綾小路 in Cクラス 作:NIES
第1話:赤髪と盆暗
──────いきなりで悪いが、皆に問いたいことがある。
それは…………『バスの二人席を一人で占領するのは善か悪か』だ。
「…………すまん。席を開けてくれないか?」
春の日差しが美しく車内に差し込む中、オレは目の前の男に語り掛ける。どうやら新年度早々オレは、乗り合わせるバスを間違えてしまったらしい。
「…………チッ。ほらよ、アホ面」
バスの後方に位置する二人席を一人で占領していた赤髪の男が、渋々自身の鞄を膝の上に乗せる。その姿を見て、オレは彼が皆と同じ結論を出してくれたであろうことに安心を覚えた。
オレの名前は綾小路清隆、そこらによくいる一般人男子高校生だ。季節は春となり、語ってるオレも新しい高校に向かっている最中である。
夢にまで見た高校生活を送れることに期待を覚えつつも、隣で人相悪く座っている赤髪の彼がオレと同じ制服を纏っていることだけが唯一の心配点だと言えるな。
学校に着くまで暇なので、オレの行く高校の話でもしようか。オレが通う事になっている高校の名前は『高度育成高等学校』という。
現内閣総理大臣である鬼島の打ち出した政策の一つで、何でも将来の日本を支える優秀な若者の育成を目的としているらしい。
だが、オレや隣の彼、そしてそれ以外の多くの受験生は、そんな大層なことには興味がないだろう。目指した理由は簡単、『卒業すれば好きな進路を約束されている』から。
高い倍率に挑んで尚余りあるほどの恩恵に、多くの受験生が闘志を燃やしたことだろう。
「…………着いたか」
一人呟く。長かったバス旅もようやく終わり、バスは高度育成高等学校前のバス停に停まった。
高育は海の上の埋立地にあるため、バスを降りると潮風が頬を撫でた。新しい生活の幕開けを肌で感じながら、同時に嫌な予感も抱えオレは前へと歩き出す。
立派な校門を潜ると、目の前には今までに見たこともない光景が広がっていた。綺麗に咲き誇る桜、青い芝生、綺麗な校舎。
そのどれもが新鮮であり、ここに出向いて良かったと多くの者を想わせるには十分なほど整った敷地だ。
「楽しみ、だな。一応」
人の流れに沿いながら歩き、また独り言を溢す。高育では、一度入学すれば卒業までその敷地から出ることも外部と連絡を取ることも許されていない。
だが、その敷地というのがかなり広く確か60万平米ほどあるので、三年間いても飽きないだろうという謎の自信がオレにもある。
頭上に咲く桜が風に流され空中を舞い、オレの差し出した掌の上に乗った。日本人特有のわびさびのようなものを感じつつ、オレは再び足を進めることにした。
クラス分けを見ると、どうやらオレは『Cクラス』というクラスに配属されたらしい。一体どんな人たちがいるのだろうと内心ワクワクしながら、オレは校舎へと向かった。
「あ? お前、確か…………」
「──────あ、ああ。バス以来、だな」
…………何がどんな人たちだ、ったく。オレは今、恐らく史上最速で最悪の再会を経験していた。
バスの中でオレを睨んできた赤髪が、なんと同じクラスだったのだ。しかも、もっと最悪なことにオレの前の席がコイツの席でもある。
どんな法則に則って席を決めたのか知らないが、今すぐにでも席替えを所望するぞ、オレは。
「あの時の度胸あるヤツか。クク、早い再会だなぁ?」
「同じことを今思っていたところだ」
「ハッ、気が合うじゃねぇか。まぁ、お前みたいな盆暗と気が合ってもしゃーねぇが」
「こっちからも願い下げだと言っておこう」
前に聞いたことがある。こういうヤツとは関わらない方がいいとな。だからオレは今すぐにでも、教室から逃げ出したいくらいだ。
まだ全員は揃い切っていない教室を見渡せば、このクラスはどこか目の前の彼のような粗暴っぽい雰囲気を持つ生徒が多い気がするな。
右前方で数人で話している灰色の髪をした男子生徒は、いかにもと言った風貌だし。
できればクラス全員と仲良くなることが目標だったが、的を数人に絞ることを決意してからオレは暫し目を閉じることにした。
暫く目を閉じていると、ずっと空白だった隣の席に気配がした。窓際の最後尾という立地だけなら完璧のオレの席に座るのは誰かと目を向ける。
その先にいたのは──────
「──────あなたが隣の方ですか。よろしくお願いしますね?」
こちらに優しい笑みを向ける…………天使だった。
長い白髪に、柔らかな笑顔。そして落ち着いた雰囲気に、オレは一瞬だけ意識を持っていかれそうになる。
「よろしく頼む。オレは綾小路清隆だ、名前を聞いてもいいか?」
「ええ、勿論。私は椎名ひよりと言います」
「椎名、ひより…………。今日は、散歩日和だな」
「ふふっ、無理に話を繋げなくても大丈夫ですよ?」
コミュニケーションに慣れていないオレにも気さくに話しかけてくれる彼女は、きっといい人間なのだろう。
目の前でニヤついているどっかの赤ロン毛と違ってな。
それから数分後、担任の先生である坂上が教室に入ってきた。説明されたのは、学校説明会で聞いたのと同じ内容だったが、改めてこの学校の複雑なルールを見返すのにはいい機会だったな。
・外出、外部との連絡の禁止
・入学したら卒業までは敷地から出られない
・全生徒寮生活強制
これだけでもかなり異常だが、その後坂上から聞いた情報はもっと異常だった。それは──────
「──────さて、では次に『Sシステム』についての説明をしましょうか」
そう言い語られた、この学校独自の制度。HRで配布された学生証と端末には、‘‘10万ポイント’’が振り込まれているという。
そして、1ポイント=1円の価値。つまり、オレたちは何もせずとも入学しただけで日本円10万を入手したことになる。
このポイントを消費することで衣服を揃えたり、食事を買ったりするらしい。電気代やガス代、光熱費などは国持ちだがそれ以外は自分たちで管理しろということだろう。
「何か、質問のある生徒はいますか?」
坂上がそう尋ねると、目の前の男が自信に満ちた背中で立ち上がる。何を訊くのかと興味が沸き、オレは視線を少し上げた。
「…………毎月一日にポイントは振り込まれると言っていたな?」
「あなたは…………龍園君ですね。何が疑問なのですか?」
「来月振り込まれる額を教えろ」
「…………いい質問ですが、残念ながら現段階ではお教えできません。他に質問のある生徒はいますか?」
──────っ!
オレは、坂上の解答を訊き、驚いた。教師が、生徒の質問から逃げたからじゃない。龍園という彼の問に明確な答を示さなかったからだ。
話を聞いていた限り来月も振り込まれると思っていたんだが、どうやら少し違うのかもな。
少し没頭し思考に耽っていると、前から視線を感じた。
顔を上げれば、考え込むオレを嘲るかのような顔をした龍園が、オレを覗き込んでいた。
綾小路くんのヒロイン誰にしよっか?
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No.1 椎名ひより(王道)
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No.2 伊吹澪(ダークホース)
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No.3 龍園翔(王道)
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No.4 アルベルトきゅん()
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No.5 石崎大地(変化球)
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綾小路は恋なんてしないっ!
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その他(希望あれば感想まで)