宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第32話『船内模様』

 

 ミロクが戻って来てから1週間ほどが経った。

 

「えぇ、それでは僕らの傭兵団の名称を決定するための会議を始めたいと思います」

 

 昨日、メルから傭兵団の名称の決定期限が迫っているという連絡が来た。

 

 期限を過ぎると傭兵団の名称変更に面倒な手続きが必要になるから、今のうちに納得できる名前を決定しておく必要があるというわけだ。

 

「私はタナカ傭兵団で構いません」

「私も、呼称なんてどうでもいいよ」

 

 センリちゃんは話は聞いているけど、僕に意見することはあんまりない。

 

 ミロクに至っては多分話半分にしか聞いていない。

 

 ここは僕も団長としてビシッとする必要があるんじゃないだろうか。

 

 実は昨日のうちに何個か考えて来てあるんだよね。

 

「そう言わずに聞いてよ、『ギャラクシートルーパーズ』はどう?」

「トルーパーズって騎士とか兵士って意味じゃないのかい?」

「私たちは国家に所属するわけではないので軍事的な意味を持つのはどうかと……」

「くっ……なら『天千六』はどう?」

「私たちの名前を組み合わせたわけか。安直だね」

「団員が増えた場合に困りませんか?」

「……じゃ、じゃあ『メテオストライクインパクト』は!?」

「やけくそ感が出てきたね」

「もはや私たちとも傭兵とも無関係では?」

「くっ……万策尽きた……」

 

 僕は膝から崩れ落ちる。

 

「3策しかなかったけれどね」

「名前ですか……では僭越ながら『血染めのいちごちゃん』というのはどうですか? よくタナカさんが宇宙海賊の首を持って帰ってくるので」

「なにそれ怖い」

「君は稀にバイオレンスとキュートを同一視している節があるよね」

「ぴっ、万策尽きました」

「1策だったね……」

「うん」

 

 で? みたいな顔で僕とセンリちゃんがミロクの顔を覗き込むと、ミロクは困ったように言った。

 

「基本的に、名前というものは目的に沿って付けるものだ。人も道具も変わらない。その名のモノが成し遂げて欲しいなにかが名には願われる」

「なるほどね……」

「テンメイ、君が(おこな)って来た主な仕事はなんだい?」

 

 僕がこれまで1番多くやって来た仕事……

 

「海賊の討伐かな?」

「センリ・ゴールドバーグ、君がこの傭兵団で行いたい具体的な願いはなんだ?」

「不埒な輩……海賊から人々を護ることです」

「それが君たちの共通項だ。だから【海賊狩り】なんてどうだい?」

 

 海賊狩り、少し殺伐とした名前だけど……その名前にすれば、そういう依頼が舞い込むことも増えるだろう。

 

 僕の得意分野にも、センリちゃんの目的にも合致する。

 

「いいね」

「はい。私もそれがいいと思います」

 

 僕らの傭兵団としての名前は『海賊狩り』に決定した。

 

 

 ◆

 

 

 トレーニングルームの取手の部分に触れるとドアが自動的に開く。

 

 そこには、仰向けになってかなり重そうなバーベルを持ち上げているセンリちゃんの姿があった。

 

「タナカさん、珍しいですね。どうかされましたか?」

 

 なんとなく薄着のセンリちゃんから視線を逸らしながら、僕はこの部屋に来た要件を伝える。

 

「その……僕も、筋トレしてみたいなって思って」

 

 依頼で『アクルシア』を探索した時も、食料調達に『ハイプリン』に寄った時も、僕はほとんどなにもしていない。

 

「霊能力なしの僕ってただの無能じゃん?」

「いえ、そんな……」

「別に気を遣わなくていいよ。少し前も筋トレしようって思った時はあったんだけどさ……」

 

 まぁ、その時はモテるためって理由だったんだけど……

 

「あんまり長続きしなくて。でも一緒にやってくれる人がいたら続くかなって」

「なるほど」

 

 センリちゃんは小さく頷き、

 

「わかりました。それでは一先ずタナカさんの現在の身体能力を把握しましょう」

 

 そうして始まったのは、『腹筋』とか『スクワット』とか本当に基礎的な筋トレだった。

 

「ぜぇ……はぁ……」

「上体起こし21回。スクワット9回。腕立て伏せ4回。ランニングは時速10kmで3分。握力18kg。反復横跳び20点。長座体前屈23cm。なるほど……」

「どう?」

「えっと……」

「遠慮せずに思ったまま言っていいよ」

「では、カスですね」

 

 カ……カス……?

 

 センリちゃんの口から聞いたことのある言葉の中で、一番酷いセリフを聞いた気がする……

 

「僕ってそんなに酷いの?」

「成人男性の平均と比べてもほぼすべての評価が半分以下です。ただ、反射神経テストでは非常に優秀な数値が出ています」

「あ、それは式神の『常在効果』でインチキしてるだけですごめんなさい」

 

 貴人(きじん)の常在効果は僕の『反射神経の強化』だ。

 

「常在効果……常にタナカさんが身に帯びている力ですね。参考まで他にどんな力があるのかお伺いしてもいいですか?」

「一定以下の物理攻撃の無効化とか、自動治癒とか、宇宙空間や海中での生存とか……後は熱耐性と感電耐性とか? 他にもあるけど……」

 

 自動治癒までは驚いたような顔だったセンリちゃんの目は、徐々に諦めたようなジト目に変わっていく。

 

