宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第44話『人間失格』

 

 ヘリはタナカさんとシニカさまが去ってから早々に撃ち落とした。

 私と相対するのは16人のフル装備の兵士と、3人の超能力者。

 彼らの基本的な装備は一般兵と大差ないが、彼ら3名だけは頭部に一切の装備を着用していなかった。

 

 1人目は重力を操る超能力者。触れたものの重さを増加させるようだ。鉄骨を盾にした圧し潰しが、普通の物理法則ではあり得ない威力で地面を抉っていた。

 2人目は自動治癒。損傷を修復する異能。腹部に確実に内臓が傷つくレベルの穴が空いてもすぐに再生していた。

 

 そして、3人目は身体変化。腕を鎌のような武器に変えたり、足を剣にしたり、他にもいろいろな形状に変化して戦ってくる。

 

 とはいえ、1人目は触れられなければいい話。

 2人目は不死身に近いが、戦闘能力は喧嘩自慢の域を出ない。

 脅威と成り得るのは3人目だけ。彼は身体変化によって機動力や防御力も確保している。

 

「君、なかなかすばしっこいじゃないか。だがこの数相手に、それに僕ら3人までいる状況で勝てるとは思っていないのだろう? 僕らは別に君をターゲットにしているわけではない」

 

 身体変化の異能を持つ二十歳くらいの金髪の男性は、私へ命令する。

 

「そこを退け。僕も好き好んで女の子を殺したいとは思っていないんだ」

「断ります」

「そうか。じゃあ死んでくれ」

 

 超能力。タナカさんの話も合わせて考えれば炎を出し、重力を操作し、自分の肉体を修復し、性質や形状を変化させる。

 

 情報を整理しよう。

 

 第一に彼らの異能がタナカさんと同質のものである可能性は否定されている。

 もしそうなら、こんな面倒な方法をとる必要はない。このコロニーごと全員殺せる。

 

 それに、タナカさん自身も超能力者相手に霊能力は感じないと仰っていた。

 アーティファクトや宇宙怪獣の能力も霊能力に関連するものらしいので、その可能性もない。

 

 彼らの能力は科学の延長線上に存在する最新技術である可能性が高い。

 

「大体わかりました」

「なにがわかったというのかな?」

 

 小首を傾げる彼の腕が伸びる。

 指先が鋭利な刃に形を変えて、私の頭上から振り下ろされた。

 

 すでに強化ブーツを展開していた私は、後ろに大きく飛ぶ。

 私の目の前、コンマ1秒前まで私がいた場所に4本の指だった刃が突き刺さる。

 だがもう1本、中指の刃がさらに私へ伸びた。

 

「空中じゃ避け切れないだろ?」

 

 最初からこれを狙ったフェイントだったらしい。

 まぁ、最初の攻防の時点で『強化ブーツ』は見せている。

 なんの策もなく攻撃してくるはずもない。

 

「人工魔王ハンドくん」

 

 私の言葉に従ってウェポンホルダーが強化グローブに形状を変え、私の腕に纏われる。

 そのまま伸びて来た刃を掴み、着地と同時に大きく引っ張る。

 強化グローブは腕力を大幅に強化する。改造手術によって基本能力も向上している私なら、2トン程度までなら引っ張れる。

 

 彼の体重は多く見積もっても80キロもない。

 勢いよく引き寄せられたことで彼の体は浮きながら、私の方へ近付いてくる。

 

「空中じゃ避け切れないらしいですね」

 

 左腕は刃を掴み引き寄せるのに使ったが、右腕は空いている。

 握りしめ、構え、迫ってくる男性へ照準する。

 

「バカめ!」

 

 空中でそう叫んだ彼の体が球体のように変化し、全方位へ向けて剣山のように針が伸びる。

 ハリネズミみたい。そのまま私を串刺しにする目論見のようだ。

 

「首長妖怪ウォーマー(レーザーランス)」

「なっ!」

 

 グローブの上から光学式の長槍を構え、剣山となった彼に突きを放つ。

 

 そのまま私の槍は彼の胴体に突き刺さった。

 

「まず1人……」

「女が戦場なんかに出てくるから、死ぬことになる」

 

 ――針が一斉に伸びる。

 

「ッ……?」

 

 どうして、生きている?

