この宇宙に存在する3つの大国のうちの1つ。
商業国家『トラセウム』は、国家として領土を有していない。
しかしそこに所属する企業は無数の惑星とコロニーを保有しており、7大メガコーポと呼ばれる最大手ともなればそれぞれの企業が数百の星を有しているほどだ。
数多の企業が拠点とするトラセウムの経済力は宇宙1とも言われるが、国内部では日々流血すらいとわない経済戦争が行われていると噂されている。
そんな国の首都コロニー『ネビュラ・プライム・ハブ』に僕ら3人はやって来ていた。
「それにしてもニノミヤさんも優しいよね、あの日のお礼にわざわざ招待してくれるなんて」
「そうですね。適正な依頼料はいただいているので少し申し訳ないです」
「それにしても彼も出世したものだね。費用は全部向こう持ちで観光させてくれるのだから」
ニノミヤさんからメールが届いたのは今から1週間ほど前だ。
メールにはニノミヤさんの近況、ネビュラ・プライム・ハブで起業したこと、業務もそれなりに上手くいっているという話が書かれていた。
その上で、費用は全部持つから会社の見学に来ないかと誘ってくれた。
ネビュラ・プライム・ハブは世界中の有力企業が集まる宇宙商業の中心ということもあって、コロニー開発は目覚ましい。
ニノミヤさんは自社の見学だけではなく、この
そんな雑談をしながらネビュラ・プライム・ハブの宇宙港を歩いていると、ニノミヤさんの姿はすぐに見えてきた。
どうやら僕らが到着するのを待っていてくれたらしい。
「皆さんお久しぶりです」
ニノミヤさんはかなり小柄だから逆に目立つ。すぐに見つけられた。
黒いスーツ姿からは以前会った時と同じような苦労人のオーラが感じられたけれど、腕時計やネクタイピンなど、ところどころ以前より高価な物に代わっている。
メールで言っていたように、それなりに稼いでるんだろう。
「初めまして、自分は『メタロヴァニア鉱業』副社長のアシア・イレハっす! よろしくお願いしやす!」
元気よく挨拶してくれたのはニノミヤさんの隣にいた赤毛の活発そうな青年だった。
とはいえ、ニノミヤさんと同じメタロ星人らしく体躯は子供っぽい。
ニノミヤさんとは違い作業着を纏った彼からは、役員というよりは鉱員という雰囲気が溢れていた。
「タナカ・テンメイ、傭兵団『海賊狩り』の団長をしてるよ、よろしく。ニノミヤさんも久しぶり」
「センリ・ゴールドバーグと申します。同じく傭兵です」
「ミロクだ。彼らの世話係のようなものだと思って欲しい」
「いや、ミロクも団員だよ。メルにも話を通したし」
「……そうだね。改めよう、私も団員だ」
「人工知能が傭兵っすか? いえ、了解したっす!」
ちょっと体育会系なのが気になるし、副社長が若すぎるような気もしなくはないけれど、彼自体に嫌な感じはまったくしない。
なんというか……熱血だ。
「それにしても、アシアさんはかなり若いですね」
僕が思ったのと同じ疑問をセンリちゃんが口にすると、ニノミヤさんは少し困ったように頭の後ろに手を当てながら答える。
「私の事業はメタロ星人の技術力が不可欠なのでメタロ星に向けて広告をかなり打っているのですが、大人たちからはあまり信頼されていないようで求人募集に来てくれるのは若者がほとんどなんです」
頭の後ろに手を回し、困ったように笑うニノミヤさんに、
「歳をとるほど環境の変化を嫌い挑戦をしなくなるというのは人間の習性のようなものだからね」
ミロクはいつも通りの毒舌を返す。
「その通りっすね。大人共はこれが自分たちの新しい可能性だって気が付いてねぇ。うちの社長のことを詐欺師だなんて言う連中まで出る始末だし……」
ミロクの嫌味に同調するようにイレハがそう吐き捨てる。
「イレハ、私は気にしてないから。それに言葉遣いを気を付けてといつも言ってるよね?」
「でも社長、そりゃキツイことがないわけじゃないけどこの会社は基本的にずっと上り調子だし、自分たち従業員に対する条件もいいじゃないっすか。その事実を見ても理解できねぇヤツらは本当に馬鹿ですよ!」
「イレハ……だとしてもそれをこの方々に言う意味はありますか?」
「……それは、申し訳ねぇっす」
