綾小路 in Cクラス 作:NIES
──────入学から三週間が経過した。
これまで分かったこの学校についての知識を、今ここでまとめてみようと思う。
まず、この学校では教師が生徒を注意することはほぼない。授業中に私語をしようが携帯をいじろうが、全て黙認している。
次に、この学校内には何かと無料で得られるものがある。オレが好んで食べている山菜定食や、自動販売機の天然水、コンビニ内には月三点まで無料で商品を貰えるコーナーまで設けられているほどだ。
10万ポイントとという破格の金を配っておきながら、これらのまるで「救済措置」のようなシステムを見るに、やはり月初めに貰える金額は変動するのではないか。
──────というのが、椎名の立てた推論だ。オレはそこまで周りを見てないので気付かなかったが、言われてみればそんな気もしてくる。節約しよう。
「今日は、皆さんに小テストを受けてもらいます」
HR最後、坂上がそんなことを言った。当然、事前の告知などされていない抜き打ちテストである。
「いや聞いてないって」「抜き打ちかよぉ」
そんな声が、教室内に溢れる。事実、オレも似たようなことを思っていたため、代弁者の多さに感動したほどだが。
「安心してください。このテストは皆さんの学力を測るためのものであって、成績には影響しませんから。気楽に受けてもらって構いません」
生徒を安心させるためなのか、それとも本当に影響しないのか。定かではないが、坂上のその言葉で教室内の空気が多少軽くなったのは間違いのない事実だった。
「緊張するな」
「出るのは中学生の範囲らしいですから、流石に平気ですよ」
一限目が始まる前、オレは変わらず椎名と話していた。三週間経ったのに友達一人かよとか思った奴、正直に言え。ぶっ飛ばしてやるから。
「まぁ、流石に大丈夫だとは思うが…………」
「ですが、少し気になることを言ってましたね。坂上先生は」
流れを変えるような椎名の発言に、オレは口を閉ざす。また、坂上が意味深なことでも言っていたと言うのか。オレはまったく気付かなかったんだが…………
「気になること?」
「ええ。先生は、『成績‘‘には’’影響しない』と言ってましたよね」
「ああ。そうだな」
「ですが、その言い方だとまるで『成績以外‘‘には’’影響する』、そう暗示しているように思えて」
「それは言葉遊びじゃないか? もしそうなら、なんでそれを隠す必要がある。それに隠したいのなら断言すればいい。言葉の綾さ、多分な」
「それならいいのですが…………」
椎名は依然として納得がいっていないらしい。前の10万ポイント云々の話は納得できる根拠があったから信じたが、それもないんじゃな。
「そもそも、成績以外に何に影響するんだ? 学生のオレたちを図るものなんて、成績以外にない筈だ。まさか、テストの点で内申点が決まるわけでもあるまいし」
オレは、思ったことを口にする。仮に成績以外に影響するのなら、その対象が何なのか分からない。思い当たるものは一つだけあるが、まさかな。
「──────綾小路くん。私たちで先日、その対象についての答を出したじゃないですか」
…………どうやら、オレが思っていたことと椎名が考えていたことは同じだったらしい。だが、もしそうなら坂上はオレたちに貧困生活を送らせたいヤツってことになる。
「…………ポイント、か」
「ええ。もし私の違和感が本物なら、影響するのはポイントの可能性が高いと思います。あくまで、推測の域を出ない話ではありますが」
「いや、それでもだ。もし小テストの成績がポイントに影響するのなら、オレのやる気が上がった」
「まぁ、普通に生活してるだけ、ましてや授業中に喋っているような生徒に10万円なんて与えられるわけないですからね常識的に」
「それもそうだな」
呑気に居眠りしてる奴やスマホをいじってる奴に贅沢な暮らしをする資格はない、まぁ国立ならこれくらい当然か。
オレは今も余裕そうに談笑に励むクラスメイトを一瞥してから、脳の休息のため目を閉じた。
五月一日が訪れた。振り込まれているポイントを確認すれば、「+49,000」という数字が目に入る。昨日の夜時点でのオレの所持金は約73000、計算せずとも総額も一致していた。
