綾小路 in Cクラス   作:NIES

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第7話:ミッション「龍園を満足させろ」

 

 

「──────椎名」

 

 

視線の先には、ほとんど無表情と言っていい顔の椎名が立っている。これからどんな言葉が発されるのか、想像もつかないのが現状だ。

 

 

「龍園くんとは、いつの間に仲良しになったんですか?」

 

「仲良しではない。ただ、少し話していただけだ」

 

 

椎名に、オレの頭脳のことを知られるのは些か都合が悪い。無論、彼女が許可なく他言するような人物でないのは恐らくこのクラスでオレが一番理解していることだが、秘密を知っている人間は少ないに越したことはないからな。

 

 

「クク。仲良くないとはつれねぇぜ綾小路。日々連絡を取り合う仲だろ?」

 

「別に、綾小路くんが誰と仲良くしようとそれを制限する権利は私にはありませんし、するつもりもありません。しかし、以前彼とは関わらないと言っていたのは嘘だったのですか?」

 

 

椎名の顔に、少量の失望が混じっているような気がしてくる言葉だ。実際、顔には哀愁が漂っているように見えなくもない。

 

 

「実害がなければ、そう付け加えた筈だが」

 

「実害があったということでしょうか」

 

「そう表現する程のことじゃないがな。オレ個人の判断だ」

 

 

最早、この場面を目撃された時点で言い逃れはほぼ不可能だ。油断したな、こうなるのなら深夜にでも会うべきだったか。眠いから嫌だな。

 

 

「…………なるほど、そういうことですか」

 

「あん?」

 

 

椎名は、何かを察したように一人でに頷いた。その様子を怪しみ、龍園は椎名に視線を流す。

 

 

「綾小路くん、あなたはご自慢の頭脳を龍園くんに買われたのでしょう?」

 

 

椎名の言葉に、龍園は一瞬驚いた顔を見せてから、まるでいい駒を見つけたとでもいうかのようにニヤリと笑った。

 

 

「クク、盆暗に負けず劣らずの洞察力じゃねぇか。小テストの結果見てたのか」

 

「同好の士の点数を知りたくなるのは自然なことではないでしょうか」

 

「そうかもな」

 

「綾小路くんに目をつけるセンスはいいと思いますが、脅すのはどうかと思いますよ」

 

 

和やかだった椎名の雰囲気が、少し変化する。一瞬だけ、言葉を発したその一瞬だけ、周囲に毒が満ちたかのように体が錯覚した。

 

 

「脅してねぇよ。なぁ? 綾小路」

 

 

龍園は横目でオレを見る。その瞳は、『理由言えねぇよな?』そう言っているように見えた。事実言えないので、オレは目を逸らしてから椎名に言葉を返す。

 

 

「脅されてはいない。龍園に協力を持ち掛けたから、重要な場面での助力を受諾したに過ぎないからな」

 

「本当ですか?」

 

「ああ。オレが脅されて困るようなことは何もない」

 

「なら、いいのですが…………」

 

 

椎名はまだ納得がいかないのか、うんうんと唸る。その様子を見かねたのか、龍園は座っていた机から降り、口を開いた。

 

 

「ところで椎名、お前もオレの配下に加わらねぇか?」

 

「断ります。面倒なことは嫌いなので」

 

「クク、そうかよ。綾小路、例の件については後でメールで」

 

「ああ」

 

 

龍園はオレの返事を聞いてから、教室を出て行った。取り残されたのは、オレと椎名だけだ。普段騒がしい教室の中で、今は二人で静寂に包まれている。変な感覚だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後日。いつも通り登校したら顔面がボコボコになっている龍園がいた。彼に敗北しすっかり従順な部下と化した石崎は、心配そうに誰にやられたか訊いている。

 

だが、聞かずとも答は分かるだろう。オレは教室後方の窓際に陣取る山田アルベルトに目を向ける。軽く見た限りでは、彼の顔には傷がない。龍園では相手にならなかったということだろう。

 

 

『山田か?』

 

『お前に関係あるかよ』

 

『勝てなかったのか』

 

『最初から通用するとは思ってなかった。粘るだけだ』

 

『そうか』

 

 

オレは、龍園とのチャットを打ち切る。どちらから吹っ掛けたのか知らないが、それは龍園が一人で解決すべき問題だ。頭しか取り柄のないオレの出る幕ではない。

 

心の中で溜息を吐いてから、オレは椎名に勧められた本の続きを読むため視線を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は進んで、六月一日。今日は、中間試験の結果発表が行われる日だ。結局龍園により過去問の配布は行われ、恐らくだがクラスからの退学者は出ないだろう。

 

試験前日、オレは龍園から各教科毎の指定点数を聞かされた。当然オレは過去問を見ることなく試験を終えたわけだが、今の時点で既に龍園からの評価は確定している。オレが、勉学において少なくとも高校一年生の範囲内で躓くことはないだろうからな。

 

 

 

学校に着くと、珍しく既に龍園が登校していた。もう、前についていた痛々しい傷の痕は消えている。五月の間にしつこくアルベルトに挑み続けた結果、彼は龍園の信念を認めたらしい。

 

 

「楽しみにしてるぜ」

 

「期待には応えられたと自負している」

 

「ならいい。結果が全てを示してくれるだろうからな」

 

 

 

数分後、HRのため教室にきた坂上によって、試験の結果発表が行われた。通例通り、クラス全員の各教科の点数が黒板に貼り出される。石崎や龍園の手下の伊吹などは、食い入るように自身の成績を探す。

 

かく言うオレは、比較的穏やかな心持で全員の結果を上から順に見ていく。まぁ、出席番号順なので、一番上はオレなんだがな。

 

国語………72点

数学………67点

理科………51点

社会………64点

英語………81点

 

 

──────問題ない。すべて、龍園に指定された通りの点数だ。元より心配していなかったが、これでようやく落ち着いて日常生活を送れる段階に入れた。ここまで長かったな。

 

 

 

「満足だ」

 

「それなら何よりだ」

 

「いつでも連絡取れる準備しとけ。他は好きにしろ」

 

「言われずともそうするさ」

 

 

龍園と、周りには聞こえない程度の声量で会話を済ませる。少なくとも、今回の結果には満足してもらえたらしい。何よりだ。

 

 

「一つ聞かせろ」

 

「なんだ」

 

「お前は、もし全教科百点を獲ろうと思えば獲れるのか」

 

「愚問だな」

 

「そうか」

 

 

背中しか見えてないから確証はないが、龍園がニヤけた気がした。試験で百点獲れとか言われてもやらないからな。オレは目立ちたくないんだ。

 

 

 

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