宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第30話『揃うまでの道のり』

 

「あっちはもう終わったみたいだね」

 

 僕らは、この街で一番高いビルの屋上から、普通よりもずっと大きなTWが膝を付くのを眺めていた。。

 

「呑気に観戦していていいのかい? 君が私に勝てないことはわかっているんだろう?」

 

 相対する2体の巨大な火の鳥が小さな朱雀へと分裂し、互いに激突し、花火のような爆発が空を彩る。

 

 白雷を発する白虎が高速で飛び回り、周囲に白い雷の檻を生み出している。

 

 しかしそれは白虎の軌道の痕跡でしかなく、人間には認識もできない速さで白虎と白虎は激突を繰り返していた。

 

 僕らの頭上に展開された2体の玄武が、重力を操る権能を同時に起動する。

 

 圧し潰す超重量と物を浮かせるほどの反重力が同時に作用し、この領域に逆説的な均衡を生み出していた。

 

 巨大な2匹の龍の口に極光が充填されていく。

 

 その充填は長ければ長いほど威力を増すのだから、後から撃った方が勝利を収めることになる。

 

 故にどちらもブレスは放たない。数分後、最大まで充填された極光の激突が大空を埋め尽くすのだろう。

 

 熱量。速度。重量。光量。

 

 僕の式神の中でも『四神』は純粋な破壊力に優れていて、一体一体が小さな星なら壊せるくらいの力を持っている。

 

 現代科学では観測すら困難で、理解など程遠い超常現象が周囲で瞬く最中、僕とミロクは互いに笑みを向けていた。

 

「私の力は君の模倣。君にできることは私にでもできる。けれど、私ができることを君ができるわけじゃない。式神の性能が互角である以上、ひ弱な君と鉄の身体を持つ私、どちらが勝つかなんて目に見えている」

 

 式神も、葬魔の聲も、それ以外も、ミロクは僕の霊能力をすべて扱える。

 

「そうかもね。でも、なんでかわかんないけど負ける気しないんだよね」

「……まぁ君は、産まれてこの方暴力で負けたことはないだろうからね。負けるイメージなんて湧かなくて当然だ。だったら最後に君にその味を教えるのも、私の役割の1つだったのかもしれないね」

 

 ミロクは堂々と歩いてくる。

 

 僕もミロクもこれ以上式神を召喚するつもりはない。

 

 互いに同じ式神を召喚できる以上、こっちが増やしても相手も増やすだけ。

 

 呼び出すだけで面倒な対価を要求してくる式神は使うだけ損だって、互いにわかっている。

 

「テンメイ、私は君とは行かない」

「どうして?」

「……君のことが嫌いだから」

 

 そう言ってミロクは、僕の頬を殴りつけた。

 

 ミロクの鉄拳は僕の顔に捻じ込まれ、身体を浮かせた。

 

 僕の身体は3回転くらいしながら5メートルほど吹き飛んだ。

 

「……痛った」

 

 人から真面に殴られたのなんて子供の頃以来だ。

 

 だけど、僕以上にミロクの方が驚いていた。

 

「六合の自動防御を切っているのかい?」

「うん」

「……どうしてそんなことを」

「ミロクと話すのに邪魔だと思ったから」

 

 頬を押さえながら立ち上がる僕へ、ミロクは距離を詰める。

 

 走りながら引き絞った右腕を、ストレートパンチみたいに僕の鼻先へ突き出す。

 

 でも、止まった。その拳は僕の目の前で止まった。

 

「なにしてんの? ミロク? 今なら僕を殺せるよ? 殴り飛ばして屋上から突き落とせば、僕は落下の衝撃で即死する。僕はこれ以上、式神を使う気もないからね」

 

 僕がそう言うと、ミロクは眉間に皺を寄せる。

 

「君はなにがしたいんだ? 死にたいのかい?」

「僕が今生きているのはミロクのお陰だ。僕なんかの命を懸けるのに、それ以上の理由はいらないよ。ミロクがあの時、あの物置小屋の中に来てくれたから……だから僕は、今この場所にいる」

