宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第34話『女神の土地』

 

 気候、温度、空気、重力、様々な問題で宇宙服を着なければ生存不可能な星はこの宇宙にいくつも存在する。

 

 今回の依頼人はそんな人類の生活が困難な惑星に住んでいた。

 

 僕ら3人はシアト爺が住んでいた場所に似たその家のチャイムを鳴らす。

 すると、玄関の扉が開き1人の男が現れる。

 

「よぉ、俺ッサマはアーゴルド・フロイケン。個人で開拓した星の数じゃ誰にも負けねェ、超凄腕の【テラフォーマー】だ」

 

 筋骨隆々で黒光りする肌を持ったスキンヘッドの彼は、サムズアップしながら白い歯を見せつけるように名乗る。

 

「僕はタナカ・テンメイ、傭兵団【海賊狩り】の団長をしてる」

「同じく団員のセンリ・ゴールドバーグと申します」

「人工知能のミロクだ」

「おう、結構な数の傭兵に声をかけたんだが、受けてくれたと思ったら相手を見て逃げ出すヤツらが大半だ。あんたらはそう言わないことを祈ってるぜ」

 

 彼の依頼を受けたのは彼から指名されたからだ。

 けれど、僕らの前にも何人かの傭兵を雇っていたということは彼が傭兵に関して明るいわけではなさそうだ。

 

「もしかして僕らに依頼を出したのって、誰かに紹介された?」

「あぁ、傭兵支援機構の統括管理AIがオススメしてくれたぜ」

 

 なるほど、メルの仕業か。

 

「メルは面倒な依頼を君に出す悪癖があるね。一度、立場というものを分からせてあげるのも悪くはなさそうだ……」

 

 不穏なことを言い出した魔王様(ミロク)を怖いから無視していると、アーゴルドが倉庫から四輪バギーを出してくれた。

 外に出てきたアーゴルドはすでに宇宙服に着替えていた。すぐに目的地に向かえそうだ。

 

「そんじゃあ行くか」

「まぁ、見せてもらえないと判断できないからね」

「タナカさんでもそんな風に思うのですね」

「センリちゃんは僕をなんだと思っているのさ? 僕にだってできないことはあるよ」

「……?」

 

 センリちゃんは何故か無言で首を傾げた。

 

 それにこの星に来た時から嫌な予感はしてる。

 霊感に紐づいている僕の直観は、結構当たる。

 

 

 ◆

 

 

 ほらね。

 

 

 目の前に見えるのは氷の塊だ。

 アーゴルドにこの星の洞窟へ連れてこられた僕らが見たのは2人の女だった。

 

 この惑星の現在温度はマイナス24℃。

 草木は育たず、液体は凍る。

 

 その中でもこの氷は特に異質だ。

 なにせ、中に人間の形をした何かが封入されている。

 

 だがそれは人間ではない。

 僕にはわかる。聞こえている。

 

 これは――

 

「宇宙怪獣だ」

 

 人型のそれは初めて見るし、怪獣なんて呼ばれる存在がここまで整った人間的な美貌を持つのにも違和感がある。

 まるで、女神のようなその2人は美しい青髪と赤髪をしていた。

 

「ッ……」

「ふぅ……」

「初見でそれを見破ったのはあんたが始めてだ」

 

 センリちゃんは息を呑み、ミロクは溜息を吐き、アーゴルドは期待を込めた笑みを僕へ向ける。

 

 この洞窟内には様々な電子機器があり、それらはその氷へ繋がっているようだ。

 多分、この宇宙怪獣を解析していたのだろう。

 

「今は氷の中で活動を停止しているが、こいつらの内包するエネルギー量は太陽に匹敵する。テラフォーミングが進み、星が温暖化し、この氷が解けちまえば、間違いなくこの星は人が星が住める星じゃなくなる」

 

 まぁ、この女神様が守護神にでもなってくれればここは宇宙一安全な星になるだろうがね。と、アーゴルドは自虐的に笑う。

 

「そうだね。でもそれが無理なのはわかっているんでしょ?」

「あぁ、宇宙怪獣に話は通じない」

 

 あの皇帝が言っていた。宇宙怪獣はすべて狂っていると。

 それは僕の経験則でもその通りだ。

 

