宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第3話『迷神』

 

「着いたよテンメイ」

 

 僕の船のリビングの前と上は強化ガラスによって囲われ、外の様子が見えるようになっている。

 

 そこから見えるのは気候も太陽も管理されていない星だった。

 かなり辺境の惑星までやってきたらしい。

 

 

 惑星内の都市の様子を確認してみるが、文明レベルは蒸気機関全盛期か電気系が発達し始めたくらい。

 

 テラフォーミングこそ完了しているが、それ以降は殆ど手が付けられていないように見える。

 

 傭兵支援機構からの情報によれば、僕の今回の討伐対象である宇宙海賊『迷君マポリオン』は、この星の【神様】をしているらしい。

 

 遅れた文明の惑星に宇宙戦艦数百隻で乗り込み、圧倒的な科学力の差で神として君臨する。

 海賊にとっては、何も知らない人間を惑星ごと支配するというのは愉悦的な行いなのだろう。

 

「いつも通り、この辺りで待機しておいて」

 

 僕の接近に気が付いて戦艦で迎撃してくるかとも思ったが、想像してたより監視の手は緩かった。

 

「あぁ、コーヒーでも淹れて待ってるよ」

「うん、行ってくる」

 

 地表から400kmくらいの場所に船を止め、僕はその星に子機で着陸した。

 

 

 ◆

 

 

 辺境惑星【ユーズニアス】には海賊の住まう都市がある。

 

 石やレンガで造られた建物がほとんどの中世文明には似つかわしくない、数千メートルの巨大な『機械の城』を起点として形成されたそこは、海賊が造った海賊のための奉仕場。

 

 惑星中から海賊への贈り物が集まる星1番の歓楽街であり、そこでは海賊には誰も逆らうことはできない。

 

 いや、逆らおうと考える者などいないのだ。

 

 宇宙を股にかける科学力を有する海賊は、中世文明しか知らない現地の住民にとっては【神】に等しい存在なのだから。

 

 そしてここは、その神が住まう城の天守閣。

 

「ボス、侵入者です」

「人数は?」

「1人です」

「あぁ? 馬鹿かそいつ。この城はこの俺、迷君マポリオンが設計した難攻不落の罠地獄だぞ。全99部屋からなる最強迷宮を単独で突破できると思ってやがんのか?」

 

 そう言いながらマポリオンがグローブ型のデバイスが装着された手の甲を操作(タイピング)すると、ホログラムによって城内の監視映像が空中へ投影された。

 

 そこに映し出されたのは、10メートルを優に超える巨大な人型ロボットの姿だった。

 

 白銀の外装を持つそれは壮大かつ流麗。

 どこかの物語に登場する白馬の騎士のような印象を与えるフォルムをしていた。

 

TW(タクティカルウェア)だと……?」

 

 それは現在、宇宙における戦闘において『切り札』と称される巨大人型兵器の名称だった。

 

 映像の中のTWは荒れ狂う猛獣のように城を破壊していく。

 

 右手の『プラズマブレード』によって城や罠を破壊し、左手に装備した光学系の武装であろう『光の盾』によってミサイルや砲弾、ビームまでもを弾く。

 

 しかし、どんな武装よりも目立つのは圧巻の操縦技術だった。

 

 宇宙に比べれば広いとは言えない室内戦闘であるにもかかわらず、その巨体を正確に操り、床、壁、天井、全方位から飛来する攻撃すべてに対応している。

 

「ッチ、こっちもTWを投入しろ! ある分全部だ!」

「了解です!」

 

 その命令に従って部下たちが部屋の外へ急いで出て行く。

 映像に20体近い数のTWが投入されるが、それでも白銀の騎士は落ちない。

 

 ブーストによって縦横無尽に飛び回り、辺りを囲むTWを子供扱いするように撃破していく。

 

 しかしいくら操縦技術に優れていようと、それが機械である以上エネルギーは無尽蔵ではない。

 終始攻撃を受けることはなかった白銀の騎士は、老いに勝てぬ老人のごとく膝を付いた。

 

 10分ほど経つと、部下たちが首輪と両手両足に枷を付けた女を引き摺りながら戻ってくる。

 

「ボス、侵入者を捕まえましたぜ」

 

 透き通るようなセミロングの金髪と、どんな地獄の中でも彼女は同じ目をするのではないだろうかと思わせるほどの強い意志を宿した青い瞳。

 

 羽織った青と白を基調に造られた軍服はビクティリア連邦国の一般兵が着用するもので、彼女からは文字通り国を背負っているかのようなオーラがあった。

 

 しかし、ごわついた髪と所々汚れた軍服は、彼女が今まで戦闘の最中にいたことを感じさせる。

 

 そして、この状況は彼女の敗北を意味していた。

 

「こいつ1人に城の罠の5割以上、それにTWも10機以上破壊されました。軍用のTWを操る凄腕のパイロットです。どうしますか?」

「まぁ、なんで軍人の女がたった1人で俺の城にやってきたのか、事情はゆっくり聞かせて貰おうじゃねぇの。拷問部屋に連れていけ、俺が直々に相手してやる」

 

