宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第33話『どぶさらい』

 

「この依頼、受けても構いませんか?」

 

 そう言ってセンリちゃんがリビングのモニターに表示させたのは、宇宙海賊の討伐依頼だった。

 

 傭兵団の名称を決めたからか、ポツポツと海賊関連の指名依頼が舞い込んで来るようになった。

 

 Bランクの依頼はあまり報酬が多くないものが大半だけど、センリちゃんは性格的に断れないんだろう。

 

「僕はいいけど、本当にいいんだね?」

「タナカさんはもしかすると嫌かもしれませんが、私は報酬で助ける人間を選びたくないんです。それでもすべては救えません。だから依頼を出してくれた方くらいは無碍にしたくないと言いますか……」

「ううん、別に報酬が少ないことに文句があるわけじゃないよ」

 

 センリちゃんは小首を傾げて疑問符()を浮かべる。

 

「では、どういう意味ですか?」

「実力が伴ってない人ほど卑怯って話。まぁセンリちゃんがいいならいいよ、行こっか」

「……ありがとうございます」

 

 センリちゃんはそれ以上僕に追求はしてこなかった。

 

 とはいえ、僕もそれ以上の説明は難しい。あれはきっと実際に目の当たりにした人間にしか理解できない感覚だ。

 

 

 ◆

 

 

 相手は一隻級宇宙海賊『ハーメルン』。

 二つ名すらない彼は宇宙船を1隻しか保有していない弱小の宇宙海賊だ。

 

 彼が根城としているのはとある星の秘境。

 砂漠に囲まれた場所に宇宙船の補給地点を作っているらしい。

 

 この星には他にも人間が住んでいるが辺境ということもあり科学力はあまり高くなく、砂漠までやってくる人間なんてほとんどいない。

 そんな環境を利用したのだろう。

 

 依頼人はこの星の星長。

 海賊に物資が盗まれたり子供が攫われる事件が多発しているから、海賊を討伐して攫われた子供を助けて欲しいとのことだ。

 

 報酬は150万CM。

 一隻級とはいえ海賊討伐にしては安めの金額だ。

 

「見えて来たね」

「はい」

 

 いつも通りミロクは船で待機。僕とセンリちゃんの2人で子機の着陸地点から歩くこと30分ほどでそれは見えて来た。

 

 城というには機械チックな半球(ドーム)状の基地は黒いガラスに包まれていて、中にはたしかに一隻の戦艦が停泊している。

 

「攫われた子供たちが心配です。早く突入しましょう」

「そうだね」

 

 今回センリちゃんはTWに搭乗していない。

 

 TWであの基地に乗り込むとなれば、その衝撃で攫われた人を巻き込む可能性があるからだ。

 

 それに相手もTWは保有していないだろうし、センリちゃん自身が必要ないと判断した。

 

 僕らは歩いて基地に近付き、センリちゃんのビームサーベルでその壁面に穴を開けた。

 

 ピロロロロロロロロ~~~

 

 という笛の音のような音が基地内に鳴り響く。

 

「これは警報音でしょうか?」

「変な感じだね」

「はい」

 

 普通、警報の音というのはもっと荒々しい音である場合が多い。

 だけどこの基地のそれは綺麗な楽器の音だ。

 

 基地内部には戦艦と整備用のビルが1つあるだけの簡素な造りだった。

 もしかしたら戦艦の修理かなにかのために一時的に着陸しただけなのかもしれない。

 

 侵入から1分もしない内に敵の防衛機能が姿を現す。

 

 軽い足音。手に持った光の剣と銃には似つかわしくないボロボロな衣服。それは〝子供〟だった。

 

「っ……」

 

 怒りを発露するようにセンリちゃんの眉間に皺が寄った。

 

「おにいちゃん……」

「おねえちゃん……」

「おねがい」

「しんで」

 

 虚ろな表情で涎を垂らした子供たちは、僕らへ武器を向ける。

 

 センリちゃんは無言でシールドジェネレーターを展開し、半透明な壁が子供たちが放つ光線を退けていく。

 

 船を1隻しか持たない海賊。

 他の海賊や軍や傭兵、さまざまな脅威がある宇宙の中で海賊として活動するには、倒されないか、もしくは倒しにくい理由を作る必要がある。

 

 子供を戦場に立たせてくる相手と誰が好き好んで戦いたいと思うのか。

 

 だから、その海賊の討伐の任務は色々なところを巡って後回しになる。

 

「なるほど、タナカさんの言っていた言葉の意味がわかった気がします」

「大海賊は自分の力に自信を持っているから素直に戦ってくる。でも弱いヤツはそうじゃない」

 