「やはり口調が気になるところですが、それは今後に期待だね。皆さんも部下が失礼しました」
「いいや、気にしてないよ」
彼にも色々と憤りがあるらしい。
でも、彼の言はすべて会社を庇うような発言だった。
それはニノミヤさんの会社が従業員から好まれている証拠だろう。
「でも、従業員が見つからないっていうのはニノミヤさんも色々大変そうだね」
「いえ、メタロ星人の技術は若者でもかなりのものですから問題というほどのことはありません。それに今は会社経営が楽しいんです」
そう言ったニノミヤさんの表情は晴れやかなものだった。
「それでは、まずは私の会社にご案内してもいいでしょうか?」
「もちろん、今回は招待してくれてありがと」
「楽しみです」
「私が経営状況を評価してあげよう」
ミロクの嫌味にニノミヤさんが「それは頼もしいですね」と返し、僕らはニノミヤさん案内の元『ネビュラ・プライム・ハブ』を進んでいく。
この
第1階層以外は入るのに入場許可証を購入する必要があり、僕らはニノミヤさんからメタロヴァニア鉱業の本社がある第3階層までの許可証を貰った。
第3階層の入場許可証は1枚で1000万CMするらしく、ミロクの分は必要なかったとはいってもこの時点でニノミヤさんにはかなりの出費をさせてしまった。
ちなみに第4階層の入場許可証は1億、第5になるとその値段は一気に100億CMまで上がるらしい。
その代わり、高階層にいくほど平均的な取引額が上がっていくのだとか。
「第6階層ではどんな取引が行われてるんだろうね?」
「それは私も入ったことがないのでわかりませんね。でもきっと想像もできないようなものが売られていると思いますよ」
「へぇー、行ってみたいな」
「申し訳ありません。さすがにそこまでの財力は私の会社にはなくて……」
「ごめんごめん、そういう意味じゃないよ。行きたい時は自力で行くから」
そう言った僕をニノミヤさんはぎこちない笑みで、イレハは不思議そうな目で見ていた。
コロニーの中心に通った第6階層まで直通している空中エレベーターに乗って、第1・第2階層を見下ろしながら僕らは第3階層まで進む。
階層ごとの物理的な
「この入場許可証があれば第3階層までは自由に行き来できますので、会社を見た後は自由に周っていただいて大丈夫です。ホテルも1週間ほどは取ってますので」
「色々ありがとねニノミヤさん」
「いえいえ、皆さんがいなければ私はあの時終わっていました。これくらいは当然のことです」
メタロヴァニア鉱業に到着する。
第3階層の中でも都心から少し離れた場所にあるそこには、ビルと工場が隣同士に並ぶ珍しい感じになっていた。
できたばかりの会社なわけだし、近い場所にある方が連携も取りやすいんだろう。
「メタロヴァニア鉱業の業務内容は危険惑星での採掘ですよね? 加工までやられているのですか?」
「インゴットなどに加工する際に、業者を間に挟むより自分たちでやってしまった方が売り上げはよくなりますので。それにメタロ星人は鉱物の加工に関しても一日の長がありますから」
「なるほど、合理的な判断だ」
ニノミヤさんの言う通り工場では鉱石の加工作業が行われていた。
従業員は見える限り200人以上いて、半分以上は若いメタロ星人だ。
「社長! この設計図見てください、新しい作業ラインを考えてみたんです!」
「こっちの重機なんですけど、新しいヤツにした方が長期的に見てコスパが……」
「7番採掘チームの成績が落ちてるみたいなんすけど、話を聞いてる限り契約してる傭兵と揉めてるっぽくて、でも自分たちから社長には言い難いっぽくて……」
上り調子の会社という割りには相談や要望が多いね。
でも、それを見たミロクやセンリちゃんの表情はどちらかというと安心するようなものだった。
「従業員が社長に対して物怖じすることなく要望を言えるのは珍しい」
「そうですね。誰も失敗や非効率を隠そうとしていません。それは彼ら自身がこの会社を成長させたいという当事者意識を持っているからこそでしょう」
会社経営どころか、学校の仲良しグループにすら所属したことがない僕にはよくわからない概念だけど、2人がそう言うのなら悪い状態じゃないってことなんだろう。
