私の名前は『ニノミヤ・タンゴ』。
48歳。独身。無職。
出身は惑星は『メタロ』という辺境。そこは金属採掘が盛んで、人口の約6割が炭鉱夫という星だ。
そんな土臭い田舎が嫌で都会に飛び出してきたのが20年前。
最初は私も大都会に夢を抱いていた。
こんな私でも〝特別な〟なにかになれると信じていた。
けれど、首都惑星『ビクトリア』に抱いていた幻想はとうの昔に朽ち果てた。
アルバイトをしてその日暮らしの生活をしていたが、いくつバイトをしてもいつも同じ理由でクビになってしまう。
メタロ星人は『見た目が悪い』からだ。
メタロ星人は星の環境に適応する過程で、通常の人間とは違う進化を遂げた。
身長が低く筋肉質。ずんぐりむっくり、もしくは『ドワーフ』という言葉を体現したような姿をしている。
今の科学技術を使えば骨格を含めた全身整形も可能らしいが、そんな金が私にあるわけもない。
こんな人生にはウンザリだった。
だから私は勝負に出ることにした。
私に特技と呼べるようなものが、故郷で培った炭鉱夫としての知識と技術しかない。
それを使って未開の惑星に眠る希少鉱石を持ち帰ることができれば、大金を手に入れることができる。
けれど、開発が進んでいない星にはそれなりの理由があるものだ。
未開の惑星で安全に採掘をするためには、優秀な『ボディガード』が必要だった。
だから私は借金をして傭兵を雇うことにした。
しかし私に出せる金額や条件には限りがある。しかも初めての依頼。
それに私の目的とする惑星の環境は驚異的で、Bランク以上の高レベルな傭兵に限定して依頼を出すしかなかった。
依頼を出して1カ月、仕事を引き受けてくれる傭兵団は未だ現れていない。
「やっぱりダメか……」
受けてくれる傭兵が全くおらず、諦めかけていた時……
ピロン♪
携帯端末が傭兵支援機構からのメールを受信した。
受けてくれたのは『タナカの傭兵団(仮)』という傭兵団。
傭兵団ランクは『B』。実績欄は……『無し』?
いや、傭兵支援機構が選定したランクだ。信頼はできるはずだ。
それに彼ら以外に受けてくれる傭兵がいるとは思えない。
彼らに頼るしかない。
・
・
・
「改めてこちらは団長のタナカ・テンメイとこの船を管理する人工知能のミロク。私は団員のセンリ・ゴールドバーグと申します。よろしくお願いいたします」
「よろしく、ニノミヤさん」
「家事全般は任せてくれたまえ」
……終わった。
依頼を受けてくれた傭兵団の宇宙船に向かうと、そこにいたのはたった2人の小さな傭兵の姿だった。
1人は中学生くらいの少年。もう1人も高校生か大学生くらいに見える女性。
残りはアンドロイドだけ。しかも1機。
「私はニノミヤ・タンゴと申します。よろしくお願いします」
「ご依頼は惑星『ロリロリック』での資源採掘の護衛ということでよろしいでしょうか?」
「えっと、はい……」
そりゃそうか……こんな依頼普通に考えてありえない。
ほぼ未開の惑星の資源採掘なんて大型の重機を使って行われるものだ。
それを私1人でやるというわけだから傭兵側の負担がとんでもないと思われても仕方がない。
そんな依頼を受けてくれる傭兵が真面なわけがない。
けれど私の出身地『惑星メタロ』は、子供の頃から採掘の手伝いをするのが当たり前の星だ。
メタロでは一人前の証として〝とある道具〟が星長より与えられる。
それは、大型重機を使って行うような採掘を単独で熟すことを可能とするものだ。
けれどそんな辺境のみてくれの悪い人種の文化など知っている方が珍しい。
「それでは明日出発ということでよろしいでしょうか? 到着予定はおよそ3日後。1日を採掘に充てるとして1週間ほどで依頼完了の予定です」
しかし他に行く当てもない。他にやれることもない。
こうなればヤケだ。
誰だっていつかは死ぬ。孤独に長生きするよりも挑戦して死んだ方がマシだ。
「わかりました。よろしくお願いします!」
◆
船内での雰囲気は終始ゆるかった。
朝昼晩の食事は全員で集まり適当な雑談をした。
センリさんと私でロリロリックについてからの方針を話し合ったが、タナカさんが会話に入ってくることは一度もなかった。
タナカ・テンメイというこの傭兵団の団長は、少年に見えたが実は22歳になるらしい。
ドワーフと嘲笑される私が言えたことではないが、すさまじい童顔だ。
そしてテンリ・ゴールドバーグという唯一の団員。
彼女は見た目通り19歳という若い年齢ではあるが、元軍人でTWの操縦資格を持っているらしい。
宇宙戦闘の王者とも言われる
この若さで操縦資格を持っている人間は中々いないだろう。
彼らがBランクと認定されたのは彼女のパイロットそしての才能が関係するのだろうか?
