修学旅行の班決めを欠席したら、なぜか孤高の美少女と二人組にされていた 作:古野ジョン
ホームルームが終わったあとも、夜ノ森さんは授業の間に暇を見つけてはノートを見ているようだった。ときおりペンで何かを書き込んでいるのも見えて、僕はまるで先生に作文の添削を受けているような気分だった。
修学旅行で一緒の班になったからと言って、僕たちの間に会話が増えたというわけではない。六時間目の授業を終えた今だって、夜ノ森さんはいつも通りに窓の外を見ているし、僕もただ帰り支度を進めるばかりだった。
「お~いお前ら、ホームルームだ。さっさとけえるぞー」
微妙に宮城弁の混じった日奈子先生の号令で、クラスの皆が席についた。今日も平和な一日だったな、なんて月並みの感想を心の中で呟く。
「ん」
ふと隣を見ると、夜ノ森さんが例のノートにペンを走らせていた。ときどき手を止め、考え込み……また書き始める。日奈子先生の話なんかまるで耳に入っていないみたいだ。
「?」
一瞬だけ、夜ノ森さんがこちらをチラ見したような気がした。何かを確かめたように頷き、再びノートに視線を戻す。何の意図があったのか分からず、僕は首をかしげて彼女を観察するしか――
「お~い、後ろの二人」
「へっ?」
教壇から聞こえた気だるげな声が、僕の顔を正面に向かせた。日奈子先生は僕たち二人を指さす。
「あんまり見つめ合ってないで、早くプリント取りにこ~い」
「えっ?」
「!」
ぽかんとして教室を見渡すと、クラス中が僕たちを見てけらけらと笑っていた。どうやら個人個人に渡す書類があったらしく、僕と夜ノ森さん以外の皆が教壇の前に列をなしている。
「……先生、私たちは見つめ合ってなんかいません」
「そっ、そうですよ! 夜ノ森さんの言う通り――」
「私が勝手に見ていただけです」
「えっ!!?!?」
僕が唖然とする間に、夜ノ森さんは列に向かってスタスタと歩いていった……。
***
「はあ……」
ホームルームが終わり、思わず席についたままため息をついてしまう。とにかく今日はもう帰るとするかな。
「追良瀬くん」
「えっ!?」
「そんなに驚くことかしら」
僕の意表を突いたのは、肩掛けの鞄を持って隣に立つ夜ノ森さんだった。その手には例のノートがあり、夜ノ森さんはじっと俺の目を見つめている。
「あなたに返すわ。また調べたら見せてちょうだい」
「あっ、うん。分かったよ」
「いろいろ勉強になったわ。意外と関西も広いのね」
どちらかといえば博識の人という印象だったから、夜ノ森さんの言葉は少し意外に聞こえた。とはいえ、僕の書いたノートが彼女の知的好奇心を多少なりとも満たせたというなら……それは何よりのことだと思う。
「私は帰るから。また明日」
「うん。気をつけてね」
「……」
「どうしたの?」
夜ノ森さんは数歩だけ進んで、立ち止まった。何かを言いかけたように見えたけど……何事もなかったかのように再び歩き出す。
「なんでもないわ。じゃあね」
別れの言葉を残して去っていく夜ノ森さんの背中は、とても優雅に見えていた。ふと我に返って、僕はさっき受け取ったノートを開く。
「細かい……」
僕が調べたことに対して、夜ノ森さんは赤ペンでいろいろと書き込んでくれていた。別の案を出したり、追加情報を加えたり、何か疑問点を示したり。よくもまあ休み時間だけでここまで書いたなあ。
「ん」
きのう僕が書き込んだ中で一番最後のページに、夜ノ森さんが何か長めの文章を残していることに気がついた。何か総括でもしてくれているのかな、なんてことを考えながら見てみると……意外な文章が目に飛び込んでくる。
『あなたの髪、朝からずっとハネていたわ。気づかなかったの?』
「えっ?」
思わず声を漏らし、自分の頭を触ってしまう。するとたしかに、後頭部の方に少しだけ寝ぐせが出来ていた。きっと鏡で見ても気づきにくい場所だったんだな。でも、それなら直接言ってくれればいいのに――
『あなたの綺麗な金髪、私は好きよ。もっと大事にくれたら嬉しいわ』
「……へっ?」
――突然の出来事に、イスに座ったまま倒れそうになった。夜ノ森さんが? 好き? 僕自身は一度も好きだと思ったことのない金髪を? 何を言っているんだ、本当に……?
人が減って徐々に静かになる教室で、僕はただただ驚くことしか出来なかった。