それからビルの方も見たけど、社長を見つけた職員の反応は工場で働く人たちとそう変わらなかった。
ニノミヤさんはその1つずつに丁寧な返事を返していた。
あんなに大量の問題を一気に投下されたら僕なら頭が回らなくなる。
そもそもニノミヤさんには経営者としての才覚があったってことなんだろうね。
もしくは商業国家トラセウムの空気感がニノミヤさんの肌に合っていたのか。
どちらにせよ、今のニノミヤさんは初めて会った時よりよっぽどいい顔をしている。
多くの人に尊敬されるその姿は僕とは対極で、眩しさに目を瞑ってしまいそうになる。
その後、ニノミヤさんの会社の成長度合いや総資産とかいろいろ説明してくれた。
「素晴らしい成長曲線ですね」
「あぁ、ここまで短期間で伸びる会社も早々ないと思うよ」
「偶然が重なった結果です。メタロ星人の価値に誰も気が付いていない状況。レアアースが多く埋蔵されていても採掘が難しいため手つかずの星々。そして、あなた方に出会えたこと。私は本当に恵まれています」
僕は文字や数字を見てもよくわからなかったけど、センリちゃんとミロクの反応を見る限りかなり上手くいっているようだ。
「ニノミヤさん、今楽しい?」
僕がそう聞くと、彼は満面の笑みを浮かべて返答する。
「はい。今までの私の人生で、今が一番楽しいです。でもきっと、その楽しさはこれからさらに更新されていくと思います」
「そっか。それならよかった。また困ったことがあったらいつでも言ってね。報酬を貰えればできることはするよ」
「ありがとうございます!」
それからは僕らはニノミヤさんが取ってくれたホテルに向かった。
荷物はすでに運び込まれていて、それからは自由時間ということになった。
「センリちゃんはなにかしたいことあるの?」
「はい。折角なのでメルさんにご挨拶に行こうかと」
「そういえば、アーティファクトを製造する時にセンリちゃんは1回この都市に来てるんだっけ?」
「はい。その時アーティファクトを製造していただく伝手を得たので、今回はヒューリアとアグニリスから手に入れた核を鑑定していただこうと思います」
ヒューリアとアグニリスは、以前テラフォーミングを手伝った星で遭遇した宇宙怪獣だ。
名前はわからなかったから、彼らが唱えていた呪文のような言葉を名前として読んでいる。
「わかった。ミロクは?」
「私もメルに会いに行ってくるよ。たまには彼女を揶揄うのも悪くない」
「……ほどほどにしときなよ? それじゃあ僕は少し散歩してこようかな」
そうして僕らは別行動で街に出ることになった。
◆
ビクティリアから豪華さと統一性を削ぎ、そこにあるものを変化させることに怖れを抱かなような建築とものの雑多さは僕には真新しさを感じさせた。
一番驚いたのは『看板』の数だ。
電子的な看板以外にも、板に絵を描き色を塗ったような原始的な『広告』も幾つもある。
それだけ多くの企業がこの都市で活動しているということなのだろう。
目的地もなくそんな風景を眺め、なにか面白そうな物がないか探しながら歩いていると、目に留まったのは1つの寂びれたゲームセンターだった。
大抵のゲームはダウンロードして家でやれるし、友人と一緒に楽しむとしてもオンラインサービスが充実した現代で、そのゲームセンターは数百年前の『レトロゲーム』を題材にしていた。
それでも寂れているのは、結局中毒性でも革新性でも現代のゲームに勝れなかったからなんだろう。
レバーやボタンを操作するなんて『まどろっこしい』ことを好んでやる人間は少ない。
「入ってみよっかな」
それでも僕がその店に入ったのは、物珍しさからくる興味本位以外の何物でもなかった。
中は薄暗く、天井にぶら下がったライトよりもゲームの筐体から出た光の方が強いくらいだった。
閑古鳥が鳴くとはまさにこのことだろう。
店内を見渡しても人の姿はまったくなかった。
僕は端末を取り出し、電子通貨を
それを筐体に投入することでゲームをプレイすることができるらしい。
ブロックを壊すゲーム。
おじさんを左から右に走らせるゲーム。
レバーとボタンで2Dのキャラが戦うゲーム。