「少ないな」
最初に出た言葉は、それだった。オレは少なくとも授業は真面目に受けていたし、居眠りもしなかった。ポイ捨てをした記憶もなければ誰かをいじめた記憶もない。
なのに、先月から半分以上のマイナス評価を食らったことになる。小テストもどれも半分以上はとれている筈だし、マイナスされる要素がない気がするんだがな。
納得が行かないまま時は過ぎ、オレは登校時間が迫ってきたため制服に着替え自室を出た。
「思ったより少なかったですね」
「ああ。そうだな」
登校すれば開口一番に椎名が言った。名詞はなくとも、何を意味するのかは分かる。だからオレも素直な感想を返すことにした。
「因みに、綾小路くんはいくらだったんですか」
「四万九千だが」
「っ、私も同じです」
時が止まった。そんな、錯覚を覚える程に、互いの呼吸が止んだ。
「…………もしかして」
「ああ。ポイントは…………クラス単位で決められる」
ずっと考えていなかった、ポイントの概念。個人ではなく、集団で評価されるのか、この学校は。つくづく、嫌気が差す。
「まさかクラス単位だなんて…………」
「予想外だな、完全に」
「ええ。後少し情報があれば絶対に気付けたのに──────」
「たらればの話をしても現状は変わらない。坂上先生からの説明を待たないか?」
「ですね。悔やんでも仕方がありませんから」
今月からは、思った以上に節約を頑張らないといけなさそうだな。初めて焦った顔を見せて動揺するクラスメイトたちを眺めながら、ぼんやりとそう思った。
その後、HRのため教室を訪れた坂上からすべてが説明された。すべてって何だよと思うかもしれないが、この学校がこの一カ月隠してきた全てのことだ。
まず、この学校には「プライベートポイント」(以降ppt)と「クラスポイント」(以降cpt)という二種類のポイントがあり、cptに100を掛けた数がpptとして個人に振り込まれる。
そして、その重要なcptはクラス単位で決まり、試験の結果などで変動することがある。更に授業態度や私生活が悪ければマイナスされることもある厄介なものだ。
──────そして最も重要なのが、誰もが求めていたこの学校の謳い文句である「就職率・進学率100%」の特権はAクラスで卒業した者にしか与えられないという点だ。
現状の各クラスのクラスポイントは以下の通りだ。
Aクラス:940cot
Bクラス:640cpt
Cクラス:490cpt
Dクラス: 0cpt
オレたちは上から三番目。クラスは優秀な者からAクラスに配属されるため、初動としては妥当な順位と言えるだろう。
「──────質問もないようなので、これで終わりとします」
もし教師に文句を言ったりなどすれば更にポイントが減ることを全員が認知し、誰も彼に文句など言えなかった。
坂上が出て行った後、オレは黒板に貼り出された小テストの結果に目を通す。クラス全員の分が全教科出されており、プライバシーなどあったものではない。
椎名の記録を見てみれば、どの教科も90点代を叩き出しており、持ち前の頭脳を活かしていた。かく言うオレは全教科見事に60点を獲っていた。
「…………綾小路くん」
「どうした」
「あなたの結果、おかしくないですかね」
「何がだ?」
「全教科綺麗に六十点、そんなことあります?」
オレの結果に違和感を持ったのか、椎名の目が鋭くなる。オレはその視線を横に流しながら、もう一度黒板に目を向けた。
「…………偶然だろ。不思議なこともあるもんだ」
「偶然。あくまでもそう仰ると」
「仰るも何も、それが事実なんだから仕方ない」
「…………」
まだまだ懐疑的な目をしてくる椎名に次は何を言い返そうかと口を開こうとしたとき、教室に甲高い音が響いた。
前に座って大人しくしていた男、龍園翔が勢いよく椅子を後ろに引いたのだ。ここ一カ月完全に静かだったので驚き、オレは目を見開く。
龍園は大袈裟な音とは別に静かな姿勢で立ち上がり、オレたちを一瞥してから教室の前方へと向かう。
教卓の上に座り込んだ龍園が放ったのは、衝撃の一言だった。
「──────よく聞け雑魚共。今日から、俺がこのクラスの王だ」
投稿遅くてすんません