名探偵コナン 〜桜下の操り人形(マリオネット)〜 作:ワンピース 夢幻の炎
父親の捜査撤退を聞いた服部は、手に力を込め、俯いた。
「服部……」
コナンが声をかけたが、届いている様子はない。
『……や。』
服部が何かを呟いた。
聞き取れなかった二人が聞き直すよりも早く、服部は大滝の両肩を掴み、もう一度問いかけた。
『どこや⁉︎ 親父は!』
あまりの迫力に、大滝は驚きながらも、平蔵がいる505号室を伝えた。
部屋番号を聞くやいなや、服部は踵を返して駆け出した。
「お、おい! 服部……!」
コナンの声も届かない。
慌てて、コナンと大滝も後を追う。
服部はエレベーターまで辿り着くと、上ボタンを何度も押した。
やがて到着したエレベーターには、数人の乗客が乗っていた。
乗客たちが降りようとするのも構わず、服部は中へと乗り込み、五階のボタンを押す。
そして、最後の乗客が降りたところで、すぐさま閉ボタンを押した。
コナンと大滝は、閉まりかけた扉の向こうに、帽子を目深に被った服部の姿を一瞬だけ捉えた。
しかし、二人が追いつくよりも早く、エレベーターは上昇を始めた。
エレベーターが五階に到着すると、平次は早歩きで部屋へと向かった。
トレードマークの帽子は目深に被ったまま。
部屋に着くと、ノックもせずに勢いよく扉を開けた。
視界に入ったのは、書類を整える父、平蔵の姿。
平蔵は、入ってきた人物に視線を向ける。
それが、自分の息子である事を認識し、視線を書類に戻し、静かに問いかける。
『平次か…何の用や?』
落ち着き払った父の姿に、抑えていた憤りが湧き上がる。
『何の用や、やあらへん!
事件はまだ解決しとらん!自殺か他殺かも決まってへん⁉︎
その状況で、何で府警に戻るんや!』
平蔵は手を止め、服部に身体を向ける。
『事件は、コレだけやない…』
平蔵のその言葉を聞いた瞬間、平次の中で何かが切れた。
勢いよく詰め寄り、平蔵の胸ぐらを掴み上げる。
『何言うてんねん!クソ親父!
親父まで、何かに操られとるんか?
桜の代紋が泣いとるぞ‼︎』
内ポケットから滑り落ちた警察手帳が床に落ち、乾いた音を立てた。
平蔵は何も言わない。
ただ、平次の手を掴み、力を込める。
平次は、その手に込められた力を感じ取った。
父も納得していない。
そう感じたはずなのに、平次の中には別の感情が湧き上がる。
納得していないのなら、なぜ引き下がる。
なぜ、何も言わない。
掴んでいた手から、徐々に力が抜けていく。
平蔵はその手を、ゆっくりと下へ下ろさせた。
そこへ、コナンと大滝が到着した。
二人の視線が、床に落ちた警察手帳と、向かい合う親子に注がれる。
平次も平蔵も、何も言わない。
その張り詰めた空気に、コナン達はすぐには声をかけられなかった。
『お、おやっさん…。平ちゃん…。』
大滝には、それ以上の言葉が出てこない。
しばらくの沈黙の後、平蔵は足元に落ちた警察手帳に目を向け、静かに拾い上げる。
ジャケットを整え、手帳を内ポケットに戻す。
服部は立ち尽くしたままだ。
そこへ、遠山が部屋を訪れた。
部屋に漂う緊張した空気を感じ取ったものの、平次と平蔵の間に何かあったのだろうと察し、それ以上は触れずに本来の用件を切り出した。
『平蔵、近藤府知事らへの対応は?』
『お前に任せる。
資料はここにまとめてある。目を通しておいてくれ。』
『わかった』
『……後は頼んだ』
平蔵は、捜査本部の引き継ぎとは思えないほど、簡潔なやりとりで遠山に託し、部屋を出て行った。
誰も、その背中を呼び止めなかった。
平次は動かない。
ただ、父が警察手帳を拾い上げた場所に、視線を落としていた。