「……なんですかその無敵生物。筋トレなんて必要ですか?」

「前みたいに霊能力を隠さなきゃいけない時にお荷物にならないようにしたいんだ」

「お荷物だなんてそんなことは……」

「後、前にセンリちゃんを運んだ時もちょっと重かったんだよね」

「……なるほど、それは困りましたね」

「うん、困るよ」

「えぇ、本当に……あなたは困った方です……」

 

 そう言ったセンリちゃんは、口元は笑っているのに目は全然笑っていなかった。

 

「今日は身体測定で疲れたと思うので、明日から本格的に始めましょう」

「わかった」

 

 翌日――筋肉痛を我慢しながら僕はまたトレーニングルームを訪れる。

 

「それではトレーニングを始めましょうか」

「なにするの?」

「腕立て伏せです」

「昨日と同じじゃん」

「そうですね。ひとまず姿勢をとってもらってもいいですか? そこから私の指示に従ってください」

「はーい」

 

 俯せになった僕は両手を地面に付けて身体を支える。

 

 昨日は4回しかできなかったから今日の目標は5回だな。

 

 そう思って腕を伸ばそうとした瞬間、僕の上に柔らかいなにかが乗った。

 

 っていうかこれ……

 

「ではどうぞ」

「せ、センリちゃん……?」

「どうかしましたか?」

「なんで、僕の背中に乗ってるの?」

「負荷の一種です。お気になさらず」

 

 いやいやいやいや……気にするでしょ……!

 

 お尻の感触とか、体温とか、気にしないとか無理だって!

 

「ていうか、センリちゃんだってこんなところ誰かに見られたら恥ずかしいでしょ?」

「それは、誰にも見られなければ問題は……」

 

 ――ガラガラガラ。

 

 僕の顔の前にあったトレーニングルームの扉が開く。

 

 掃除用具を持ったミロクと目が合う。

 

「はぁ……」

 

 ミロクは溜息を吐いた。

 

 ――ガラガラガラ。

 

 ミロクは部屋には入って来ることはなく、扉は閉まった。

 

「ねぇセンリちゃん、やっぱりこのトレーニング方法やめよ?」

「はい、そうします……」

 

 顔を真っ赤にしたセンリちゃんはゆっくりと僕の上から退いてくれた。

 

 

 ◆

 

 

「ミロクー、ゲームやろーよー」

「この前私にくれた物の話かい?」

「そう、ドミネーションクエストの18作目だよ」

 

 大人気ゲーム【ドミネーションクエスト】は、100年ほど前に発売された1作目が1億本以上の大ヒットを遂げ、数年に1本のペースでナンバリングが発売されている大人気タイトルだ。

 

 主人公は異世界から来た〝魔王〟であり目的はこの世界の〝征服〟。

 

「ミロクに合いそうなゲームじゃない? ちなみにマルチプレイする時は、1人が魔王で他は召喚されたモンスターになるんだ」

「どちらかというと私はモンスター側だと思うけれどね」

「え?」

「まぁ、たまには主従逆転というのも悪くはないか。やってみようか」

「うん!」

 

 僕らは早速VRマシンにゲームをインストールして、その世界にダイブした。

 

 

 ミロクは魔王。僕はスライム型の魔物になって世界の征服に乗り出した。

 

 舞台は千年前の地球。コンクリとガラスのビルが立ち並ぶ古風な風景だ。古代コロニー『アクルシア』の内部にかなり近い。

 

 魔王はダンジョンを創り出し、人々を取り込み、魔力(ポイント)に変える。

 

 そのポイントを使ってダンジョンを拡張し、配下を増や(ガチャ)し、地球を侵略していく。

 

 ゲーム性的にセンリちゃんは好きじゃなさそうだから、僕ら2人でプレイする。

 

 ミロクはまず発電所をダンジョン設置地点に選びインフラを破壊。遠征では水道施設や病院なんかの主要施設を重点的に破壊して、敵戦力を削いでいった。酷い。

 

 自分のダンジョンの浅い場所には危険なモンスターは配置せず、逆に食料や薬を提供することで人を呼び込み、人数が増えて来たところで一気に収穫していた。悪魔だ。

 

 ミロクは原子力発電所を使って国家を脅迫し、ダンジョンにやって来た人に優しくて自分を神だと崇めさせ、最終的に笑いながら全部の約束を破っていた。邪神。

 

「ミロクってさ、絶対にダークサイドの英霊だよね」

「さてね、記憶がないからなんとも言えないかな。けれど善悪なんて人が協調するための造り物でしかないよ」

「……まぁゲームだしいいんだけど」

 

 でもミロクは、必要があれば現実でも同じことを平静な精神状態でやってしまいそうだ。

 

 善悪ではなく効率的かどうかで物事を考える。それがミロクなんだろう。

 

 RTAとしてもそこそこ良い順位になりそうな効率でゲームは進み、現実時間12時間(ゲーム内時間1カ月)ほどで世界征服は成し遂げられた。

 

 ちなみに僕はスライムとしてダンジョンの最終階層の守護を任されていたけど、最後まで誰も来なかったよ。

 

 でも……

 

「楽しかっね、ミロク」

 

 嘘じゃない。(チル)な時間は多かったけど、ミロクの卑怯な戦術にツッコミを入れてる時を含めて、ミロクと一緒にやっているゲームは基本的に楽しい。

 

「あぁ、私も楽しかったよ。またやろう」

 

 そう言ってミロクは笑う。

 

 いつもの人を小馬鹿にしたような笑いではなく、ホープで見せたような無理をした笑みでもない。

 

 なんというか〝イイ笑顔〟だった。

 

 色々悩んだけど、こうしてミロクが笑っているならホープに行ってよかったと思えた。

 

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