他にも、飛行機を操作して敵を撃破していくゲームとか、迷路の中で敵から逃げ続けるゲームとか、ドット絵のRPGとか、太鼓を叩くリズムゲーとか、もはやディスプレイすらないエアホッケーをやってみた。
とはいえ、対戦ゲームは1人でやってもNPCとしか対戦できなくてつまらなかった。
それでも上級のNPCが倒せなくて、なんとなく格ゲーを続けていると店の入り口が開いて1人の女の子が中に入ってきた。
多分、センリちゃんと同い年くらいだろう。
長い黒髪に白衣を纏った彼女は髪もボサボサで、暗いから鮮明にはわからないけど多分すっぴんだった。
あまり外見を気にするような性格じゃないんだろう。
1人でゲームをやっていた僕を少し驚いたような表情で一瞥した彼女は、今時珍しい『財布』を取り出しながら僕の対面の筐体に腰を下ろした。
『対戦者が現れました』
NPCと戦っていた画面にそう表示される。
対戦を了承すると相手は炎を使う女キャラだった。
僕は拳からビームを出す筋骨隆々の主人公キャラで対抗したけれど、1戦目は体力ゲージを3割くらい削ったところで普通に負けた。
2戦目からは僕の攻撃はほとんどガードか回避され、相手のHPは1割くらいしか減らせなかった。
3戦目に関しては攻撃すべてが完璧にパリィされてパーフェクトゲームになった。
「うまっ」
敗北のリザルト画面を見ながら思わずそう呟くと、僕の独り言に返答が返ってきた。
「あなたはまず自キャラと敵キャラの性能を把握した方がいい」
「でも僕このゲームやるの初めてだし」
「へぇ、そうなんだ。じゃあちょっとトレーニングモード来て」
言われるがまま招待を受けて、それから彼女は僕が使っているキャラの技や間合い、特性を細かく3時間くらい教えてくれた。
「あなた、絶望的にゲームセンスがないね」
その結果、彼女の出した結論はそれだった。
「でも君のお陰でちょっとは上手くなれたよ」
「多少で意味ある? 1番になれるわけじゃないのに」
「別に僕プロゲーマーとか目指してるわけじゃないし、楽しいからやってるだけだよ」
「楽しいから……なるほどね」
「なに? 君はプロとか目指してるの?」
「いいえ、私はただの研究者よ。でも最近はお金の計算ばかりしてる」
このコロニーは宇宙1の商業都市だ。
そういうこともあるのだろう。
「ここには息抜きでよく来てるの」
「そうなんだ。僕は散歩してたらたまたま見かけて入っただけだよ」
ゲームをするのは楽しい。1人でできるから。
でも、ゲームを誰かとするのはより楽しい。
僕がゲームをやってる理由なんてそれくらいだ。
でも、この子はなんというかもう少しネガティブな理由でここにいるような、そんな雰囲気があった。
「あなた、【幽霊】って信じる?」
「……え?」
科学全盛の宇宙時代。
この世界でそんなことを言った人間は初めてだ。
もしかしたら、この子も僕と同じ――
「ごめん。忘れて」
「いや、僕は信じてるよ。ていうか、見たことある」
「……そうなんだ」
そう言った彼女の声はどこか嬉しそうだった。
「私も幽霊を信じてる。それはどこかからずっと私たち見ていて、一族に祝福と呪いを与えているのだと、そう思わなきゃやってられない」
筐体の横から僕の方へを顔を出して、彼女は困ったように笑った。
「ごめんね。巻き込んじゃって」
その言葉が僕の耳に届いた瞬間、室内が『真っ白』で覆い尽くされた。
◆
数カ月前に来た時とその研究所の様子はまったく変わっていなかった。
シアトさまからいただいた社員証を通すと奥への扉が開く。
今回は私だけではなくミロクさんも同行している。
しかしこのロビーには監視カメラがいくつかあるのだから、扉が開いたということは問題はないということなのだろう。
「センリさま、ミロクさま、ようこそいらっしゃいました」
そう言って出迎えた雪のように白いアンドロイドは、透明なカプセルの中で優雅な一礼を見せる。
「お久しぶりですメルさん」
「健勝のようでなによりだ」
「健勝……アンドロイドに使う言葉としては少しおかしくないですか?」
メルさんの言動も、彼女を扱ったミロクさんの言葉も、何故が彼女の機械性を否定しているようだ。
ミロクさんは元人間ということだからわからなくもないが、彼女は本当に何者なのだろう?
ミロクさんは知っているのだろうか?
