宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第42話『酔狂』

 

 窓の向こうにいたヘリに朱雀が飛来し、大爆発を引き起こす。

 

 だがしかし、爆炎の中から人影が1つこっちに向かって飛んでくる。

 

 それは窓ガラスに張り付き、僕らへ三白眼を向けた。

 体に纏った煙が晴れていくと共に、その男の様相が露わになっていく。

 

「ボディビルダー?」

「さぁ?」

 

 その男は上裸だった。

 センリちゃんみたいなシックスパックだけど、大胸筋の隆起のしかたはまるで違う。

 焼けた肌と相まって男らしらというか、オス味が強い。

 そのクセ黒い髪は七三分けでがっちりセットされている。

 

 僕らが眺めているとキンニくんは頭を大きく振りかぶって、ガラスに頭突きをかました。

 しかし、ガラスにはヒビの1つも入らない。

 

 それからキンニくんは何度か頭突きを繰り返す。

 しかし【六合】によって強化されたガラスは微動だしない。

 声も聴こえないのに彼が「ぜーはー」言ってるのがわかるくらいにキンニくんは疲れていた。

 

 というか、疲れていくにつれて汗が噴出してテカリが増し、しかも目がキマッてる感じになっていてすごくホラーだ。

 普通に幽霊より怖い。

 

 けど……

 

「なんか可哀想だし入れてあげる?」

「普通に嫌」

 

 だよね。

 

「というか、この人がガラスを割れないのってもしかしてテンメイのお陰?」

「さぁ、強化ガラスなんじゃない?」

「そうだけど、この人もそれをわかってて頭突きしてると思うけど」

「脳ミソも筋肉なんじゃない?」

「ふっ、なにそれ」

 

 クスリとシニカちゃんが笑う。

 それを見たキンニくんが、怒りの形相に代わり、拳を大きく振りかぶった。

 

 無駄だってわかんないのかな。

 やっぱり頭まで筋に……

 

 ――バリ、バリ、バリリリリリ!

 

 嘘。六合が破られた?

 いや、この感じはミロクも六合を使ってるっぽいな。それに結構広域で使ったから防御力が拡散してる。

 でも、それにしたって六合が突破されるのなんて初めてだ。

 

 窓ガラスを生身でぶち破ったキンニくんは、当たり前のように無傷で中へ入ってくる。

 

「吾輩はゲンヅキ・マッサ。最早隠す意味もないだろうから教えてやる。吾輩は超能力者である」

「へぇ、僕はタナカ・テンメイ、傭兵だよ。でもさ、超能力者にしてはなんというか随分と原始的な姿だね」

「吾輩は自分に自信がなかった。だから筋肉を磨くことにした。だが戦場が苛烈になるにつれ、それだけでは不安は拭いきれなくなった。だから吾輩は異能の開発手術を受けることにしたのだ。すべてはそう――」

 

 宇宙海賊のような笑みを浮かべて、キンニくんは言った。

 

「〝いつでも相手を殺せる〟という安心を得るために」

「なに言ってるの? そんなことで安心なんかできるわけないじゃん」

 

 ゲンヅキは訝し気に僕を見て、溜息を1つ吐いた。

 

「理解は求めていない。この気持ちは高みに昇った者にしかわからない」

 

 そう言った彼の向こう、割れたガラスから大量の大気が室内に入って来る。

 だけど、その風は少し変だった。

 竜巻のような動きでゲンヅキの周囲を渦巻いているみたい。

 

「君はもしかして風を操れるの?」

「その通りである。吾輩は大気を操り鎧のように纏うことで圧倒的な強度と破壊力を得……」

「白虎」

「ぐぎゃっ」

「送還」

 

 僕の言葉が言い終えるよりも速く、青い雷光が彼を穿つ。

 黒焦げになった彼は、ピクリとも動かない。

 

「すごいね。手加減できなかった」

「テンメイ……殺したの?」

「さぁ、確認しないとわかんないなぁ。確かめてみる?」

 

 ふるふると、シニカちゃんは首を横に振る。

 

 それにしてもこんな街中で突然襲ってくるなんて、相手はもう色々と隠す気がないらしい。

 

「ごめんね、また守ってもらって……それに今回もきっと私が巻き込んだと思う……」

「大丈夫。君と知り合えたんだからこのくらいの手数料ならお釣りがくるよ」

 

 とはいえこのままここで待っていても追加が来るだけだ。

 それに、このビルには僕ら2人しかいないわけじゃない。

 六合の結界が破られるなら、下の階の人たちを巻き込む。

 

「ねぇ、シニカちゃん」

「なに?」

「どこか、壊しても大丈夫なところ知らない?」

「うちが開発してるTW装備のテストをしてる試験場とかなら……」

「よし、そこに行こう」

「でもそこ、第5階層」

「あー、僕今そんなにお金持ってないんだよな……」

 

 ミロクがメルから第4階層の入場許可証を手に入れてくれたらしいけど、第5階層の入場許可証は100億CM。

 そんな大金は持ってないし……

 

「ねぇ、依頼料ってことでいい?」

「え、なにが?」

「だから、テンメイが私のボディガードをしてくれるなら、第5階層の入場許可証くらいなら都合してもいいよ?」

「ホントに!? めっちゃ高いよ!?」

「大丈夫。今の私にとってははした金だから」

 

 そう言ってない胸を叩くシニカちゃん。

 

「かっこい~」

「えっへん。もっと褒めていいよ」

 

 すぐ傍に死体が転がっていることなんて忘れたようなドヤ顔をしているシニカちゃんと一緒に、僕はビルを降りる。

 

