宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第41話『急襲』

 

「ようこそ、ミロクさん」

「悪いね、うちの団長も副団長も急用ができたらしく今日は私1人だ」

「いえいえ、ネビュラ・プライム・ハブを満喫していただけているようでなによりです」

 

 軽い挨拶を交わしながら案内されたのはメタロヴァニア鉱業が保有する中型宇宙船だった。

 想定搭乗員数はおそらく500人前後、私たちが使用している宇宙船に比べればかなり大きい。

 

 とはいえ、危険な惑星に行くにしては小規模な団体だ。

 

「それで今回向かう星というのは?」

「はい。惑星『ヴァロクス』には数多の希少鉱石が埋蔵されていますが、地表のほとんどが火山地帯で採掘が極めて困難です。しかし我々の採掘技術であれば、短期間かつ少数で一気に採掘することが可能だと自負しています」

 

 危険惑星での採掘業務。

 それがメタロヴァニア鉱業が独占的に行っている事業内容だ。

 ニノミヤ・タンゴから渡された資料に目を通してみたが、よくできている。

 自分たちを過大評価しているわけでもなく、現実的かつ計画的に作戦内容が羅列されていた。

 

「こんな重要機密(もの)を私に見せていいのかい?」

「皆さんがいなければ私は今頃野垂れ死んでいたでしょうから、私は皆さんを全面的に信頼しています」

「そうか……」

 

 テンメイは今まで人に信頼されたことなどなかった。

 恐怖をばら撒き畏怖を集める。それがタナカ・テンメイという存在だったし、私はそれを肯定していた。それでいいと思っていた。

 しかし今は、彼のような友人ができたことをただ喜ばしく思う。

 

「もし何か気になることがあれば、ミロクさんのご意見も伺いたいのですがどうでしょう?」

 

 計画書には、人員、装備、環境、その他あらゆる情報が纏められていた。

 これを見る限り問題点は特に思い当たらない。

 しかし、私は現地に行ったことがあるわけではないから、これが適切かどうか完全には判断できない。

 

 だが気になる点が1つある。

 今回の仕事場所となる星の持ち主についてだ。

 そこには『ゼノ・エナジー社』の文字があった。

 

「特に問題は見当たらないが、なにか起こった時にどうするかをもう少し綿密にしてもいいかもしれないね」

「なるほど、わかりました。着くまでに少し考えておきます」

 

 目的の惑星は『ネビュラ・プライム・ハブ』からワープ1回分。日帰りできる距離だ。

 片道で1時間程度、私たちはすぐに目的地まで到着した。

 

 平均気温72℃。重力は1.7G。

 惑星の表面のほとんどが火山地帯となるこの惑星での採掘は、常に噴火やマグマが流れ込む危険がある。

 

 ただ、今回の計画書では露天掘りが主であり、メタロ星人の個人能力なら不測の事態が起こってもすぐに離脱できるという目算らしい。

 加えて温度調整付きの宇宙服と溶岩を探知するセンサーも全員に配備しており、資金をケチっている様子もなく、すでに何度か現地での少人数演習も行っているようだ。

 

 不確定要素はなく、失敗する方が難しい。

 それほど準備に時間を費やしているからこその計画書だった。

 

 

 けれど……

 

 

 宇宙船内にある作戦本部にいるニノミヤ・タンゴの元へ、社員から次々に通信が入ってくる。

 

 その内容は一貫して同一。

 

『知らない宇宙船……いや、戦艦が見えます』

 

 空からやってくるのはエンブレムも配色もほとんどない、黒い戦艦。報告されている数は現時点で9隻。

 搭載された武装の規模と数は、軍事力など搭載されていない中型船など一瞬で木端微塵にできるほど。

 

「一先ず全員退避を。すぐに船に戻って来てください!」

 

 ニノミヤ・タンゴが全体通信でそう呼びかけると共に、現場で作業している者たちが動き始める。

 

「もしかして宇宙海賊っすか?」

 

 副社長のアシア・イレハが不安気にニノミヤ・タンゴに視線を送る。

 しかし、採掘会社の社長に相手が宇宙海賊かを判断する能力を求めるのはさすがに酷だろう。

 

「違うね」

 

 だから代わりに私が答えた。

 

「ミロクさん……なにか知ってるんですか?」

「いいや、宇宙海賊ならすでに投降を呼びかける通信が入っているだろう。彼らが行うのは略奪であって破壊ではないからね。だが……」

 