 もしも地獄というものが本当に存在するのなら、それは人の手によって作り出されるものだろう。

 

 海賊退治というのは『どぶさらい』みたいなものだ。

 人間という生ごみから出た泥を処分していく。Bランクの依頼なんてそんなのが大半だろう。

 

「どうするセンリちゃん? 今帰ったって僕は文句は言わないよ?」

「いえ、全員気絶させます」

 

 それでも、センリちゃんは戦いを放棄はしないらしい。

 

 自分がやりたくないから誰かにやらせよう。

 そんな思惑が巡り巡って辿り着いたこんな依頼を、彼女は自分でやろうとする。

 

「センリちゃんってさ、頭いいけど馬鹿だよね」

「どういう意味ですか?」

「自分から率先して面倒な道を歩こうとするから」

 

 軍からの評価など無意味とばかりにマポリオンに突撃し、僕からの疑心なんて関係ないとばかりにTWを盗って隕石を壊しに行く。

 

 ……最初からずっと、君は自分よりも他人を助けようとする。

 

「でも、誰かがやらないとこの子供たちは救われないじゃないですか」

 

 彼女の表情はまるで過去の自分を思い出しているかのようだった。

 

「うん、そうだね。(おそ)れの凶将・()たる灯籠(とうろう)・南東の星――名を【騰蛇(とうだ)】」

 

 呼び出されたのは透過することで相手を気絶させることができる、僕にしか見えない……

 

「半透明な龍……?」

「え、見えるの?」

「はい……これは本来見えないものなのですか?」

「うん……ていうか、アクルシアでカムイやヴィーナちゃんを気絶させる時にも使ったんだけど」

「その時は見えませんでした……ということは、このアーティファクトの効果なのかもしれません」

 

 そう言ってセンリちゃんは自分のデバイスにぶら下がったキーホルダーを見せてくれる。

 新しく蒼い刀のようなキーホルダーが追加されていた。

 

 アーティファクトを手に入れたというのは聞いていたけれど、霊体を可視化できるようになっているとは思ってなかった。

 

 でも幽霊まで見えているって様子はないし、格の高い霊体だけが見えるのだろうか。

 

「便利だね。宇宙怪獣には霊体を使ってくるのもたまにいるから」

「タナカさんは宇宙怪獣との戦闘経験も豊富なのですか?」

「え、言ってなかったっけ? 僕の式神の大半は元々は宇宙怪獣だよ」

 

 センリちゃんがこめかみを押さえて難しそうな顔をしている。

 

 その間に騰蛇が周囲の子供たちを気絶させてくれた。

 

「行こっか、センリちゃん」

「……わかりました。ですが対象の居場所が」

「大丈夫だよ。【青龍】」

 

 完全顕現では巨大な龍の姿を持つこの式神は、通常顕現ではペンダントのような形状になり龍の装飾の尾が針のように尖っている。

 

「それは?」

「ダウジングってわかる? それのすごい版ってところかな。目的地を示してくれるんだ」

「目的地?」

「青龍、一番近い海賊の場所を教えて」

 

 僕がそう言うとペンダントが独りでに動き出し、ビルの上階を指し示す。

 

「あっちにいるみたいだね」

「……索敵能力も備えていらっしゃるのですね」

「そんなに大層な力じゃないよ」

「防げない探知が大層ではないはずがありませんよ」

「……そういうものかな?」

「そういうものです」

 

 僕らはビルの中に入り、階段を上がっていく。

 

 監視カメラはいたる場所にあったし何度も子供が襲撃して来たけれど、青龍がいれば海賊に逃げられることはないし、騰蛇で全員気絶させるのにそう時間はかからない。

 

 1階と2階は整備場というよりも薬品工業に近かった。

 

「麻薬の類ですね。子供たちに薬に依存させて言うことを聞かせているのでしょう。もしかしたらあの音楽も関係あるのかもしれません」

「特定の行動をしたモルモットにだけ餌を上げることで、その行動を学習させるっていう実験があるのを聞いたことがあるよ」

「人間はモルモットではありません」

「……そうだね」

 

 声色は淡々としているけれど、センリちゃんの瞳はすごく刺々しいものになっていた。

 

 あんな目で睨まれたら僕泣いちゃうよ。

 

 ビルの3階以降は宇宙船の整備用の機械が乱雑に置かれていた。

 気になるのはそこの守りも子供たちばかりで海賊の姿が1人も見えないことだ。

 

 だけど、その理由は最上階に向かえばすぐにわかった。

 

