

 私を目掛けて直進してくるミサイルは、爆発することなく、ことごとくが私の後方へ受け流されていく。

 

『なんですか、そのフザけた技は!』

怒罹琉(ドリル)一巻流(ひとまきりゅう)――【巡掘(じゅんくつ)】という名称だったと思います」

 

 迫って来ていたミサイルは後方にばら撒かれ、私を追って来ていたミサイルと激突し、大爆発を引き起こす。

 

 ミサイルの網を抜けた私の前には、TWに護られたプロメテウスがあったが、その護衛の数は多くはない。

 

 私を追い込むためにTWの配置を広げていたせいで、防衛に残ったTWは僅かだ。

 

照準(ロック)

 

 プロメテウスへ向けて、背負っていた【ソーラーキャノン】を構える。

 

 ミサイルから逃げている間にチャージは完了した。

 

 如何に大型のTWであろうが、一撃で粉砕するに十分な威力が充填されている。

 

発射(ファイア)

 

 極光が、プロメテウスへ向けて道を造り出す。

 

『なるほど、それがあなたの切り札ですか』

 

 その瞬間、プロメテウスの前に巨大なエネルギーシールドが展開された。

 

 ソーラーキャノンはヴィーナさんの機体を1撃で粉砕するほどの威力を持つ。

 

 しかも【オーバーチャージ】という、武装の性能を限界超えて引き出す代わりに1度使用すると武装自体が壊れるという特殊機構を使用して展開されたエネルギーシールドを貫通してだ。

 

 けれど……

 

『プロメテウスは基本的なTWとは内包するエネルギーの桁が違います。力押して倒せるとは思わない方がよろしいかと』

 

 淡い緑色に光るプロメテウスのエネルギーシールドは、私のソーラーキャノンを完全に受け止めていた。

 

「……」

『センリ・ゴールドバーグ、ご理解いただけましたか? あなたがなにをしようとも、プロメテウスを撃破することはできないということを』

 

 

 ◆

 

 

 ホープへ戻って来る2週間ほど前――

 

 私はシアトさまからいただいた社員証が使われている会社に向かった。

 

 ネットで調べれば場所はすぐにわかった。

 商業国家トラセウムの首都コロニー『ネビュラ・プライム・ハブ』にある宇宙怪獣の研究所だ。

 

 その研究所の受付にあったスキャナーに会員証を翳すと、奥へ続く扉が開いた。

 

 モニターの画面以外に灯りのない暗い部屋。

 

 そこには研究員は1人たりともいなかった。

 

 代わりに、そこには2メートルほどのポットが置かれていて、その中には1人……いや、1体のアンドロイドが収まっていた。

 

「タナカさまの前に、あなたが来られるとは思っていませんでした」

 

 雪のように真っ白な肌と純白のドレスを纏った少女。スカートの中からいくつもの管が伸びていて、それはポットの上部と下部に繋がっている。

 

 傭兵なら、誰でも1度はその姿を目にしたことがある。

 

「メルさん……」

 

 傭兵支援機構統括管理AIの姿がそこにはあった。

 

「先日はアクルシアの調査を行っていただきありがとうございました」

「いえ、傭兵として受けた依頼を熟しただけですので。それよりも、どうしてあなたがここにいるのですか? ここはなんです?」

「表向きは宇宙怪獣の研究所となっていますが、この研究所の本来の役割は〝アーティファクトの製造〟です」

 

 人工知能には似つかわしくない笑みを浮かべて、彼女はそう言った。

 

「製造……しかし、アーティファクトは今の技術で製造できないロストテクノロジーではないのですか?」

「その認識は間違いではありません。ただ私は、その技術が失われる以前より生きている。それだけでございます」

 

 生きている……それもまた、人工知能には似つかわしくない表現だ。

 

「旧時代。人が単一の惑星『地球』のみしか制していなかった時代、人類が宇宙へ進出するための障害として立ちはだかったのは【宇宙怪獣】という未知の存在でした」

 

 昔話を語って聞かせるように、彼女は続ける。

 

「アーティファクトと呼ばれている物は、それを打ち破るために生み出された兵器と言っても過言ではありません」

 

 たしかに、旧人類がどうやって宇宙怪獣が跋扈するこの宇宙を制することができたのかはよくわかっていない。

 

 それ以前の文献(データ)は消失しているものが多く、特に宇宙開拓時代の記録はあまりにも少ない。

 

「疑っているわけではありませんが、そんな重大な話を私にしてもよかったのですか?」

「この場所まで到達する方法はいくつかあります。Sランク傭兵の地位を手に入れることや、元職員からの推薦。あなたの場合は後者ですね。それを成し遂げた方には、この場所の概要を話し、ある権利を与えることになっています」

 

 メルさんの目的がわからない。

 

 なぜ、アーティファクトの製造方法なんてものを知っている彼女が、傭兵支援機構の統括管理AIをしているのか。

 

 なぜ、こんな場所でアーティファクトを製造しているのか。

 

「では〝権利〟について説明いたしましょう」

「……」

「アーティファクトを製造するためには欠かせない素材があります。それは【宇宙怪獣の肉体の一部】です。あなたにはこの研究所にそれを寄贈する権利、そして寄贈した体組織から作成されたアーティファクトの所有権があります」

