※あらすじ、タグ等は適宜変更予定
※3/8 冒頭の内容を変更しました。
この春、街の居酒屋を貸し切って同窓会が開催された。
数十人、もしくは100人に達するかどうかの大人数が参加する飲み会に、ある男──久遠祥太は参加していた。
「よっ!折角クラスメイトと感動の再会だっつーのにつれねぇ顔じゃねぇか。マイフレンド」
席の端にちょこんと座る祥太の隣を、友人──山本ルイがどさっと座り強気に絡んでくる。
やっぱり来たか、とでも言いたげに祥太はわざとらしくため息をこぼした。
「行かないっつったのに強制連行されて気分が悪いんだ。俺にかまうな、どっか行け」
「ノンノンノン!会が始まってから1時間、だーれとも会話してないバッドボーイを見ちまったら、放っておけるわけないだろうよ」
「ンなこと言ってもな……苦い思い出しかないし」
そう淡々と言って、片手に持ったビールを口に含む祥太を見て、ルイは落ち着いた様子で見つめる。
「そんなことはねぇだろ。まあ苦い思い出の方がデカいけどさ、そればかりじゃなかっただろ?」
決して間違いではないが、どうも苦虫を噛む思いだ。
確かに楽しかった思い出、みんなで馬鹿やった思い出もある。ただ、それらをあの記憶を消してまで語ることはできない。
「……いつまでも思い詰めたところで、時間は止まっちゃくれない。俺達もあっという間に27だ。そろそろ後ろ向きはナッシングだぜ」
「……分かってるよ」
「つーわけでスタンドアップ!こう言う時くらいハメ外せよ!」
「なっ!おい痛ぇから腕ごと引っ張るな!」
そのあとは各々の生活の話、就職先がヤバい、アイツ今何してんの、政治的な話題など、同級生の輪に入って他愛のない話を交わし、同窓会は終わりを告げた。
まもなく二次会の話になり、行こうよと誘われた祥太だったが、明日も仕事があるからときっぱり断った。
ルイはノリノリで参加する様子だったので、祥太は友人を置いてそそくさと1人で帰路につく。
今夜は風が冷たい。
春がもうすぐ訪れるというのに、この時間でも相変わらず冷え込んでいる。
コートなどの上着を着ず、上下黒のジャージに白生地のマフラーしか身に纏っていない祥太にとって、身体が冷える思いだった。
その中でも、街の周辺は賑わっている。
もう夜が更ける頃合いだというのに人は多く、各々が帰路についたり建物に入ろうとしている。
そういった人たちのこの後の事を考えると、なんとも社会の労働はつくづく残酷なものだと思い知らされる。斯くいう祥太もその1人だ。
そんな街の真ん中で、──
「きゃあああああ!!!」
突然、異変は起こった。
「ドロボーよ!誰か捕まえて!!」
そんな女性の叫び声と共に、遠くの方へ誰かが走り去っていく。
鼠色のパーカーに黒のズボン、フードを被った細身の男が、高級そうなバッグを抱えて走っている。遠目から見た限りでは典型的な窃盗犯と言える。
「……ったく、こんな街中でよくやるね」
祥太はそう呆れながら、纏っていたマフラーを解いて路地裏へと入り込み、照明灯に絡みつける。
そして軽く助走を付けて地面から足を離し、屋上まで宙を待って飛び上がった。
屋上を駆ける祥太の視線の先に、立ち塞ぐ人々を止まる事なく押しのける窃盗犯の男。走るフォーム、足の速さからして手馴れた奴だと悟る。
だがそれでも、地上の窃盗犯と屋上の祥太との距離は離れない。
「その個性、どこか別の所で活かせなかったのか……!」
「……っ!?」
分かれ道に差し掛かった所で男が一瞬の迷いを見せた隙に、何の前触れも無しに祥太は男目掛けて飛び降り、背後から下敷きにして着地する。
「いってぇ……!?」
こちらに気付かなかった男は顔からダイブするように倒れ込み、額を抑えて痛みに悶える。
「失礼。こんな街のド真ん中で泥棒する輩がいると聞いてな」
なんて、申し訳なさそうな様子を一つも見せずに奪ったバッグを持とうとした時、──
「おらぁっ!」
「っ!」
横からもう1人の大柄の男が躊躇いなく殴りかかってくる。
すぐさま気付いた祥太はバッグを掴む手を引っ込め、その場から離れて反応する。
「2人がかりで窃盗か。随分と暇そうで羨ましいよ……!」
「どっから飛んできたンだか知らねェンがよォ、俺達の邪魔するってンならよォ……!」
ぶっ殺す、とまでは口にしなかったが、喋りながら蹴りを入れてくるその行動で大方察せる。
それにしても、何ともまあ呂律の回っていない喋り方だ。脳でも溶けているのか、喋りと身なりがまさに犯罪者のそれと言える。
ならば、いくらでも容赦なく対処できる──!