「なんなんだよお前ら……俺の邪魔する気か? 俺は仲間たちの元に帰らなくちゃいけないんだ!」

 

 海賊は1人しかいなかった。

 

 最上階にはその階の8割近くを占める一部屋があった。そこは一際豪華な造りになっていて、大きなベッドや装飾の派手が机や椅子が並んでいた。

 

 今まで上がって来た階に簡素さとはまるで違うその部屋に、灰色の髪の大人の男は僕らを出迎えるように立っていた。

 

「薬で子供に言うことを聞かせてるような人間が、仲間なんて言葉を使っちゃうんだ」

「うるせぇんだよ! それ以上近づくんじゃねぇぞ!」

 

 そう言った彼の傍には子供が5人ほど並んでいる。

 しかし今まで僕らを襲って来た子供たちと違うの箇所が1つある。

 その5人の首には無骨な首輪がはまっていた。

 

 そして、灰髪の男の手にはなにかのスイッチのようなものが握られている。

 

「いかにもって感じだね」

「はい。おそらくあれは……」

「こいつらの首を吹っ飛ばされたくなかったら俺に逆らうんじゃねぇ!」

 

 爆弾付きの首輪ってわけか……

 

「ふっ」

「な、なにがおかしい!?」

「あぁ、いや……っていうか紹介がまだだったよね。僕はタナカ、傭兵団【海賊狩り】の団長だ」

「同じく、団員のセンリ・ゴールドバーグと申します」

「で、笑った理由なんだけどさ」

 

 僕は今まで結構な数の海賊団を壊滅させて来た。

 

 でも、子供を人質に交渉して来たのは初めてだ。

 

「僕さ、ここまで嘗められたのは初めてだったから」

 

 子供の首輪に爆弾を巻きつけてスイッチを持ち出す。まぁここまではいい。

 

 でもなんで本人が出て来たんだろう。なんでこんな距離にいるんだろう。なんでもう終わってるのに今更交渉を始めたのだろう。

 

 理解できない。

 

「――【雪華(セッカ)】」

 

 センリちゃんが加速する。

 いや違う。まるでセンリちゃん以外の世界の速度が減速したような感覚だ。

 

 あのキーホルダーがそのまま大きくなったような形状の蒼い刀を構えたセンリちゃんが、一気に海賊の近付き、スイッチを持った腕の肘を――

 

「あ?」

 

 斬り飛ばした。

 

「あぁぁあああああああああああああああああああああ!!!!!」

「あなたに褒めるべき部分があるとすれば、スイッチの起動に脳波を使用しなかったことです。もしそうしていれば脳髄を破壊して即死させるしかなかった」

 

 空に舞った腕をキャッチしたセンリちゃんは、その手に握られたスイッチを回収する。

 

 そのまま刀の柄で男の首裏を殴って気絶させていた。

 首トンだ。リアルで初めて見た。

 

「殺した方が楽だよ?」

 

 護送する必要がなくなる。

 

「傭兵失格かもしれませんが、私はまだ楽だからという理由だけで人を殺す気にはなれません」

「そう。別に傭兵にらしさ(・・・)なんてないと思うしそれでいいよ」

 

 それから僕とセンリちゃんは攫われていた子供たちを街に返して、海賊もこの星の警察に引き渡した。

 後はこの星の人たちがどうにでもするだろう。

 

 

 宇宙船の戻る子機の中、僕はセンリちゃんに問いかける。

 

「海賊と戦ってると今回みたいなことはよくあるんだけど、傭兵を続けるの嫌になってない?」

 

 海賊退治は戦力が必要であるということ以上に、こういう人の悪意や非道を直に目にしなければならない仕事だ。

 

 僕はさして気にならない性格だからよかったけれど、みんながみんなそうじゃない。

 

 センリちゃんも依頼の最中は海賊に怒りを覚えていたみたいだけど、もしかしたら今は嫌悪感でもう見たくないと思っているかもしれない。

 

「いえ、このようなことが頻繁にあるのならやはり私は傭兵という仕事を選んでよかったと思います」

「どうして?」

「私が傭兵として活動することで、確実に不幸が減っていくのだとわかりましたから」

「そうなんだ、センリちゃんは強いね」

「……いいえ、私はまだまだです」

 

 どうやら僕が危惧していたようなことは、センリちゃんにとっては乗り越えなければならないものですらないらしい。

 

 センリちゃんは見たくないものに蓋をしないといけないほど弱くはないらしい。

 

「そう言えば、今日はミロクがお寿司握るって言ってたよ」

「はい、楽しみですね」

 

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