 そんな話の中、彼女はきつそうな表情でマポリオンを睨みつけた。

 

「宇宙海賊『迷君マポリオン』、あなたたちの行いは連邦法に違反している。この惑星の住民を騙し、玩具のように弄ぶ、あなたたちは悪だ。即座に投降しなさい、でなければ……」

「でなければ、なんだぁ? 負け犬がほざくな!」

 

 軍服の女の髪を掴み上げたマポリオンは、その顔を自分の間近まで持ってきて形相を浮かべた。

 

「くっ……」

「いいか? 強いヤツってのは多くのものを捨てられる人間のことだ。プライド、正義、尊厳、人間性、俺は多くを捨ててきた。だから俺はお前より強い」

「それが他者を虐げる理由ですか? 愚劣も愚考も大概にした方がいい。あなたたちはただ取捨選択を誤っただけだ」

「そうかい、けどそんな俺にお前はこれから蹂躙される。それが現実だ」

 

 そう言ってマポリオンは彼女を蹴り飛ばした。

 壁に背中を打ち付けた彼女は、その衝撃によって気を失ったようだ。

 

 

「辛辣だね」

 

 

 僕がそう言うと、室内全てが氷結したように、全ての人間の動きがピタリと止まる――

 

 

 僕の声に反応するよりも先に、彼らは現れた黒骨に(おのの)いていた。

 

 骨の軋む音が部屋を満たす。カチカチと鳴る顎の音はまるでこの場にいる人間をあざけるかのようだった。

 

「なんだ、これ……」

「化け物……!?」

 

 骸魔(スケルトン)たちが立ちあがる。

 

 何体も、何十体も、何百体も、いやもっと多く――

 

 殆どが女性の遺骨。神と崇める彼らの元へ献上され、そして真実と地獄を知った哀れな魂の具象。

 

 そのほとんどは、いくつかの骨を欠損していた。

 指、腕、足、歯がない人たち。

 頭蓋に穴が空いている人も沢山いる。

 

 そんな恨み辛みのすべてを出し尽くさんとするように、彼女たちは黒い骨の姿で海賊たちへと襲いかかった。

 

「捨てることが強さだって言うなら、この骸は君たちよりずっと頑張っていると思うよ。だから君たちはその対価を払わないといけないんじゃない?」

「敵だ! ぶっ殺せ!」

 

 頭領であるマポリオンの叫びとともに、海賊たちは各々の武器を取り出す。

 宇宙空間でも使用可能な光学技術で造られた銃や剣だ。

 

 ゴーゾニックくんの時とは違って部屋にいる海賊の数が多い。

 

 いや、それでもスケルトンが勝つだろう。

 でも、転がっている彼女に流れ弾が飛ばないとも限らない。

 

 僕は腰のホルスターから式符を1枚取り出す。

 早速で悪いけど呼ばせてもらうよ。

 

調和(ちょうわ)吉将(きっしょう)()たる中道(ちゅうどう)・東の星――名を【六合】」

 

 それは姿を持つ式神ではなく、【守護】という概念を司るもの。

 

 完全な詠唱によって現れた六合は、横たわる彼女を守るように半球状の透明な壁となった。この結界は霊能力を持つ人間にしか、つまり僕にしか見えない。

 

 これで銃が乱射されても彼女が傷付くことはない。

 

「やめてくれ……もうやめてくれよぉ……」

 

 動きを止めた海賊共を骸魔(スケルトン)たちが殴りつけている。

 

「痛ぇ……痛ぇよ……」

 

 ガチャ、ガチャ、ガチャ、カチャ……

 

「もう嫌だ。痛いのはもう嫌だ……!」

 

 パキ、ポキ、ゴキ、バキ、ボキ……

 

「殺して、もおごろじてぐべ……」

 

 グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ、グチャ……

 

 輝きを失った黒い瞳で睨みつけ、失った声の代わりに、何度も……

 

 何度も、何度も、何度も、何度も、何度も……骸魔(かれら)はただ殴りつけていた。

 

 部屋には血の匂いが充満していて、赤が壁や床の塗り替えを済ませている。

 

 やった仕打ちが返ってきただけだ。

 潔く成仏して欲しい。

 

 僕は最後に残ったマポリオンに近づく。

 

「辛くても逃げずに頑張った人間だけが、きっと人に認めて貰えるんだと僕は思うよ」

「お、お前なのか? お前がやったのか!? なんなんだよこいつらは……お前はいったい何者なんだ!?」

「僕は君と同じ怠け者さ」

 

 問題を霊能力のせいにして、なのに霊能力で金を稼いでる。

 

 幼少期の疎外感も、孤独の経験も、自分が認められなかった経験なんて、そんなの誰にだってある物だ。

 

