宇宙海賊狩りのタナカ   作:水色の山葵

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第8話『借機』

 

 ミロクの試験から1週間。

 

 センリちゃんは無事に今の職場を退職し、家も引き払ったそうだ。

 

 そして約束通り、購入したセンリちゃんの専用機が僕の船に運ばれてきた。

 

「TWって結構するんだね」

「…………」

「普通ならこんなにはしないよ。この機体は色々と彼女の要望が入ってる完全なオーダーメイドだから、それで値段が上がっているわけだね。それに換装用のパーツも結構買ったから」

「…………」

「へぇ、結局全部でいくらだったの?」

「5億5300万……飛んで348CMだね」

「…………」

「おぉー。そういえば代わりに脚部の粉砕した観賞用TWは引き取ってもらったけど、30万くらいにしかならなかったよね。買った時は5000万くらいしたのに……」

「そうだね」

「……………………」

「今までの功績を元にお金を借りれるから、傭兵支援機構の銀行ってこういう時に便利だよね」

 

 手持ちは2000万くらいしかなかったけど、足りない分は傭兵支援機構から借りた。

 

「借金……」

 

 色んな国を飛び回る必要のある傭兵を支援する組織なだけあって、傭兵支援機構には金融の役割(サービス)もある。

 

「あは……あはははは……」

「喜んでくれて嬉しいよ、センリちゃん」

「いや、これはどちらかというと壊れたんじゃないかい?」

「何が?」

「だってほら、見てみなよ」

 

 ミロクがセンリちゃんの頭をツンツンしているが、メトロノームみたいに返ってきて、ずっと一定の声色とリズムで笑い続けている。

 

「あは、あはは、あはははは、あは、あはは、あはははは……」

 

 独特な笑い方だね。

 

「もしかして何か不満なところとかあった? 一応センリちゃんがVRで設定してくれたTWと同じように組んだはずなんだけど……」

「いえ、タナカさんにはまったく一切問題はありません」

「そうなんだ。じゃあよかった」

「あの……ですが……私は……」

「まぁまぁ、ちょっとこっちに来なよセンリ・ゴールドバーグ」

 

 そう言ってミロクはセンリちゃんの背中を押して、僕から少し離れた場所に連れていく。

 何か秘密の話をしているらしい。

 

 ミロクが悪い顔をしながらセンリちゃんの耳元で囁くと、センリちゃんは真面目な表情で頷く。

 絶対なんか悪いことしてるよ、あのロボ執事。

 

 ミロクは戻ってきたけど、センリちゃんは倉庫の外に出て行ってしまった。

 

「センリちゃんどこいったの?」

「すぐ戻ってくるから待っててってさ」

「ふーん」

 

 ミロクの言葉通り数分で倉庫の扉がまた開いて、センリちゃんが入ってくる。

 

「え゛っ!?」

「お待たせいたしました。ご主人様♡」

 

 そこにはミニスカメイドコスをしたセンリちゃんが立っていた。

 すごく恥ずかしそうに頬を赤らめている。

 

 ていうかあれ前に着てたヤツでしょ。

 その時はコートを羽織ってたし夜だったからよく見えなかったけど、センリちゃんってこんな服も着るんだ……

 

 イメージには合わないけどこれはこれで……

 

「なんなりとご命令ください」

 

 いや、ていうか何この状況……!?

 

「あの、センリちゃん……」

「はい。なんでしょうか、ご主人様」

「なんでそんな恰好してるの? ていうかその呼び方何?」

「それは……タナカさんが……」

 

 と言いながら、センリちゃんは疑問符を浮かべながらミロクの方へ視線を向ける。

 

「ブフ……うっ……フハ……」

 

 そこにはお腹を抑えて必死に笑いを堪えるミロクがいた。

 

「いや、ごめん。本当にやるなんて……ブフ、思わなくてさ……アハ……」

「え、タナカさんがメイド服を着て欲しいって言ってたって……」

「僕そんなこと一言も言ってないよ!?」

「え……あ……ミロクさん!!」

 

 センリちゃんは四つん這いになって笑いを堪えるミロクの身体をガシガシと蹴っていた。

 僕も蹴ろうかと思ったけど、正直ナイスと思っている僕もいるから責め辛い。

 

「……そのタナカさん、TWを買っていただいてありがとうございました」

「いやいや、センリちゃんがミロクの滅茶苦茶なテストをクリアした報酬なんだから、君の実力だよ」

「そう言ってもらえるのは助かります。しかしタナカさんに借金を背負わせたままではいられませんし、やはり私は早急に仕事をしたいです」

 

 仕事か。たしかにここ3週間、僕は首都惑星から動かず完全なニート生活を送っている。

 

 マポリオンの報酬もTWの購入費用で消えたし借金もある。そろそろ仕事をしないといけなさそうだ。

 

 それに、僕もセンリちゃんと仕事をしてみたい。

 

「いいよ、じゃあ依頼を探そっか」

「その、よければこの依頼を受けませんか?」

 

 センリちゃんのスマホ型の携帯端末(デバイス)から、依頼書が掲載されたホログラムが投影された。

 

 ていうかセンリちゃんの端末めっちゃストラップ付いてるな……

 ゆるキャラみたいなのが10体くらい付いてるよ。

 

「ストラップ可愛いね」

「これは昔好きだったアニメの……いえそうではなく依頼の方を」

「あぁ、それで大丈夫だよ」

「いいんですか? そんなに簡単に決めてしまって」

「だってセンリちゃんが選んだ仕事でしょ? 僕はセンリちゃんを信じてるから」

 

 そう言うとセンリちゃんは恥ずかしがるように俯いて言った。

 

「私も、タナカさんを信じてます……あ、とりあえず着替えてきますね!」

 

 センリちゃんは倉庫から出て行った。

 

 なんか〝信じてる〟とか……

 やばい、めちゃくちゃ嬉しい……

 

 ていうか依頼書あんまり見てなかったけど、結局どういう仕事なんだろ?