しかし彼女の根底は、きっと私がSランクの傭兵になり、彼女の願いであるSランククエストを知ればわかること。
今の時点で問いただす気はない。
「新たに宇宙怪獣の素材を手に入れたのでその鑑定と、可能であればアーティファクトの製造をお願いしに来ました」
そう言って取り出した2つの結晶体をメルさんから伸びた管が受け取る。
それを装置の中へ入れながら、彼女はなにかを思案するように呟いた。
「なるほど……」
少し
「傭兵団『海賊狩り』に傭兵支援機構より依頼を出してもよろしいでしょうか?」
「今かい?」
「はい。このネビュラ・プライム・ハブ内で非常に緊急性が高い依頼が発注されているのです。その難易度と近場にいる傭兵を考慮した結果、あなた方に依頼を出すことが最も成功確率が高いと判断いたしました」
「申し訳ありませんが、この場には我が団の団長がいません。その依頼を受注するかどうかをタナカさんなしで判断することはできません」
そう言い切った私に対して、見透かしたような瞳で見たメルさんは語り出す。
「トラセウムを運営する7つのメガコーポ。その内の1つである『ゼノ・エナジー社』の取締役の一人娘はかなりマイペースな方のようで、業務を放り出してどこかへ出かけてしまったそうです」
「受けるかどうかは判断できかねると言ったはずです」
「それも初めてのことではないらしく、その行動パターンはいくつかの敵対組織に露呈しているようです。この国で最大級の会社、国家運営の一角すら担う者の一人娘。それを狙っていくつかの組織が動き出したという情報がすでに入っています」
「……」
「早く止めなければ彼女がどのような目に遭うか。身代金を要求する程度ならよいですが、ゼノ・エナジー社の乗っ取りを企んだ者が精神を改造したり、破壊するようなシナリオも当然に考えられます」
私はメルさんを睨んだ。
だが彼女には動じた様子はない。
わかっている。
彼女は私の性格を利用しようとしている。
それだけ緊急性が強い依頼ということだろう。
それだけ解決可能な人員が近くにいないということだろう。
でも――
「入場許可証の使用記録を追って、彼女が第3階層にいることはわかっています」
「そんなやり方を……」
傭兵支援機構がしていいんですか? そう問おうとした私の肩をミロクさんが掴んだ。
「つまり君が使いたいのは私の力か。私の能力があればこの都市の監視カメラの映像をジャックし、瞬時に処理できる。それでその令嬢がどこに行ったのか見つけて欲しい。だからセンリ・ゴールドバーグを焚きつけているわけだ」
「……だとしたら、どうされますか?」
「気に食わない話だね」
薄ら笑いを浮かべながらミロクさんがそう言うと、メルさんはどこか怯えたような……私に初めて見せる
「だが乗ってあげよう。うちの副団長は、今の君の提案を払いのけられるような一般的な思考回路を有していないからね。それでいいね、センリ・ゴールドバーグ」
「……ですが、タナカさんにはなんと」
「テンメイに迷惑がかからないように私たち2人で解決すればいい」
「……そういうことなら、申し訳ありません」
「一応は同じ傭兵団の〝仲間〟だからね」
正直驚いた……
この人がこんなことを言うなんて。
ホープでの一件からこの人の心境にもなにか変化があったらしい。
「ありがとうございます」
私がそう言うと、ミロクさんは小さく微笑んだ。
「だがメル、報酬は高く付くよ?」
「あなたのハッキング技能があれば、私のすべてなど好きな時に奪えるでしょう。そんなあなたがなにをお望みですか?」
「そんな悪魔のようなことを私がするわけがないだろう? 私をなんだと思っているんだ」
……すごくしそうだ、と思った。
けど、黙っていよう。
「じゃあ、このコロニーの第6階層の入場許可証は? テンメイが行きたがっていたんだ」
「それは小さな国の国家予算並みの値段がするので、申し訳ありません。ですがそうですね、では第4階層の入場許可証と傭兵ランクの向上で手を打っていただけませんか?」
たしか、第6階層の入場許可証は『10兆CM』だったはずだ。
そんな大金、さすがに傭兵支援機構と言えど普通に出せるわけがない。
「少ないね……まぁいいだろう。私は優しいから、それで手を打ってあげようか」
「ありがとうございます、ミロクさま」
ミロクさんもそんなことはわかっていたのだろう。
最初からこの流れを目論んでいたようだ。
でも、第4階層の入場許可証も1億CMくらいするはずだけど……それは出せるのか。
「お帰りになる前に鑑定は終わらせておきます」
「そうか。では行こうか、センリ・ゴールドバーグ」
「はい。ですが場所は……」
「今割り出した。第3階層にある潰れかけのゲームセンターのよう……だ……まずいな」
ミロクさんが言葉に詰まっている。
その表情もどこか焦っているようにうかがえる。
この人がこんなに冷静さを欠くのは珍しい。
なにかあったのだろうか?
「まずい?」
「もう襲われている」
「なっ、では急がないと!」
「いや、それは別にいいのだが……その場に我らの団長の姿があるんだよ……」
タナカさんが……護衛対象の傍にいる……?