「ん……」
あの男性の無事に安堵した。矯正局に行かなくてもいことに安堵してしまった。私が私で在り続けられることに安堵してしまった。
「……行かなきゃ」
会いに行かなきゃ。
・・・・・
「……快復が早いですね……あと1週間あれば退院できそうです」
「ふぅ……」
現在は救護騎士団の団長、
キヴォトスで3週間。夏季長期休暇……もとい夏休みの時期ではあるものの、外でどれほどの時間が経っているかがわからない。此処での一生が外での1秒なのか、外での7年間が此処での1秒なのか。はたまた全く同じなのか。
……7年という数字は、行方不明者が民法によって、裁判所に「死亡」したと見做されるまでの期間だ。もしも7年が経っていたのなら、俺は死んだ人間として一生をキヴォトスで生きていく。
「……帰れるんでしょうか」
つい、そんな言葉がこぼれる。あの場所で、死んだ人間として処理されることが怖い。
「それは、誰にもわかりません。いつ戻るのか、いつ死ぬのか。誰にも予測できないからこそ、今を生きていくしかありません」
蒼森さんは、生をそう認識しているのか。
「検診はこれにて終了です。これから私はパトロールに行ってくるので、1人で病室に戻ってもらいます」
「ありがとうございました、蒼森さん」
「ええ。お大事になさってくださいね、多々良葉さん」
・・・・・
「……あ」
「えーと……もしや、貴女が……」
「はい……仲正、イチカです……」
……ここまで早く本人が来るか。
「あ、その、戻るの手伝いましょうか……?」
「お言葉に甘えて……お願いします」
「は、はい……」
どうにも、冷や汗が止まらない。……のは、仲正さんだ。先程から、こちらに目を合わせようとしてこない。彼女の負い目がそうさせているのだろう。ただ、話そうと思ってここに来てくれたのは事実だ。
さあ、腹割って話そうか。
「……えっと」
「ゆっくりで構いませんよ。……あ、自己紹介してませんでしたね。
「な、仲正イチカっ……です」
真っ黒なロングヘアーと、大きい羽。飾り気のない簡素な色が、窓から見える真っ暗な夜空みたいに。月明かりに照らされる冷や汗が星に見えてしまう。
「……多々良葉さん」
「……」
「貴方のことを撃ってしまって、誠にすみませんでした……」
……うん。これで、俺はもう大丈夫だ。
「謝ってくれてありがとう。それだけの誠意があれば充分だよ」
「……へ?」
「えっと……正義実現委員会だっけ?の委員長さんと副委員長さんにも言ったんだけどさ。過失で人を殺しかけた人に対して詰め寄ったり怒ったりするほど。俺の心は狭くないし向いてない」
ぽかんと口を空けた状態で、仲正さんは子供のように首を傾げた。
「そこに誠意があればいい。罪が在ってそれに対する罰則は比例しなければならないなんてことはない。当人の間でかいつ出来る物事なら、当人だけで決めるべきだ」
「それが……これ、ってこと?」
「ああ。元より俺は気にしてない」
「……そっ、かぁ……」
張り詰めた糸が、緩む音。
「ありがとう、ございます……っ、死んじゃってたら、どうしようって……ずっと、ずっと不安で……怖くて……!!」
……この世界では、「死」は終わりだ。そこにそれ以上の価値はない。
「……もしよければ、こっちに」
「うう……」
肩を震わせ、とめどなく涙を流す仲正さんの丸まった背中をさすりながら、目を閉じる。
「ごめんなさい……ごめんなさい……!」
「……思う存分、泣いてください」
シワがついてしまうであろう入院着の心配など、今はいらない。
今はただ、彼女に寄り添うだけ。