名探偵コナン 〜桜下の操り人形(マリオネット)〜 作:ワンピース 夢幻の炎
春からのやわらかな陽射しが、阿笠博士の家のリビングを明るく照らしていた。
テレビの画面いっぱいに映し出されているのは、大阪湾のきらめく海と、その向こうにそびえ立つ巨大な建造物。
「うわぁーっ、すっげぇ!」
元太の声が部屋に響く。
『来月開幕する“大阪未来博”。世界七十以上の国と地域が参加し、“未来と共生”をテーマに開催されます——』
アナウンサーの声に合わせて、画面には次々と最新技術の映像が流れる。空を飛ぶドローンタクシー、会話するロボット、夜空を彩るホログラムショー。
「AIによる医療体験ブースもあるみたいですよ!」
と光彦が目を輝かせる。
「夜は桜がライトアップされるんだって! ぜったいきれいだよね!」
歩美も両手を胸の前でぎゅっと握った。
ソファの背にもたれながら、江戸川コナンはその様子を微笑ましく眺めていた。
未来博か……。ずいぶん大きなイベントだな。
画面には、大阪府知事が壇上で演説する様子が映る。
『大阪の未来を世界へ——この未来博は、新しい時代の第一歩です』
力強い拍手。満面の笑み。背後に舞う桜のCG。
「博士、連れてってくれよー!」
と元太が叫ぶ。
「そ、そう言われてもなぁ……」
阿笠博士は困ったようにひげをなでた。
そのとき。
ピンポーン。
軽やかなインターホンの音が鳴った。
「はーい!」
蘭が玄関へ向かい、ドアを開けた瞬間。
「みんなーっ!」
勢いよく現れたのは、鈴木園子だった。手には、金色の封筒をひらひらさせている。
「園子?」
蘭が首をかしげる。
園子は得意げに笑った。
「未来博のチケット、いる?」
一瞬、部屋の空気が止まる。
「えええええっ!?」
少年探偵団の絶叫が、リビングを揺らした。
「ほら、これ。開幕前夜レセプションの招待券。スポンサー関係者用よ♪」
差し出された封筒の中には、上品な桜模様があしらわれた特別招待券が入っている。
「開幕前夜って……一般公開の前日?」
蘭が驚く。
「そうそう。関係者しか入れないの。うちがちょっと協賛してるからさ」
“ちょっと”という言葉の規模が違うのは、もはや誰も突っ込まない。
「行く行く行くーっ!」
「未来のロボット見たいです!」
「桜も見たい!」
博士も目を輝かせる。
「わしも最新科学には興味があるのぅ!」
コナンはチケットを一枚手に取り、しげしげと眺めた。
大阪未来博——開幕前夜特別レセプション。
未来、か。
窓の外では、やわらかな春風が木々を揺らしている。遠くで、どこかの桜がひらりと舞ったような気がした。
「よーし、決まりね! 野郎ども準備はいいか!」
園子の宣言に、部屋は再び歓声に包まれる。
その満開の桜の下で、運命を大きく揺らす出来事が待っていることを、まだ誰も知らない。
その夜。
毛利探偵事務所の自室で、コナンはベッドに腰かけながらスマートフォンを耳に当てていた。
数回のコール音のあと、聞き慣れた声が返ってくる。
『――よう、工藤。どないしたんや、こんな時間に』
「ちょっとな。今度、大阪に行くことになった」
一瞬の間。
『は?』
「大阪未来博。開幕前夜のレセプション」
電話の向こうで、小さく息をのむ気配がしたかと思うと、
『……奇遇やな』
声が、少しだけ弾む。
『俺も未来博の招待受けてん』
「へぇ?」
思わずコナンの口元がゆるむ。
『知事サイドからの来賓扱いやと。若い世代へのアピールやて。ま、顔出すだけやけどな』
「ずいぶん大層な扱いだな、西の名探偵」
『うるさいわ。断る理由もあらへんしな。未来博やぞ? ちょっとは興味あるやろ』
確かに、とコナンは思う。
「まあな。少年探偵団は大はしゃぎだよ」
『想像つくわ』
くすっと笑う声。
『和葉も朝から騒いどる。“桜のライトアップ絶対見る!”やて』
「はは、蘭や園子も同じ様なこと言ってたな」
電話越しでも伝わる、どこか浮き立つような空気。
『久しぶりに顔合わせやな、工藤』
「ああ。大阪でな」
二人同時に笑う。
窓の外では、春の夜風が静かにカーテンを揺らしている。
大阪未来博。
満開の桜。
久しぶりの再会。
今はただ、それだけが楽しみだった。
『ほな、またな』
「おう」
通話が切れる。
コナンはスマートフォンを枕元に置き、天井を見上げた。
大阪か。
しばらく会っていなかった西の名探偵の顔が、自然と浮かぶ。
「退屈はしなさそうだな」
小さくつぶやき、灯りを消す。
春の夜は、まだ静かだった。