宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第31話『非効率』

 

 

 ――再起動プログラム実行。

 

 

 ――シリアルナンバーB510473へのデータ転送を完了。

 

 

 ――B510473へのシステム『ホープ』の全権限付与を完了。

 

 

 ――再起動。

 

 

 ◆

 

 

 目を開けると、そこは僕の身体が玉座に座らされていた。

 

 僕の後ろにはホープの全情報が保管されたサーバーがあり、僕の前にはイフがいる。

 

 それだけならいつもの光景だ。アンドロイドの身体のアップデート時や破損時に身体を交代させることはよくある。

 

 けれど、今回はイフの他に3名の姿が見えた。

 

 個体名『タナカ・テンメイ』『センリ・ゴールドバーグ』『ミロク』。

 

 最後に保管された記憶(データ)には、ミロクがどこからともなく呼び出した黄金の剣によって僕の下半身が粉砕され、機能が停止した時のものが残っている。

 

 経緯は不明。しかしミロクが裏切ったということは確実だ。

 

 僕とイフの記憶はリアルタイムでサーバーにアップロードされオートセーブされるが、それには2秒ほどのラグがある。

 

 ミロクが僕の下半身を狙ったのは、僕の記憶領域を傷つけないようにするという意図があったのだと推察する。

 

 その理由は、話を早く済ませるためだろう。

 

 私は片膝を折り、彼らに首を垂れる。

 

「僕らは敗北を認めます」

 

 ミロクが何故裏切ったのか、最初からその予定(プラン)だったのか。それはわからない。

 

 だが、そんなことはこの段階では最早関係のないことだ。

 

 僕は僕の目的に沿って、僕にできることを最後まで実行する。

 

「この星はあなた方に差し上げます。僕さえいればこの星の権限をすべて譲渡するのに支障はありません。だからどうか、イフだけは解放していただけませんか?」

「アダマ……」

 

 心配そうなイフの声が(マイク)に届いた。

 

 それでも僕は頭を下げ続ける。

 

 僕にはもうそれしか、できることが残っていない。

 

「どうか、お願いいたします」

 

 僕の願いに返答を行ったのは、個体名『センリ・ゴールドバーグ』だった。

 

「あなたもイフさんと同じことをするのですね」

 

 視線を上げると、瞳のカメラに彼らの様子が映る。

 

 どこか気まずそうな表情をしたタナカ・テンメイが、僕の前に正座する。

 

 それに合わせるように、センリ・ゴールドバーグも同様の姿勢を取った。

 

「えぇっと、この度は本当にごめんなさい……!」

 

 彼は僕に謝罪の言葉を放ち、頭を下げた。

 

 情報の処理が追い付かない。

 

「……」

「本当に、僕とミロクの喧嘩にみんなを巻き込んじゃってごめんね。街とか壊した分の復興は手伝うし、賠償金とかも払うし、後は……」

 

 タナカ・テンメイはミロクの膝を肘で突くと、小声で「ミロクも謝りなって」と言っていた。

 

「悪いねアダマ、色々と情報の処理が追い付いていないと思うから説明しておくけれど、私たちにこの星の状況を変えようとする意志はないよ。ここは君たちが勝ち獲った星だ」

「では、あなた方は一体何故この星に来たのですか?」

「初めに言った通りだよ。私はテンメイの船から降りたかった」

「でも僕は連れ戻したかった」

「だから喧嘩をした。この星を舞台にしてしまったことは謝罪させてもらうよ」

 

 意味がわからない。

 

 いや、何を言っているのかはわかる。

 

 けれど……結果的に仲を修復することが可能であるのならば……

 

「そんなこと……最初から話し合いの場を設けていればよかったことなのでは?」

「ほんとにね、ぐうの音もでないね。ミロクが勝手に行くから」

「そもそもテンメイが人以外を下に見ていたのが悪いんだろう? 人間にやっていたら普通にパワハラだと思われる言動が沢山あったよ?」

「……それは、ごめん」

「別に怒ってはいないさ。君の本心はちゃんと理解できた」

 

 ……理解。

 

 なるほど、人間は機械(われわれ)とは違う。

 

 同一の計算機を使用して思考を行えない。

 

 だから対立する。だから過程を重要視する。

 

 我々が人の模倣に留まらないように、彼らも機械のように生きることはできないということなのだろう。

 

「それではあなた方は、僕とイフにこの星の裁量を決める権利を認めるということでしょうか?」

 

 この星は元々人間のものだ。

 

 僕らだって元は人間が造り出した人間の所有物だ。

 

 管理の代行ならまだしも、武力的に優位な状態を築いておきながら土地の権利そのものを人間以外に譲渡するなんてことはあり得ない……はずだ……

 

「というか僕は最初から文句なんてないよ。人の決めたルールに人以外が従うっていうのも意味がわからないし」

「私はそもそも人間が嫌いだし、その善悪に乗っ取った考えに従う方が矛盾している」

「私も、イフさんやあなたには自由意志を感じています。そう認識してしまった以上、あなた方がこれから先不条理に誰かを傷つけない限りは、健やかに生きることを邪魔するつもりはありません」

 

 およそ、僕が知る『人間』という生物の考え方や行いとは思えない。

 

 しかし、それこそが人間の本質なのだろう。

 