 そうか……身体変化で私の槍が突き立てられる場所に意図的に穴を開けて透かしたのか……

 

「くっ」

 

 槍の具現化を解除し後ろに下がろうとするが、タイミングが遅れた。

 これだとバックステップより先に、針が私の胸に刺さる。

 それに、横方向に避けても別の針が刺さるから意味がない。

 

「瞳の魔女アナちゃん(シールドジェネレーター)」

 

 アナちゃんは、ウェポンホルダーの中でも防御に特化した兵装。

 私の脳波を読み取って望みの位置に望みの大きさのシールドを展開してくれる。

 でもこれは、回避不可能と判断した攻撃にのみ使用する私の最終防御。

 

 このカードをこんな早々に切らされるなんて……

 

「撃て撃て! こいつはもう終わりだ」

 

 人型に戻った彼が、数歩下がりながら控えていた16人の兵士たちに命令を出すと、一斉にビームライフルによる射撃が開始される。

 シールドを広げて守るが、シールドジェネレーターはシールドのサイズを増加させるほど硬度が下がるという弱点がある。

 

 このまま面攻撃を続けられれば、シールドは割られる。

 

 金髪の男が、私に問いかけてくる。

 

「なぁ、単純に疑問なんだけど、どうして君はこんなところで戦っている? 見目も声も悪くない。美貌は力だ。君ならこんな殺伐とした領域にいなくとも十分に生きていけるだろう?」

「……あなたは、私を心配してくれているのですか?」

「いいや、単純に疑問なのさ。そう生きる必要がなく、もっといい人生が簡単に手に入るのにそうしない理由はなんなのかなって……あぁいや、そうか、僕は君が羨ましくて妬ましいんだ」

 

 シールドジェネレーター残り耐久値――42%。

 

「僕の能力は見ての通り見てくれを変える力だ。だから僕は見た目の価値を知っている。無条件に嫌悪と好意を抱かれる両方の外見を体感して知っている」

 

 シールドジェネレーター残り耐久値――35%。

 

「そして外見の価値は基本的に女性の方が高い。人間なんて何万年経とうが変わらない。女は美貌を磨き、男は能力を磨く。それがもっとも費用対効果の良い生き方だ。なのにどうして、君はここに立つ?」

 

 シールドジェネレーター残り耐久値――22%。

 

「どうして、君はそんなに可愛いのに、生命の危機を背負いながらこんなところにいる必要がある?」

「私にはそんな生き方はできませんよ」

「なぜ? 望めば好きなように顔を整形できるのが今の時代だ。それに投資して普通なら手に入らないような大金を持っている女も沢山いる」

「それは、その方たちの才能です。仮に私の見た目が世界で一番整っていたとしても、私にはそんなことはできない。そんな能力はない」

「簡単だ。男の気分を良くする表情で、そういう言葉を口にすればいい」

「だから、それが無理なんです」

 

 シールドジェネレーター残り耐久値――2%。

 

「抜刀」

 

 私の携帯端末に付属していた青い刀のアクセサリーが、本物の刀のサイズまで巨大化する。

 

「蒼景色」

 

 刀を抜き、その言葉をトリガーにして私のアーティファクトの異能は起動する。

 

 私以外の、私の半径100メートルの世界は2分の1の速度で進む――

 

 この距離で放たれるビームライフル。しかも完全に照準されている状態のものが16丁。それをすべて回避するなんてことは不可能だ。

 だけど、弾速、照準、反応速度、すべてが半分になるのなら強化ブーツによる加速によって、私の速度は弾丸を超える。

 

 今の私を捕らえたいのなら、未来を視るくらいはしなければ不可能だ。

 

 殺しはしない。殺す必要がない。

 