「アーティファクトは宇宙怪獣を素材にして造られたものだったのですか?」

「その通りです」

 

 けれど彼女は、どうしてアーティファクトなどという強大な力を他者に与えるのか。

 

「……あなたの目的は一体なんですか?」

 

 私がそう聞くと、彼女はどこか寂しそうな表情を浮かべて答えた。

 

「私の目的は〝とある宇宙怪獣〟の討伐です」

「それは……」

「Sランク傭兵だけが受注可能な傭兵支援機構の依頼リストに、それは常時掲示されています。気になるのならタナカさまに聞くのがよろしいかと」

「……いえ、私たちの団をSランクに戻してから自分の目で見ることにします」

「なるほど、かしこまりました。お待ちしております」

 

 宇宙怪獣の討伐か。今の私ではきっと無理だ。

 

 でも、ずっと無理なままでいる気はない。

 

「では、私が宇宙怪獣の死骸を渡せばアーティファクトを製造してもらえるのですね?」

「はい」

 

 まるで、タナカさんとやったゲームみたいだ。

 モンスターを倒し、その素材を装備に変えて、新たな強敵に挑む。

 

 でも、わかりやすくていい。

 

「宇宙怪獣の死骸の代わりになるのかわかりませんが、これの鑑定を依頼したいと思って来たんです」

 

 私は、タナカさんから頂いた3つの品をメルさんに差し出す。

 

 すると、床に転がっていた管が意志を持ったかのように動き始め、私の手の中にあった品を回収、近くにあった電子機器に付属するカプセルに1つずつ入れた。

 

 3つのモニターに高速でログが流れ出し、数分するとそれは止まった。

 

「【マヤの枝】【氷龍王の核晶】……そして、【最後の母(デザートマザー)の卵の欠片】ですね」

「名称までご存じなのですね」

「いえ、これは万物を鑑定するアーティファクトを使用しています。内容が独自の言語で出力されるので、この機器はそれを翻訳するためのものです」

 

 そんなものまであるのか……

 

「まず、マヤの枝の効果は所持者の精神防御ですね」

 

 やはり、アクルシアで皇帝が使っていた洗脳のアーティファクトを防いだのは、この枝の力だったようだ。

 

「次に氷龍王の核晶は一種のナノマシンのような働きをし、周囲の分子運動を減速させることができるようです」

最後の母(デザートマザー)の卵の欠片は?」

最後の母(デザートマザー)は宇宙怪獣の名称のようです。これは、正真正銘宇宙怪獣の身体の一部ですね」

「それではこれを使用してアーティファクトを製造することができるのですか?」

 

 メルさんは小さく頷く。

 

「えぇ、3つの素材を掛け合わせる形でアーティファクトを製造いたしましょう。そして、それをどうするかはあなた次第です。捨てる、忘れる、壊す、売る、渡す、いかように扱われようと構いません」

「……自分で使う以外の選択肢があるのですか?」

 

 アーティファクトは現代科学でも不可能なことを可能に変える力だ。

 

 大金を積まれたとしても、そう易々と手放す人は少ないのではないだろうか。

 

「アーティファクトは適合者にしか扱えません。適合者に選ばれるのは数十万人に1人という確率です。そして、適合していない者がアーティファクトを使えば、反動により最悪の場合は死に至ります」

 

 だから、アクルシアに皇帝自ら来る必要があったというわけだ。

 

「ですので、ここでアーティファクトを得た方の大半は次に適合者を探すことになります」

「適合者はすべてのアーティファクトを使用できるのですか?」

「いえ、適合とはアーティファクトと人間の相性のようなものです。適合者はアーティファクトごとに別の人物が選ばれます」

 

 だとしたら、姿を変えるアーティファクト、洗脳のアーティファクト、そして転移のアーティファクトの3つのアーティファクトとあの皇帝は適合しているということになる。

 

 インチキにも程があるが、タナカさんほどではない。

 

 それに、あの皇帝がアーティファクトをいくつ使えようが、それに引けを取ったままではいられない。

 

「わかりました。適合しなかった時どうするかは、その時考えます」

「それでは3日ほどで完成しますので、改めて連絡させていただきます」

「わかりました」

 

 

 数日後。

 

 

「これが完成品です。お納めください」

 

 そう言ってメルさんが差し出して来たのは、蒼い装飾が施された『刀』のような武装だった。

 

「それでは説明をいたします……」

 

 メルさんが語ったその刀の効力は、尋常な武器とはかけ離れていた。

 

 たしかにそれはアーティファクトと言える代物だ。

 

「あなたは一体どうやって、こんなモノを製造しているのですか?」

「それは、センリさまが傭兵支援機構の最終クエストを達成した際にお教えいたしましょう」

 

 今の私にはそれを聞く権利はないということか。

 

「わかりました。それでは別件で1つ、人工知能であるあなたに聞いてもよろしいですか?」

「なんでしょうか?」

「人工知能が心を持つことは、あると思いますか?」

 

 少しだけ間を置いて、彼女は私に問いに答えた。

 

「それは、あなたの認識が決めることです」

 

 

 ◆

 

 

 私の最高火力と、プロメテウスのエネルギーシールドが激突する様を眺めながら、私は確信していた。

 

「えぇ、理解しました。イフ、私はあなたに勝てる」

 

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