 そう割り切って考えることができずに、日々を甘んじて生きている。

 

 そんな怠け者。

 

「じゃあね」

「ふざけるな、俺は……俺はこの星のカッ――」

 

 言い終えるよりも先に、マポリオンの喉元へスケルトンが噛みついた。

 

「ぎゃぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ!!」

 

 スケルトンに喉笛を噛み千切られて絶命したマポリオンの首を、六合とは別の式神の力を使って異空間へ収納する。

 

 討伐した証に首を持ち帰るなんて前時代的なことだと思う。

 

 けれど今の時代でも……いや、今の時代だからこそ、その人物を確実に見分ける方法は生体情報くらいしかない。

 

 軍人さんの枷を六合の結界を挟み込んで断ち切り、背負って帰路へ付く。

 重っ、ちょっとは筋トレしとけば良かった。

 

 あとはこの惑星に着陸する時にも使った子機に戻るだけ。2人くらいなら多分運べるでしょ。

 

 悲鳴と絶叫に満たされた崩れかけの城を出る。

 海賊を殺すだけでは満足できず、骸魔(スケルトン)たちが城の破壊を始めたのだろう。よくあることだ。

 

 頭領以外にも賞金首はいるだろうけど、そこまで細かく覚えてない。

 

 できれば財宝もいただきたいところではあったけど、背中の彼女を放置はできない。

 

 もう帰ろ。この首だけでもしばらくは遊んで暮らせる。

 

「あの、中で何があったんですか?」

 

 巨大な金属の門から外に出ると、この惑星の元々の住民が入り口に押し寄せていた。

 神様の城が崩壊を始めてるんだから当たり前か。

 

「彼らは宇宙海賊、罪人だったんだよ。だから討伐した。これからは海賊に縛られることなく自由に生きてね」

 

 僕がそう言うと、民衆は拳を握りしめ肩をわなわなと震わせる。

 

「マポリオン様は……どうなったのですか……?」

「殺したよ」

 

 彼らの震えは全身へ回っていく。

 

「そんな……神が……死んだ……?」

「嘘よ! そんなわけないわ!」

 

 どうやらマポリオンは相当上手く『神様ごっこ』をやっていたらしい。

 

 圧倒的な科学力を使って上手くやれば信仰心はここまで高まるものなんだね。

 城に連れていかれた人がどうなったのかも上手く隠せてたみたいだ。

 

 そういう意味では本当に頑張ってたのかも。

 まぁ、ハローワークにいった方がマシな努力だ。

 

 城が倒壊を始める。

 

 背中のこの子も相当暴れていたみたいだし、原型がなくなるのも時間の問題かな。

 

「あの方は雨を降らして飢饉を救ってくださったんじゃ! それがどうして……」

「嵐を吹き飛ばしてくれたことも、津波を消し去ってくれたことも、地震に耐える建築を与えてくださったこともあった!」

「そうだ、あの方々に守られていたから俺たちは幸せだったんだ! それをお前たちは……なんてことをしてくれたんだ!」

「出ていけ、我らの星から出ていけ!」

「悪魔が……! この悪魔が!」

「死ね!」

「消えろ!」

 

 限りのない罵詈雑言が僕の背中に向けられる。

 

「うん、出ていくよ。もう用ないし」

 

 でも誰も僕に手を出してはこない。

 神様を殺した僕が怖いんだろう。いつものことだ。

 

「申し訳ありません……」

 

 背負った彼女が小さな声でそう言った。

 

「うるさくてごめんね。起こしちゃった?」

「……城から出た辺りで。宇宙海賊の討伐は本来軍人である私の役目です。なのにあなたにすべて任せてしまった」

「別に、僕は僕のためにやっただけだよ」

「それでもあなたはこの星を救った。あなたの活躍は称賛されるべきものです」

「されてるよ」

「え?」

 

 僕にはずっと感謝の声が聞こえている。

 けれどそれは、僕以外の生者には決して響かぬ冥府の声だ。

 

『感謝いたします』

『あなたのお陰です』

『これ以上、私たちのような不幸を見なくて済む』

『あなたは皆を守ってくれた』

『これで我が子は救われる』

『ありがとう』

『ありがとう』

『ありがとう』

 

 そもそも感謝されるためにやってるわけじゃない。

 僕はただお金が欲しいだけだ。

 

 でも……よかったじゃん。

 

「君、船は?」

「マポリオンに撃墜されました」

「そっか、それじゃあとりあえず僕の船に来る? 心配しなくても変なことはしないよ」

「命を助けていただいた方を疑いはしません。ですがよろしいのですか?」

「いいよ。どうせ首を渡しにいかなきゃいけないしね」

「首……あなたは傭兵ですか?」

「うん、僕は個人で傭兵をしてる。名前はタナカ……タナカ・テンメイ」

「私はセンリ・ゴールドバーグと申します。申し訳ありませんが、少しの間同乗させていただいてもよろしいですか?」

「もちろん、よろしくね」

 

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