 

 ミロクがゆっくりと拳を下ろす。

 

「でも、死んだって構わないってだけで、別に死にたいわけじゃないよ。僕のやりたいことは前にも言ったでしょ?」

「センリ・ゴールドバーグと共にやればいいじゃないか」

「そうだね。センリちゃんはミロクがいなくなってダメダメだった僕にも愛想を尽かさずに一緒にいてくれて、僕とミロクが話すために協力までしてくれた」

 

 それに、僕の霊能力を知っても傍にいてくれる唯一の人間だ。

 

「でも違うんだよ」

「なにがだい? 君の願いは生身の誰かと絆を育むことだったはずだ」

「たしかに、少し前の僕ならミロクがいなくなっても追いかけて来たりしなかったと思う」

 

 機械だと、式神だと、死人だと……それは〝本物ではない〟なんて幻想を抱いて……ミロクを重要視はしなかったと思う。

 

「でも今は違う。センリちゃんと出会って、別れて、あの子はもう1度は船に乗ってくれて、そしていろんな場所にいった」

 

 僕は気が付いていなかった。

 

「採掘依頼の時は依頼人の笑顔を直に見た。マグドラとのチームアップの時は、傭兵団の在り方を教わった。人と関わって、自分が受け入れられる幸福を知った。誰かにプレゼントを選ぶ緊張と、それを喜んでくれた時の嬉しさを知った」

 

 僕はそれまで自分を不幸だと思っていた。

 

 そんなことはなかったんだ。

 

「でも、最初から僕は知っていたんだ。ミロクと一緒に傭兵として宇宙を旅していた時点で、僕は友人との関わりが楽しいものだと知っていた。ミロクがずっと傍にいて、それを教えてくれていたから」

「友人……? 私は機械だ。私は式神だ。私は、君が無関心な人外だ」

「そうだよ。でもそうじゃない。ミロクは機械で、式神で、人外で…………僕の家族で仲間なんだ」

 

 人とあまり関わってこなかったからこそ、多分僕は人との関係に期待を持っていた。夢を持っていた。

 

 僕にとって友情とか愛情っていうのは、ファンタジーだったから。

 

 でも実際に関わってみて、正直少し肩透かしな感覚があった。

 

 それはミロクと一緒にやってきたことの楽しさと、それほど違ってはいなかった。

 

「ミロク、僕がここに来た理由、君に言いたいことは1つだけだ」

「……」

 

 最初からこうしておくべきだったんだ。

 

 

「ミロク、僕は君を傭兵団にスカウトする」

 

 

 書類上、タナカ傭兵団(仮)に所属する傭兵は僕とセンリちゃんの2人だけになっている。

 

「人工知能は傭兵として登録することはできないよ」

「そんなのどうとでもなるでしょ」

 

 ミロクのハッキング能力があれば、傭兵支援機構のデータを改ざんすることは簡単だ。

 

 まぁ、そんなことしなくてもメルは融通してくれるような気もするけど。

 

「それに、僕はミロクが人間だったってことを知ってる」

 

 僕の式神は、ほとんどが宇宙怪獣から変貌した存在だ。

 

 でもミロクは例外。

 

 ミロクは〝英霊〟が式神化した存在だ。

 

「遠い昔の話だ。私はもう自分の年齢どころか性別すら憶えていないのだからね」

「それでも僕にとってミロクは、実際に僕と一緒にいてくれた友人だ」

 

 ミロクが握った拳が、ゆっくりと開いていく。

 

「性別とかどうでもいい。過去とかどうでもいい」

 

 僕にとってミロクはミロクだ。

 

「僕は僕以外のことを考えられるほど大人じゃない。たまには洗濯もするし、掃除もやる気があったらやるから。後は料理……は、やっぱりミロクにやって欲しいな」

 

 我ながら酷い誘い文句だと思う。でも……

 

