綾小路 in Cクラス 作:NIES
混合合宿三日目。
「それで、こんな夜中に呼び出して何の用ですか?」
「分かっているだろう。南雲の件についてだ」
「南雲が、何か言ってきたとか?」
真夜中。全員が寝静まった後、オレは夕食時に手紙を通して伝えられた時間に指示通りの場所で学と密会していた。
小さく畳んだ手紙を近くに落とすという古典的な方法だが、目立つことなく連絡を取れるので採用したんだろう。
「正確には、恐らく南雲の協力者だろうな」
「へぇ。しかし、今回の試験内容で協力者も何もありますかね? グループ別で戦うとは言え、利敵行為なんてしようものなら道ずれかハブられコースですよ」
「惚けるな。それと、言われたのは俺ではない」
「じゃあ、誰です?」
「──────
…………やはり、か。しかし、あの会長大好きっ子が救われたのなら、オレが動いた意味もあったというものだ。人助けというのは気分が良いな。
「あのお団子頭の子ですか。まさか彼女が対象だったとは思いもしませんでした」
「茶番に付き合う気はないぞ。俺が言いたかったのは、お前が試験開始直前に送ってくれたメールのお蔭で橘を救えたということと、それのお礼だ」
「お礼を言われる程のことじゃないですよ。しかし、女子の方はどうやって指揮したんですか? 離されているし、この話を共有できる時間はなかったと思うんですが」
「ああ、それについては友人に頼んだ。橘が孤立することがないように、それと気の強い面子が少なくなるようにとな」
友人、か。いたのか、学にも。
「今失礼なこと考えなかったか?」
「まさか。堀北先輩ほどの人望がオレにもあればと羨んでいたところですよ」
「よく言う。お前ほどの実力があれば、表に出ればすぐにクラスのリーダーにでもなれるだろう」
「実力だけじゃないですよ。堀北先輩が慕われているのはその厳格で高潔な人柄あってことですから」
「褒められているのか? お前に言われると癪だな」
「酷い言われようですね。一応これでも、クラスメイトの危機を遠ざけた影の立役者なんですが」
「分かっている。橘にも、今度感謝を述べるように言っておこう」
これで、大まかな問題は解決された。いや解決していたのが判明しただけか。兎にも角にも、ようやく心置きなく試験に挑めるというものだ。
「機会があれば受け取っておきます。じゃあ、オレは帰りますね」
そう告げて来た道を引き返そうとすると、学の声に呼び止められた。ひそひそ話をしていたのが噓かのようないつも通りの声量で。
「──────待て」
「なんです?」
振り返ると、目の前で学が頭を下げていた。仮にも元生徒会長で現在もAクラスのリーダーである彼が、一端の生徒であるオレに頭を下げても良いんだろうか。
「もう一度、礼を言っておく。ありがとう。ポイントを失わずに済んだことだけではない、友人を救ってくれたことに関する心からの感謝だ」
人から感謝されると言うのは、やはり悪くない。
「オレに恩を感じたのなら、今後数カ月くらいですけど、助力をお願いしたいですね」
「約束ではあと一度、と言ったがいいだろう。俺に出来ることならする」
「言質とりましたから。じゃあ、また」
オレは今度こそ、行き来た道を辿って部屋まで行くことにした。彼からの信頼と助力を得られただけでも、ここにきた甲斐があったな。
混合合宿五日目。
昨日は完全な自由を与えられていたからか、今日は全員の顔がスッキリしている気がする。とはいえ今日は最終日に行われる駅伝のコース往復するという地獄のようなイベントが控えているんだが。
「石崎、走るの得意か?」
「人並み以上には出来ると思うぞ! 金田の代わりだろ?」
「龍園も言ってたしな。基本的にはうちの小グループで運動が出来ないのは金田と浜口だけだ。Cの方は自分たちで埋め合わせるらしいから、石崎は金田の分だけでいい」
「分かったぜ。でも意外だな、綾小路ってCの奴らと面識あったのかよ?」
「面識は混合合宿で作った。渡辺っていたろ、アイツが話しやすくてな」
そんな話をしていると、後ろから肩をトントンを小突かれる。振り向くと、今絶賛話題に上がっていた渡辺だった。タイミングがドンピシャだな。
「お、綾小路。俺の話?」
「渡辺。ああ、今お前の話をしていた、話しやすくていい奴だとな」
