綾小路 in Cクラス 作:NIES
特に宝泉のナイフを止めるシーンはかっこよすぎた
ナイフ抜けるんかいってツッコんでしまったけど
「──────よく聞け雑魚共。今日から、俺がこのクラスの王だ」
そう高らかに宣言した龍園の顔や声には、自信が満ち溢れていた。まるで自分は生まれた瞬間から王であるように、他のすべての人間を従わせるために生まれて来たかのように語る。
だが、当然いきなりそんなことを言い出した彼に、一定数反発する者もいる。筆頭が、確か名を時任というひょろ長い男だ。
「いきなり何言ってんだてめぇ」
「あ? 言ったまんまだよ、猿には理解できなかったか?」
「ああっ? てめぇ、調子乗んなよっ!」
椅子を勢いよく引いて立ち上がった時任と、それを嘲る龍園。一対一の状況が一気に成立し、教室全体を切り詰めた空気が支配する。
「馬鹿には体で教えねぇと分かんねぇか」
「こっちのセリフだボケ」
自身の机を乗り越え、時任は龍園へと飛び掛かる。だが、その動きを完璧に読んでいたように龍園は攻撃を躱す。そのまま隙が空いた時任の胸に龍園が跳び蹴りをカマし、時任は後ろに吹き飛ぶ。
音を立てて崩れたいくつもの机や椅子を、そこから避難した生徒たちが唖然として見つめる。その光景を特に気にせず、龍園は再び口を開いた。
「今のでうちのクラスポイントが減っても、後でその分盛り返してやるから安心しろや。文句がある奴は今日から一週間以内に言いに来い。言う事聞く奴だけを、Aに連れてってやる」
──────そこで、全員が彼から解放された。結局、教室後方にまで被害が及ぶことはなく、オレや椎名は席を立つこともなく、事態は収束の一途を辿った。
「少し怖かったですね」
帰り道、今日は図書館が臨時休業ということもあり、オレは椎名と下校していた。最近は一緒に本を読んでから帰ることが多かったため、赤い夕陽が新鮮に想える。
「そうだな。正直、驚いた」
「ここ一カ月完全に大人しかったですからね。引かれた510ポイント分の失態は、彼の所為ではないと強調するためでしょうか」
怖かったと言いながら、椎名は状況を冷静に分析する。確かに、彼は真面目に授業を受けることが出来る分、その他複数の生徒よりはマシに思えるな。
「だが、もしそうならアイツは授業態度や私生活で評価されるという事実に辿り着いていたことになる。それに、10万ポイントの違和感について、初日の時点で気付いていた」
あのとき既にポイントの増減、或いはその先の評価基準にまで気づいていた可能性がある。高育の敷地内に多数設置されている監視カメラにすら気付けない他の有象無象とは比にならない観察眼と思考力。
「…………クラス内では、リーダー適正No.1ってことですかね」
「少なくとも、思考力や観察力だけで言えばトップクラスなのは間違いないだろうな。だからと言って、人を率いる才能があるのかは別の話になるが」
「暴力では、人の心を完全に掴むことは出来ませんからね」
「ああ。いつかは、裏切り者が出るかもしれない。それを踏まえて、どうするのかはアイツ次第だが」
オレはこれ以上話すことはないと思い、前を向き直す。目の前には夕日に照らされ木の影が伸びる小道。今までは深く考えることのなかった景色だ。
「綾小路くんは、どうするんですか?」
「どういう意味だ?」
「彼の独裁政治を許すのか、という話です」
オレは一瞬だけ黙り、考え付いた答えを述べる。それが正解だと信じて。
「うちのクラスには山田アルベルトという黒人がいた。もし彼が龍園に反発するなら、椎名の危惧することにはならないだろう」
「答えになっていませんよ。あなた自身がどうしたいのか、どうするのかを訊いているんです」
「知っての通りオレは面倒くさがりだ。龍園に反発することはない。支配でも政治でも好きにやればいい、実害がなければ、の話だが」
オレの答を聞き、椎名は満足そうに頷いた。まるで、最初からオレの言うことが分かっていたかのような態度だ。
「実害がなければ、ですか。同意見ですね。私は、読書が出来ればそれで…………いえ、読書と、綾小路くんと話す時間さえあれば他はいりませんから」
「オレのことを買い被りすぎていないか? 話していて楽しいとは、本人のオレも思わないぞ」
彼女にとっての読書と並べられるほど、オレは偉大な存在じゃないんだがな。プレッシャーで圧し潰されてしまいそうだ。
「本の趣味も合いますし、それに綾小路くんは自分で言う以上に思考が明確で助かります。その方が、有意義な意見が交わせますから」
「そうか。まぁ、椎名がそう言うのなら全然いいんだ」
──────龍園翔。あまり関わりたくないなと思いつつ、今日あのときの視線を思い出す。あの意味深な一瞬の視線の交差が面倒事に繋がらないようにと祈りつつ、オレは椎名と別れ寮の四階でエレベーターを降りた。
翌週月曜日。
龍園のクラスの王宣言から三日が経った。あの怒涛の金曜日の後、龍園に文句を言いに言った奴は何人いるんだろうとか考えてたら、教室に入った瞬間分かった。
石崎や小宮といった連中複数名の顔に、明確に痣が出来ていた。色的に数日は経過していると思われるが、それでも消えていないのを見るに中々の威力だったのだろう。誰と争ったのかは言うまでもない。
自分の席に座ると、前に座っていた龍園がこちらを向いた。横を通り過ぎるときにはわざと視線を向けないようにしていたが、彼の顔には一切の傷がないことに改めて気付く。
石崎たちもある程度はやれそうなのに一方的にボコボコにしたと考えると、喧嘩の腕がかなり立つのかもしれない。運動も出来そうだ。
「…………おい、盆暗」
「もしオレに言っているんだとしたら、しっかりとした‘‘綾小路清隆’’という名前で呼んでもらいたいな。人の名前はそのためにある」
ぶっきらぼうにオレを呼ぶ龍園に、オレはそう返す。せめて人の名前を覚える努力くらいはしてもらいたいものだな。あと、あんまり話しかけないで欲しいんだが…………
「チッ。おい、綾小路」
「なんだ、龍園。いや、クラスの王だったか?」
「どうせ暇だろ、放課後空けとけ。お前に用がある」
「今じゃダメか」
「お前も困るんじゃねぇか?」
そう前置きをしてから、龍園はオレに顔を近づける。そのまま耳元で、囁くように、脅すようにこう言った。
「…………小テストの点数。いじったな」
オレは横目で、龍園を捉える。わずかに見えた彼の横顔は、微笑んでいるように見えた。
「はぁ。分かった」
「おう。バックれんなよ」
「しないさ」
内心で溜息を吐いてから、オレはどうやって彼にあれは偶然だと説得することが出来るかを考えることにした。