綾小路 in Cクラス 作:NIES
綾小路、強く生きろよ。
早くもオレの誕生日から一カ月と少しの月日が経過し、ペーパーシャッフル本番は、何事もなく終了した。
Dクラスの製作した問題は多少高度ではあったものの、それでも尚オレたちは八教科中四教科が平均点九十点代後半という高数値を叩き出し、Dクラスに完全勝利を収めた。
『櫛田桔梗には感謝しないとな』
『そうだな。一人の生徒を退学させるためだけに、ここまでやったんだから尊敬だ』
試験から二日が経過し、試験結果が発表された日の放課後。オレは今日も今日とて龍園にメッセージを飛ばしていた。いつか、クラスの奴らの前でもコイツと話せる日は来るのだろうか。
『お陰で、オレたちはCクラスを更に突き離せた。次に狙うはAの首だ』
『だな。年明けからが勝負の仕掛け時だ』
何故、相手が天下のDクラス様(笑)だったとはいえ、平均学力も大して高くない最下位争いをしてたオレたちが、そこまでの点数を獲ることが出来たのか。
それは、ペーパーシャッフルの存在が明かされてから少し経った際に、Dクラスの櫛田桔梗から
引き換えに要求されたのは、数学という一科目だけの模範解答の横流し。堀北なんとかと数学で勝負して、負けた方が退学というペナルティを負ってたらしい。
結果は当然櫛田の勝利。椎名や金田などが制作しオレが添削した数学の問題で、自力で九十点弱を獲ったのには感心したが、櫛田は九十点後半だった。
『冬休みには何もしない。お前も自分の休みを精々楽しめ』
龍園からのメッセージに目を通してから、オレは別の連絡先のアイコンをタップする。横にはA・Sの文字。つまりは坂柳だ。
『今回の件、助かった』
そうメッセージを飛ばせば、僅か十秒ほどで既読がついた。暇なのだろうか。もしそうならクラスのリーダーの座を大人しく葛城に渡してしまえ。
『約束ですから。お役に立てて何よりです』
『しかし、
『負けの責任を負うのは
やはり。性格はかなり尖っているな。オレとの約束を果たす為、そして同時にクラスを掌握する為ならば、仲間を貶めることすら躊躇わないらしい。
『葛城は今頃泣いてるだろうな』
『そうかもしれませんね。しかしそれは能力の足りなかったあの人自身の問題です』
『地獄へ突き落としたというのに、罪悪感はないのか?』
『成長できるように背中を押した、と言ってもらえますか』
『どうやったのか、一応聞いても?』
大方予想はついてるが、方法くらいは聞いておきたい。今後、クラスとしてコイツと戦うことになった際の、足しになればいいんだが。
『一之瀬さんは慎重な人です。何度も負かされてきた
『だろうな』
『しかし、それならば
嗚呼………やっぱりか。やっぱり、この試験の裏はそこにあるよな。誰も、考えることは同じということだ。
『試験問題の横流しか』
『ええ。葛城派にはスパイを紛れ込ませてあります。入手し流すのには苦労しませんでしたよ』
『それをオレが葛城に言わない保証はないぞ?』
『どのみち結果発表の時点で気付いてるでしょうから。それに、仲間を疑ったところで、対象が多すぎて疑えば疑う程彼の首は回らなくなる』
なるべく多くの者を派閥に迎えようとした結果、真に信頼のおける参謀には巡り会えなかったのか。
『把握した。これで一先ず、約束は完了だ。もう関係は断って良いな?』
『残念ですが。最後に一つ訊かせてください』
『なんだ?』
『あなたはなぜ、あそこを出たのですか?』
『オレ自身の知的好奇心を満たす為だ』
『それは、叶いそうなのですか?』
『それは二つ目の質問と捉える。特別に答えるが、まだ満たされてはいない。教科書が多すぎてな。読み終えるにはまだ時間がかかりそうだ』
『そうですか。最後に一つ、伝えます。私はあなたの味方です。もし
『何故そこまでする?』
『内緒です』
「お、綾小路清隆じゃないですか」
後日。オレはケヤキモールで少し買い物をした帰り道、久しぶりに鬱陶しいのに声を掛けられた。Aクラスの森下藍である。