 

 

 ◆

 

 

 睡眠を必要としない私は、テンメイが寝ている間に船の清掃とメンテナンスを終わらせる。

 

 この船には私の操る清掃用ロボットが10機以上存在し、それを使えばこの広い船内の掃除もそこまで時間は掛からない。

 

 本当は外装の手入れもしたいが、時間と手間が掛かるため外装の掃除は停泊中にのみしている。

 

 ダイニングと一体型のリビング、シャワールーム、操縦室、VRルーム、全体の半分近い体積を持つ倉庫、TW出撃用ピット、菜園室、電気室、トレーニングルーム、トイレ4カ所、空きが5部屋。

 

 テンメイとセンリ・ゴールドバーグの私室を除き、すべての清掃が終わるのが午前3時だ。

 

 それにしてもテンメイの道楽で造られた部屋のメンテナンスが面倒くさい。

 

 大金を懸けたのに、すぐに飽きて興味を無くすのは我が主の悪いクセだね。

 

 トレーニングルームなんて最後にテンメイが入ったのは3カ月以上前だ。

 

『筋トレしたらモテるらしいんだよ! 僕やってやんよ! ムキムキになってやんよ!』

『疲れたし今日は休もっかな。1日くらい休憩は必要でしょ』

『今日もいいや、明日はやるよ』

『また明日ね』

『そのうちやるって』

『やっぱりファッションの勉強でもしようかな』

 

 なんてことになるのに1週間もかからなかった記憶がある。

 

 なのに、今日はその部屋(トレーニングルーム)に灯りが点いていたから中を覗きに来た。

 

 案の定というか、やはりそこにいたのはテンメイではなかった。

 

「やぁ、センリ・ゴールドバーグ」

「こんばんは、ミロクさん」

 

 300kg近い重りを付けたベンチプレスを上げながら、平静な声音で挨拶を返してくる彼女の姿には高い身体能力が伺えた。

 

「もしかしてお邪魔でしたか?」

「普段この時間は船の清掃をしていてね」

「それは申し訳ありませんでした。最近身体が鈍っていたので依頼の前に追い込んでおこうと思いまして」

 

 ガッシャン! と音を立てて、バーベルが床に転がる。

 

 この部屋はそれなりに頑丈な造りだから、その程度で傷は入ったりしないということを彼女もわかっているのだろう。

 

「いや、問題はないよ。この部屋の清掃は別の時間にやるとしよう」

「お気遣い助かります」

「まぁね、お荷物がお荷物のままじゃ私もテンメイも困るからね」

「……わかっていますよ」

「知っているかいセンリ・ゴールドバーグ、傭兵には『ランク』という制度がある」

「知っています。実績に応じて付けられるSからDまでの5段階評価ですね」

「あぁ、テンメイは最高峰のSランクだった。けど傭兵団になったことで、つまり君が入団したことでそのランクはBまで落ちた」

 

 センリ・ゴールドバーグは目を細め、手に持つ水の入ったボトルを凝視しながら私の話を聞いている。

 

「当然だね。君は数カ月で軍をクビになった人間だ。実績なんてないし、成果なんて残してない。そんな君が入ることでテンメイの依頼達成能力が上がる可能性よりも、君が足を引っ張る可能性の方が高いと傭兵支援機構は判断したってことだ」

 

 その判断はなにも間違っていない。

 センリ・ゴールドバーグには実績が1つもないのだから。

 

「……ミロクさんって嫌味な(しゅうとめ)みたいですね」

「悪いかい?」

「いえ、きっとあなたがいたからタナカさんはあんなに優しいのでしょう」

「……どういう意味かな?」

「あなたは悪者になろうとしている。他の誰かが悪者にならないように」

「はは、随分と知ったような口を利くじゃないか」

「強大な力を持っていながらタナカさんは底抜けに優しい。それはきっと、周りにいた人間の影響で形成された人格なのではないでしょうか」

 

 キリッとした瞳でセンリ・ゴールドバーグは私を見つめる。

 そこには混じり気は一切なかった。

 

「私は人間ではないよ。センリ・ゴールドバーグ」

「たしかにそうですね」

 

 そう言って微笑む彼女を見て、私は自分の口角が少し上がっているのを自覚した。

 

 私も少なからず彼女に影響されているのだろうか……?

 

「私が足を引っ張っていることは自覚しています。だから次の依頼でまずはTWの費用を稼ぎ、それからすぐにタナカさんをSランクに戻して見せます」

「そうか、楽しみにしておくよ」

 

 彼女には自信があるのだろう。

 訓練時代の成績や軍での無敗記録。

 

 でも、彼女には傭兵の経験はない。

 

 そう簡単にいくかな?

 

「それにしても姑か、もうテンメイの嫁気分なのはさすがにどうかと思うけどね」

「ぴゅっ、そ、そういう意味じゃないです!」

 

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