綾小路 in Cクラス   作:NIES

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一年生編ラスト



第35話:‘‘刻む’’

 

 

 

一年生最後の特別試験だった『選抜種目試験』も終わり、オレたちの春休みも間近に迫っていた。そんな中、今日は謝恩会が実施される日である。卒業式はさっき終わった。

 

 

 

「………これで今日の日程は終了です。この後謝恩会が開かれますが、出席は自由なので各々過ごすように。しかし、楽しんでいる人の邪魔だけはしないようにしてください」

 

 

謝恩会というと生徒会が主催だった筈だし、最後に学の顔でも見に行くか。ついでに橘先輩も。

 

 

「それと、最後に一年を通して君たちに伝えたいことがあります。…………よく頑張りました。行き過ぎた勝ち方があったことも当然把握していますが、それは今後改めてもらえれば結構です。Bクラスに上がり、Aクラスには追いつけていないものの直接対決でBクラスに勝ったこと、誇らしく思います」

 

 

──────誇らしく思うな。

 

おっと、純粋にツッコミを入れてしまった。危ない危ない。Cクラスとは直接対決(笑)をしただけで正々堂々戦ったわけじゃないからなぁ。

 

正直、真正面から戦っていたら恐らくもっと接戦になっていただろう。それに、もし最後の種目で『チェス』か『柔道』を引けていなければ負けていた可能性もある。龍園は当然分かっているだろうが。

 

 

「ではこれにて一年生最後のHRを終わりにします。明日は終業式があるのでくれぐれもも遅刻などはしないように。それでは」

 

 

坂上は教室を出て行った。この学校の教師は、自分の受け持つクラスが上がると給料UPとかあるんだろうか。ないとあまりやる気も起きないよなぁ、なんて考えつつ、オレは席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………坂柳」

 

「直接お話しするのは久しぶりですね。綾小路くん」

 

 

謝恩会へと向かう為グラウンド脇の小道に入ろうとしたところ、ばったり坂柳に出くわした。思い返せば最後に話したのはクラス内投票の日だったかもしれない。二週間程度か。

 

 

「そうかもな」

 

「聞きましたよ。そちらはCクラス相手に圧勝だったそうじゃないですか」

 

「裏工作ありきのイカサマだけどな。まぁ、勝ったのは事実だ」

 

「ふふ。この学校では最後に勝っていた人のみが勝者です。バレなければ犯罪じゃない、そう言うでしょう?」

 

 

坂柳が言うと様になるな。しかし、一之瀬には悪いことをしたな。オレとしてはあんな卑怯な真似はしたくなかったんだが、龍園がどうしてもって…………

 

 

「もっと上手いやり方があったのも事実だがな」

 

「貴方は確か協力者ですよね? 教えて差し上げれば良かったのではないですか?」

 

「一之瀬の警戒心を上げることで、今後は更に油断も減るだろう。そうすれば龍園も多少は楽しめる。そう思っての判断だ」

 

 

アイツは強者との勝負を楽しんでいる質がある。今回もクラスメイトの実力差さえなければAクラスとの直接対決を望んでいただろう。下を突き放す為って言うのもあると思うが。

 

 

「私では楽しめないと?」

 

「おまえはまだ葛城との政権争い中だろ。D相手に7-0で完勝したと聞いたが、決着は着きそうなのか?」

 

「今回私が司令塔としてDクラスの苦肉の策も全て読み切って勝利して魅せたことで、中立派は私派閥に入りつつあります。勢力で言えば勝っているでしょう」

 

 

確かに、葛城よりは坂柳の方が求心力がありそうな気がする。クラスを貶めているのがコイツ本人だって証拠もないし、思っているのは少数の葛城派だけだろうし。

 

ペーパーシャッフルとか体育祭とかのことを話したらAクラスがどうなるのか、少し興味がある。流石に協力してくれた坂柳に顔向けできないのですることはないがな。

 

 

「なるほどな。しかし、葛城はしっかり協力してくれたか? 戸塚を退学させたのなら、反発してきてもおかしくないと思うが」

 

「彼以上に実力の低い人がいなかったことですし、私情で退学者を選定しクラスに害を及ぼすようなら自らリーダーを名乗るのをやめてくださいと言ったら黙りました」

 

「容赦なさすぎないか。流石にオレも葛城に同情するぞ」

 

「部下にする人は選ばないと自分の首を絞めることになりますから。彼はそれを学べただけラッキーですよ」

 

「それもそうか。あ」

 

 

謝恩会始まってた。なんか結構人いるなぁ、三年生は皆笑顔だ。三年間で全てを出し切ったということだろう。卒業式を終えて気持ちに区切りがついたのかもしれない。

 

 

「オレは会いたいヤツがいる。じゃあな」

 

「ええ、分かりました。私も、この雰囲気を知っておきたくてきたので待機します」

 

 

坂柳とは入り口付近で別れた。最後に見るアイツの顔がステージの上で答辞を読んでるのじゃなんか違う気がするからな。最後に見ておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呼びつけて悪かったな。最後にお前と話をしたかったんだ。それと、もう先輩じゃないから敬語もいらん、元々つけないタイプだろ?」

 

 

三月三十一日、オレは学校の正門で堀北学と会っている。何故先日既に用事を済ませたのに会っているとかというと学の言葉が全てだ。

 

 

「オレも、話せるならそれ越したことはないと思ってたところだからいいぞ」

 

