「……入りますね、イチカ先輩……っ!」
2週間ぶりに会う先輩の様相は、相談に乗ってくれたあの時の面影なんて全く残ってなくて。
ただただ謝罪を繰り返すだけの、最低限人としての尊厳を保てているだけのロボットだった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…………」
「イチカ先輩、聞いて下さい。……先輩が撃ってしまったあの人ですが、無事に意識を取り戻したそうです」
「……ぇ?」
酷くしゃがれた声と、ぼさぼさな髪。部屋に充満する酸の香りから、多分食事をしても胃がそれを受け付けなかったのだろう。
涙の跡の上から流れ出す涙と、ずびずびすすられる鼻水。大声で泣いて、あの人の無事を喜んでいた。いや、安堵していた。
「よかった……ほん、とうに……よかっ、たぁ……!」
「……はい。もう、もう大丈夫ですから。いっぱい泣いてください、先輩」
「ううっ……うあああ……!!」
30分ほど、先輩は涙を流していた。
「……泣き疲れちゃったみたいですね」
ティッシュで優しく顔を拭いて、「身だしなみを整えて、心の準備ができたら”彼”に会ってほしい」という旨の置き手紙を書いておいた。
「今は、ゆっくり寝てくださいね。先輩」
・・・・・
「あ……えっと、どうも」
なんかすっげえ怖い顔してる人が入ってきた……いや、隣の人胸でっか。え、これで女子高校生は無理がないか?
「正義実現委員会の委員長をしている、
「あ、はい。多々良葉風楽と申します。えっと……その。イチカさん……俺を撃ってしまった方は、今どんな感じですかね……?」
「使いの者からの連絡によると、貴方が生きていた報告で泣きじゃくってしまって。そのまま泣き疲れて寝てしまったようで……すみません、すぐにでも本人と面会をさせたかったのですが……」
……数時間前にキヴォトスのことを説明してくれた鷲見さんが言うには、「仲正イチカという人が貴方を撃ってしまい、その影響で精神を病んでしまった」と言っていた。ならば仕方がないだろう。俺のいた場所以上に死が忌避されるこの世界じゃ、学生である仲正さんがそうなっても仕方がない。
「いえいえ、大丈夫ですよ。本人の都合が合えば、むしろこちらから会いに行きたいくらいで」
「……お気遣い感謝します」
剣先さんが頭を下げる。ごめん、心の中だから言える。めっちゃ顔コワい。
「仲正イチカさんが貴方を撃ってしまったことについては、私剣先ツルギと」
「羽川ハスミの名において。ここに正式な謝罪を致します」
……まあ、そうか。あまりにイレギュラーではあったものの、民間人を撃って生死を彷徨うほどの傷を作ってしまった。それならば、この対応も納得だ。
だが、過失で死にかけた程度のものだ。別にそこまで切羽詰まっちゃいない。
「……俺は、過失で人を殺しかけた人間相手に怒るほどの狭い心は、あいにく持ち合わせていません」
「……え」
「別に、赦す赦さないの問題じゃなくて。ただ本人から謝罪が聞けるのなら、それでいいんです。本人の気持ちに整理がついて、会いに来れるくらいに快復して、謝罪が出来る誠意を見せてくれたらそれでいいんです」
「……そう、でしたか」
剣先さんが目を落とす。俺の善意が少し重たくのしかかっているのだろうか。
「顔を上げてください。1ヶ月後でも1年後でも、本人からの謝罪が聞けるだけで結構ですから。命に別状はありませんでしたし、”生きててよかった”でこの話はおしまいです。だから、大丈夫です」
「……はい。ありがとうございます。多々良葉さん」
今1度、羽川さんが礼をする。……ごめん胸にしか目が行かない。
「それじゃあ、俺はこれから検診の時間なので」
「はい。お大事になさってください」
「ええ。それでは」
病室を後にした2人の背中は、部屋に来たときよりもほんのちょっとだけ肩の力が抜けていた。
……緊張していたのだろうが、俺の言葉で少しはほぐせたかな。
「さて、検診行かなくちゃ」
ゆっくり身体を捻って、手すりを支えに立つ。
「……仲正、イチカさんか」
いったい、どんな人なんだろうか。
最初にイチカを「先輩」と呼んでいた子は、正実のモブちゃんです。1年生です。年下に泣きじゃくるイチカっていいね……。まあ多々良葉くんは同い年なんですが。