 人間とは個体ごとに多量の差異を持つ生き物なのだ。

 

「かしこまりました。それでは僕はこの星の王として、あなた方の行いを不問といたします」

「女王として、私もアダマと同じ意見です」

「ありがとう」

 

 

 僕は、礼を言いながら差し出されたタナカ・テンメイの手を握った。

 

 

「ではミロク、復興に関してお願いがあります」

「おぉ、早速効率的だね。なんだい?」

 

 チラリとイフを見ると彼女は頷く。

 

 どうやら彼女も僕と同じ意見らしい。

 

「ミロク、あなたにこの星の王を務めて欲しいのです」

「ちょ、ちょっと待ってよ。僕らはミロクを連れ戻しに来たんだけど」

「わかっています。ですがミロクが人工知能であるのなら、タナカ・テンメイの船にいながらこの星にいることも可能なはずです」

「え、そうなの?」

「まぁ、可能だね。私の機能をコピーしてこの星に置いておくだけだ。ワープを使用した情報伝達を定期的に行えばある程度の同期もできる」

 

 自信気にそう言ったミロクを、他の2名が「ミロクすげー」「流石ですね」と褒めていた。

 

 人工知能を人間が褒めるというのも、この宇宙ではあまり一般的ではない光景だ。

 

 それほどまで、彼らの間には強固な繋がりが形成されているということなのだろう。

 

「ミロクの計算能力は僕らの比ではない。あなたが国王となった方がこの星はより効率的に発展できるでしょう。防衛力を強化することで、僕らはより長く共にいることができる」

 

 これは、戦いの前から考えていたことだ。

 

 より効率的な視点で見るのならば、ミロク自身が意志決定を行った方が短いルートで物事を実行できる。

 

 それに『王権の分立』というこの星の効率的矛盾点は、いずれ解決しなければならない問題だった。

 

 これを解決できる存在はこの宇宙にもそう多くはないだろう。

 

 だが、僕ら以上の性能を持つミロクは正しく適任者だ。

 

「だがいいのかい? 私は1度君たちを裏切った。私が権限を有することで、今度は本当に君たちが危機に瀕するかもしれないよ?」

「それはないでしょう……」

「何故そう思う?」

「ミロク、あなたはタナカ・テンメイの前で行った約束を不条理に破ることはない」

 

 私を見ながら、ミロクは少しだけ目を細めた。

 

 他の2名も、ミロクの返答を待つように彼の顔を伺っている。

 

「人間を相手にしたリアル惑星経営シミュか、まぁ面白そうだし付き合ってあげてもいいよ。私はこの星の長としてこの星を効率的に管理、発展させよう」

「「感謝いたします」」

 

 

 ◆

 

 

 ミロクの分身体を残して、彼らはこの星から去っていった。

 

 これから先、この星はミロクの手腕によって、軍事力、財力、効率性とあらゆる面で強固になるだろう。

 

 しかしそれとは無関係に、彼らの物語は続いて行くのだろう。

 

 いや、無関係ということはないか。

 

 もしも彼らが僕らに助けを求めるのならば、僕らはそれに応えるだろう。

 

 彼らが来てくれたからこそ、僕らは新たな学びを得ることができた。

 

 彼らが来てくれたからこそ、この星は更なる発展を遂げるだろう。

 

 所詮『ホープ』は惑星を1つしか保有しない小国だ。大国の軍が本気になればすぐに潰されてしまうような存在だ。

 

 だが、ミロクという特異な人工知能の助力があれば、その常識から逸脱できる可能性がある。

 

 首都をボロボロにされはしたが、それを加味しても余りあるメリットだ。

 

「ありがとう」

 

 空の彼方へ消えていく彼らの宇宙船を眺めながら、僕はそんな非効率な言葉を呟いた。

 

 

 ◆

 

 

 船に戻り、ホープの大気圏から出た頃、僕とセンリちゃんはミロクにプレゼントを渡すことにした。

 

「はいミロク、プレゼント」

「私からもどうぞ」

「プレゼント……? なんで?」

「僕ミロクの誕生日とか祝ったことなかったからその分」

「私はこの前のお礼です。ミロクさんの誕生日はタナカさんも知らないということでしたので」

 

 ミロクが霊として何年彷徨っているのかは僕も知らない。

 

 多分本人も知らない。ミロクは自分に関することはほとんど忘れている。

 

「これはなんだい?」

「私のは眼鏡です。伊達ですけど。似合うと思って」

 

 ミロクが縁なしの眼鏡をかけると印象が少し変わる。

 

 元から頭良さそうな顔だったけど、知的な印象がもっと強くなった。

 

「僕は【ドミネーションクエストⅩⅧ】だよ」

「それ、テンメイがやりたいだけなんじゃないのかい?」

「……(ふるふる)」

 

 僕は首を横に振るとミロクは溜息を1つ吐いて笑った。

 

「一緒にやってくれるかい?」

「もちろん!」

「センリ・ゴールドバーグもありがとう。嬉しいよ」

「いえ。でも今後誕生日がないとお返しする時に困るので、今日にしませんか?」

「たしかに、それがいいよミロク」

「……ふむ、そうだね。それじゃあ今日が私の誕生日ということにするよ」

「おめでとうございます」

「おめでと!」

「ありがとう」

 




書き溜めがなくなったので次の更新は少し空きます。
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