綾小路 in Cクラス 作:NIES
さてさて、特別試験の説明も終わったことだが、オレとしては内心穏やかではない。今回の特別試験では、二年生のみに与えられたペナルティがあるからだ。
──────そう、ペア合計点数が500点以下の場合だ。一年生は三ヵ月間プライベートポイントを貰えないだけで済むが、二年生はそうじゃない。
オレを狙うホワイトルーム生からすれば些細な問題にしか映らないだろうが、これはそんな易しい問題というわけでもない。明らかに独断専行で決められたルールだ。
「難しい試験ですね」
「ああ。だが、危ないのは学力がD~Eの生徒。オレたちは大丈夫だろう」
「そう、ですけど。龍園は言っていました、マネーゲームだけで終わらせる気はないと」
先程クラスの前で語った龍園の方針。それは、現状独走状態にある坂柳クラスの資金力を少しでも消耗させるために、
Aクラスはいくらうちに月数万支払っているといえクラスポイントの差は歴然、正面からマネーゲームを仕掛ければ勝ち目は薄い。だからこそ、値段を吊り上げる。そうすることで無駄な金を消費させる作戦だそうだ。
「それはリーダーの仕事だからな。オレたちやるべきことと言えば、せめて上位三割に入ってお小遣いを稼ぐくらいだろう」
「ですね。ペアは基本龍園くんが決めてくれるそうですし」
「ああ。だが、我儘じゃないがひよりのペアはなるべく学力の高い生徒になるようにオレから言っておく」
「いえいえ、そんなことは必要ありません」
「そうか?」
「ええ。それなら、伊吹さんや他の方に充てるべきです」
「まぁ、ひよりがそう言うのなら」
まぁ、龍園が許してくれるとも思っていなかったが。そういえば、一之瀬が放課後に一年生と二年生の交流会を開くと言っていたな。
龍園は行く必要なんてないと言っていたが、実際の顔や特徴を把握するためにも行ってみてもいいかもしれない。
「──────それで、呼び出して何の用ですか?」
特別試験の情報が明かされた翌日の放課後、オレは坂上に言われ理事長室を訪れていた。目の前には三月に顔を合わせたのが最後である月城がいる。
「雑談ですよ。いやはや、二年生に進級した気分はどうですか? 綾小路くん」
「普通、ですかね。留年するような成績をとった覚えはないので特に何も」
「そうですか。君が自主退学をする気がないのはこの間の態度で分かっています。ですから、少しゲームをしませんか?」
悠長な態度で椅子に腰かける月城はそう言って窓の外の景色に目をやる。相変わらず、何を考えているのかは読み取れないな。
「ゲーム、ですか?」
「ええ。察してはいるでしょうが、つい先日入学を果たした新一年生の中に、ホワイトルーム生が
「はぁ」
「来月の一日、再び君をここへ呼び出します。そのときに答を聞かせてください。当たっていれば、私は君から手を引きましょう」
「オレの父親に雇われているんですよね? そんなことをして許す人間ではないと思うんですが」
「ちょっとした余興ですよ。難しいことは考えないでください、当然外しても君には何のペナルティも与えませんから」
ちょっとした余興、か。それだけ、隠し通せる自信があるということだろう。それに、もしオレがこの特別試験で退学になれば、五月一日には丁度退学することになる。
「なるほど、少し興味が出ました」
「では」
「ええ。そのゲーム、この試験の攻略の
「やはり君は面白い子だ。
月城の冗談を背中で受けながら、オレは理事長室を退室する。問題は山積みという程ではないが、多くある。一つ一つ潰していくのも面倒だし、機会があればまとめて片付けることにしよう。
龍園による一年生の引き抜きも安値で済むことが増え、オレたちBクラスのペアは大体が決まってきていた。問題は、まだオレが退学に対する手を打っていないということだろう。
だが、それも今日で片が付く。改めて、学には感謝しないといけないな。多額のポイントを貰えていなかったら、もっと面倒なやり方で対処せざるを得なかったからだ。
「それで、何の用でしょうか綾小路くん」
「態々教室に呼び出してしまって申し訳ありません。どうにも、教員室で行うというのは避けたかったもので」
オレは放課後、二年Bクラスの教室に坂上を呼び出した。理由は、オレが教員である彼からとある物を購入するためだ。察しが悪くても分かると思うが、試験の点数である。
「一体何を?」
「実は、プライベートポイントを消費して購入したいものがあります」
「っ、なんでしょうか」
「今回の試験の点数です」
オレの回答に、坂上は驚いたように目を見開いた。オレにそこまでのポイントの余裕があるとは思っていなかったんだろう。臨時収入だから仕方ない面もあるが。
「合計、80点。いくらになりますかね」
「事前であれば、後から買うよりも安値で済みます。1点で3万ポイントなので、購入する場合240万ポイントとなりますね。払えますか?」
想定していたより安いな。もし一点十万とか言われたらこちらとしてもかなりキツかったわけだが、いい方向に計算違いが起きてくれた。
「ええ。手続きお願いします」
「分かりました。スマホを」
そう言われ、オレは素直にスマホを預ける。しかし、オレのスマホの画面を見るなり坂上はさっきよりも驚いた顔をする。
「…………綾小路くん。これだけの大金を一体どこから?」
「別に、下級生から巻き上げたりはしてませんよ。ただ、先月卒業したとある先輩から受け継ぎましてね」
「そうでしたか。別に、不正さえなければポイントの移動は自由ですからね。手続きは終わりました。ペアの合計点数が仮に1000点であっても加算されるので安心してください」
「ありがとうございました。これでいい夢が見れそうです」
とはいえ、ここで五分の二程のポイントを消費してしまったことになる。所持ポイントとしては、少し安心感には欠ける額だ。
学にも、皆の記憶に残る生徒になってみないかと提案されたな。真面目に考えてもあまりやる気は起きない。だが、やってみる価値はある。その道中で新たな学びがあるかもしれないからだ。
──────このクラスをAクラスに上げてもいいかもしれない。そう思い始めている自分に気づき、オレは一人で薄く笑った。