顔面に近づいてくる脚を、片腕で受け止める。
真正面から向かってきた攻撃など、もはや躱す必要もなく、受け止めたとして鈍い痛みなどは感じない。
隙を見せた男の顔面を正面から殴りつける。
久方ぶりの戦闘。その影響もあるのか、殴られるよりも殴る方が鋭い痛みを感じる。
更にもう一発、男の腹を殴って、勢いで壁に押し付ける。
「てめ──がはっ……!?」
抵抗しようと祥太に掴みかかる男。
その顔面を、祥太はノータイムで蹴り飛ばした。
──さて、ここまでにしておこう。
蹴り飛ばした足を壁に押し付け、逃がすまいと男を睨みつける。
「お前らは間もなく豚箱にぶち込まれるだろう。その前に、聞きたいことがある」
そう言うと、祥太はポケットから一枚の写真を取り出す。
「……怪盗団ファントムと関わりはあるか?名前の通り、こいつらも他人の物を奪う悪党なんだが」
「あ、ぁ……?し、知らねェよそんなヤツら……!」
「……まあ、そうだろうな」
怪盗なんて名乗る連中が、こんな芯まで腐った男共など雇うわけがない。
何でこいつらに聞いたんだろうな、と祥太は嘆息しながら両腰に備えた2つの帯状の布を手に取り、大柄の男目掛けて1つ放り投げる。
「ぶっ──!?」
投げられた布が大柄の男の身体に触れた途端、布の長さが拡大し磁石のようにピッタリと全身を巻きつき、縛り上げた。
「あに、き──!」
そしてもう1人の男にも容赦なく、抵抗する間も与えず同じように捕縛した。
2人仲良く強引に解こうと暴れているが、そう易々と解ける代物ではない。
「後は警察に任せよう。じゃあな」
祥太はそうぶっきら棒に手を振って、再度マフラーを使って建物の屋上へ飛び上がる。
もごもご何かを訴える声が聞こえたが、足を止めようとはしなかった。
間もなくパトカーのサイレンが聞こえた辺り、男共は警察のお縄になり、騒然としていた街も平和を取り戻す事だろう。
「さて、と」
やがて人気の少ない住宅街まで移動し、照明灯まで歩いてふと腕時計を見る。
長針は10時を示している。飲み会から帰宅するには丁度良い時間だろう。
『キュアット探偵事務所』
祥太の目指す目的地へ辿り着くと、鍵を持って扉を開けようとする……が、施錠がされていない。
──まったく、俺がいなくても鍵くらい閉めろよ。
探偵事務所が営業時間外の場合、いつもは関係者以外立ち入れないように祥太が施錠しているのだが、今日は一日中外出していた故、対応できなかった。
とはいえ、祥太以外にも関係者はいる。お菓子ばかり食べている引きこもりの関係者が、確かにいるはずなのだ。
部屋に上がり込むと、祥太は眉を顰めて声を荒げる。
「おい、今日は遅くなるって言ったはずだ──」
「すぅ、すぅ……」
──寝ている。
白衣を着た金髪の少年が、電気も消さずに俯せになって自席で寝そべっている。
恐らく、いつものように朝から晩までアイテムの発明やらに熱中していたのだろう。
「……こんなところで寝てたら腰痛めるぞ、"ジェット君"」
「しぇん、ぱい……らぞぉ……」
余程疲れているのか、肩を軽く叩いても起きる気配がない。更には寝言も言う始末。
経験上、これではどうしようもないので、仕方なくジェット君と呼ばれた少年をそっと抱きかかえ、ベッドへと放り込んだ。
「新学期の授業の準備、新しい教科書の手配、教科担当クラスの名簿作り……今日も徹夜だな、こりゃあ」
ふあぁ、と大きな欠伸を一つ、逃れられない現実に絶望感を抱きながら、祥太は自室へと戻って行った。
原作キャラは出てこないわけではありませんでしたが、ますばオリ主中心のプロローグをご覧いただきました。
数話ほど書き溜めていますので、次回は明日更新されるかと思います。