「そうか。まずはすまない、できる協力ならすると言ったが、結局何もしてやれなかったな」

 

「あんたに頼り切るつもりは元よりなかったから平気だ。それで、最後に話したいことというのは何だ?」

 

「…………お前は、何故その秀でた実力を隠すように生きる? その力を表で発揮すれば、前も言ったが俺以上の人望を集めることだって可能な筈だ」

 

「単に目立つのが好きじゃないからだな。人付き合いは苦手だし」

 

 

まぁ、大部分の理由はその他にあるんだが、学に限らず他人に言える内容ではない。巻き込まれても困るしな。

 

 

「俺はこの学校に自身の存在を刻んだ。自分で言うのもあれだが、歴代最高の生徒会長と言われ、三年間でAクラスから落ちることもなかった」

 

「改めて凄い話だな」

 

「………お前も、この学校に何かを刻みに来たんじゃないのか? 裏から龍園と通じ少し手助けする程度で後は何もしない。それは有意義なことなのか?」

 

 

有意義、か。この学校に来てから、嫌という程思い知らされた価値観だ。だからこそ、学から言われると尚更重い。

 

 

「刻む、か。そういう性分じゃないのは分かってるだろ。学校に対して何かを刻める大した人間でもない」

 

「もし学校に対して何も刻めないのなら、生徒に刻めばいい。全生徒が合わないのなら、クラスメイトでもいい。綾小路清隆という生徒がいたということを、生涯忘れることがない程、な」

 

「できると思うか? オレにも」

 

「お前にしか、とは言わないがお前にはできる。それだけの力があるんだ。最後に、渡したいものがある」

 

「…………真剣に考えておく。それで?」

 

 

学は、ブレザーのポケットから学生証端末を取り出した。

 

 

「…………受け取れ」

 

 

その瞬間、オレのポケットの中の端末が震えた。ロック画面には、堀北学から650万ポイントが振り込まれたと表示されている。

 

 

 

「──────どういう心算だ?」

 

「最後の特別試験で、オレたちは他クラスを全部倒した。その賞金と、余っていた分だ」

 

「クラスメイトと、遊んだりはしなかったのか?」

 

「したさ。その上で、余ったんだ。これも、お前が混合合宿で橘の救済費を浮かせてくれたお陰だな」

 

「…………本当にいいのか?」

 

「ああ、受け取れ。それと、橘もお前に話があるらしい、このあと来るだろうから少し待っててやってくれるか?」

 

 

Aクラスで卒業したとはいえ、まさかここまでの大金を持った上で勝ち抜いたとは思わなかったな。どこまでも、一般人という枠から飛び抜けた男だ。

 

 

「分かった」

 

「綾小路。俺を、失望させてくれるなよ?」

 

「重い期待だな。まぁ、背負ってみるさ」

 

「その言葉が聞きたかった。これは、俺の個人的な連絡先だ。受け取れ」

 

 

数字とアルファベットの羅列が二文書かれたメモを渡された。別に、いらないんだが…………一応、もらっておくか。

 

 

「じゃあな。また会おう」

 

「ああ、機会があればな」

 

 

俺は、去っていく学の後ろ姿を見送る。話したことは両手両足の指を使えば数えられる程度しかなかったが、偉大な男だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────すみません。待たせてしまいましたか?」

 

「いえ、今しがた学と話して別れたところです」

 

「学?!」

 

「あ、堀北先輩」

 

「もう遅いです!」

 

 

後からスーツケースを引きながら歩いてきた橘に、学のときのテンションのまま話してしまった。まずい。

 

 

「まぁ、もう先輩じゃないから、いいって言いそうですけど。堀北くんは」

 

「確かに言ってました。凄いですね、先輩」

 

「褒めても何も出ません」

 

「あ、そうですか。それで、話したいことがあるって学から聞いてるんですが」

 

「切り替え早いですねっ? 話したいことというのは、最後にお礼が言っておきたかったんです」

 

 

混合合宿のことか。あれは別についで程度だったからお礼なんていらないんだがな。これで会うのも最後になるだろうし、受け取っておくか。

 

 

「大したことはしてませんが、一応受け取っておきます」

 

「堀北くんが、南雲くんの問題も君なら何とかしてくれるだろうと言っていました。彼が安心して卒業できたのも君のお蔭です。ありがとうございました」

 

「約束は、可能な限り守りますよ」

 

「そうですか。…………最後に、これ私の連絡先です。堀北くんが渡したって言っていたので、一応。不用意にかけてこないでくださいね?」

 

 

メモ二枚目。

 

 

「受け取っておきます。眠くなったらかけるので寝落ち通話付き合ってもらえますか?」

 

「最後までふざけてますね?! まったくもう」

 

「すみません。初めて会ったときから、愉快な人だなと思っていたので。つい」

 

「最後なので許してあげます。…………それじゃあ、さようなら、綾小路くん」

 

 

ちゃっかり南雲の対処を任されてしまった。だが、オレにはなかった価値観を教えてくれたんだ。その程度のことなら、面倒を見てやらんこともないな。

 

二年生になってからのことを考えながら、オレは寮に帰る前にアイスを買うことを決定しコンビニに向けて歩き出した。

 

 

 




次話についてです
一年生編で起きたことや綾小路・他クラス視点をイベントや特別試験別にまとめたものを出そうと思ってます
キャラ別の綾小路への印象・認識、綾小路から他キャラへの印象・認識なんかも書く予定です
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