宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第35話『テラフォーマー』

 

 それにしても、蘇生までできるなんて面倒だな。

 

「同時に倒すしかないのかな?」

 

 迫る氷を青龍がブレスで砕き。

 迫る炎を朱雀が対消滅させる。

 

 僕、そんなに器用じゃないんだけどな。

 

 まぁちょっと面倒くさいし彼女たちには悪いけれど、何時間でも殺し続ければいいか。

 

 そうすればいつか同時に死ぬタイミングもあるだろう。

 

『了解しました』

 

 それは機械を通したスピーカーの声。

 その出所の巨人、TW【白桜】は高速で僕らの元まで飛んできた。

 

「センリちゃん……なんで戻って来たの?」

『私が団員で、あなたが団長だから。それ以上に理由は必要ですか?』

「……いや、そっか、ありがとう。それでちょっと困ったことになってるんだけど聞いてくれる?」

『できれば簡潔にお願いします』

「あれ、同時に倒さないとダメみたいなんだ。でも僕の式神って結構勝手だし、式神を操る練習なんて僕はしたことないし、適当に暴れるしかないかなって思ってたところだったんだけど……」

『タナカさんが暴れるときっと今後のテラフォーミングに支障が出ますよ』

「……僕はミロクと違って破壊神とか魔王みたいなことはするつもりはないよ?」

『するつもりがなくてもそうなりそうなのが不安と言いますか。取り敢えず状況は理解しました。では、こうしましょう』

 

 センリちゃんが言った提案はとても単純なものだった。

 

 センリちゃんが2体同時に斬る。

 

 ただそれだけ。

 

「できるの? 相手は宇宙怪獣だよ? 普通の兵器が通用するとは思えないけど」

『はい。なので、あの剣を貸していただけますか?』

「あの剣……?」

『タナカさんが皇帝が使役していた余獣に使っていた剣です』

「あぁ、勾陳のことか。わかった」

 

 勾陳は決まった姿を持たない。

 それはあらゆる形態に姿を変え、サイズもある程度自由に設定できる。

 勾陳の力はその形に込められた役割を強化することと、霊的な存在に対しての特攻。

 

 宇宙怪獣相手ならかなり有用な攻撃手段だ。

 

「勾陳」

 

 僕が呟くと白桜の前に巨大な黄金の剣が姿を現す。

 白桜はそれを左手に握り、搭乗するセンリちゃんが『抜刀』と呟くと右手には青い刀が現れる。

 

 あれがセンリちゃんが手に入れたアーティファクトか。

 その刃が抜き放たれると同時に膨大な霊力が解放された。

 

 宇宙怪獣の死骸から造られた兵器なのだから、霊能を宿すのも頷ける。

 

 そしてあれの効果は多分僕の持つどの式神とも違う能力。

 おそらくあれは〝時間の操作〟だ。

 

「すごいね、僕にもできない領域に君は手を伸ばしている」

『いえ、私はまだまだです』

 

 脚部と腰のブースターが一斉に点火し、白桜が一気に加速する。

 

 2刀の刃を交差させるように構えたセンリちゃんに……

 

「ヒューリア」

「アグニリス」

 

 巨大な氷塊と火球が迫る。

 

 人体改造込みのプロピッチャー並みの剛速球に加えて、センリちゃんの機体は前に進んでいるんだ。

 その体感速度は時速400km近いはずなのに、センリちゃんは当たり前のようにその2つを左右の刀で切り払う。

 

 そのまま返す刀で2人の女神の首を同時に斬り飛ばした……

 

 そして、女神たちはもう復活しなかった。

 

 

 

 

 

「やるじゃんセンリちゃん」

 

 戻って来たセンリちゃんを労うようにそう言うと、

 

『光栄です』

 

 スピーカーからそんな声が聞こえ、白桜が手を開いて中の物を僕へ差し出した。

 

 それはレゴブロックくらいのオレンジと水色の結晶だ。

 

「宇宙怪獣の核だね」

 

 六合を式神にした時もこれを媒体にした。

 

