綾小路 in Cクラス 作:NIES
分かります?
第19話:‘‘久しぶり’’
──────九月一日。今日から、楽しかった(諸説あり)夏休みも終わり二学期が始まる。オレたちはBクラスへと昇進し、Aクラスとも戦っていくことになるだろう。
「─────とうとう始まっちゃいましたね」
「ああ、そうだな。もう少し休んでいたかった」
隣を歩く椎名に歩幅を合わせて歩く。夏休み中は石崎に誘われて金田やアルベルトとカラオケに行ってみたり、椎名と一緒にケヤキモールの本屋で一日中語り合ったりして楽しかったな。
「仕方ないですよ。それに、二学期の特別試験は簡単かもしれませんよ?」
「それなら願ったり叶ったりなんだが、そう上手くはいかないだろうな。まあ何にせよ、Aクラスとの契約でうちにも金が増える。龍園が全部やってくれるだろう」
「いいんですか? そんな投げやりで」
椎名が少し呆れた顔で言ってくる。前までは龍園との関係に多少の反対意見を示していた彼女だが、最近ではやるならちゃんとやれスタンスに代わっている。
「別に、善意で付き合ってやってるだけだからな。手伝いたい気分なら手伝うし、そうじゃないなら見守る」
「見守る、じゃなくて放置の間違いじゃないでしょうか?」
「…………そうとも言う」
朝から椎名と話せて気分も上々だ、このままいけば今日は上機嫌なまま終えられそうだな。しかし、もしこの後学校に行って早々特別試験の話でもされたらすぐに不機嫌になるだろうがな。
「──────まずは久し振りですね、皆さん。夏休み期間の特別試験での勝利、そしてBクラスへの昇格。担任として誇らしいです。
朝のHRが始まると、坂上は開口一番そう口にした。確かに、Aとの分け合いっこではあるが、無人島試験もグループ別試験もオレたちで総ナメにしたといっていい結果だ。これにはあの龍園もニヤついている。
…………今日の午後、十月初めに開催される体育祭についての説明を行います。それに付随して九月中は体育の授業を多くした時間割となるので、そのつもりで。ではこれで終了とします」
そう言い残して坂上は教室を出て行った。…………体育祭? 絶対面倒じゃないか。なんてものを開催してくれるんだ高育は。そもそも中間試験もあるってのに体育を多くするな。いや、ある意味範囲が短くなるからいいのか…………?
五限目と六限目を消費して、オレたちは体育祭の詳細なルール説明を受けた。ルールは以下の通りだ。グループ別試験に比べると、身体を使うがルールは比較的簡単になっている。
───体育祭───
・全学年のA・Dクラスを赤組、B・Cクラスを白組としてチーム分けをして行う。
・各種目で順位に応じて点数が入り、両組とも所属の全生徒の取得点数の総合点を競い合う。
・勝利した組に恩恵はなし、敗北した組には全学年一律に100CPTが引かれる。
・学年別でも順位付けが行われ、一位のクラスは50CPT、二位のクラスは±0CPT、三位のクラスは-50CPT、四位のクラスは-100CPTを獲得することになる。
───全十三種目───
①100メートル走/全員参加/個人競技
②ハードル競走/全員参加/個人競技
③棒倒し(男子限定)/全員参加/団体戦
④玉入れ(女子限定)/全員参加/団体戦
⑤男女別綱引き/全員参加/団体戦
⑥障害物競走/全員参加/個人競技
⑦二人三脚/全員参加/団体戦
⑧騎馬戦/全員参加/団体戦
⑨200メートル走/全員参加/個人競技
⑩借り物競走/推薦参加/個人競技
⑪四方綱引き/推薦参加/団体戦
⑫男女混合二人三脚/推薦参加/個人競技
⑬学年合同1200メートルリレー/推薦参加
因みに、この学校の体育祭に『応援合戦』とかはない。あくまでも、身体能力を測るためのイベントだからそんなものは不要、らしい。少し楽しみにしていたから残念だ。
それと、各種目で貰える点数が決まっているが、個人競技では大体20点、団体競技は40点くらいだと思ってもらえればいい。思ったよりも個人競技が重要になってきそうだ。
加えて、誰がどの種目に参加するのかも全て生徒で決めることになり、それを記録した参加表なるものを教師に提出する仕組みだ。あと、誰かが当日に出れなくなった場合10万PPTで代役を出せるらしい。つまり、なるべく欠席も怪我もするなってことだ。
『─────さて、綾小路。お前には推薦参加の種目に参加してもらうぜ?』
『悪いが断る。絶対に嫌だ。断固として拒否する。労働基準監督署に駆け込む』
放課後。自室で龍園と体育祭に関する相談をしていたオレは、電話越しにそんなことを言われ、断固拒否していた。だってそうだろ? 面倒くさいことは嫌いなんだ。
『クラスのために、弱い奴を捨て駒にしてでも勝ちに行く。そう言ったよな?』
『ああ。確かにそう言っていたな』
『なら、勝ちを拾うために強い奴を使うのは当たり前だろうが』
『…………運動は平均だ。能力は高くない』
『プールで見せた筋肉、無人島でオレを振り切った脚力と瞬発力。隠すのは無理があるぜ?』
…………困ったな。ホントに運動は大したことないんだが。しかし、龍園は完全にオレがかなり運動ができるタイプだと勘違いしてしまっている。
『ホントに、無理だ。それに、オレとおまえの協力関係はあくまで作戦面での話。ここまでするとは言ってない』
『あ? そいつはつまり、椎名とお前には毎月の徴収も免除してやってるが、それだけじゃ足りねぇと、そう言いたいのか?』
『最初に言ったが、オレは目立ちたくないんだ。そしておまえも、その条件を飲んだはずだ。それを反故にするというのなら、こっちもおまえとの協力関係を断つことも吝かではない』
『──────チッ。分かってる、試しに言ってみただけだ。それに、俺個人としてもお前という切り札はまだ隠しておきたい。いつか来る使うべきタイミングまでな』
『それならいい。オレは適当に平均の記録を出しておく。体育祭に関してはおまえが好きにやれ』
『あ? 珍しいな。何も言うことない簡単なイベントですってか?』
『それもあるが…………まあ兎に角、おまえがやれ。このまま戦果を挙げてクラスのリーダーとして皆に認められろ。Aを維持する最低条件がそれだ』
オレはそこまでいうと、電話を切った。今日の夕食は何にしようかと考えながら冷蔵庫を開ければ、中身はほぼ空。そういえば昨日一昨日で大体の食品は使い果たしたんだった。
仕方ない。買出しに行くか。面倒だけど。
コンビニで今夜のご飯であるハンバーグ弁当と串に刺さった唐揚げ、そしてデザートのアイスを買ってから外に出ると、まだ明るかった。
まだ九月の始め、これから更に暑くなると考えるだけで脳がオーバーヒートしそうだ。まったく、もっと春と秋を延ばせってんだ。まあ、地球温暖化なんかはオレ個人がいくら考えても改善は不可能なので、お偉いさん方に任せるとしよう。
そんな下らないことを考えつつ、右手に持ったビニール袋をぶらぶらしながら歩いていると、ふと前から杖をついた少女が歩いてきた。この学校では始めて見る顔だ。廊下ですれ違ったこともない。
「…………」
互いに面識はないので、スルーする判断を下す。知人なら兎も角他人に挨拶なんてする人は今や稀だろう。
だが、オレの横まで歩いてきた途端、杖の音が止まった。まるで、今この瞬間だけ時が止まっているかのような錯覚を覚えた。
「──────お久しぶりです、綾小路くん。8年と、212日ぶりでしょうか」