「でも、移動手段はどうするの? 階層間エレベーターまで結構距離あるよ?」

「飛行バイクとか?」

「テンメイ運転できるんだ」

「免許は持ってないけどレースゲームは結構やってきました」

「すごく信用できない」

 

 ぐすん。

 

「まかせて、私ってほら天才だから」

「それなんの説得材料にもなってないよね!? 僕ホラーは視るのは好きだけど体験するのは苦手なんだよ!」

「存在がホラーみたいなクセに?」

「酷い!」

「冗談だよ。ていうか誰の運転がホラーなのかな?」

 

 飛行バイクのレンタル場で「まぁまぁ」「いやいや」と押し問答をしていると、1台の飛行バイクが最高速度でこっちに突っ込んでくる。

 あわや他の飛行バイクにぶつかりかけた瞬間、そのバイクは車体を一気に90度回して急ブレーキを踏んだ。

 

 黒いヘルメットとレーザースーツを纏った人物。シルエット的には女の子みたいだけど……もしかしてまた追手?

 

「下がってシニカちゃん」

「うん……」

 

 バイクから降りた彼女がこっちに近付いてくるのを見て、僕はシニカちゃんを庇うように手を伸ばす。

 

「…………私です、タナカさん」

「え、その声……もしかしてセンリちゃん?」

 

 僕の疑問に答えるようにヘルメットを脱いだセンリちゃんは、今までに見たこともないくらいに残念そうな顔をしていた。

 

「タナカさんと、ゼノ・エナジー社のご令嬢が狙われている可能性があるという情報を得たので、お迎えに参りました」

「そうなんだ」

「しかし心配には及ばなかったようですね。お2人でお出かけ……デートですか?」

「なに言ってるのさセンリちゃん、そんなわけないでしょ。さっき近くのビルで2人でゲームしてたんだけど、そしたら急に襲われたんだよ」

「デートじゃないですか」

 

 ボソッとセンリちゃんが何かを言ったみたいだけど、小声過ぎて良く聞こえなかった。

 

「それよりも、襲われたということは撃退したということですよね?」

「そうだけど、まだ終わってないかもしれないから今……」

 

 そこまで呟いたところで、僕らの上から巨影が差した。

 

「またヘリだ……」

 

 しかも、今度は3機も見える。

 

「タナカさん、急いでここから離れましょう。市街地で戦闘するわけにはいきません」

「それなんだよ。実はシニカちゃんの会社が持ってる第5階層のTW訓練場に行こうとしてたんだ」

「なるほど、そこで迎撃するというわけですね」

 

 ゾンビが出てくるシューティングゲームでよくあるよね。

 引きつれて一気に殺して、弾や時間を節約するみたいな。

 ゾンビトレインだっけ?

 

 僕とシニカちゃんの計画は、要はそんな感じだ。

 

「でも、そこまで行く足がなくてさ」

「なるほど、理解しました。つまり、ターゲットであるタナカさんとシニカさまを乗せて、私が第5階層まで抜ければいいというわけですね」

「できるの?」

「やります。お2人とも乗ってください」

 

 そう言ってセンリちゃんはレンタル場にあったサイドカーを取り付け始めた。

 

 サイドカーって重いんじゃないの?

 そんな文字通りのお荷物を載せてヘリから逃げられるのかな……

 

「タナカさん……不安ですか?」

 

 そう聞いてくるセンリちゃんの顔を見れば、僕が抱いていた心配は吹き飛ぶ。

 単純な話だ。僕なんかよりセンリちゃんはよっぽど考えている。

 そんなセンリちゃんがやると言ったのだ。僕ごときが否定できるわけもない。

 

「いいや、僕はセンリちゃんを信じるよ」

「……はい」

「ねぇテンメイ、そろそろその人紹介して」

「あぁ、そうだったね。この子はセンリ・ゴールドバーグちゃん、僕の傭兵団の団員。センリちゃん、こっちは……」

「シニカ・ゼノ・ブラックルートさま、ゼノ・エナジー社の次期……いえ、現社長ですね」

 

 え、そうなの?

 社長なの? 令嬢なんじゃなかったの。

 もしかして引き継いだ?

 だから、第5階層の入場許可証がはした金で買えるとか言ってたのか……

 

「うん、よろしく」

「よろしくお願いいたします。それではお2方、準備ができました」

 

 完全に取り付けられたサイドカーに僕とシニカちゃんは乗り込む。

 2人で乗ると結構ギリギリだな。

 

「シートベルトをしっかり閉めてください」

「うん! 閉めたよ!」

「私も」

「では、飛ばします」

 

 迫る3機のヘリを背負いながら、センリちゃんがハンドルグリップを回す。

 電源が入り、ホイールが徐々に回転数を上げていく。

 

 この時の僕はまだ、理解していなかったのだ。

 正直、遊園地のアトラクション程度に考えていたのだ。

 

 でも全然違った。

 センリちゃんの運転は荒れているとかそういう次元じゃなかった。

 

 ヘリの追跡を掻い潜り、その射線に入らないようにするためにヘリでは通過不可能なビルの合間を通り抜け、縦横無尽に空を翔ける。

 

 そういえば前にもこんなことがあったな。

 あぁそうだ、アクルシアに行った時だ。

 あの時はセンリちゃんのTWに同乗して、着陸してすぐに吐いたんだった。

 

 でも、バイクというオープンな状況で風をダイレクトに感じる今は気持ち悪さ以上に体への負荷も激しい。

 

 あぁ、ヤバい……まじで吐く……

 

 

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