「森下か。久しぶりだな」
「ええ。そのいかにもこの世の全てがつまらないと思っていそうなしけた面を見るのも久しぶりな気がします」
「前話したのは、確かグループ別試験のときか」
あのときは大変だったな。朝一番にコイツに声を掛けられて、オレが怪しいだの全てを裏で操ってる黒幕だの言われて言い逃れるのに必死だった。
今でも思い出すだけで胃がキリキリしてきそうだ。トラウマになっているのかもしれん、コイツの遠慮の無さが。
「ええ。あのときは見逃してあげましたが、今回は逃がしませんよ」
「何の話だ………また冤罪を吹っ掛けてくるつもりか?」
「私の直感が、あなたを黒幕だと告げているんです。C、いえBクラスの快進撃はまさに破竹の勢い。その裏にいるのが龍園翔ではなく、綾小路清隆であると」
まったく、面倒なことになってきた。これからは常に周囲に目を凝らしてコイツの姿を見かけたらその場から離れるようにした方がいいのかもしれない。
「そんなわけないだろう。一体、どこでそんな考えに至るのか参考までに教えてくれるか? まさか、勘だけで言ってきたわけじゃないだろう?」
勘100%ならそれはもう対策のしようがないので、スルーしか選択肢がなくなる。他の者にも同様の理由で疑われないよう、参考資料としたいんだが、どうなることやら。
「ふふん。綾小路清隆がそんなに聞きたいと言うのなら、仕方ないので語ってあげましょう。藍ちゃんは優しいのでね」
「優しい………?」
「何か間違ってますか?」
「い、いや、間違ってない」
「ですよね知ってます。まずあなたは隠せていると思っているのかもしれませんが、周囲を常に観察しているのがバレバレです。それに、体育祭では走りの姿勢も素晴らしかったです」
「それは、褒められてるのか?」
「ええまあ。あなたが本気で走ってないのはヒシヒシと伝わってきました。それに、夏休みが明けてから、坂柳有栖の視線がよくあなたに向けられていましたし、体育祭では特に」
やれやれ、ここまでの観察眼を持っていたとは完全に想定外だ。相対した他者の心理状態を予測する能力や、他者の視線の行末まで完璧に読み切っている。ある種の天才と言った表現が正しいだろう。
「参ったな。誤解を解くのに苦労しそうだ」
「言葉の使い方を間違えていますよ。これは誤解ではなく、真実ですから」
自身の勘を信じ切り、能力に自信を持っているからこそできる態度。今はそれが厄介極まりないな。どう乗り切るか。
「まあ、確かめる術はないんですけどね」
「そりゃそうだ。悪魔の証明は不可能だからな」
「いつかこの名探偵森下藍が、あなたを呼び出し『犯人はお前だ』と告げる日が来ることを覚悟しておいてください」
「来るとも思えないが、名探偵の捜査に期待しておく」
「ええ、ええ。是非そうしてください。それと、最後に一つだけ」
「なんだ?」
「──────うちのクラスの裏切り者とは、関わらないでくださいね」
森下の眼光が鋭く光る。Aクラスの裏切り者とは、つまるところ橋本正義のことだろう。少々特殊とはいえ一介のクラスメイトに見抜かれているようではまだまだだな。
「Aクラスとはいえ、裏切り者もいるんだな」
「おや、黒幕小路清隆なら知ってると思ったんですが。想像より表情が動きませんね」
「生憎と、表情筋が硬いことで有名なんだ。反応が顔に出ることはあまりない」
あと、しれっと人の名前に黒幕をこじつけるな。名誉棄損で生徒会に突き出すぞ。堀北元生徒会長に口出してもらえば勝てるんだぞ。多分。
「そうですか。では、次回からは別の方法を考えてみます」
「精々頑張れよ」
オレは去っていく森下の背中を数秒見つめてから、寮への道を再び進み出す。厄介なのに目をつけられたが、まだ平気な段階だろう。対処は必要に応じて行えばいい。
【悲報(朗報?)】原作の第二主人公さん、一年生編で消えてしまった模様。RIP堀北