修学旅行の班決めを欠席したら、なぜか孤高の美少女と二人組にされていた 作:古野ジョン
僕にとって、自分の金髪は昔からコンプレックスを象徴するものだ。他のみんなと違う、という事実が子どもの心に与える影響は小さくない。最近はともかく、僕が小さい頃はまだ日本に外国人が多くなかったというのもある。
この見た目を理由にいじめられたこともあるし、嫌味なんじゃないかと思うほど羨ましがられたこともある。僕はただみんなと同じように育ってきたつもりなのに、周りはそう思ってくれない。それが嫌だった。
だから僕は、たとえ夜ノ森さんからの言葉であっても……金髪が好きと言われて素直に喜ぶことが出来なかったのだ。
「……」
自室の机に向かいながら、目の前に置かれたノートについて考え込む。夜ノ森さんの言葉を見て、他のことが手につかないくらいいろいろ考えているうちに……すっかり夜になってしまった。
とりあえず、修学旅行の行先は引き続き厳選するとして。夜ノ森さんにはなんと返事を
「隼人ー、入るわよ?」
「あっ、うん」
ノックのあと、パジャマを着た母親が部屋に入ってきた。どうやら学校に提出しなければならないプリント類を持ってきてくれたらしい。
「はいこれ。ちゃんと先生に渡すのよ?」
「もちろん」
母さんは僕のところまで歩いてきて、書類を手渡してくれた。プリントの欄には手書きの綺麗な文字が記されている。いまだに日本語の読み書きは苦手と言っているのに、母さんは本当に苦労を見せない人だ。
「じゃあ、お母さんは寝るから」
「……うん。おやすみ」
「あら、学校で何かあった?」
気付くのが早いな。だてに十七年も僕の母親をやってないな……とは思うものの、あまり心配をかけたくないとも思ってしまう。僕が見た目を気にしていることを明かせば、罪悪感を覚えてしまうのはこの人なのだから。
「いや……何もないよ」
「別に隠すことはないわ。私はあなたの母親なんだから、言ってごらんなさい」
「えっと……」
母さんが僕の顔を覗き込んでくる。目の前に見えるのは、僕と同じ碧い眼。そしてその瞳には、反射された僕の姿も映っている。
「……隣の女子に髪を褒められたんだ。僕の髪が好きなんだって」
「いいことじゃない! その
「そっ、そんな仲じゃないよ!?」
「分かってるわよ。……で? ちゃんとお礼は言ったの?」
「へっ?」
「だめよ。ちゃんとお礼を言って、その子の髪も褒めてあげなさい」
諭すような母さんの言葉に、思わずハッとさせられた。僕は自分の気持ちばかり考えて、夜ノ森さんの気持ちを慮ることすらしていなかったのだ。であれば――何を書くべきかは、自ずと見えてくる。
「じゃあ、今度こそ寝るから。隼人も早く寝るのよ?」
「うっ、うん」
「おやすみ」
母さんの背中を見送ったあと、僕はすぐさまペンを手に取ったのだった。
***
「……少しだけど、まとめておいたから。また見ておいてほしい」
「あら、ありがとう」
翌日の朝、教室に着くなり僕はすぐさまノートを手渡した。夜ノ森さんはいつも通りの凛とした顔で、ぱらぱらと中身を確認している。
「京都のことをまとめてくれたのね。参考にするわ」
「うん。夜ノ森さんも結構調べていたみたいだったから」
「ええ、そう――」
何ページかめくったところで、夜ノ森さんがぴたりと動きを止めた。まるで予想外のものを目にしたかのように、文字通りに固まっている。
「夜ノ森さん?」
「ええ……と……」
「どうしたの?」
「……別に、大したことじゃない……わ」
不意を突かれたのか、夜ノ森さんは少しだけ不満そうに僕の方を睨んできた。それでも、ぎこちなく自分の髪をかきあげる夜ノ森さんは……なんだかとても可愛らしく見えた。
夜ノ森さんだって褒められれば嬉しいんだな。そう考えると、昨日あれだけ悩んでいた自分が……少しだけ、馬鹿らしく思えたのだった。