異世界魔王様は日本円を稼ぎたい! アニメのグッズ代のため、現代日本にダンジョンを作ります   作:スノーマン(ユッキー)

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魔王、違法視聴を知る

「ふっ、今代の勇者はこの程度か。側近に勝ったというから期待していたが、5分も持たぬではないか。次代に期待だな。さて、勇者よ。最後に言い残すことはあるか?」

 

 魔王城の最深部までソロでたどり着いた勇者だったが、歴代最強魔王には手も足も出ず、虫の息となっていた。魔王がこれ以上何もせずとも、そのうち屍になるだろう。けれど魔王は最後の情けで介錯をしてやることにした。だが――。

 

「…………せめて推しアニメの最終話を観たかった……」

「ん? アニメ?」

 

 うっかり知的好奇心を擽られた魔王は命を懸けて争っていた相手という事を忘れ、最上級ポーションを勇者に浴びせる。話を聞く前に死なれては困るからだ。まぁ死んでも死霊魔術という手もあるが。それはそれ。思いつかなかっただけとか言ってはいけない。

 異世界転移してきた元は一般大学生だった勇者に、アニメについて根掘り葉掘り聞く。勇者が殺してくれというぐらいしつこく、些細な事も逃さず。そして一年後。

 

 

 

 

「今期は豊作だな勇者よ!」

「ああ、神作画のタイトルがいくつもあって見応えたっぷりだぜ!」

 

 魔王はすっかりオタクになってしまっていた。そして勇者とはアニメ視聴の友になっている。お前ら戦わなくて良いのかと、周囲の魔族は思ったが魔王様が楽しそうなので口を挟むことはなかった。ちなみにアニメの視聴は魔王が叡智の全てを注ぎ込んで、魔法によって現代日本から電波を受信して、ホームシアター形式で眺めている。当たり前のようにポップコーンとコーラ付きで。それらも魔王が勇者の記憶から魔法で再現したもので、魔王にとっては息をするように簡単な事だった。魔法の無駄遣いでは?

 

「お、26時から始まるアニメは魔法少女もののようだぞ! 我魔法少女とやらを概念しか知らない故、非常に楽しみだ」

「深夜アニメで魔法少女物……? 鬱展開はやめてくれよ!? ハートフルで女の子達がキャッキャしてるのが見たいんだ!」

「お、おう? よく分からぬがハートフルだと良いな。お、始まるようだの。ん? 『違法視聴は法律で禁止されております』なんだこの警告文は」

「あ~違法アップロードされたアニメを見たりすることなんだが、えーと……」

 

 異世界の魔王に違法視聴について説明するのはかなり難易度が高い。勇者の頑張りと魔王元来の理解力の高さによってなんとか理解し、嗤った。

 

「クハハハ、これだから人間は愚かよ。定められたルールすら守れぬとは下らぬ。やはり我が世界征服して正解だったな」

「いや、魔王。俺達もやってる事は違法視聴だぞ?」

 

 日本の法律では、いや現代の法律では裁くことはできないが、少なくとも正規ルートの視聴ではない。勇者はここ異世界だから良いだろ、の精神でいたが魔王にはあまりに衝撃だった。

 

「なにぃ!? そんな馬鹿な!? 我が愚かな人間と同類だというのか!?」

 

 魔王には人間のルールは分からぬ。まだまだオタクになって一年も経たないにわかだ。けれども公式の言葉は絶対。それくらいは理解しているのだ。

 

「勇者、今夜のアニメ視聴は終わりだ」

「えぇ~! ちょっ今から魔法少女に変身しようってとこだったのに!」

「ええぃ! 我だって続きは視たかった! だがこれは違法視聴なのだろう! 正義の味方として恥ずかしく無いのか!?」

「ううっ、正論……言い返せねぇ……。けど魔王、もうアニメは視ないのか?」

 

 せっかく諦めていたアニメを見る環境が出来たのにと、勇者はしょんぼりしていた。またアニメが見られない地獄のような日々が始まるのだろうか? と。勇者としての役割なんてちっとも考えてない。お前勇者やめろよ。

 

「まさかそんなはずがないだろう。おぬしの世界の座標は既に特定済みだ。ならば簡単な話だ。こちらの世界に電波を受信する塔、ダンジョンを作れば良い」

「は? はぁああああああああ!? おい待てやめろ!」

 