だとしたら実績欄が『無し』だったのも頷ける。
しかしタナカさんの方はTWを操縦できるわけでもない。おそらくはお飾りの団長。
素人ながら、さすがにこの戦力で惑星ロリロリックの資源採掘は荷が重い気がした。
だが、ここまで来て諦めるわけにはいかない。
「到着したよ」
「それでは行きましょうか」
「おっけい」
「はい!」
ミロクさんは宇宙空間上に停泊する船に残り、他3人で惑星に着陸する。
ただしセンリさんはTWで突入するため、子機で着陸するのは私とタナカさんの2人だけだ。
「ニノミヤさんってさ、普通とは違う見た目だよね?」
広いとは言えない子機の密室。タナカさんは私と目を合わせずにそう言った。
「すいません。見苦しいですよね……」
「どうして謝るの? やっぱりニノミヤさんも人と違うことは悪いことだと思う?」
「え?」
質問の意図がわからなかった。
でも、もう私は腹を括ったんだ。命を懸けてここにいるんだ。
今更、取り繕たってしょうがない……
「いえ、人と違うということは特別な才能だと私は信じています」
思い出した。
『首都惑星に行く? やめとけやめとけ、俺らみたいな見た目のヤツ、受け入れられやしねぇよ』
『私たちは採掘くらいしか特技のない人種だからね。それなりの幸せで満足するべきなのよ』
まだ私が幼いころ、両親は私にそう言った。
子供ながらに、私はその言葉をとても悔しく感じた。
そうだ。私がビクトリアに来た本当の理由は、メタロ星人の採掘技術はすごいんだと証明するためだった。
「そっか、ニノミヤさんはすごいね」
「え?」
「約束するよ。この依頼は僕たちが必ず達成する」
そう言った彼の声には、今までのゆるい雰囲気は残っていなかった。
神に結果を確約させたかのように、彼の言葉は自信に満ちていた。
子機が着陸する。
近場の太陽との位置関係的には、この惑星は普通の居住惑星よりかなり寒いはずだ。
しかし、テラフォーミング装置が半端に稼働していることで、気候や気温が生物が生存可能な状態に保たれている。
一応私とタナカさんは宇宙服を着用しているが、なくても生存は可能だろう。
少し遅れてセンリさんが乗った白いTWが桜色のブースターを噴射しながら真横に着陸した。
わずかな土煙しか立たない丁寧な操縦だ。
『私が先行します。お2人は付いてきてください』
目的地はこの近くにある渓谷だ。
宇宙船から映像を解析して、レアメタルの埋蔵量と採掘のしやすさという観点から私が選んだ。
「了解しました。それではバギーを出します」
私が持つ腕輪型の採掘デバイス【ホリダーホルダー】は、ナノマシンテクノロジーによって造られた採掘用の万能装置だ。
10種の道具に変形することであらゆる環境での採掘活動を行える。
その内の1つである【積載用バギー】を目の前に呼び出す。
悪路走行を想定した優れものだが、慣れるまで運転がかなり難しい。
こうした使用難易度の高さがあるため【ホリダーホルダー】はメタロ星人以外が使うことはあまりない。
「タナカさんもよければどうぞ」
「じゃあお邪魔します」
さっきの絶対的な雰囲気は消え、今まで通りののほほんとした表情でタナカさんは助手席に腰を下ろした。
「シートベルトはしましたか?」
「うん」
「それではいきましょうか」
『了解』
センリさんのTWが先行しようと一歩前に出た瞬間……
――グラリ、と地面が揺れた。
来た。1歩目でもう来るのか……
それはこの惑星の採掘難易度を向上させている原因。それはこの星の生態系の頂点。
全長10~50メートル。普段は地中に生息しているが、地上の振動を感知するとドリルのように地中を掘削する牙によって地面を掘り進み、地上へ現れ捕食行為を行う。
「で、出ました! 【ワーム】です!」
そう呼ばれるロリロリックの固有生物。
こいつがいるから、この星には人類が住むことができない。
「どうするセンリちゃん?」
「タナカさん、ここはお任せください」
「おっけい」
ワームの牙の威力は鋼鉄を噛み砕くほどで、地中に潜る性質のせいで動きが読みづらい。
しかし驚いているのは私だけで2人の返答は淡々としたものだ。
なんでこんなに余裕そうなんだ?
