綾小路 in Cクラス 作:NIES
はい。言い訳です
長かった夏休み期間の特別試験も幕を閉じ、オレたち一年生は本当の意味での夏休みを迎えた。ある者はプールに、ある者はケヤキモールに、ある者はデートに…………
それぞれがそれぞれの夏を満喫している中、オレは何故か龍園と共にカラオケの個室に籠っていた。本当になんでこうなった…………
「──────だから、お前には今まで伏せてた。だがそれも今日までだ」
「そうか。なら手短に内容を話してくれ」
「そう急かすなよ。お前どうせ暇だろ」
軽く、いやまあまあディスられつつも龍園は本題に入る。会話の内容は、『なぜAとの同盟に踏み切れたか』について。別に成功したならどうでもいいんだけど、正直。
「お前に優待者の法則を特定させたあと、俺は考えた。ないと思うが万一にもクラス毎、もしくは何かの規則性で法則が違うグループがあったらまずいな、と」
「まぁ、妥当な判断だな」
「…………昼過ぎ、いや午後四時くらいだったか。俺当てに、一通の非通知からのメッセージが届いたんだ。優待者の情報を渡すって内容でな」
なに?
「それはまた、随分と興味深い内容だな」
「だろ? まぁ、いたずらの可能性を考えなかったわけじゃねぇが俺相手にやる馬鹿はいねぇだろうと踏んで言われた場所に行くことにした」
確かに、龍園に対していたずらを仕掛けるようなヤツがいるとは思えない。にしても、相手は誰なんだろうか。
「結論から言おう。俺にメールを送り、そしてDクラスの優待者情報二名分を教えたヤツの名前は─────櫛田桔梗だ」
櫛田、桔梗。聞いたことのない名だ。まあDクラスならオレが知らなくても当然なんだがな。
「で、そいつは利用できそうなのか? というか、何故自分のクラスの不利になるような行動を?」
「何でも、クラスに一人消したいヤツがいるらしい。堀北鈴音って名前だ。コイツの退学に協力しろだとよ」
…………確か、生徒会長の名前も堀北だったな。無関係だとは思うが、もしかしたら親族なのかもしれない。
「D一人の命で勝利が買えたのなら安い買い物か」
「ああ。どのみち、期限は明言されなかった。チャンスがきたときに消化する程度の認識でいいさ。それに──────困るのは向こうの方だ」
龍園が不敵に嗤った。その理由は、ポケットから取り出されたスマホから聞こえてきた音声によってはっきりとする。
『──────そう。だから、優待者の情報を渡す代わりに協力して。出来る?』
『クク。ああ、約束するぜ。なる早でその堀北ってヤツをこの学園から叩き出してやるよ。ただし、それまではこっちにも可能な限り協力してもらうぜ?』
『分かった。契約成立ね』
「今後の協力まで取り付けたのか。櫛田本人が納得してるならいいが、余りにも龍園側に都合のいい内容だ。分かっているのやら」
「頭が弱い向こうが悪いのさ。それに、馬鹿に利用価値を与えてやってるんだ。感謝されるくらいじゃなきゃ割に合わねぇよ」
龍園はそう言うと、話は終わったと言わんばかりにドリンクバーから持ってきたジュースを飲み始めた。オレも帰る前に、一つだけ聞きたいことがあったんだったな。
「──────なぁ、龍園」
「なんだ」
「一つだけ、オレの質問に答えてくれないか?」
「一つだけならな」
「…………なんで、椎名を人質にオレを脅さなかった?」
これは、ずっと以前から抱いていた疑問だ。龍園目線、オレという駒さえ掌握できればその手段過程は問わない筈。ならオレが協力しなかったり、裏切ったら椎名を傷付けるとでも言えばいいと思うのだがな。
「──────馬鹿言え、お前相手にそんなこと出来るかよ」
「…………?」
「まさか、俺が本気で気付いてないと思ってんのか? お前、喧嘩も相当腕が立つだろうが」
──────一体いつだろうか。
──────使える駒、いや俺の頭脳のことを怖いと思っていたのは。
思い返せば、初めて会ったときから常人とは違うと直感していた気もする。今までの人生で俺に怯まなかった奴を同学年じゃ知らない。だが、アイツは何も気にせず「席を開けてくれ」なんて言ってきやがった。
世間一般じゃ不良と揶揄される俺に物怖じしないどころか、平然と隣に座りやがったしな。そして極めつけはイカれた全教科六十点の小テスト。それを機に声をかけ今に至るわけだが…………
「──────美味いか? イチゴチョコパフェはよぉ」
「──────ああ。最高にな。あ、一口と言ってもやらんぞ」
…………コイツは、端的に言えば‘‘おかしい’’奴だ。うちのクラスじゃ金田と椎名は頭二つ抜けて賢いが、そいつらをも凌駕する頭脳を持ってる癖に、使おうとしない。
前に『静かに生活したいんだ。目立つのは好きじゃない』とか言ってたが、俺から言わせりゃそれこそおかしい。誰にも負けない武器がありながら使わないなんてのはふざけてる。
だが、たまに馬鹿なところもある。高校生なら誰でも知ってるようなことを知らなかったり、空気が読めなかったりな。こんな奴を少し恐れてたかと思うと自分が馬鹿らしい。
「いらねーよ。んなことより、話が済んだんだからさっさと帰りやがれ」
「龍園はどうするんだ」
「俺も帰る。当たり前だろ」
「忙しいのか?」
「…………別に、そうじゃねえが」
「なら、折角予約したんだ。時間が来るまで楽しまないか?」
ほら、馬鹿なことを言ってきやがる。俺と遊びたいだなんて言うやつ、俺は石崎くらいしか知らない。アイツは度を越した馬鹿だからいいが、コイツは別方向にぶっ飛んでる。
「男と遊ぶ趣味はねーよ。可愛い女がいるんなら話は別だが」
「──────で、本当に大丈夫なわけ?」
「大丈夫ではない根拠を探す方が大変ですよ。
「ならいいんだけど。完全に派閥争い葛城が有利よ」
「夏休みにハンデでも上げないと早々に決着がついてしまいますから。それに、その方が他クラスにも都合がいいでしょうし」
綾小路が龍園と密会していた頃、Aクラスの坂柳とその側近である神室も密会をしていた。坂柳は余裕そうな笑みを浮かべ、スマホに視線を落とす。
「他クラスにも都合がいいって…………あんた、ホントにAクラスを維持する気あるの?」
「所詮クラス戦争なんて暇潰しですからね。それよりも──────」
坂柳はスマホの画面を見て、妖しげに笑う。いつもの不敵で余裕のあるものではなく、純粋な好奇心からくる笑顔で。
「──────あんた、そんな顔もできるんだ」
「真澄さん。私は今、どんな顔をしているのですか?」
「…………形容しがたいけど、強いて言うなら──────
──────懐かしいけど、ずっと探していたものを見つけた顔。とか?」
その言葉を聞いて、坂柳は口角を元に戻す。それから、正面に座っている神室にも聞こえない程度の声で呟いた。
「待っていてくださいね、綾小路くん。再会まであと少しですから」
次回から二学期入ります