「それ、どうするの?」

『私はいつもタナカさんに貰ってばかりです。だから今回は私にプレゼントさせてください』

 

 これがあれば、僕はあの2人の女神を自分の式神にできる。

 

 でも、それはしない。

 

 あの2人の望みは死ぬことだった。

 折角その願いが叶ったのに、蘇らせてしまったら本末転倒だ。

 

 なんとなくわかるんだ。

 僕の式神になる選択肢を彼女たちは望まないって……

 

「悪いけど、僕が貰っても使い道は思いつかないかな」

『そうですか……メルさんに見せればアーティファクトを造ってくれそうですが……』

「僕に必要だと思う?」

『たしかに、それもそうですね』

「とりあえず倉庫にでも入れておく?」

『わかりました。そうしておきます』

 

 

 ◆

 

 

 ――私たちは暗い海を漂うだけの存在だった。

 ――他者との交流は稀に似た存在と出会い、少しの会話をする程度。

 ――今思えば、私はきっと他者が恋しかったのだろうと思う。

 ――だから私は私を2つに分けた。

 

 ――それでも孤独が埋まったのは最初だけだった。

 ――すべてが分かる互いがいるだけ。それは私たちが求める交流とはまるで違った。

 ――そんな時にこの星を見つけた。この星には会話が可能なほどの知性を有する種がいた。

 ――私たちは彼らと話し、彼らを護り、本物の交流を手に入れた。

 

 ――私たちは今、満足している。人々との交流は絶え間のない退屈を埋めてくれた。

 

 ――最近、自分が変だ。おかしい。

 ――意識を失うことが増えた。

 ――私たちが意識を失うと、この星にとって悪いことが起こる。

 

 ――意識を失い頻度が増えている。おかしい。

 ――私たちの中に何かが渦巻いている。

 ――強い命令のようななにか……憎しみのような感情が溢れてくる。

 

 ――このままではいけない。なんとかしなければ。

 ――大規模に畑が荒らされた。天変地異が起こる。人が大勢死ぬ。

 ――私たちは気が付いた。これは、私たちが起こしている。

 

 ――このままではいけない。このままではいけない。このままでは……みんな……

 

 ――どうにかしたかった。どうにもならなかった。この星の知性種は絶滅した。

 

 ――荒れた大地と誰もいなくなった星を見て、私たちは理解した。

 ――私たちは生きていてはいけない生物だった。

 ――2つに別れてしまったことで私は自死できなくなっていた。本能的に互いが互いを補完し、蘇生してしまう。

 

 ――もう嫌だ。もう無理だ。

 ――だったら眠ろう。

 ――自分でも破れぬ牢を造ろう。未来永劫、あのようなことが起こらないように。

 

 

 ◆

 

 

「あの氷と一緒に封じられていた石板を解読したら、こんなことが書かれていたよ。テンメイ、これは彼女らの日記のようなものみたいだね」

 

 宇宙怪獣の討伐から2日後、ミロクが読み聞かせてくれたのはあの2人の女神の歴史だった。

 

「でも、宇宙怪獣の暴走って千年前でしょ? その時この星に知性種なんているはずないと思うんだけど……」

「可能性はあるだろう。人間がいるんだ。人間以外の知的生命体が存在したって不思議じゃない。人類とは別に生まれた知性種。つまりは、宇宙人がこの星にいたってことだ」

 

 この宇宙に地球以外を故郷とする知的生命体は存在しない。

 

 でも、人類が宇宙に進出してすぐにこの星の文明が滅びたのならその可能性はあるってことか。

 というか、こんな日記があってあんな女神様が実在してたんだから、いたのだろう。

 

「残念だね。会ってみたかったな」

 

 僕がそう言うと、センリちゃんが嬉しそうに頷く。

 

「タナカさんは、やっぱり優しい方ですね」

「そんなことないけど……それにしてもセンリちゃん凄かったね。宇宙怪獣を倒したんだから」

「いえ、しかし正直な話、あまり手応えはありませんでした」

 

 たしかにあの女神様は僕が今まで戦ってきた宇宙怪獣に比べれば規模間が違った。

 やって来たのは炎と氷の塊を飛ばしてくるだけ。あと浮遊。

 