 上がって来る報告を聞けば、敵艦隊の動きは直線的にこちらへ向かっている。

 それに、トラセウムの首都コロニーからワープ1回分の距離で海賊行為を行うなんて、リスクを考えてなさすぎる。

 

「相手の狙いは包囲ではなく急襲だ。すぐに攻撃を仕掛けてくるだろうから、さっさと防御を展開しなよ」

「逃げる手はありませんか?」

「ワープホールの生成にはジェネレーターのリソースの大部分を使う。その間のシールドはどうする? 船体速度で劣っている以上、ワープ先を探知されても問題ないとはいえ逃げるのは無理だろうね」

 

 ワープさえ発動できれば、トラセウム宇宙軍の守備範囲に入ることができる。

 だからこそ、それをさせないための『急襲』なのだろう。

 

 鉱業用とはいえ、この宇宙船にも最低限の自衛装備は搭載されている。

 テンメイの船と同じようなエネルギーシールドを生成する機構だ。

 だが、相手の戦艦の数を考えればこの船の防御力ではもって数分。

 

 そう思っていた矢先「ドコン!」と大きく船が揺れた。

 

「どうやら攻撃が始まったらしいね」

「ッ! 全員シートベルトを! エネルギーシールドを全開で維持してください!」

「やってますけど、もうすでにシールドのエネルギー残量は70%を切ってます。このままだと持って数分……いや、数十秒後にはこの船は……」

 

 操縦桿を握る社員からそんな報告を受けて、ニノミヤ・タンゴの額に汗が滲み始める。

 

 私は近くの壁に手を触れ、小さく唱える。

 

「調和の吉将・()たる中道・東の星――名を【六合】」

 

 シールドの補強と共に、船のハッキングを開始。

 とはいえ、今回操るのはモニターの映る情報だけだ。

 シールドのエネルギー残量がこれからまったく減らなくなるから、少しずつ減っていくように書き換える。

 

 霊能力はバレてはいけない。

 テンメイがそう望んでいるから。

 

「申し訳ありませんミロクさん……こんなことになってしまって……」

「1つ、確認していいかい?」

「こ、この状況でですか? なんでしょう?」

「この星の持ち主は誰だ?」

「持ち主ですか? それはゼノ・エナジー社というトラセウムのメガ・コーポの1つです。今回の業務はその下請けのような形で執り行わせていただいています」

 

 敢えて聞く必要もなかった。

 そもそも私がここへ来た理由は、メタロヴァニア鉱業へのハッキングによってその情報を取得していたからだ。

 

 マイクロワームホールを用いた通信技術によって、私は離れた星の情報もネットに接続されているものなら拾うことができる。

 それによれば、この星だけではないようだ。

 

 今現在、ゼノ・エナジー社が有する作業中の星すべてが急襲されている。

 

「どうやら相手も本気らしい」

 

 本気で、メガ・コーポの一角を崩そうとしている勢力がいる。

 

「そうですね。このままでは持ちません。交渉を試みるべきですね」

「……いや、そんなことをしても無駄だね」

 

 何故なら、ゼノ・エナジー社を取り潰すこと以上のメリットを提示することなど、ニノミヤ・タンゴにできるはずがないからだ。

 

「依頼、しないのかい?」

「依頼……ですか?」

「私は傭兵だ。傭兵の仕事は多岐に渡る。賞金首の討伐、物品の確保、それに護衛(・・)とかね」

「しかし、ミロクさん1人じゃ……」

「私を全面的に信用する。そう言った君の言葉は嘘だったのかい?」

「い、いえ……それは、でも……」

 

 はは、まさか私を気遣っているのか?

 そんな愚か者がテンメイの他にもいるなんて驚きだ。

 

 だが……それは無用の配慮だ。

 

「ニノミヤ・タンゴ、配慮しているのは私の方だ。勝手にやっては君が我が団に対して負い目を感じるかと思って、私は手を出すのを我慢しているんだ。それとも君は、このままこの船が崩壊するのを待つつもりなのかい?」

 

 煽るようにそう問えば、ニノミヤ・タンゴは小さく笑みを浮かべた後、覚悟の籠った表情を見せた。

 

「そう言えばロリロリックでのタナカさんも、今のあなたみたいでしたね……わかりました、依頼を出します。私たちを護ってください!」

「承った。そうだね、報酬に美味しい紅茶でも用意しておいてくれ」

「そ、そんな……もっとちゃんと……」

 

 なにを狼狽えているのか。

 まったく、人間というヤツは理解できないものだね。

 

「なに、私にとってはこの一件はその程度の些事だということさ」

 

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