宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第43話『ぐちゃり』

 

 センリちゃんのドラテクに揺られること20分くらい。

 いや、体感的には5時間くらいあったけど時計を見るとそれくらいしか経ってなかった。

 

 やっとセンリちゃんバイクは止まってくれた。

 

「目的地には到着しました」

 

 なんか「には」って歯切れが悪い言い方な気がするな。

 なんて思っていると、僕らが辿って来た道の曲がり角からヘリコプターが現れる。

 しかも10機くらいに増えてる。

 

「振り切るのは無理だったってことかしら?」

「でも、途中から同じところグルグルしてなかった?」

 

 シニカちゃんと僕が同時に質問すると、センリちゃんは短く頷きながら答えてくれる。

 

「ある程度逃げた時点で振り切るのは不可能だと思ったので、この辺りを周回して民衆の避難を進めました」

「つまり?」

「私はここで敵を食い止めます。お2人は先へどうぞ」

 

 わー、漫画とかでしか見ない台詞だ。

 やっぱセンリちゃんかっけー。

 

「それ、死亡フラグ……だよ?」

「まぁまぁ、センリちゃんなら大丈夫だよ。ていうか、大丈夫なんでしょ?」

「はい」

「でもさ、僕もここで戦ったらいいんじゃないの?」

「それだと2つ問題が発生します」

「問題?」

「1つはタナカさんの力の露見。もう1つは、そもそも相手はなりふり構っていない様子で、警察などに逃げ込んでもまた狙われるだけです。なので、それを解決する方法は1つ」

 

 センリちゃんは少しだけ申し訳なさそうに僕を見た。

 

「タナカさんが全員返り討ちにすれば、もう襲われる心配はないかと」

「あー、なるほどね」

 

 たしかに、ここで逃げ切っても次が来るなら意味ないしめんどくさい。

 なら、全部倒した方がいい。宇宙海賊と同じだ。報復とかされないように全部潰す。

 

 うん、一気にわかりやすくなった。

 

 トラセウムの評議会には後で謝ろう。

 ていうか、メルに謝ってもらおう。

 

「じゃあシニカちゃん行こっか。まぁ、先導はシニカちゃんに任せたいところなんだけどね」

「それはいいけど、本当にあの人1人に任せていいの?」

「いいよ。だってセンリちゃんってめっちゃ強くて、めっちゃ頭いいから」

「そんなことはありませんが……この程度なら問題はありません」

 

 ほら、かっこいい。

 もし合コンに行く機会があっても、僕は絶対にセンリちゃんは連れて行かないってくらいカッコいい。

 

「じゃあ、お願い……します」

 

 シニカちゃんはセンリちゃんに小さく頭を下げる。

 この子が敬語使ってるところ初めて見たな……

 

「了解しました」

 

 そう言ってセンリちゃんは両手両足に武装を展開していく。

 

「じゃあテンメイ、こっち来て」

「うん」

 

 

 ◆

 

 

 さて……終わったかな?

 

 ニノミヤ・タンゴの宇宙船を攻撃していたすべての船をハッキングして、操作権限を奪い取った。

 TWも出てくる様子はないし、何もないならこれで終わりだ。

 

 けれど、宇宙船の監視映像を見る限り相手はまだ諦めてはいないようだ。

 制御を失った戦艦をギリギリで地面に着陸させ、電子的な開錠が不可能となった扉が無理矢理にこじ開けられる。

 

 ふむ、人間離れした筋力だね。

 センリ・ゴールドバーグのような改造人間だろうか?

 いや、それだけじゃなさそうだ。

 わざわざ出て来たということは、まだこちらを攻撃するに十分な戦力が残っているという現れ。

 

 私も船の外に出て、彼らと顔を会わせることにした。

 

「やぁ、初めまして」

「テメェか……俺たちの船を乗っ取りやがったのは?」

「そうだよ。まぁ悔いることはない、人間の無能さなんて今に始まったことではないのだから」

「ッチ……あたしたちがこんな人工知能1体にしてやられたなんて、こんなこと恥ずかしくて報告できやしないよ」

「わかってる。けどこいつをぶっ壊せば問題ねぇ話だろ」

 

 敵の旗艦から出て来たのは一組の男女だった。

 両方とも紫色の髪と目をしていて、年齢も近そうだ。

 宇宙服も似たデザインだし、双子だろうか?