そんな疑問は10秒と経たずに解明されることとなる。
『TW【
TWのスピーカーからセンリさんの声が聞こえた瞬間、彼女のTWがブースターを吹かし地面から上半身を生やしたワームの口元を目がけて突っ込んでいく。
大口を開けたワームの口内には数百本の鋭利な牙が見える。
あの中に入ればTWであってもぐちゃぐちゃにされるであろう悪魔的な光景に、しかし純白のTWには全く怯んだ様子はない。
超スピードで接近したTWは、ワームの大口の目の前でピタリと止まる。
自分が持っていた移動エネルギーを完全に理解し、その上で逆噴射のブースト量を完璧に操作しなければあんな急停止は不可能だ。
自分の口の中にTWが飛び込んで来た、と勘違いしたワームの一噛みは空を切る。
白桜は右手に備えたビームサーベルによって口を縦に切り裂き、左手の鉄塊のようなバスターソードを横に薙ぎ頬を殴りつける。
あまりの威力に地中から全身を飛び出し空中に浮かび上がったワームの周囲を、桜色の閃光が舞い踊る。
ワームの肉体が、ビームサーベルによって高速で解体されていく。
無駄なく丁寧に息の根を止めていく。
その姿は機械的で、効率的で、美しかった。
『戦闘終了。周囲に別のワームの反応はありません』
肉片となったワームの肉片が、大地に緑色の血液を巻き散らしながら降り注ぐ。
その雨を避けるため空を走ってセンリさんは戻って来た。
……いや、え? は? 何?
つ、つっよぉ……!
「お疲れセンリちゃん」
『いえ、これくらいは当たり前です。それではニノミヤさま、先導させていただきます』
「あ、はい」
それからセンリさんに付いていくこと数分、私たちは目的地の渓谷に到着した。
この星にはワームの掘削の影響で多くの渓谷や洞窟が存在する。
そこには剥き出しのレアメタルが大量に存在し探索しやすいが、洞窟の場合はワームに襲われて崩落する可能性があるため、比較的崩れ難い渓谷を選んだ。
目的は、加工することで高密度の可燃性ガスとなりTWのブースターなどにも利用される『
1グラム1万CMは超える高価な金属だ。
「では、降りて採掘を始めますね」
私1人ではここまで来ることなど不可能だっただろう。
しかし、この場所まで辿り着けたのなら……ワームを一瞬で屠るTWが護衛として横にいてくれるなら、もう障害はほとんど残っていないように思えた。
……いける、いけるぞ!
心の中で喜んでいると、団長であるタナカさんがジッと地平線を見ているのが横眼に見えた。
「タナカさん? どうかしましたか?」
「センリちゃん、ここは任せてもいい?」
『はい。元々この依頼は私の独力で達成可能だと判断して受けていますので』
「さすがだね。それじゃあお願いするよ」
そう言ってバギーから降りたタナカさんは、1人で見ていた方向へ歩き出した。
「いいんですか?」
センリさんの強さが異常なだけで、ワームはTWがあっても苦戦する相手だ。
タナカさんはTWすら持っていない。
そんな状態でワームに襲われたら人間なんてひとたまりもないはずだ。
なのに、タナカさんの足取りは全く恐怖など感じていないように見える。
『タナカさん……団長は問題ありません。私たちは私たちの仕事をしましょう』
「……わかりました」
センリさんと共にジェットパックで降下すること数秒。
岩肌の中にキラキラとした石がいくつも現れる。
やはりここはワームという脅威によって守られた天然の宝石箱だ。
「す、すごい……」
渓谷の壁面には鉱石が大量に露出していた。
その中には目的としていた
これをすべて採掘するのは流石に難しいが、数十キロ持ち帰るだけで私の1カ月の給金を軽く超えるだろう。
『護衛はお任せください。ニノミヤさまはご自由に採掘を』
「わ、わかりました!」
急いで私はホリダーホルダーを操作し、採掘用の道具を造り出す。
運搬用バギーの積載限界は800kg。
予定では今日1日で3周して2400kgほどの金属を持ち帰ることになっている。
それだけのレアメタルを持ち帰ることができれば、売却金額は容易に億を超えるだろう。
