綾小路 in Cクラス   作:NIES

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第39話:深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいている

 

 

 

「──────それで、ホワイトルーム生が誰だか分かりましたか?」

 

 

いつもと変わらず理事長室内のソファに腰掛け、月城はそうオレに問う。先程六限目が終了し、オレは以前言われた通りここに出向いたわけだ。

 

 

「いえ、さっぱり。一年生でオレに声を掛けてきた生徒はいましたが、接触とは呼べないものばかり。本当に紛れ込んでいるのか疑いたくなるレベルです」

 

「そうですか。一先ず君の目を欺くことはできた、というわけですね」

 

「ええ。いるのなら、そういうことになります。上手く泥を抜きましたね」

 

 

ホワイトルーム生特有の雰囲気は一切感じられなかった。本当は嘘ですと言ったら信じるくらいだ(勿論冗談だ)。

 

 

「数カ月間は普通の高校生を演じるカリキュラムを受けていたようですから。君と同じ失敗を避けるためでしょう」

 

「なるほど。確かに最初は苦労しましたよ、色々と」

 

「そうでしょうね。しかし、まだ掴めていないという情報を得ただけでも今のところは十分です。もう下がっていいですよ」

 

 

そう言い、月城はオレの背後の扉に視線をやる。本人がもう話すことはないと言っているんだ、これでいいだろう。

 

 

「──────そういえば月城理事長代理」

 

 

一歩前へ進んだところで、オレは振り返る。

 

 

「なんでしょう。綾小路清隆くん」

 

「あなたは今回の試験、オレを退学させるために万全の準備を整えていた。そうですよね?」

 

「否定はしませんよ」

 

「にも拘わらず、オレへ接触してきた生徒は皆無。ペアを組んだ相手も結局クラスメイトが決定しました。………どうにも、腑に落ちないんですよ」

 

「何がですか?」

 

「あなたとそのホワイトルーム生、二人の行動の指針がズレている(・・・・・・・・・・・)ように思えてならない」

 

 

オレが四月中に感じていた、ある可能性。それが今、現実味を帯びてきていることを確かに感じている。事実なら、有難いが同時に厄介でもある。

 

 

「言っている意味が、分かりませんね。互いに目的は‘‘君を退学させること’’、指針がズレるなんてことはあり得ないことです」

 

「そうですか? オレが手を打っていないことは分かっていたはず、後はそのホワイトルーム生がオレとペアを組むだけで全てが片付いた。

 

 

月城は、何が言いたいんですとでも言いたげな視線を寄越す。ならば、それに応えてやるのもまた一興。

 

 

──────あなた、若しくは更に上の指示にホワイトルーム生が(・・・・・・・・・)従わなかった(・・・・・・)。そう考えると、これまでの一連の流れに納得がいくんですが」

 

 

月城は手に持っていたティーカップをテーブルに置き、身体をこちらに向けた。ようやく、何かを話す気にでもなったのか。

 

 

「……本当に、君は面白い子だ。私の言葉を安易に信じて貰っても困りますが、認めましょう。確かにあの子は指示に従わなかった」

 

「簡単に認めるんですね」

 

「隠しても仕方ありませんから。子供ならではの反抗期ならまだ笑って見過ごせますが、もし私だけではなく‘‘あなたの父上の意向’’すら無視しているのなら、私は君の未来が少し心配ですよ」

 

「心配?」

 

「『ホワイトルームの最高傑作』、その壁が高ければ高い程、それに対する敵対心・憎悪は計り知れないものになっていく。君がどうなればあの子が納得するのか、考えたくはないですね」

 

「………気を付けますよ。それと、近いうちにこちらからコンタクトをとることになるかもしれません。それだけ伝えておきます」

 

「ええ、分かりましたよ。いつでも来てください、暇なら相手をしてあげますから」

 

 

 

月城の言葉を聞いてから、オレは理事長室を出る。先程の会話で得たものは多いとは言えないが、有益な情報もあった。まず月城とホワイトルーム生は一枚岩ではない可能性が高い。

 

それすらもフェイクかもしれないが、今回の試験がオレを退学に追い込む絶好の機会だったことは事実。狙っていなかったという方が不自然だ。

 

だが、先程までしていたのは所詮上辺だけの会話に過ぎない。思考を放棄することはしない。ありとあらゆる可能性を思考し、当てはめていく。すると、一つの可能性(・・・・・・)が浮かび上がってくる。

 

 

「───心配、か。次の試験の内容次第では、面倒事(・・・)全てまとめて処理できる(・・・・・・・・・・・)かもしれないな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「─────清隆くんらしくない、そう思いまして」

 

 

いつもの帰り道。図書館の定休日ということもあり、オレとひよりは他の日よりも早い時間に通学路を歩いている。

 

 

「こっちにも、色々あってな」

 

 

今の話題は、先日行われた特別試験でのオレの点数についてだ。今まではよくてもクラス内順位6位とかだったのに、何故いきなり高得点を獲ったのが疑問らしい。

 

 

「それも、話せないことですか?」

 

「悪いな。ただ一つだけ言えることがある」

 

「なんでしょうか」

 

「恐らくだが夏休み。そこを乗り越えれば、また平穏がやってくる」

 

 

あくまでも勘だが、ホワイトルーム生の処理もそこで終わるような気がしている。月城からしても、そこまで長期戦にするつもりはないだろうからな。

 

オレは背中を押してやるだけでいい。

 

 

「平穏、ですか」

 

「嫌いか?」

 

「いいえ、荒んだ毎日よりも好きです。ただ、これから行われていくであろう特別試験を思うとどうにも想像できなくて」

 

