宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第39話『発明の英雄』

 

 誘拐犯を警察に引き渡した後、面倒な取り調べを受けて、結局僕らが宿泊先に戻って来たのは午後10時を回った後だった。

 コロニーは太陽光を受け入れる開閉口を制御することで、1日を24時間で管理しているから日付や時間がわかりやすくていい。

 

「それで結局あいつらはなんだったの?」

 

 ホテルの夕食を摂りながら、僕はセンリちゃんにそう問いかける。

 バイキングが24時間空いていてよかった。ロボット様々だね。

 

「おそらくは他の7大メガコーポのいずれかに雇われたアウトローだと思います。とは言っても軍人崩れが何人もいたので、アウトローの中でもかなりの上澄みだと思いますが」

「軍人をやめてまで犯罪者になったってこと?」

「きっと、その方が儲かるからだと思います。この都市では金銭こそが正義という考え方が主流なようですから」

「なるほど……」

 

 まぁ、人を害して金銭を得ているという意味では傭兵と大差はないか。

 

「あのリーダーっぽいヤツも元軍人?」

「いえ、彼だけは経歴不明です」

「目覚めた直後に自害したらしく、警察も素性を把握できていないようだね」

「自害? 拘束してたんじゃないの?」

「あの能力……あれを御する拘束手段はすぐには用意できなかったようです。たしかタナカさんのお話では、ゼノ家のご令嬢は、それを見て『超能力』と言っていたのですよね?」

「うん、シニカちゃんはそう言ってたよ。どういう意味かはよくわからなかったけど」

 

 センリちゃんが視線で何かを問うようにミロクの方をチラリと見る。

 

「7大メガ・コーポの、しかもまだ一般に流れていない最新技術のデータをハッキングするのはリスクが高いかな。それに、そういう研究所は一切ネットに接続しないようなTWにも似たハッキング対策を施しているところも多い」

 

 ある程度当たりをつけてから物理的に侵入しなければ無理だね。と、ミロクは付け加えた。

 

「じゃあすぐわかることはなさそうだね」

「はい。明日少し調べてみます」

「ごめんね、ありがとうセンリちゃん」

「いえ、はい」

 

 それから僕らは各々の部屋に戻り、睡眠をとった。

 

 

 ◆

 

 

 誘拐犯から救出された私は社長室に呼び出された。

 

「シニカ、やはり俺の跡を継ぐのは嫌か?」

 

 執務机に座ったパパが最初に言ったのは、そんな同情的な言葉だった。

 

「お前は天才だ。18歳にしてゼノ・アルカスタの論文すべてを理解している。そんな人間はゼノ家が始まって以来お前だけだよ。俺なんて未だに暗記してるだけだ。理解には程遠い」

「だから? 本題に入っていいよ、パパ」

「できれば、お前に俺の跡を継いで欲しい。我が家にとって重要なことは、ゼノ・アルカスタの発明を正しく広めること。そして、それを使って権威を守ることだ」

 

 跡を継ぐ。つまりこの会社の社長に私がなるということだ。

 そしてパパは、お爺様から会長の座を譲り受ける。

 それが何百年も繰り返されて来た、いつものサイクルだ。

 

 ゼノ・エナジー社の社長として求められる素養とは、ゼノ・アルカスタの発明を〝世に出すタイミングを見極める〟ということだ。

 それにはゼノ・アルカスタの発明がどのようなものであるのかと、世の中の技術がその発明を製造するに足りているのかという2つの理解が必要になる。

 

「はぁ……」

 

 なんてくだらないことだろう。

 自分じゃなくて、他人の成果で権威を守る。

 そんな風に人の褌で相撲を取ってきた一族。それが私たち。

 

 カッコ悪すぎて、頭が痛くなる。

 

 でも――

 

 

 ――君が望むなら僕が君を殺してあげてもいいよ。

 

 

 テンメイ、彼のそんな言葉が私に勇気をくれた。

 

「いいよパパ、継いであげる」

「本当か!?」

「でも、ゼノ・アルカスタを奉るためじゃなくて……私はさ、ゼノ・アルカスタを超える研究を生み出すためにパパの跡を継ぐよ」

「ゼノを超える……? 本気で言っているのか?」

「うん。だってきっとゼノも、それを望んでる」

「天才の意志がわかるとでも?」

 

 わからない。

 わからないけど、テンメイは相手に勝っても寂しそうだった。

 でもテンメイは、私にゲームで負け続けてる時は楽しそうだった。

 

 もう1回、私とゲームをしたいって言ってくれた。

 

 死人の意志とか、ゼノにとってなにが幸せとか、そんなの知らない。

 だから、勝手に重ねる。自分の都合のいいように解釈する。

 

「私がゼノを超えてあげる。それが私からゼノへの葬送(プレゼント)