 ビームライフルを回避しながら、一般兵の後ろへ回り込み、顎や頭を殴りつけて気絶させていく。

 最短の動きで敵の意識を刈り取れば、全員気絶させるのに30秒とかからなかった。

 

 身体変化以外の超能力者も同様だ。

 気絶させるのに特に手間はかからなかった。

 

「なんだ……なにが起こったんだ……?」

 

 アーティファクトの効果を解除する。

 

「私がここにいるのは、力を持っていない人を護れる人になりたいと思ったからです。そのために要らないと思ったことには興味を抱けない人生でした」

「バカだね……人生とは欲を満たすゲームだ。それこそが人間という種を霊長に仕立て上げた性質だ。我欲ではなく、他人の幸福を願うなど偽善でしかない」

「……私は多分……自分の遺伝子をこの世界に残したいとは思っていないのだと思います。だからそれに必要な動作を理解できない。実行できない」

 

 そう言った私を見て、彼は憐れむような乾いた笑みを浮かべた。

 

「はは……だとしたら、君は人間失格だ」

「はい、自覚しています」

 

 アーティファクトの長期使用は避けたい。

 この人だけが相手なら、アーティファクトの力は必要ない。

 

 少しずつ、私は彼へ近付いて行く。

 

「どうやら、今の加速は時間制限付きの機能だったようだね」

 

 そう言いながら、彼も私へ向かって歩き出した。

 彼らの使う『超能力』の原理は大体わかった。

 

「1つ、確認してもよろしいですか?」

「なんだい?」

「思念伝達式の統括ナノマシン操縦技術……それが、あなた方が超能力と呼んでいるテクノロジーですよね?」

 

 その問いに彼はなにも答えはしなかったが、歩幅は少し縮まった。

 それだけで私の推測が正解であると確信するには十分だった。

 

 本来、ナノマシンとは特定の形状を記憶させてそれを再現する使用方法が一般的だ。

 私のウェポンホルダーでも、人形ごとに1つの形状を記憶させて、それぞれを変形させて武器にする。

 

 だが、彼らの超能力では、ナノマシンをある程度状況に応じて自在に操ることができているのだと思う。

 

 特定の気体を操作し、密度をコントロールすることによる燃焼力の強化。

 物体に付着させたナノマシンに下方向への移動力を与えることによる重力の増加。

 身体組織をナノマシンに代替させることによる再生。

 そして、身体組織をナノマシンで拡張する身体変化。

 

 すべて説明が付く。

 

 VR技術にも使われる『脳波による操縦』によって、統括的にナノマシンを操作することができるように脳機能そのものにメスを入れた存在。

 それが、超能力者と名乗る彼らの正体だ。

 

 それはわかった。

 だから、これ以上戦闘を長引かせる必要はなくなった。

 

「その顔を見るに、確信しているようだね」

「はい」

「ならば嘆かわしいことだが、君をここで確実に殺さなけばならないようだ」

「憂うには及びませんし、あなた自身についても心配する必要はありません。拘束させていただきます」

「嘗めたことを言ってくれる……」

 

 彼の動きが加速する。

 足が馬の蹄のような形状に変化している。

 それに腕が小型の刃をワイヤーで繋げた蛇腹剣のような独特な形状に変化している。

 

 鞭のようにしなる斬撃。

 動きは不規則だし、単純に振りぬく速度が速い。

 

 見切れない……シールドもない……

 

 ならば、前へ――

 

「ちょっとはビビれよ!」

 

 遠距離攻撃特化の身体変化。

 速度を乗せたのは距離を縮めるためではなく、蛇腹剣が届く絶妙な距離感をキープするため。

 でも相手の誤算は、蛇腹剣を嫌って下がると思った私が直進したこと。

 

 馬の蹄に急ブレーキの機能はない。

 

「だったら諸共やってあげるよ!」

 

 蛇腹剣が私に迫る、それを強化グローブを纏った左腕で掴み、撒き付ける。

 だが、強化グローブの機能は膂力の強化であって防御は重要視されていない。

 