 

「なんというか、浅はかな話し合いだな。上司に対する虚偽の報告の相談。問題を正しく理解できない認識能力の欠如。何よりも、私を見て恐怖を抱かない気楽さ」

 

 テンメイの方がまだ素直で聡いよ。

 

「あぁ? うるせぇんだよ機械如きが」

「恐怖を抱く? あたしらがあんたをビビる必要なんて1ミリもないわ」

「そうか、来世では最低限の分析能力に恵まれることを祈るといい」

 

 周囲に着陸している9隻の戦艦を操作(ハッキング)し、砲門を彼らへ向ける。

 投降を促す勧告など必要もない。相手はもう何十発とニノミヤ・タンゴの宇宙船に光学式の砲弾(レーザービーム)を撃ち込んでいるのだから。

 

 常人なら蒸発して地面に染みが残ることもないはずの火力。

 その一撃は、正確には9隻の戦艦の全大砲である計36門による同時射撃だった。

 

 だがしかし……

 

「いきなり何しやがんだクソロボット」

「汚れちゃったじゃない。あんた死刑(さんぱい)確定」

 

 煙が晴れると、彼らは余裕そうな表情でその場に立っていた。

 人間が保有可能なレベルの武装で今の一撃を完封することができるとすればそれは『アーティファクト』くらいのものだろう。

 しかしアーティファクトが宇宙怪獣の死骸から造られるものである以上、それが傍にあれば私は気配を感知することができる。

 

 アーティファクトの反応はこの場にはない。

 装備ではないのなら、答えは1つか。

 

「それが君たちの〝超能力〟なのかな?」

「なんで知ってんだお前……?」

「どうやらとっ捕まえる必要があるみたいだね」

 

 やはり、昨日テンメイを襲ったのと同じ組織の相手か。

 

「なるほど、それなら少しは楽しめそうだ。どの程度の性能か、私が鑑定してあげよう」

「ほざけ!」

 

 男の方が口汚く吠えると共に、その腕に雷光が発生する。

 

「私たちが相手だったこと後悔するといいわ」

 

 女の方は足下の土や岩石を操っているようだ。

 隆起し、形状を変え、最終的には浮遊している。

 さっきの砲撃は女の方の能力でガードしたのだろうか?

 

「御託はもういいだろう? 攻撃してきたらどうだ?」

「はっ、いいのかよ? そりゃつまりお前の機能もここまでだってことだぞ?」

 

 私は小さく笑みを零した。

 あまりに滑稽だった。

 

 その意図が伝わったのだろうか。血管が額に浮き出した彼は、私に向かって拳を振り上げた。

 

 はて、私と彼らの距離は数十メートルはあるが、そんな距離間で拳を振り上げてなんの意味が――

 

 

 ――ゴン!

 

 

 一瞬だった。一瞬で拳が私の顔面に叩きこまれていた。

 

「いっつ……その身体どんな合金だよ?」

 

 まぁ、六合の常在結界があるからダメージはないが……今の速度は……

 

「なるほど、磁石の反発を利用した加速か……」

 

 言いながら、私は彼の手首を掴む。

 

 よく見れば僅かに彼の両足にも雷が纏われている。

 彼は自分の肉体を電磁砲の弾丸ように使うことで速度を得ているようだ。

 しかし、そもそも彼の異能の根本にある電気操作の『発生原理』がわからない。

 

 まぁ、所詮この程度の電圧での『感電狙い』なら、私の装甲は突破できないが。

 

 それに……

 

怒争(どそう)の凶将・(たつ)たる夜叉・南東の星――名を【勾陳】」

「なんだよ急に……呪文? いや、武装発動用のパスワードか?」

「まぁ正解」

 

 勾陳は武器化の式神。

 通常顕現では霊に対する特攻を持つ黄金の武器に変質する。

 だが、完全顕現においては『他の式神を武器化』する力を持つ。

 

「――白虎の籠手」

 

 雷を纏う両腕のグローブ、それを彼の鼻先へ叩きこんだ。

 

「ガッ!」

 

 クリーンヒットした手応えはあったが、彼の体は数メートル後退っただけだ。

 普通の生物なら感電して即死するはずだが、彼の全身は雷に対しての耐性も持っているようだ。

 まぁ、そうじゃなきゃ自分に雷を纏わせるなんて芸当は不可能だろうし、予想はしていたことだけれど。

 

「大丈夫かい? アレン!」

「心配すんなミナ、こいつと俺は相性悪くねぇよ」

 

 アレンと、ミナね……

 それにしても相性が悪くないか……

 酷い勘違いをしてくれるね。

 

「あたしもサポートするよ!」

 