「……ワームホールを超える転換点(ターニングポイント)は未だ人類には訪れていない。それに挑む覚悟があるのか?」

「違うよパパ。私はただ、それが楽しそうだからやるの。それが生きるってことでしょ?」

「そうか。いや、どうせ天才にしかわからぬ領域か。いいだろう、シニカ、お前にこの椅子を譲る」

「うん、貰ってあげる」

 

 

 ◆

 

 

 僕は今、ストーカー被害に遭っている。

 シニカちゃんに憑りついていた『彼』は、僕の霊能力を見て興味を持ち、憑りつく先を変えたようだ。

 

『教えろ。お前のその技術体系はなんだ? 私は知りたい。知りたいぞ!』

 

 寝て起きたら飽きて消えるかとも思ったけど、まだいた。

 ていうか睡眠妨害だし、めんどうくさいし、悪霊とかじゃなさそうだからなんにもしなかったけど、もういっそのこと祓ってしまおうか。

 

 でも、ちょっと強いのが厄介だ。

 祓えないってことはないけど、物質世界への干渉力を微妙に持ってるから、祓うことによって今まで存在していた『なにか』が消える可能性がある。

 

 そうすると、それはそれで霊能力の存在が明るみになる可能性が増す。

 

「こんな変態が、まさか〝英霊〟だとはね」

『英霊? なんだそれは!? どういう理屈だ? どういう原理だ? 発生条件は? そもそも生物か? どれだけいる? 私が一体何者か、お前は知っているのか!?』

 

 はぁ……鬱陶しい……

 幽霊に興味を持たれても嬉しくない……ずっとそう思って生きて来たから、ちょっと対応に困る。

 

「君は幽霊だよ。わかってるでしょ?」

 

 洗面所で顔を洗いながら、僕は彼に話しかけた。

 

『幽霊! やはりそうなのだな! だったらこの現象を紐解くぞ少年!』

 

 黒髪と白髪が混ざった灰色の髪はボサボサで、無精髭が生え放題で、纏う白衣もかなり汚れている彼には清潔感の欠片もないおじさん。

 そんな様相で大袈裟に喜びながら僕に握手を求めてくる彼は、霊という性質を抜きにしてもちょっと不気味だ。

 

「その前に君の名前を教えてよ?」

『私はゼノ・アルカスタ、しがない研究者だよ。まぁ、生前のことなどほとんど覚えていないがね』

 

 ミロクと同じだ。

 悠久の時を生きる英霊(かれら)は、少しずつ時を失っていく。

 けれど、そんな状態でも霊として残っていられるのは、彼らに強い『未練』があるからだ。

 

「君は、なにがしたいの?」

『私が何をしたい? ふむ、それは難しい質問だ。この胸には〝知りたい〟という欲求がある。しかし、〝知ったところでどうなる?〟という理性もある』

「……なんか、難しい話だね」

『そうでもない。ようするに、私が自分がなにを望んでいるのか、よくわからんということだ』

 

 自分の望みがわからない、か。

 まぁ、誰もがみんな少年漫画の主人公みたいな一直線の夢を持ってるわけでもない。

 人間っていうのはもっと複雑な感情で動いてる。

 

 幽霊もきっと同じか。

 

「おはよう、テンメイ」

「おはよ、ミロク」

 

 洗面所から出ると、ミロクも部屋に戻って来ていた。

 睡眠が必要ないミロクは、昨夜も個室でなにか調べものをしていたらしい。

 多分、昨日の事件のことだろう。

 

「その霊、祓わなくていいのかい?」

「害があるわけじゃないから。それにシニカちゃんに憑いてたわけだしなにか情報収集できるかもしれないじゃん?」

「……君が情報収集なんて回りくどいことを考えているなんて思わなかったよ」

「別に僕はやらないよ? ミロクが頑張って」

「まったく、君は人工知能使いが荒いね」

「適材適所って言ってよ」

 

 僕の言葉に溜息混じりの笑みで返して来たミロクに、「フン」とそっぽを向いて僕は自分の携帯端末に目を通す。

 

 

センリちゃん:本日は情報収集も兼ねて仮想都市マーセルに行ってきます。よければタナカさんもご一緒しませんか?

 

ニノミヤさん:おはようございます。本日は短期的な採掘業務が入っていて私も視察に行くのですが、よければ皆さんで見学に来られませんか?

 

シニカちゃん:やほ。ねぇ、よかったら(うち)に来てゲームしない?

 

 

 センリちゃんにニノミヤさんに、昨日連絡先を交換したばかりのシニカちゃんからメッセージが入っていた。

 

 僕史上、1日で3件も別人からメッセージが来るなんてことが今まであっただろうか?

 しかも傭兵稼業の依頼メッセージですらない、すべてがプライベートな案件だ。

 

 もしかして僕……コミュ力上がってるんじゃない?

