人には前世というものがある。
覚えてはいなくとも、誰しも"前の人生"というものを生きているのだ。
幕府の武士だったり、ただの貧しい一般家庭だったり、もしかしたら外国籍だった可能性もある。まあ、前世のことなんて、基本誰にもわからないものではある。
ああ、なんで、あるらしい、とか使わず断定の言葉を使っているのかというと、俺が実際に前世の記憶を持っているからだ。
いや、というより前世の記憶を
目が覚めたら白い天井、なんてありきたりな導入が似合うような、そんな状況だった。というか、その導入そのままの状況だった。
着てる服は病院服、起き上がって周りを確認してみると、自分が寝ているベッドの他にも、たくさんのベッド。おそらくここは病院なのだろう。
まあそんなよくわからない状況で、俺が取る行動はただ一つ………。
「…………………」ポチ、
静かにナースコールを押すことだけだった。
「…………………(アイエェェェェ!?!?!?ココドコオォォォォ!?!?!?!?)」
ちなみにめちゃくちゃ冷静に物事を分析してたが内心結構焦ってる。
さて、ここで一つ致命的なことを言ってしまおう。
基本こういう転生モノって、今まで過ごしてきた今世の記憶と、思い出した前世の記憶を使ってなんやかんや生きていくみたいなものだろ?
しかし、俺の場合は違った。
前世の記憶を思い出したはずみからなのか知らないが、俺は今世の記憶を
すべて、そう全てである。
自分の名前も職業も自分がどんな性格をしていてどんな暮らしをしていたのかも、ぜーーーーーーんぶ忘れてしまった。
うん………かなりヤバい、本当にヤバい、一体全体どうしろってんだよマジで。前世と今世全く違う世界だったら前世の記憶なにも意味なさないじゃないか??
なんてことを真顔で考えながら、俺は両親であろう人物たちに抱きつかれて泣かれていた。
母「あきらくんっ…!!よかった、いきててよかったわあ…っ!!泣泣」
あきら、それが俺の名前なんだろう。どこにでもありそうな平凡な名前だ。
というかお母様らしき人の鼻水がちょっと服についてしまってる。あの、離れてください…とか言えるわけないよなこんな泣いてるんだから!汗
父「母さん泣きすぎ……ああ鼻水が暁くんの服についてしまってるぞ離れろ汗」
そう言ってお父様らしき人がお母様らしき人を俺から剥がしてくれた。
母「ああっごめんなさい暁くん…、暁くんが事故に遭ったなんて聞いた時、本当に肝が冷えたから、生きていることが嬉しすぎて……」ズビッ
「あ、はい、全然大丈夫、です、(ずっと鼻水啜ってる………)」
父「…暁くん?どうしたんだ敬語なんて急に使って?」
「ああいやその………、……すみません、貴方達は誰…でしょうか、?俺の父さんと母さんで合ってますか?」
母、父「「え、?」」
医者「おそらく解離性健忘、ですね。それも特に稀な、全般性健忘かと。」
と、医者に言われたのが数時間前。
解離性健忘っていうのは、まあ、強いストレスなどが原因で自分にとって重要な記憶が思い出せなくなる症状のことらしい。
全般性健忘ってのは、今までの人生の記憶全てを忘れてしまうこと。実際に俺は今世の人生の記憶全部忘れてしまっているから、まさに今の状況とほとんど同じってことだ。
まあ、今回の健忘の原因は事故だけどな。
そして俺の個人情報について、俺の両親たちから大体を聞いた。
名前は三原暁、23歳、性別男、誕生日10月21日、神奈川県出身、職業、市役所員、西ノ浜市役所勤務、などなどなど………
というか公務員だったんだな俺、しかも市役所。いやあ前の俺は日雇いバイトとかしてたからな!ちゃんと定職に就けていたことに感動!!(?)
あ、でも仕事どうしよう、俺今世の記憶ないからどう仕事してたかもわかんないんだよなあ…
ああそうだ、両親から聞いたんだが、今って、2002年らしい………、……俺が生きてたのが2026年だから、めっちゃタイムスリップしてないか???
現代っ子すぎる俺にはちょっとキツい俺にはちょっとキツいかなーーー????ガラケーとか使いこなせる自信ないが???
まあ、うん、そんな風にいろいろ考えながら、病院のベッドに寝っ転がってます。
「(………大変なことにはなったなあ…)」
が、まあ、どっかの鬱アニメの世界とかしんどい少年漫画の世界とかじゃなさそうで安心はした。
せっかく転生したんだから、戦いとかに巻き込まれて死にたくはない。
こうなったらとことん生きてエンジョイしてやるーー!!!の心持ちでいよう、うん!!