「嬉しいこと言ってくれるねぇ。一応初めまして、俺Cクラスの渡辺紀仁、そっちは?」
「…………石崎大地だ。綾小路と仲いいらしいな、よろしく頼むぜ!」
「おお、よろしく。今回の試験中だけでも、仲良くするのは結果に繋がるからなぁ」
そこからは少し三人で喋った後、駅伝コース往復が開始された。前述した二人はかなり遅れていたが、それ以外の面子は流石と言うべきか、かなり速いペースについてこれていた。これなら、本番も期待できそうだ。
「女子の方はどうだ?」
夕食の時間。オレは再び椎名に質問を繰り返している。男子の方は問題ないが、女子の方の情報はここで手に入れるしかないからだ。
「順調でしたよ。運動が苦手なのは私くらいなので、全員で少しずつカバーしてもらえるようです」
「なら良かった。男子の方も、二人苦手なのがいるがカバーはできた。グループ内で揉め事とかはないか?」
「ええ。心配されていた坂柳さんも特に目立った行動はしてません。いつも隣に神室さんがいるくらいですかね。あと森下さんがなんというか凄いです」
あー、そういえば森下も同じ小グループだったか。やかましいだろうな、あんな奴と共同生活とか。椎名はよくやっている。
「そういえば責任者は誰になったんだ?」
「ポイントの関係で櫛田さんに決まりました。性格的にも、まとめるのに向いているようでしたし」
櫛田か。堀北鈴音を退学させたから、もう関わることはないだろう。しかし、まだ注意は向けておくべきかもしれないな。
「そうか。何か問題が起きたら言ってくれ」
「分かりました」
そのまま混合合宿は、特に何もなく終了した。南雲と学の勝負は
大グループ順位一位を獲得したオレたちは歓喜し、そして初日にクラス代表四人の合意によって形成された
「今回の件、あなたが裏から手を回してくれたと堀北くんから聞きました。ありがとうございました」
試験が終了し、全学年が慌ただしく片付けなどを進める中、オレはメールで呼び出されて山寺から少し離れた場所まで出向いていた。
密会の相手は橘茜。要件は、今回の件に関するお礼だった。
「オレは彼との約束を守ったまでです。しかし、危ない所でしたね」
「ええ。まさか、私を狙ってくるだなんて…………」
俯く顔には、未だ元気はない。学が負けたのだ、それも正面から。落ち込むのも無理はないだろう。
「一応言っておくと、今回学が負けたのはあなたの所為ではないですからね」
「え?」
「三年生はバチバチやってる時期でしょうけど、オレたち一年生にはまだ時間があります。リスクを負うにはリターンが少ない試験だったので、四クラスで強い小グループを作ったんです」
「大グループの順位で負けるのは必然だったと?」
「ええ。なにせ、『禅』『スピーチ』『筆記試験』『駅伝』。全ての試験内容に置いてオレたちが一位を獲得したので。なので、堀北先輩も橘先輩も落ち込む必要はないです」
もう一つの小グループは、各クラスから一個目の人材には劣るもののそれでも優秀な人間を可能な限り集めてできたグループだ。当然、結果はついてくる。駅伝の結果は中間層だったらしいが。
「あなたに気を遣われるのは癪ですね」
「堀北先輩にも同じことを言われましたよ。気が合うみたいですね、お二人は」
「なっ!? 冗談はやめてください。いつも足を引っ張ってる私なんかが、お似合いなわけないでしょう」
…………お似合い、とまでは言ってないんだが。まあ、いいか。二人がそれでいいなら、オレが口を挟むことではない。
「─────自己評価が低いのはいいですけど、堀北先輩にとって、橘先輩は足手纏いという理由だけで切れる存在ではなかった。それが今回の件で分かった真実だと思いますよ」
オレはそれだけ伝えると、騒がしい声のする方向へ歩み出す。この密会を見ていた者がいることにも気付かずに。
混合合宿後のクラスポイント
A(葛城・坂柳)クラス:1324→1381(獲得CPT:57)
B(龍園)クラス :916→982 (獲得CPT:66)
C(一之瀬)クラス :596→659 (獲得CPT:63)
D(平田)クラス :0→110 (獲得CPT:110)
各クラスの総合獲得PPT
A(葛城・坂柳)クラス:31万7800
B(龍園) クラス:28万9900
C(一之瀬) クラス:27万4400
D(平田) クラス:42万1500