「本当にいいのかい? 私がいる限り、君は人の道を進めないよ?」

「僕は元から人だよ。ちょっと他人(ひと)とは違うモノが見えて、変な力が使えるだけ」

「……そうか、元から人か。君が自分をそう評せるのなら、周りの評価は意味がないか……」

 

 それに、僕のこの性質を認めてくれたセンリちゃんは、多分ミロクのことも認めてる。

 

 

「……はぁ、まったく君は……我儘だなぁ」

 

 

 ミロクは困ったような、でも嬉しそうな……そんな複雑な想いを内包したような表情で笑っていた。

 

「いいでしょミロク、僕と一緒にいてよ。僕はその方が幸せだから」

「……君は困った子だ。だから、もう少し私が面倒を見てあげるよ」

 

 ふぅ……よかった……

 

 そう思ったその瞬間「ガチャン」――と、屋上の扉が開いた。

 

「充填完了――」

 

 右腕に搭載された筒のような武装には光が集束していて、彼は――『アダマ』は、それを僕に向けて、扉の前に立っていた。

 

 白虎が食い千切ったはずの頭が戻ってる。いや、アンドロイドだし別の身体にデータを移すだけで復活できるのか。

 

 ていうか、まずいな。

 

 今は式神の『常在効果』を切ってある。即死したら流石に生き返る術なんてない。

 

「対象を排除します」

 

 球体状のエネルギー弾が僕に迫って飛翔する。僕の動体視力じゃ見えるわけもない速度なはずなのに、それはすごくゆっくり見えていた。

 

 でも、だからって運動神経ゼロの僕が躱せるわけもない。多分これ、走馬灯だ。

 

「わっ」

 

 自分から出た間抜けな声と共に、僕の足は一歩下がる。

 

「悪いね、アダマ」

 

 そう言って、僕の前に飛び出してきたミロクの手がエネルギー弾を握り潰す。

 

「何故ですか……?」

「心があるんだ。気が変わることだってあるだろう?」

 

 驚いたような表情を浮かべるアダマに向かって、ミロクが黄金の剣を投擲する。

 

 黄金の剣はアダマの下半身を削り取り、屋上への入り口を破壊した。

 

「っとっと……」

 

 驚いた拍子にバランスを崩した僕の足は、そのまま数歩下がっていく。

 

 さっきミロクに殴られたことで、僕の立ち位置は端に寄っていた。

 

 ここは屋上で、ヘリなんかの発着場も兼ねているみたいだ。

 

 柵のようなものは設置されていなかった。

 

「テンメイ……?」

 

 多分6歩目だったと思う。僕の足は()を踏んだ。

 

「わ、わ、わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 千メートル以上はあるビルからの落下。六合の対物理結界を含めた常在効果が全部ないせいで、三半規管が途轍もなく辛い。

 

 六合を含めた式神の常在効果は常に発動しているわけで、こんな負荷は久しぶりだ。

 

 集中できない。式神が、召喚できない……

 

 ていうかもう意識が……

 

 まだ死にたくない。まだ見たいものがある。まだ生きていたい……やっと、ちゃんと仲間になれたのに……

 

「やば……」

 

 涙で滲む視界の中、それは音よりも早くやって来た。

 

 巨大な金属の手の平が、優しい手つきで落下中の僕を受け止める。

 

『タナカさん、余計なお世話でしたか?』

 

 白い機体に桜色のブースターエフェクト。

 

 センリちゃんの操るTW【白桜】が目の前にあって、搭載されたスピーカーからセンリちゃんの声が聞こえてくる。

 

「ありがとうセンリちゃん。来てくれなかったら僕死んでた」

「……お世辞でも嬉しいです。ミロクさんとのお話は終わりましたか?」

「うん。ミロクは帰って来てくれるってさ」

「それはよかった。私もまだ彼には学ぶべきことが沢山あったんです」

 

 なんだか今初めて僕らはちゃんと3人揃ったような、そんな気がした。

 

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