 

「えぇ、でも全員今日だし……どうしよ……」

 

 内容的に一番行きたいのはシニカちゃんとのゲームだ。

 でも仕事以外でセンリちゃんと2人で出かけるのなんて初めてだしなぁ。

 僕も二十歳を越えてるわけだし、ニノミヤさんみたいな普通の社会人がどんな風に働いているのか知っておきたいとも思う。

 

 ゲーム、情報収集、採掘見学……

 

「ミロク」

「なんだいテンメイ?」

「僕、昨日知り合ったシニカちゃんのお家でゲームしてくるね」

「ははっ、その3択でそれを選ぶのがテンメイだよね」

 

 ミロクには隠し事はできないな。

 息をするように僕の携帯端末をハッキングするんだから。

 

「僕ってプライバシーないよね?」

「私に見られてはいけないものがあるのかい?」

「あるでしょそりゃ」

 

 えっちなお姉さんのSNSの履歴とかさ。

 

「ははっ、冗談だよ。ちゃんと君が見られたくなさそうな情報は忘れた振りをするよ」

 

 振りじゃん……

 まぁいっか、どうせミロクに隠し事なんてミロクがハッキング能力がなかったとしてもできる気しないし。

 

「ニノミヤ・タンゴの方には私が行こう。彼の事業に少し興味がある」

「わかった。連絡しておくよ」

 

 センリちゃんにも断りの連絡を入れると「かしこまりましたでござるでそうろう」という声が出る侍のスタンプが送られてきた。

 

「それじゃあ行ってくるね、ミロク」

「あぁ、いってらっしゃい、テンメイ」

 

 

 ◆

 

 

「テンメイが付くならシニカ・ゼノ・ブラックルートの護衛は問題ない。センリ・ゴールドバーグの情報収集能力ではメガコーポの秘匿情報を知るのは不可能。ニノミヤ・タンゴの仕事はメガコーポの一角『ヘリオス・インダストリー社』の下請けだ。ならば、そちらから探ってみようか」

 

 

 ◆

 

 

 シニカちゃんは第1~第6まですべての階層に自宅を持っているらしい。

 どこでもいいと言うので、僕が行ける最高階層である第4階層でお願いした。

 

 ミロクが昨日、傭兵支援機構のメルから第4階層の入場許可証を貰ったらしく、僕はそれを使ってシニカちゃんから送られてきた場所へ向かった。

 

「さすがゼノ・エナジー社のご令嬢……」

 

 着いた場所にあったビルは周囲と比べて2倍近く大きかった。

 

 中へ入り、受付のお姉さんに名前を言うとすぐに上のフロアへ通された。

 

「こちらです」

 

 ガラス張りのエレベーターで最高(244)階まで行くと、コンシェルジュの人がそう言ってエレベーターの外を指した。

 

 え、ここ部屋じゃなくて階なんだけど……

 ここからどう進めって言うの?

 

 そう思っていると、壁に設置されたホログラムの投影機が矢印を表示する。

 

 そっちに進めってことかな?

 

 指示に従って歩くこと数分、最終的に僕は看板もなにもない扉まで誘導された。

 

 ここに入れってことだよね?

 

「いらっしゃい、テンメイ」

 

 そこにはシニカちゃんがいた。

 でも、それ以上に僕は部屋の中をみて驚いた。

 そこはあの時のゲームセンターみたいに……いや、それ以上に古今東西のゲームの筐体が並んでいる。

 

 古いゲームだけじゃなく、最新のモデルやソフトも大量にある。

 まるでゲームをするためだけに用意された部屋って感じだ。

 

「わお。メガコーポのお嬢様ともなるとこんな部屋まで作れるんだね」

「テンメイだって作ろうと思えば作れるでしょ? 元Sランクの傭兵なんだから」

「調べたの?」

「一応。嫌だった?」

 

 不安気に僕を見たシニカちゃんに対して、僕は首を横に振る。

 

「いいや、今日は誘ってくれてありがとう。僕女の子の部屋に入るのなんて初めてだよ」

「女の子の部屋……?」

「え、違うの?」

「違うことはない……けど、このフロア全部私のだから部屋って表現は微妙」

 

 へぇ、そうなんだ。

 今までお金持ちは結構見てきたけど、ここまでなのはさすがにない。

 窓を見ると上下左右の街の様子が一望できるから、ここがこの都市の中心なんじゃないかと錯覚しそうになる。

 

「ねぇテンメイ、一週間で帰るんでしょ? 今のうちに遊ぼ?」

「そうだね」

 

 誘われるがまま、僕は彼女と遊ぶことにした。

 

『まるで囚われているようだ。私はとうの昔に死んでいるというのに……』

 

 隣でそんなことを呟く幽霊は無視して。

 

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