 でも、僕が今まで出会ってきた宇宙怪獣は星を壊せるくらいの強さだった。

 それに比べてば、たしかに今回の宇宙怪獣は肩透かしだ。

 

「寝起きだったからかな?」

「違うだろうね。おそらくは気候の操作そのものが……」

 

 そこまで言いかけたことで家の扉が勢いよく開く。

 

「おい、さっきまでと比べて惑星全体の温度が上がってやがる!」

 

 リビングに入ってきたアーゴルドはかなり焦っている様子だ。

 

「どういうこと?」

 

 ミロクが咳払いを1つして、話を再開する。

 正直今はアーゴルドの問題を解決した方がいいんじゃないかと思ったけれど、ミロクがここで言うってことは今この瞬間に言った方がいい内容ってことなんだろう。

 

「あの宇宙怪獣はこの星の気候を操作していたんだ。そもそも千年前にこの星に文明があったとして、平均気温がマイナス24℃以下じゃ、作物も育たないし、生物が生きていくなんて不可能だ」

「……あの宇宙怪獣が気候を生物にとって都合のいいように整えていたということでしょうか?」

「それは順序が逆だね。あの宇宙怪獣がこの星に来た時にはすでにこの星には文明があった。しかし自我の崩壊と共に彼らは自分たちを封印した。永劫解けない氷の牢。それを維持するために、この星の気温を下げ続ける必要があったのだろう」

 

 ミロクの説明を受けてアーゴルドは「なるほど」と頷いていた。

 

「それなら納得できるな。たしかに太陽との位置関係を考えてもこの星は寒すぎた」

「じゃあこのまま放置してたらテラフォーミングも完了するってこと?」

「そこまで単純ではねぇな。大気の問題はまだ残ってる。だが温度の問題が解決するなら後はそう難しいことはねぇ」

「それはよかったね」

「あぁ、だがもう少し付き合ってもらうぞ? 依頼内容は俺のテラフォーミングの手伝いなんだからな」

「わかってるよ。でも契約期間はそんなに長くは無理だからね?」

「あぁ、問題ねぇ」

 

 

 それから僕らはアーゴルドのテラフォーミングを手伝った。

 空気成分を調べ、それの発生元を潰し、人間が呼吸可能なように空気の成分を調整していく。

 植物を植え、光合成をおこなわせ、酸素を発生させる。

 

 動物を連れて来て二酸化炭素とのバランスを取る。

 テラフォーミング装置と大量のアンドロイドを使っているとはいえ、管理だけでもかなり骨の折れる作業だった。

 

 僕はほとんどなにもしてないけど。

 

「なるほど、テラフォーミングのやり方は教科書の内容としては知っていましたが実際にはこのような順序を踏むのですね」

「私も大量の機械を管理するのは少し面白かったよ」

 

 センリちゃんとミロクはなにか得る物があったらしい。

 一カ月も経っていないけど、かなり満足そうだ。

 

「マジで助かったぜ。ミロクはあれだけの数のアンドロイドや機械を管理して纏めてくれたし、センリはTWや重機の操縦技術はアンドロイド以上だった」

「まぁ感謝を受け取っておくとしよう」

「こちらこそ、色々と学ばせていただきました」

「タナカさんも、ありがとな」

「僕は何にもしてないよ。でも、テラフォーミングって大変なんだね。なんでこんなことしてるの? 割りが良いの?」

「まぁ給料は悪くはねぇな。住みよい星にすりゃそれだけ高値で売れるし。だが、個人で開拓したの星ナンバーワンの超凄腕の俺でも今までテラフォーミングに成功した星は12個。だがその倍以上の星を人の住めない星にしてる」

 

 だから、と彼は続ける。

 

「これは罪滅ぼしみたいなもんだ。俺以外にテラフォーミングさせるより、俺がやった方が成功率は高ぇからな」

「……そう。じゃあ僕もテラフォーミングして欲しい星があった時は君に頼むとするよ」

「おう、任せときな」

 

 僕はアーゴルドと握手を交わした。

 

 

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