 式神化する前の宇宙怪獣はすべからく破壊のことしか考えていなかった。

 

 彼女たちも同じだ。

 

『頼む、殺してくれ』

『妾たちはもう生きたくない』

 

 宇宙怪獣がこの程度の氷で封じ込められるわけがない。

 なのに、彼女たちはピクリとも動かない。

 それはこの氷自体が特別なものだからだ。

 

「この氷はなに?」

『この氷は妾たちが暴走を感じた直後に妾たちの能力によって生み出したもの。脱出を縛ることに特化した氷だ』

『妾たちを殺せぬのなら、どうかこのまま放置してくれ』

「よく気が付いたな。この氷は普通の氷じゃねぇ。外からは脆いが中から強い特殊な結晶構造をしてやがる。詳しくはわからねぇが宇宙怪獣を閉じ込められてんのは、その構造のお陰だろう」

 

 女神たちの声は聴こえた。

 意志も理解した。

 

「そっか」

 

 僕は氷に近付き、触れる。

 

「タナカさん?」

「テンメイ……()るのかい?」

「あぁ、それが彼女たちの願いだ。センリちゃんとミロクはアーゴルドをできるだけ遠くに連れて行って護ってあげて」

「……私も戦います」

「いいの? アーゴルドが死ぬよ?」

 

 いや、センリちゃんはわかっているのだろう。

 ミロクが付いていればアーゴルドが負傷する心配はない。

 でも、センリちゃんはわかっていない。この2体はあの皇帝なんかとは、ホープの人工知能なんかとは……比べ物にならないくらい強い相手だ。

 

「おいおい、まさか今からおっぱじめるつもりか? あんたらまで逃げるのは御免だが、こいつらが復活した挙句倒せませんでしたってのはもっと御免だ。勝算はあんのかよ?」

「あるよ」

「どんな?」

 

 どんな?

 霊能力だけど、そのまま言いたくはないし、信じてもらえるはずがない。

 

「アーゴルド・フロイケン、テンメイはアーティファクトを所持しているんだよ。そうだろう、センリ・ゴールドバーグ?」

「……え、あはい。そうです。タナカさんがアーティファクトを使用すれば負けることはありません」

 

 アーティファクト?

 あ、言い訳ってことか。

 僕もなんか言った方がいいかな?

 

 いや、僕は嘘下手だしやめておこう。

 

「アーティファクトか、眉唾の代物かと思ってたか実在するんだな」

「しますよ。この刀もアーティファクトですから」

 

 そう言って、センリちゃんは携帯端末に付けた数センチほどの青い刀のアーティファクトを1メートルほどまで拡大させて見せた。

 

「こりゃナノマシンテクノロジー……でもねぇみたいだな。なるほど、それならあんたらに頼んで正解だったかもな」

「それじゃあ行こうか、アーゴルド・フロイケン」

「おう、荒事はプロに任せるぜ」

「私も護衛いたします」

「ありがとうセンリちゃん」

 

 センリちゃん小さく頭を下げ、アーゴルドとミロクと共にバギーへ乗り込んだ。

 

 そのまま3人はアーゴルドの家があった方向へ帰って行く。

 

 

「さて、君たちの望みを叶えてあげよう。朱雀」

 

 

 名を呼べば、炎が不死鳥の姿となって僕の手に灯る。

 氷が徐々に解け出して、水が地面に染みこんでいく。

 

「アァァァァァァァァァ!!」

「コロス! コワス! ミナゴロス!」

「おぉ、人の発声器官があるタイプは珍しいね。でも、会話は期待できなさそうだ」

 

 そんな言葉を呑気に呟いていると、2人の宇宙怪獣は僕へ手を翳す。

 

「ヒューリア」

「アグニリス」

「ん?」

 

 小首を傾げた僕へ向けて両者の掌より、巨大な氷の塊と同サイズの炎の球が飛んでくる。

 

「わお、ゲームの魔法みたいだ」

 

 僕が驚きの声を上げる直前、朱雀が氷と僕の間に割り込み、その威力を相殺する。

 しかし炎の球は僕の顔面にクリーンヒットした。

 

