ゴッドバレーの戦いから数日後。
公式記録には残らない、とある無人島。
夜の海は穏やかだった。
波は静かに寄せては返し、空には満天の星。
そこに、不釣り合いな三人の男が座っていた。
焚き火を囲み、巨大な肉の塊と樽酒。
最初に騒いだのはロジャーだった。
「ガープ! もっと飲め!」
「誰が貴様と飲むか!」
怒鳴りながらも、ガープは樽を手に取る。
ネレウスは少し離れた岩に腰を下ろし、静かに海を見ていた。
ロジャーが肉を放り投げる。
「王様気取ってねェで来いよ、ネレウス!」
ネレウスはため息をつきながら受け取る。
「私は王ではない」
ガープが鼻で笑う。
「だが海はお前に従う」
ネレウスは答えない。
代わりに焚き火の炎を見つめる。
ロジャーが言う。
「なァ、あのロックスの野郎」
三人の間に、少しだけ空気が重くなる。
ロックス・D・ジーベック。
「本気で世界を奪うつもりだったな」
ガープが低く唸る。
「あいつは危険すぎた」
ネレウスが静かに言う。
「だが間違いだけではない」
二人が見る。
「腐った神を討とうとした」
ロジャーが笑う。
「だが方法が最悪だった」
「壊すだけでは未来は作れない」
ガープが酒を飲み干す。
「だから俺は海軍にいる」
「中から腐敗を抑える」
ロジャーが肩をすくめる。
「俺は外からひっくり返す」
ネレウスが言う。
「私は、崩れすぎないように支える」
立場は違う。
だが目指す先は同じだった。
ロジャーが突然立ち上がる。
「よし、約束だ」
ガープが睨む。
「何のだ」
ロジャーは夜空を指す。
「次の時代が来る」
「俺たちはその“前座”だ」
ネレウスが目を細める。
「お前は何を見た」
ロジャーは笑うだけで答えない。
だがその目は、未来を知る者の目だった。
「俺は火をつける」
「大海賊時代を起こす」
ガープが立ち上がる。
「馬鹿を言うな!」
「犠牲が出るぞ!」
ロジャーは叫ぶ。
「今も出てるだろうが!」
沈黙。
焚き火の音だけが響く。
ネレウスが静かに言う。
「ならば条件がある」
二人が振り向く。
「火をつけるなら」
「その火を制御できる芽を残せ」
ロジャーが笑う。
「子供か?」
ネレウスは頷く。
「意志の継承者だ」
ガープが腕を組む。
「Dの名か」
ネレウスは言う。
「Dは嵐を呼ぶ」
「だが嵐は世界を浄化もする」
ロジャーは盃を掲げる。
「じゃあ決まりだ」
「俺は世界に問いを投げる」
「“宝はそこにある”ってな」
ガープは頭を抱える。
「本気か貴様」
ロジャーは笑い続ける。
ネレウスが最後に言う。
「もし次の世代が暴走したら」
「その時は我らの意志をもって止める」
ガープが拳を握る。
「海軍として、だな」
ロジャーがにやりとする。
「海賊としても止めてやる」
ネレウスは頷く。
「王としてではなく、一人の男として」
三人は盃を重ねる。
その瞬間、覇王色がぶつかり合う。
だが敵意はない。
誓い。
「次の時代が、自由であるように」
盃が鳴る。
宴が始まる。
ロジャーは大笑いし、
ガープは怒鳴りながらも肉を食い、
ネレウスは静かに酒を口にする。
やがて夜が更ける。
ロジャーがぽつりと言う。
「ガープ」
「お前の孫、面白そうだな」
ガープは眉をひそめる。
「まだ生まれてもいない」
ロジャーは笑う。
「なら、きっと嵐だ」
ネレウスが海を見つめる。
「嵐は必要だ」
「だが、必ず朝が来る」
その夜の宴は誰も知らない。
海軍も、海賊も、世界政府も。
だがその約束は確かに残った。
ロジャーは処刑台で笑い、
ガープは拳で未来を守り、
ネレウスは海の底から見守る。
そして今。
モンキー・D・ルフィが笑っている。
あの夜の三つの盃。
あの夜の約束。
それは今も、海のどこかで鳴り続けている。
――宴と誓い、了。