 強化グローブが砕け、皮膚に刃が食い込み、血がしぶく。

 

「ッ!」

「せっかくの美人が、苦悶に歪んでちゃ台無しだよ」

 

 彼の言葉を無視して、私は蛇腹剣を引き寄せながら前へ進む。

 

「インファイト? 無限の形を持つ僕相手に?」

 

 強化グローブと強化ブーツ。それ以外の兵装は必要ない。

 

 ただ、形状変化と身体操作を見極めて、殴りと蹴りで相手を沈める。――と、

 

「君のやりたいことはわかってるんだよ!」

 

 私の蹴りが、野球のグローブのように変化した腕に止められ、そのまま蛇のような形状に変わって足に絡み付いてくる。

 片足の状態では次の蹴りの威力もパンチ力も半減。しかも私の片腕は蛇腹剣に絡み取られている。

 

 文字通り『手も足もでない』。――と、彼が思ってくれれば、私の勝ちだ。

 

 腕を伸ばし、私は彼の頭の後ろに手を回す。

 

「絞め技? 残念だけど、僕は骨格を自由に変化させることができる」

「そうですか。では、おやすみなさい」

 

 ゴン!

 

 と、強く鈍い音が間近で鳴った。

 

「ガッッッ!!」

 

 私の額は、彼の額を打っていた。

 彼には変化されられない部位がある。

 それは現代科学でもブラックボックスとされる人間の核。脳だ。

 

「なんだか沢山褒めていただいてありがとうございます。私の顔はよく見られましたか?」

 

 その答えが返ってくることはない。彼は私の頭突きによって気絶していた。

 

 彼らを拘束していると、やっと警察が現れる。

 随分と遅い到着だ。まるでこの国の権力者がその出動に待ったをかけたように……

 

 

 ◆

 

 

 センリちゃんと別れた僕らはエレベーターで第5階層へ向かった。

 さすがにエレベーターの中まで襲撃されることはなく、思ったよりも簡単に僕らは第5階層の敷地を踏むことができた。

 

 入場許可証に関してもエレベーターがある建物の受付で購入できるらしく、シニカちゃんが携帯デバイスを操作してすぐに僕に許可証を付与してくれた。

 

 第5階層は高級住宅街という感じだった。

 どこを見上げても主張の激しいビルや、豪邸が見える。

 第3階層以下のネオンライト広告もほとんどなく、全体的に落ち着いた景観だ。

 

 しかし、これまでの階層よりずっと狭く、建物も少ない。

 

「というか、そもそも入場許可証が必要なんだし追手も早々ここまではこれないんじゃない?」

「どうかな。第5階層くらいなら、持ってる人は持ってるし……」

 

 そう言いながら、僕らはゴミ1つ落ちていない綺麗な道路を歩ていく。

 金持ち特有のおおらかな雰囲気の通行人とすれ違いながらシニカちゃんへ着いていくと、目的地はすぐに見えて来た。

 

 そこはドームのような構造になっていて、天井は開閉式みたいだ。

 

「ここがうちの保有してるTW用の装備試験場。従業員は先に避難させたよ」

「へぇ、まぁまぁおっきいね」

「テンメイ、ここまで逃げられたら一応うちの護衛も呼べるけど、どうする?」

「いや、呼ばなくていいかな。それよりここに近付かないように言っておいて」

「多分敵が来るとしたら、ゼノ・エナジーの護衛が来ることを想定した戦力で来ると思うけど……?」

「へー」

「……」

 

 そんな生返事をすると、シニカちゃんは少し目を見開いた。

 なんだろ、なんかコメントを期待されてる気がする。

 

 でも別にお願いなんてないしなー。

 

「テンメイってさ、本当に人間なの?」

 

 それはいつも見てきた僕への恐怖を抱く顔とは少し違った。

 シニカちゃんは、僕のことを実験動物だとでも思っているかのような視線を向けた。

 

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