 勇者は全力で詠唱を始めた魔王を止めようとした。しかし悲しいかな、先の戦闘で分かるように生物としてのスペックが違い過ぎる。勇者の抵抗もむなしく魔王は詠唱を終えた。そして。

 

「どうしてこうなった……」

「ふむ、お主が耳元で騒がしいから手元が狂ってしもうたな」

 

 現代日本の東京湾に漆黒の塔、ダンジョンが音もなく瞬時に建造された。それは建築基準法などの日本の法律を全無視ではあるが、魔王の予定通りだった。しかし、計算外がある。うっかり魔王の部屋を含め勇者の部屋等一部が何故かそのままダンジョンの最上階に転移してしまったのだ。部屋に居た者達を巻き込んで。魔王と勇者、あと数名。後にお台場ダンジョンと呼ばれるその塔の最上階、それが魔王達の居住区となってしまったのだ。なんで魔王城に部屋を用意して貰ってるんだこの勇者。

 

「まぁこれで合法視聴が出来るな!」

「なぁ……俺らが日本に来るならこのタワー建てる必要あったか? 電波塔みたいな役目だったんだろ?」

 

 魔王の当初の計画ではダンジョンを日本に建て、そこから合法的に電波を異世界へ引っ張ってくるつもりだったのである。合法かそれ?

 

「うむうむ。そのつもりだった。まぁ端的に言うと役割を失ったな!」

「お前ほんと何してんだよ! 馬鹿! こんな馬鹿でかい塔作って置いて意味無いって!」

「まぁ落ち着け勇者。魔王には相応しい場所が必要だ。その為のこのダンジョンだ。今そう決めた。我が定めた。ダンジョン最深部なんて魔王が居るには相応しい場所だろ?」

「頑張って最深部までたどり着いたら、魔王がだらけてアニメ見てるとか嫌すぎるわ!」

「ふむ、戦闘用の部屋を作っておくべきか。我渾身の自作グッズが壊れてしまっては困るしな。は、待てよ!? ゆ、勇者よ自作グッズは合法!? 合法よな!?」

 

 魔王の部屋には魔王が魔法で自作した美少女キャラのグッズ、アクスタ・クリアファイル・タペストリー・抱き枕等が所狭しと並んでいる。一応男キャラも生きざまがカッコイイとかで気に入った場合はグッズを作っているが少数だ。魔王も男なのである。男なのか?

 

「え? 俺も詳しくないけど、自分用ならセーフなんじゃないかな? 抱き枕とかガチすぎてちょっとキモいけど」

「フハハハハ、我、完全、勝利!」

「あ、聞いてねぇな」

 

 魔王の耳はどれだけ遠く離れた音でも拾うが、それは自分の都合の良い事だけだ。都合の悪い事はノイズキャンセリングされている。ちなみに勇者はグッズをそんなに手を出さない派だ。真面目に大学に通っていたから、そこまで金銭的に余裕があった訳ではない事もあるが。仮に金銭的に余裕があっても抱き枕は買わない。友達に見られたら恥ずかしいからである。まぁ、魔王自作の抱き枕は健全なイラストなのでまだマシだが。

 

「さて、合法アニメ視聴をするか。合法! アニメ視聴を!」

「強調すんな馬鹿。はぁ、ぶれねぇなお前。けどテレビがねぇだろ」

「そんなもの魔法で、こんなもんか?」

 

 魔王の部屋に音もなく超薄型ワイドテレビが出現した。電力・電波の受信など細かいことは魔法頼みだ。本当に合法か?

 

「え、なんで作れんの!?」

「我魔王ぞ? この世界に来た瞬間にざっくりと世界中を解析しておいたゆえ、このくらい朝飯前である」

「なんかしれっと恐ろしい事言ってねぇか?」

「我魔王ぞ?」

 

 魔王は自分がいる世界の理くらい理解して当然なのである。なお法律や一般常識は除く。一番重要なものが欠けているな。

 

「あ、魔王。今日のアニメもう無いぞ。さっきの魔法少女ので最後だったみたいだ」

「……寝るか」

「……そうだな」

 

 そうして魔王の異世界進出一日目が終わった。何しに来たんだこいつら。

 

 

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