「確かに、『クラス内投票』からは大忙しだったからな」

 

 

あれ以来、裏仕様みたいなものだが退学措置が増えた。それ以前の特別試験での退学措置は『ペーパーシャッフル』でのボーダーラインを割った場合くらいだったのにな。

 

 

「ええ。でも、清隆くんがそう言うのならきっとそうなのでしょう」

 

「希望的観測であるのは事実だがな」

 

「それでも、これからずっと地獄が続くと思うより幾分かマシです」

 

 

 

 

 

 

 

「─────皆さん、今から次に行われる特別試験について説明するので、聞き逃すことのないようにしてください」

 

 

坂上はそう言って、モニターに試験のルールと思しきものを映す。パッと見ただけでも、今までのどの試験よりも複雑そうに見受けられるな。憂鬱だ。

 

 

「名称は『無人島サバイバル』、名前の通り、無人島で行われることになります。無人島と聞いて多くの生徒は去年の『無人島試験』を思い返したでしょうが、あれとは規模も危険度も大きく異なります」

 

 

あれも文字通りのサバイバルだったわけだが、あれよりも苛酷になるのか。できれば簡単に終わるものが良かったが、そんなものをこの学校が用意してくれるはずもない。

 

 

「現時点で公開できるルールを一気に解説するので、忘れないようにしてください」

 

 

それから説明された試験のルールをまとめるとこんな感じだ。三学年が入り乱れる上に、監視の目が行き届かない無人島。少なくとも、退屈することはなさそうだ。

 

 

 

名称:無人島サバイバル

 

〈ルール〉※現時点で公開可能な情報のみ

・無人島では同学年生徒で最大6人の大グループを組んで2週間の試験が行われる。

 

・グループは原則として

『男子1~3人』『女子1~3人』『男子1人・女子2人』『男子2人・女子2人』『男子2人・女子3人』『男子3人・女子3人』

の構成である必要があり、人数が多い方が有利で特典も用意されている。

 

・乗船の3日前までに最大3人(1年生に限り4人)の小グループを組んでおくことができる。

 ※男女混合の場合は2/3以上を女子が占める必要がある。構成は下記の7パターンである。

『男子1人』『男子2人』『男子3人』『女子1人』『女子2人』『女子3人』『男子1人・女子2人』

 

・グループは1人でも成立する。

 

・試験開始後に小グループが合わさって大グループを作ることができるようになるが、希望通りの大グループを組める可能性は限りなく低い。

 

・グループメンバー全員がリタイア(病欠含む)すれば下位が確定するが、誰かがリタイアしても同グループの誰かが1人でも残っていれば試験の続行は可能。

 

・1度グループが確定した後は、如何なる理由があろうと解除又は他グループへの移動は認められない。

 

・試験開始後には小グループ同士が組むことができる。ただし4人以上の大グループの場合女子が全体の5割以上を占める必要がある。

 

 

〈ルール・カードについて〉

・明日、全生徒にランダムで全8種のカードが1枚ずつ配布される。また、特殊カードは各学年に3枚ずつ配布されるが、ランダムのため偏る場合もある。

 

・全カードは同学年で他クラスという条件を満たす生徒間でのみ譲渡やトレードが可能。カードの生徒間移動はカードにつき1度までであり、2度目以降の移動は認められない。

 

・カードを複数枚持つことは可能だが、同一カードの効果は重複しない。

 

 

〈カード一覧〉

 

・基本カード

●先行:試験開始時に使えるポイントが1.5倍される。

 

●追加:所有者の得るプライベートポイント報酬を2倍にする。

 

●半減:ペナルティ時に支払うプライベートポイントを半減させる。

    ※本カードを所持する生徒のみに反映される。

 

●便乗:試験開始時に指定したグループのプライベートポイント報酬の半分を追加で得る。

    ※指定したグループと自身が合流した場合効果は消滅する。

 

●保険:試験中に体調不良で失格した際、所有者は一日だけ回復の猶予を得る。

    ※不正による失格などは無効とする。

 

 

・特殊カード

◆増員:本カードを所有する生徒は7人目としてグループに存在できる。

    本試験開始後から効果が発揮され、男女の割合にも左右されない。

    

◆無効:ペナルティ時に支払うプライベートポイントを0にする。

    ※本カードを所持する生徒のみ反映される。

 

◆試練:特別試験のクラスポイント報酬を1.5倍にする権利を得る。

    ただし上位30%に入れなかった場合グループはペナルティを受ける。

    また増加分の報酬は学校側が補填するものとする。

 

 

〈報酬〉

 

1位グループ:300クラスポイント・100万プライベートポイント・1プロテクトポイント

 

2位グループ:200クラスポイント・50万プライベートポイント

 

3位グループ:100クラスポイント・25万プライベートポイント

 

上位50%グループ:6万プライベートポイント

 

上位70%グループ:1万プライベートポイント

 

※上位グループのクラスポイント報酬は、下位グループの所属する学年から均等に徴収される。

 クラスポイント報酬は人数差に関係なく、クラス数で均等に配分される。

 

 

〈ペナルティ〉

 

・下位5グループ:退学処分となる。

 ただしグループ全体で600万プライベートポイントを支払うことで回避することができる。

 ※救済費であるポイントはグループの構成人数で均等に割られる。

  試験開始後にプライベートポイントを貸し借りすることは認められない。

 

 

 

 

面倒な試験が始まってしまった。だが、試験の内容自体は想定内(・・・)だ。試験前の情報開示を待たずとも、詳しいルールも想像がつく。

 

…………さて、ケリをつけるとするか。

 

 

 

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