ここからは時間との戦いだ。ワームに襲われる回数を最小限にできるように、できる限り早く採掘を終わらせる。
ホリダーホルダー:モード【爆砕ハンマー】。
ナノマシン技術によって、デバイスがハンマーに形を変える。
このハンマーには着弾点を爆破する機能がある。
しかし爆破する位置や角度、爆破の威力がスイングスピードで決定するため扱いが難しい。
だが、子供の頃からこの道具に当たり前に触ってきたメタロ星人にとってはできて当然の採掘技術だ。
ホリダーホルダー:モード【超重ピッケル】。
先端の重量を操作できるこのツルハシは、重量と叩き付ける威力を精密にコントロールすることが求められる。
だが、メタロ星人は手足が短い分力の制御能力が高く筋力もあるから相性がいい。
『やはりメタロ星の方の採掘技術には目を見張るものがあります。ニノミヤさまの依頼を受けられたのは幸運でした』
「……メタロ星人のことを知っているんですか?」
『この銀河系で最も採掘技術に優れるのは〝商業国家トラセウム〟に所属する企業のいずれかでしょう。しかし〝個人〟で見ればメタロ星人の右に出る採掘者は存在しないと思います』
「いえ、そんなことは……」
『私もホリダーホルダーと似た武装を持っているのでわかります。それを扱うことがどれほど難しいか、扱うことができればどれほど強力か』
こんなことを言われたのは初めてだ。
『メタロ星人が採掘任務に協力してくれる。なぜこんな好条件の依頼が放置されていたのか理解に苦しみます』
メタロ星人は醜い種族だ。
炭鉱夫ばかりの土臭い星の田舎者だ。
それに、ホリダーホルダーを使うよりも巨大な重機を使った方が採掘作業は効率的だ。
だが、巨大な重機は設置に時間がかかる。
準備の手間も、費用も、大量に必要だ。
だから私は――
『メタロ星人の個人能力による採掘業務の完結性はこのような危険な惑星での採掘に適していると思います』
センリさんが言ったことは、私が考えていたことと全く同じだった。
「初めてです、私の考えを理解してくれた人は……」
『……? 当たり前のことしか言っていないと思いますが?』
メタロ星人の話を当たり前に聞いてくれる人なんて……
あぁ、なんだか涙が出てきた。
『どうかしましたか?』
「いえ、目に砂粒が入っただけです」
『スーツとマスクをしているのにですか?』
「はは、たしかにおかしいですね。では採掘を再開します」
『そうですか。正直採掘に関してはニノミヤさまが頼りなのでよろしくお願いします』
「はい、おまかせください!」
私は自分のためにここに来た。
自分の人生を逆転するために傭兵を雇った。
それは今も変わらない。
だが、それに加えて今は、この人たちに損をさせてはならないと強く思っている。
それから採掘は順調に進んだ。
非常に幸運なことに、最初の襲撃以降私たちがワームに襲われることは1度もなかった。
しかし、タナカさんはいったいどこへ行ったのだろうか?
◆
「まさか、この星にあんなモノがあるなんてね……いや〝いる〟って言った方が正しいのかな?」
僕は惑星ロリロリックの草木の1本も生えない大地を歩きながら独りごちる。
「でも依頼は必ず達成するって約束しちゃったからな」
一応【六合】の結界をセンリちゃんとニノミヤさんの周囲に張ってきたけど、向こうは大丈夫かな?
センリちゃんを信用してないわけじゃないけど、センリちゃんのTWパイロットとしての強さは僕には理解できない。
さっさと済ませえて帰ろう。
「お」
歩いていると身体が何かを通過する感覚があった。
六合と似た『結界』だ。
侵入を阻むものではなく、多分外から中を見た時の景色を誤認させるためのもの。
その証拠に、僕の足下に突然花畑が現れた。
それに、目と鼻の先には天を突くほどの『大樹』が見えている。
「やぁ、君がこの星のワームを操っているってことでいいのかな?」
『ここへ人間が来るとは珍しい』
極めて穏和な声色で、その樹木は『言語』を発した。