 朱雀の常在効果。それは僕に対する熱ダメージの一定量までの無効化だ。

 

 六合の常在効果によって物理的な威力も殺されたそれに、僕を傷つける力は一切残っていなかった。

 

 しかし朱雀と氷の結晶が激突し、爆ぜたことによって洞窟が崩壊を始める。

 瓦礫がどんどん振って来て、あわやもう少しで僕らは生き埋めにされるところだったけれど、宇宙怪獣の片方、赤髪の方が上へ向けて灼熱を放つ。

 

 洞窟の上部が空が見えるほどに吹き飛んだ。

 

「シネ」

「コロス」

 

 彼らの本音は霊感を通して伝わって来るが、考えていることは言動とは真逆に近い。

 

『止めてくれ』

『殺してくれ』

 

 あぁ、君たちからのその依頼、僕が引き受けよう。

 

「朱雀」

 

 周囲に炎の小鳥を10羽呼び出す。

 それらは宇宙怪獣たちへ向けて縦横無尽の軌道で飛翔する。

 

 その瞬間、2人の宇宙怪獣が宙に浮く。

 飛行とは違う。浮遊という方が正しい表現だろうか。

 

 その様はまるで女神のようだけれど、惜しむべきは怒りに満ちたその表情だろう。

 

 普通にしていればアイドルにも負けない美貌なのに、表情が激昂しすぎ来ていて妖怪かなにかだと言われた方がまだしっくりくる。

 

銭財(せんざい)の吉将・(とら)たる天蓋(てんがい)・北東の星――名を【青龍】」

 

 洞窟の天井に空いた穴より逃げていく彼女たちを追って、青龍の上に乗った僕も追いかける。

 

「洞窟の中じゃ窮屈だもんね」

 

 草木のない荒れた白い大地。

 

 普通の人間では呼吸すらできないテラフォーミング途中の星。

 そんな誰もいない星の空中で僕らは対峙する。

 

「「ッ……!!」」

 

 炎と氷が同時に青龍に向けて放たれる。

 

「天空」

 

 僕の目の前にあいた異空への穴がそれを飲み込み無へと帰す。

 

 朱雀が旋回し、氷の方の宇宙怪獣に迫る。

 朱雀は熱耐性の常在効果があるから氷の方を危険視しているんだろう。

 それに氷が炎に弱いっていうのもゲームじゃ鉄板だ。

 

 しかし炎の女神が氷の女神を庇うように前に出る。

 渦巻く炎を前方に展開して朱雀を受け止めようとするが……

 

「それはさすがに嘗め過ぎだ」

 

 全10羽の朱雀の攻撃は、その程度の壁では防げない。

 激突し、爆発を起こし、炎の壁は崩壊して、炎の女神の身体に朱雀が何羽か激突した。

 

 完全顕現ではなくても、朱雀の一撃は人間なら粉微塵になるほどの火力。

 それが10羽。

 小さい軍艦くらいなら沈める威力はあるはずだけど……

 

「ク……」

 

 肌は結構焼けただれているけれど、わりとぴんぴんしてる。

 さすがに宇宙怪獣だけある。

 

 しかも氷の女神が手を翳すと、炎の女神の傷が逆再生のように治っていく。

 

「天后みたいな回復能力もあるのか……じゃあそっちから先に狙わないとね。病辣(びょうら)の凶将・(さる)たる羅刹・南西の星――名を【白虎】」

 

 雷の速度で走るその一撃は、あの宇宙怪獣の反射速度じゃ追い切れない。

 完全顕現によって体躯と電力を限界まで発露した白虎の一撃、普通の雷の百倍近いパワーを持つ。

 

 その刹那の突進が、氷の女神を穿つ。

 牙が首筋に食らいつき、そこから電力が一気に彼女に流れ込む。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 大絶叫。

 全身を黒く染めて、氷の女神は死んだ。

 

 

 

 

 

 死んだ、殺した……そのはずだ……

 

「ヒューリア」

「アグニリス」

 

 しかし、炎の女神が氷の女神の死体に手を翳すと、氷の女神は完全な状態まで再生してしまった。

 

 どうやら、ヒーラーは両方だったってことらしい。

 

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