 そう言って飛んでくるのは石の礫だ。数百に及ぶ面攻撃は『石の嵐』とでも形容できる。

 ただし、その程度なら銃を装備した軍隊が同時射撃してくる方が脅威だ。

 

「天空」

 

 そう呟くと共に、私の目の前に黒い穴が開く。

 

「ワームホール!?」

 

 たしかに見た目は似ているかもしれないが、天空とワームホールでは原理も原則もまったく違う。

 ワームホールなら相手に同威力で返すことも可能だろうが、天空の能力は『異空間への収納』であって、運動量は保持されない。

 

 それに彼女の能力が『岩石の操作』なら返しても意味がない。

 

「お前、なんなんだ? ワームホールを白兵戦用の個人兵装として使用できる技術なんて聞いたこともねぇぞ」

「それはこちらも同じ疑問を投げたいところだ。君たちは一体なんなんだ? というよりも、その技術は……『超能力』とはなんだ?」

 

 雷だけなら、なんらかの装備から発生させたり絶縁性の高い宇宙服を着用しているという考え方もできなくはないし

 だが、ミナという女が操っているのはその場にあった石や砂だ。

 

「教えるわけねぇだろうが」

 

 現代の科学……少なくとも私が知るものではそんなことが可能な兵装は存在しない。

 

 とはいえ……そうだね……私やテンメイが脅威を感じるほどのレベルではない。

 

「そうか。ならおいで、私が直々に性能をテストしてあげよう」

 

 そう煽れば、彼らの猛攻が始まった。

 雷を纏うだけではなく、電撃そのものに指向性を持たせて発射する。

 小石程度の岩石ではなく、周囲の黒曜石を数トンサイズで持ち上げて投げつけてくる。

 

 他にも土を持ち上げての防御や、磁力を使った浮遊など、多種多様な能力が見受けられた。

 

 しかし、一言だ。

 

「玄武」

「な、なにこれ!? 動けない!?」

 

 その一言で、土石を操る彼女は重力に潰されて無力化した。

 彼女の操作範囲は彼女の周囲50メートルほど。それ以上外に行った岩石は運動量は保持されるが操作権は残っていない。

 

 防御と攻撃、どちらも熟し圧倒的な攻撃範囲を持っていた彼女が終わればなし崩し的に彼も終わる。

 

「雷が効かない時点で君はただの雑魚だ」

 

 加速して叩き込まれた打撃は、私の装甲に傷を付けるほどの威力もない。

 だから腕を掴んで、肩を入れて、背負って投げる。

 マウントを取れば雷の放出も関係なく、ただ――

 

「ガッ! げぇ! グホッ!」

 

 私は彼に殴打を繰り返すことができる。

 

「さぁ、性能テストはまだ終わっていないよ。ここからどうする? 君の力はきっとまだこの程度ではないよ。頑張りたまえ、真価を見せろ。さぁ、さぁ、さぁ……」

 

 顔に痣が増え、血によって赤く塗られている。

 宇宙服はとっくに破壊され、保温機能も停止している。

 平均温度が70度を超えるこの星の息吹を感じながら殴られ続けば、脱水症状も相まって彼は死ぬ。

 

「ッ……ッ……!」

「やめて……やめておくれよ!」

 

 殴っても呻き声すら出なくなった彼に変わって、女の方がそう嘆願してくる。

 意味がわからない。

 

「先に仕掛けて来たのはそちらだ。殺されることに文句があるのか?」

「殺すだって? 違うだろ、あんたはただ暴力を楽しんでいるだけじゃないか!」

「それだって君たちと同じだ。最低限に武装しか搭載されていない中型船を戦艦9隻で襲った時点で、弱い者いじめをする気満々じゃないか」

 

 まぁ別に君たちがやっているからと言って私がそれをする理由はない。

 性能テストももうこれ以上はなさそうだ。

 そう合理的な理由はない、が……

 

「君たちはテンメイを狙った。君たちがどのような理由でその行為に手を染めているのか、どのような事情があるか、どのような正義と悪の境界を持っているのか、そんなことは私には関係ない」

 

 私は人間ではないから。

 いや、そんなことよりも単純に、私は私とテンメイのこと以外に興味がない。

 

 テンメイと友人になってから、私の心持ちには多少の変化があった。

 けれどそれはテンメイやセンリ・ゴールドバーグに対してのものであって、それ以外の人間に私は露ほどの興味もない。

 

「君たちが霊になる前に、君たちの犯した罪を教えてあげよう。それは、私の逆鱗に触れたことだ」

 

 グチャリと、私の手の先から肉が潰れた音がした。

 

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